2024年3月21日 18:00
森山直太朗『素晴らしい世界』〈番外篇〉「たった今の“答え”にたどり着いたその瞬間を僕は『素晴らしい世界』と名づけます」【レポート】
オペラ「カルメン」で歌われる有名なアリア「闘牛士の歌」だ。勇ましいメロディから歓喜に満ちたメロディに切り替わる瞬間、直太朗が真紅のフラッグを振りながら登場した。ステージの真ん中にフラッグを立てると、それがそのままマイクスタンドになり、1曲目「生きてることが辛いなら」の歌唱に移り、〈番外篇〉がスタートした。
この一連のオープニングの意味を本人に確かめたわけではないので、本当のところはわからない。という前提で筆者が感じたことを記せば、〈前篇〉では弾き語り、〈中篇〉ではブルーグラス、〈後篇〉ではフルバンドとスタイルを大幅に変えながら巡ってきたツアー『素晴らしい世界』の、その移り変わりを表したのではないだろうか。もちろん変遷をそのまま辿るわけではなく、一見脈絡もない風景が次から次へとシームレスにつながっていく、という物事のありようを示していた。そしてそれは人生そのものと言ってもいいし、ひとりの人間の内面における複雑さでもある。相撲、オペラ、直太朗――。
多様性云々を声高に叫ばずとも、我々は十分わけのわからない世界と自分自身を生きている。
〈生きてることが辛いならいっそ小さく死ねばいい〉
ある種混沌ともしたオープニングからこの言葉を直太朗の声で聴いたとき、もうはっきり言って、この日のライブのすべてをここで勝ち得ている、そう感じた。