2022年12月1日 11:00
【アジアのノーベル賞 マグサイサイ賞受賞】眼科医 服部匡志 著『人間は、人を助けるようにできている』 ”はじめに”を公開【治療にかける思いとは】
彼らを放っておくわけにはいかない。
自分の技術で彼らを救うことができるなら、遠慮せずに助けたい。その思いだけだ。
僕は眼底(網膜硝子体もうまくしょうしたい)という、眼の中ではもっとも難しい部位が専門だ。
カメラでいうなら水晶体はレンズで、眼の奥にある網膜はフィルムにたとえられる。
瞳から入った光や色は網膜で映像として感知される。網膜は再生が利かず、人工物に取り替えることができない。
だから網膜のキズは致命傷になる。
少しでもキズがつくと景色はぼやけ、光はゆがんでしまう。
普段、多くの人は眼の大切さを意識しない。見えることが当たり前だと思っているからだ。
でも、想像してほしい。もし眼が見えなくなったとしたら、こんなに怖いことはない。
この恐怖に直面し、闘っている人が現実に大勢いる。
「ベトナムの赤ひげ先生」と呼ばれることがあるが、僕は何も特別な存在ではない。
多くの人に支えられながら、がんばれていることに感謝したい。
ボランティアは崇高なものでも、格好いいものでもない。とても地味な活動の連続だ。
今回、この本を通じて世の中にはまだまだ自分の知らない世界があることを 知ってもらえたら、そして健康な身体で眼が見えて、毎日美味しいごはんを食べられることがどれほど幸せなことかを感じてもらえたら、こんなにうれしいことはない。