くらし情報『“見果てぬ夢”の魂を込めた姿であった。 演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『ラ・マンチャの男』』

2023年4月21日 17:00

“見果てぬ夢”の魂を込めた姿であった。 演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『ラ・マンチャの男』

不動だった。

1幕。牢で詩人キハーナからセルバンテス、そしてドン・キホーテにと瞬く間に変身していく。髭を付け、頭髪を逆立てて化粧を加える。その間の台詞が粒立つ。走る馬に乗って旅立つキホーテ。語尾を強く放つ台詞に胸が打たれる。「技」である。


驚くのは「心(しん)」だ。それは衰えない声にある。歌う姿だ。思い姫を歌う「ドルシネア」は哀愁が豊か。最高の見せ場、「見果てぬ夢」は枯れ木の枝を持ち、下手の二階席方向をただ一点を見つめた。噛みしめる如く、頷く如く歌い上げた。その姿は底からの哀しみを出していた。

力の限りに歩み続ければ、心は決して退化しない。
その白鸚の心意気にアルドンザの松たか子、牢名主の上條恒彦、神父の石鍋多加史らが寄り添っていた。(4月14日所見)

“見果てぬ夢”の魂を込めた姿であった。 演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『ラ・マンチャの男』

左から)アルドンザ役・松たか子、セルバンテス/ドン・キホーテ役・松本白鸚写真提供/東宝演劇部プロフィール
大島幸久(おおしま・ゆきひさ)

東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。著書には「名優の食卓」(演劇出版社)、『歌舞伎役者 市川雷蔵 のらりくらりと生きて』(中央公論新社)

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