大人も子供も喜ぶ怖くて愉快な音楽劇『ショックヘッド・ピーター』ハンガリー版が来日
優れた芸術性で知られるオルケーニ制作の舞台には、1920年代のキャバレーを連想させるバンドと、仕掛けに富む装置が配される。空間全体がグロテスクな美意識に包まれ、工夫を凝らした流血シーンには客席から歓声が上がる。母親役に男優が扮するなど、多くの役が性を交換する演出は滑稽さを増しつつ、「この残酷劇は虚構」と若い観客に伝える。いっぽう成熟した観客は、“しつけ”の力関係を通して現実の社会に向き合う。たとえば、子供を型にはめる親の姿は、国民を抑圧する政治家に重なって、「権力者は法律や暴力で他者を支配できるか?」と問いかける。
観客に多彩な視点をもたらす悲喜劇の背景について、演出家アシェル・タマーシュは「僕が演出を始めた40年前のハンガリーはソビエトの影響下にあり、表現活動は政府の検閲を受けた。だから、ひとつの話を複数のレベルで捉える方法を磨くようになったんだ」と語る。ブラック・ユーモアが炸裂するSHPは、戦後の東欧の苦い歴史を反映している。
近年アシェルは国際的にも評価を高めている。オスカー女優ケイト・ブランシェットの依頼でオーストラリアの劇団のために演出したアントン・チェーホフ作『ワーニャ伯父さん』は、7月に米・ニューヨークのリンカーン・センター・フェスティバルで賞賛された。