六本木一丁目にある泉屋博古館東京では、2023年9月2日(土)より『企画展楽しい隠遁生活 文人たちのマインドフルネス』を開催する。理想の隠遁空間を描いた絵画に触れることで、「暮らしを楽しむ」ことの意義を改めて考えようという展覧会だ。
深山幽谷に庵を編み、自然を友に文雅を楽しみながら、悠々自適な生活を送る隠者たち。東洋の山水画に数多く描かれたイメージは、中国の士大夫や日本の文人たちが憧れた、マインドフルネス(安寧な心理状態)な理想の隠遁生活であった。その根底にあるのは、人の心を惑わす富貴や栄華など世俗的な欲望を絶ち、世間から離れて高潔に生きたいという「脱俗」の思想である。中国ではすでに3世紀の三国時代末には、俗世間を避けて竹林に会し、親しく交友したという「竹林の七賢」の主題が生まれていた。そんな隠者たちの理想的世界が、自然の移ろいを楽しみ、文化芸術に親しみながら、人々が自由に生きる「桃源郷」である。
桃源郷をはじめ、文学に詠われた風景のイメージとして描かれた山水図には、雄大な自然の中で人間がいかに小さな存在であるかをあらわすために、雄大な滝と小さな書斎を並置するなど、自然に対して人間の営みは小さく描かれた。