欲望に正直な大人たちの振る舞いを覗く楽しみ『温暖化の秋-hot autumn-』開幕
11月13日からKAAT大スタジオにて『温暖化の秋-hot autumn-』が幕を開ける。
いまの日本ではなかなかお目にかかれない「艶笑劇」というジャンル。大人たちが繰り広げる会話、その積み重ねで生まれる関係性、そして、ときに突然起こる艶っぽい出来事。そんな物語を作り出す稀有な劇作家・演出家、山内ケンジの新作だ。
パッと見はスマートだったりエレガントだったりして、充分に”いい大人”である登場人物たちが、ふとしたきっかけで欲望をあらわにする瞬間。側から見ると信じられないような振る舞いを、無自覚にする様子。城山羊の会の登場人物は、軽妙な会話を交わすうちにいつの間にかとんでもないことを起こしてしまっている。そんな姿を垣間見ていると、おかしくて仕方なくなってくる。
そしてふと、気づいていないだけで自分にもそんな要素がほんの少しでもあるのかもしれないと、ちょっとだけ怖くもなる。
それらの人物を巧みに演じるのが、岡部たかしや岩谷健司といった常連キャスト。橋本淳も3回目の登場だ。さらに今回は、ふたりのキャストが城山羊の会に初めての参加を果たす。ひとりは趣里で、もうひとりはお笑いコンビ、シソンヌのじろう。ふたりとも、これまで城山羊の会の公演をたびたび見たことがあり、山内作品をこよなく愛しているという。ふたりがどんな役柄を演じるのかも、大きな楽しみのひとつだ。
それにしても『温暖化の秋』とは、11月とは思えない温暖な気候が続くここ最近の日々にぴったりのタイトル。
山内は「なぜ疲れるのか。乳酸がたまるかららしいです。その一方で、乳酸と似た『失恋』の感情を思い出さない訳にはいきません。失恋の苦しさ悲しみを、もはや忘れているからです。『温暖化の秋』は、その感情をただただ見つめる話になります」とコメントしている。このコメントだけ読むと、もしかしたら今回は存外美しい物語かもしれないと思う。けれど同時に「期待を裏切りたいというのがいつもある」とも語っているから、やっぱり想像がつかない。わからないまま観に行って、ステージ上の大人たちの振る舞いを覗きたいと思う。
文:釣木文恵
KAAT×城山羊の会
『温暖化の秋 -hot autumn-』
2022年11月13日(日)~2022年11月27日(日)
会場:KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ