さらにほしみの叔父・鉄平が、ほしみの病院に逃げ込んでくる。新聞記者の鉄平はあるメモリーカードを手に入れたことから、事件に巻き込まれていた。彼を追う刑事たちの言動さえあやしく見えてくる二重構造で、謎は深まるばかり。この謎がほしみの家族の物語と巧く絡み合い、同時進行しながら怒濤のクライマックスへと突入してゆく。
ほしみ役を演じたのは入団7年目の原田樹里。自然と家族をひとつにする屈託のない笑顔と確かな演技力で期待に応えた。ときに全身を振り絞るかのように訴える一途な想い。交通事故だけでなく彼女に降りかかる苦難は相当なものだが、可愛くも屈強なこのヒロインが放つ台詞に、観客は本当の優しさ、本当の強さを教えられる。
きっと誰もが愛する家族を思い出さずにいられないのではないか。魂が浄化されるような瞬間が確かに存在し、客席からはすすり泣きが聞こえた。
また菊川(多田直人)という存在ゆえに生まれる鉄平の心の闇も、男女を問わず引きつけるはずだ。鉄平を熱演した畑中智行が、肩をふるわせながら妻・あやめ(渡邊安理)への想いを打ち明けるとき、そしてふたりがある奇跡を起こすとき、夫婦という矛盾だらけな関係の先にある尊さに感動を覚える。