串田和美が運命に立ち向かうリアに挑む。『KING LEAR -キング・リア-』まつもと市民芸術館にて開幕。
「私はお父様を愛しています。それ以上でも以下でもありません」というすげない言葉で老王を怒らせてしまう。『リア王』では姉たちが最初から悪女然として登場することが多いが、今回の舞台の彼女たちは、面倒くさい父親に(いつものように)調子を合わせているといったていで「企み」感はなく、むしろ率直すぎる末娘の「KY」ぶりが際立って見えるのが新鮮だ。
王は末娘を追放して領土をゴネリルとリーガンに分け与え、彼女たちの館にひと月ごとに逗留することを決定。しかしゴネリルたちにとって、気まぐれで何を言い出すかわからない父の相手など、迷惑でしかない。いわば老親の介護にプレッシャーを感じる娘たちが、次第に野心や愛欲にまみれて道を踏み外してゆく過程を、ゴネリル役の毛利悟己、リーガン役の下地尚子が登場の度、隠れた本性をあらわしながらヴィヴィッドに表現。対するコーディリア役の加賀凪は、真っ直ぐで嘘がつけないがゆえに悲劇の端緒を切ることになるヒロインをきっぱりとした口跡で演じ、姉たちと好対照をなしている。グロスター役の武居卓は軽率にもエドマンドを深く傷つけ、大き過ぎる代償を払うことになる伯爵を人間くさく演じ、一度は王から遠ざけられるも、変装をしてまで忠義を尽くすケント役の近藤隼は終始、一貫した正義感と安定感のオーラをまとってこの役を演じている。