もちろん本作がミステリーとして極上であることは、もはや言うまでもない。謎が謎を呼ぶ展開。徐々に明らかになる、登場人物たちの関係性。そして導き出される、悲し過ぎる真相。誰もが誰かを思い、行動した結果、そんな悲劇が待ち受けているとも知らずに……。八雲はその抜群の推理力を生かし、時に緻密に、時に大胆に、この事件に隠された真実を追い求めていくのである。
主人公・八雲を演じるのは、前作『~いつわりの樹』(2013年)に引き続き、若手期待の久保田秀敏。クールで飄々とした八雲というキャラクターを、すでにしっかりと我が物にしている。
八雲との腐れ縁が続く小沢晴香役には、美山加恋。シリアスなシーンの多い本作では、友達以上・恋人未満という八雲と晴香の関係性が、何とも微笑ましく映る。また後藤刑事役の東地宏樹と、後藤の相棒・石井役の佐野大樹のコンビは今回も健在。彼らふたりのコミカルなやり取りも、作品にいいスパイスを与えてくれている。さらに八雲と後藤のあるシーンでは、彼らが奇妙ではあるが、しっかりとした友情で結ばれていることを再確認させてくれる。原作ファンはもちろん、演劇ファンからミステリーファンまで、幅広い観客を満足させることができる良作である。