2022年10月25日 21:00
演劇の原点に立ち返るかのようなミュージカル『ファンタスティックス』【観劇レポート】
1960年にオフ・ブロードウェイで初演され、実に42年という世界最長ロングランを記録したミュージカル、『ファンタスティックス』。日本でも1967年以来、様々な演出で翻訳上演されてきた人気作が、装い新たにシアタークリエで上演されている。演出は、今年に入って『笑う男』『ネクスト・トゥ・ノーマル』『四月は君の嘘』と、破竹の勢いで良作を生み続けている上田一豪。かつて井上芳雄や田代万里生も演じた主人公マット役には岡宮来夢が配され、元タカラジェンヌからお笑い芸人まで、適材適所のキャスト陣が脇を固めている。
60年以上も前に生まれた作品だが、逆に新鮮さを覚える観客が多いのではないだろうか。ピアノとハープが基調を成すアコースティックな音楽、そして野外劇場のような趣きを醸す、手作り感と遊び心あふれる舞台美術。このところ『ミス・サイゴン』『ヘアスプレー』『キンキーブーツ』『ジャージー・ボーイズ』『エリザベート』と、大劇場・大編成・大音量で迫り来る大作が続いている日本ミュージカル界にあって、演劇の原点に立ち返るかのような本作は優しく体に沁みわたる。ささやくような台詞や歌声の場面でも、言葉が聴き取れない心配のないミュージカル観劇は筆者自身、久しぶりだった。