それまで私は、ピアノがメインの協奏曲というスタンスで弾いてきてたのですけど、インバルさんはとてもシンフォニックにしっかりと作ってくださって。その流れを聴きながら、無理に主張することなく弾いても、それで音楽が成り立っている。そんな経験でした。しっかりとした枠組みがあるからなんですね。説明が難しいですけど、全体のテンポの安定感みたいなことでしょうか。たんなるメトロノームの速さとは違う、いろんなところで遊んでも戻っていける安心感。変化する余裕やスペース。もっと自由に泳げるんだと感じるようになって、やっとベートーヴェンが楽しくなった気がします」
「ベートーヴェン弾き」と聞いて真っ先にイメージするピアニストはアルフレート・ブレンデルだそう。
「感情に流されすぎず、構築性と感情のバランスがとてもいい。構築性は、きっとベートーヴェンでは外せない要素なのですが、それだけではまったく面白くないわけで、そこにいろいろな表情とかパッションとかがちゃんと見えないと。ブレンデルは、フレーズの作り方ひとつをとっても、何をどうやりたいのかがはっきりわかって曖昧さがない。全部、しっかりと、はっきり物を言っている感じです。