悪を武器に成り上がる! 野村萬斎が渾身の演技で魅せるピカレスク
だが、やはり圧巻なのは萬斎・杉の市だ。欲望のままに殺し、奪い、盲人を差別する世間に復讐するかのように出世の階段を駆け上がる。子供の純粋と残酷を併せ持つ“異形の殺人者”役に、狂言師の強い身体性や独自の発声がピタリとハマり、これまでのパブリック・イメージを刷新する野太く猥雑な役者の姿がそこにあった。
劇中、千葉伸彦によるギター演奏ともつれあうように歌い、舞台を疾駆する杉の市は徹底的に悪を成すことで、観客の誰もが同様に身の内に悪を潜ませていることを告発する。その告発は断罪が目的ではなく、自身の悪を飼い慣らし生きざるを得ない人間という生き物の滑稽さを代弁するもの。潔く破滅する杉の市は、市井の人間が世間と折り合いをつけて生きるために捧げられた生贄なのだ。そんな世界の真実を喝破する作家の視線が、観る者に鋭く迫る稀有な舞台が誕生した。
公演は7月1日(日)まで同劇場にて上演。
その後、7月6日(金)から8日(日)に兵庫県立芸術文化センター、7月14日(土)・15日(日)に新潟市民芸術文化会館にて開催。チケットは一部を除き発売中。なお、「井上ひさし生誕77フェスティバル2012」第5弾の『しみじみ日本・乃木大将』と第6弾の『芭蕉通夜舟』のチケットも現在発売中。
取材・文:尾上そら
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