あらゆる困難を鎮めるために演劇はある 『子午線の祀り』成河インタビュー【後編】
これは明らかに異質なものになっていますよね。コロナ禍になってから舞台を5本やらせていただいたんですが、お客様が、幕が上がる前から、すでに何かを共有している形で座っていらっしゃるので、演劇が起こりやすいんです。
――観客は、感染リスクに怯えながら覚悟を決めて劇場に行くわけですし、上演する側の涙ぐましいまでの懸命な努力に、報いたい気持ちでいっぱいですからね。
開幕前からセンチメンタルになっているし、みんな意識を共有しているから、容易に救われるような、いい話にも持っていけてしまう。そのためには考えるのはやめましょう、という方向にも行きやすいのが、危険ですよね。つながり方が濃ければ濃いほど、そうなりやすいので、今この濃いつながりをどこに持っていくべきかということを、創り手は相当繊細に考えなければいけないと思います。ほんとうにヒヤヒヤしますよ。生半可なものを創ったら、すぐに伝わっちゃいますから。
少なくとも僕のまわりの創り手たちには、今すごい緊張感が走っています。なぜ今、ものを創るのか。「みんなを元気づけたい」くらいでは、ゆるされない時代だと思います。いや、元気づけることをdisるつもりは毛頭ないんですけど、創り手側には、それだけではない動機が必要だと思うんです。