『メイ・ディセンバー ゆれる真実』精神科医が登場人物の内面を語る 新たな本編映像も公開
通常の夫婦以上に愛し合い、深く信頼しあっているように見えても、信頼関係を築くことで、それを愛情と錯覚させるのは、典型的なグルーミングの手口でもある」と語気を強める。
物語の前半で、成人したジョーが「世間は僕を被害者だと言うが、僕自身は被害者だとは思っていない」と女優に訴えかける印象的なシーンがある。斎藤氏は、精神科医として患者と対峙をする際、一定の距離を保ちながら患者と関わり合うことを意識するものだが、劇中の女優は、あまりにも当事者との距離が近すぎる点に着目した。
「女優はグレイシーに“転移”しており、“同一化”を遂げようとしているかに見える。“転移”とは、密室内で主従関係におかれたふたりの間に生じがちな強い感情である」と解説し、「まさに、ふたりが鏡の前で化粧をしあうシーンは、グレイシーが女優の顔に化粧を施しつつ、同一化の呪いをかけていくかに見えて、戦慄を覚えた」と振り返る。
また同シーンにおいて、斎藤氏は、私たちは“鏡像”を本当の自分だと思いながら生きていることについても指摘する。鏡に映った姿“鏡像”は、反転した姿であるため、厳密には本当の姿であると言い切れない。ともすると自由に理想の姿を重ね合わせて、自分を認知している可能性も示唆する。