ただ私は、無理してそこに近づく必要はないかなとも思っています。もちろん、それがベートーヴェンの音楽が持っているものだと思うので、必要はあるんだけれども、だからといって無理に、自分のいろいろなものを抑えてまでそうする必要はないのではないかなと」
全32曲を作曲年代順に8回に分けて完奏する。
「ベートーヴェンは一曲一曲いろいろなことに挑戦していて、すべてのソナタに新しい試みがあります。全32曲はそのひとつひとつの試みの積み重ね。だから、たとえばいきなり《熱情》を弾くよりも、作曲順を追って、そこに至る他の作品を知ってから弾きたいと思いました」
第1回はボンからウィーンに進出したベートーヴェン20代半ばの作品が並ぶ。3曲セットで作品2として出版された第1番~第3番と、同時期に作曲されながら約10年後に作品49として出版された第19番と第20番というプログラムだ。
「若い時から自信満々なベートーヴェンを感じます。ハイドンやモーツァルトからの影響も見えるけれど、1曲目の始めからベートーヴェンのカラー。
そして面白いのは、作品2の3曲が、一曲一曲まったくカラーが違うことです。その後のベートーヴェンのキャラクターの多様さが、はじめの3曲ですでに出ている。