「日常において心が揺れる物事すべてが原動力です。と同時に、僕にはもう一人の自分がいて、熱くなり過ぎても、その子に声をかけると冷静な答えが返ってくるんです。演奏中は常に『今こう弾いたから次は』とか『未来にこう弾くためには今どう弾かなきゃいけないか』などと“過去・現在・未来”を考えながら弾くのですが、弾きながら思いがけないインスピレーションが湧くこともよくあります」
過去・現在・未来の話は、反田が弾くピアノ、ニューヨーク・スタインウェイのヴィンテージモデル《CD75》にも通じるだろう。伝説のピアニスト、ウラディミール・ホロヴィッツも弾いた楽器だ。「このピアノは100年前のものながら未だに現役で、音もよく響き、底力が計り知れない。大量生産で均一的に作られている今のピアノと違い、88鍵一つ一つに個性があり魂が入っているんです。低音はボーンと鳴るし、高音はキラキラして、中声部はチェロのような音で、まるで88人のオーケストラ。僕は、熱さだけでなく冷静さももって指揮者となり、彼らをまとめなければなりません。
大変ですが面白い作業です」
リサイタルでは、彼が「もっとも親しみ、体にフィットする作曲家」とするリストのほか、留学の成果が見られそうなロシアものなどを予定。