くらし情報『大竹しのぶはこうでなくちゃ。ー演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『女の一生』』

大竹しのぶはこうでなくちゃ。ー演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『女の一生』

自分と結び付けた思い出の櫛を折り、涙と共に庭に投げ捨てる芝居は初演より心情が濃くなった。泣く場面の名女優は誰もが巧いものだ。

大正4年の第三幕。けいは堤家の大黒柱になっている。長女・総子(西尾まり)のお見合いの日だ。夫(林翔太)に不満を抱く次女・ふみ(大和田美帆)に聞こえがしに、言う。「誰が選んでくれたものでもない。自分で選んで歩き出した道ですもの」。
最初のこの名台詞はサラリと。叔父・章介から、自分の心に嘘を付いているのでは―と言われた、二度目の台詞。ここは、やや右上に顔と目を向けながら、一気に強く言い放った。前回よりもグッと深みを増していた。

大竹しのぶはこうでなくちゃ。ー演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『女の一生』


日露戦争後の行方などを叔父、伸太郎と言い争う場面での傲慢な態度や厭味な性分。けいの「負」の一面をたっぷりと見せたが、何とも巧いのが、久しぶりに戻った夫との第四幕。寒々とした心境が座敷の空気にまで伝わっていた。

森本薫・作『女の一生』は、大竹しのぶの継承によって日本演劇史の金字塔として長く残ると、信じたのである。
(10/20所見)

<公演情報>
『女の一生』

2022年10月18日(火)~10月23日(日)
会場:東京・新橋演舞場

2022年10月27日(木)

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