謎めく物語、美しい音楽。ミュージカル『SMOKE』開幕
文学的で、難解と言えばそうかもしれない。だが、3人の熱い芝居が難解さを感じさせず、力強く物語を引っ張っていく。強さの奥に弱さを隠す石井の超の感情の触れ幅。14歳のまま時が止まっている海を演じる藤岡の、ピュアさと恐れの表現。優しげだがそれだけではない、彩吹扮する紅のミステリアスさ。そして何と言っても、音楽が良い。ミュージカル界屈指の歌唱力を持つ3人だ。パワフルな石井の歌声、硬軟自在な藤岡の歌声、優しさと色気がある彩吹の歌声。
“上手い”だけではなく、声自体にドラマ性を込められる3人の歌が、メロディアスな楽曲をさらに輝かせる。たった3人の出演者だが、これほど贅沢なミュージカルはそうはない、と思える質の高さだった。
開幕に際し、キャストはそれぞれ「僕ら3人で精一杯、李箱という人の人生、作品世界を表現できたら」(藤岡)、「この作品の魅力は…、何を言ってもネタバレになるということ。見どころは3人の呼吸。3人の呼吸が一糸乱れないところと大いに乱れるところ、その振幅が魅力」(石井)、「答えを突き詰めすぎると『SMOKE』らしさを失ってしまう。最終的にカンパニー全体でその塩梅を調整しながら今日に至っています」