、ウルリックがベラを口説きかけるシーンでは「私は良い妻なのよ!!」など、ジェスチャーを交えながら、実際に台詞を発して感情を伝えるボニーノ。その仕草ひとつ、言葉ひとつで、情景が鮮やかに浮かび上がる。しかし、本番で語らなければならないのはダンサーたちだ。「もっと大きく演じて」「まだ喋っていないよ。想像して、会話をして」と、熱い指導は続く。
大仰に演じるだけでは成立しないのも、この作品の難しさ。熱演するダンサー達にボニーノは「早く喋り過ぎ。それではお客さんにわからないよ」「いきなり白から黒に変わるのではなく、グレーを作って。
徐々に感情を積み上げるんだ」と繰り返す。リアルさと様式性のさじ加減は、このバレエの“命”だ。顔や肩の向き、動くタイミング、小道具の使い方など、指導は細部にまで及び、稽古が進むにつれ、ダンサー達の踊りに磨きがかかっていった。
ヨハン初挑戦の井澤がまだこなせずにいる振りについて、ヨハン経験者の菅野がボニーノと共に助言したり、電話線を用いたこの作品特有の演技をメイド役の3キャストが集まって確認したりと、団員同士が協力し合う姿も印象的。独特の戯画化やコケットリーなど、ダンサー達の前のハードルは高い。