2022年6月27日 12:00
彼らもまた“誰かの子ども”である。是枝裕和監督が語る『ベイビー・ブローカー』
それがとても大事で、そこに“血縁だから”以上の理由がないと。虐待の連鎖の中で、捨てることが虐待だって意見もあるけど、子どもを手放すことで虐待の連鎖を絶っている、という考え方もある。虐待が連鎖している時にそこからどうやって赤ん坊を外へ出すか、というのは目線としてすごく大事だと思うんです。彼女をすごく責任感の強い人として描いたつもりはないけど、そのことを物語の中で言えるのはソヨン本人しかいない」
赤ん坊に私たちが問い返される物語にしたかった
『ベイビー・ブローカー』
本作が扱う題材は、重要な問題である一方で、観客が“安全圏”から語りがちだ。子は実の親と一緒にいた方がいいに“決まっている”。すべての命は等しく大事なので守らなければ“ならない”。でも、この問題が語られているとき、あなたはどこにいるだろうか? この問題を考える当事者は誰だろうか?
「この映画は、捨てる母親と赤ん坊をめぐる社会の話だから、大人の責任の問題だと思います。観ている人たちの価値観はいろいろで、赤ちゃんポストについても、あれは母親を甘やかしているだけだと言う人もいるし、そのおかげで命が救われたと言う人もいる。
そんな中で、命というものをどう捉えていくのか? この世には生まれてこなかった方が良い命というものがあるのか? それが自分にとって最も究極の問いだと思いましたし、映画を観た人たちが自分の中でどの立場に立つのか問い返される、赤ん坊に私たちが問い返される物語にしたかったし、そういう映画にしなければと思いました」