2023年9月18日 12:00
重心をかけてぶつかり合う二人の、切ない疾走 『スリル・ミー』Review1 尾上松也×廣瀬友祐 ピアノ:朴勝哲
抑えていながらはっきり届く声に縛られるかのように、明かり窓がぼんやり浮かぶ薄暗い舞台へ引き込まれていった。すぐさま、少年の“私”への鮮やかな変化にも魅せられたが、その利発な少年の瞳を見た時、9年前に柿澤勇人と組んで“私”を演じていた松也が思い起こされた。あの時も、これまでにない“私”の出現に驚いたのだった。言うなれば「最初から一枚上手な“私”」といった感覚。眼力も、声も、芯のある体躯も、ひたすら強くてブレない。この“私”の意志はずっと揺らぐことはなかったのだ。……と、それはドラマの終わりに気づくのだけれど。
周囲から“彼”役を予想されていたという廣瀬は、「いい意味でそのイメージを壊して届けられたら」と語っていたが、登場の瞬間から、切ったら青い血が流れるのでは……!? と思うほどに硬質、冷徹で確固たる自信を持った“彼”となっていた。上背の迫力、また微細な変化しか見せない端正な表情の圧がすさまじい。とくに誘拐シーン、黒い帽子とマフラーで顔を隠し、目元だけが覗く“彼”の見開いた目の狂気には息を呑んだ。それゆえに、留置場で初めて“彼”の端正が崩れるさまは衝撃的で、やり切れぬ思いが募る。
重心をかけてぶつかり合う二人による、終始パワーがみなぎる舞台。