おとな向け映画ガイド 役所広司がうますぎ! 西川美和監督『すばらしき世界』と、おとなのファンタジー『マーメイド・イン・パリ』をオススメ。
やがて、めざめたルラは、いつものように歌い出すのですが、ガスパールには効きません。彼は失恋の痛みで、恋する心を失っていたのです。
と、文字にすると、ププッと一笑にふされるかもしれませんが、これぞファンタジーですから。このあと、ふたりに恋心が生まれ、ルラは海にもどらなければならない、というストーリーもおなじみのもの。そんなメルヘンのような世界をオススメするわけではありません。フランスのティム・バートンともいわれる監督、マチアス・マルジウの作品です。夢見ごこちなだけでなく、毒気もあります。ルラ(マリリン・リマ)は可愛いだけでなくセクシー。
イケメンのガスパール(ニコラ・デュヴォシェル)は王子様キャラというよりは不器用なオタク。そんなふたりのロマンティック・コメディ。これぞ、おとなのためのファンタジーです。
それをさらに魅力的にしているのは、はじけるようなマルジウのビジュアル・センスです。ガスパールがパフォーマーとして働く、川に浮かぶ老舗のバー「フラワーバーガー」で繰り広げられる妖艶なフレンチショー、石畳のパリはまるでポップアップ絵本のなかの街のようです。ガスパールが住む家も、おしゃれな小物やフィギア、色とりどりのブリキのおもちゃやドールであふれ、ヨーロッパのアンティークショップのようで目が離せません。