西森の脚本・演出は、自身が心理学に精通しているからこそのリアリティと演劇としてのエンターテインメント性を持ち合わせる。俳優が発する研ぎ澄まされた言葉、台詞がときに突き刺さり、ときに優しく包む。そんな緊張と緩和が織りなす展開に、客席から笑いがこぼれる瞬間も。小道具も最小限、そんなシンプルな舞台では芝居を彩る“音”、“光”も非常に大きな効果を持つ。舞台にのめり込むほどに目、耳、心の感度が自然と上がっていた。生の舞台の醍醐味がそこにあった。
『フェイス』というタイトルに潜むふたつの意味、〔face…顔、表情、対面する/faith…信頼、信仰、誠実、約束〕が導く物語の結末は光なのか闇なのか。それは最終的には観る者に委ねられる。
でも、きっと…。そう信じたくなる青年と精神科医の物語に、観劇後も心を寄せたくなる。
公演は9月29日(金)まで浅草九劇にて上演。チケットは当日引換券が発売中。
取材・文 功刀千曉