けれどトーマスは「何を見落とした?」「いつ壊れ始めた?」「その瞬間何してた?」と、アルヴィンという存在と向き合い始めるのだった――。演出の高橋は、観客がその“瞬間”を見逃すことのないように、台詞はもちろん、視線を動かすタイミングやふとした仕草まで、キャストと丁寧に話し合いながら詰めていく。出演者がふたりしかいないからこそ、細かな作り込みができるのだと感じた。
田代のアルヴィン、平方のトーマスには、前回の取材で逆バージョンを見学したからこその驚きがあった。きれいに馴染んでいるため、逆の役を演じる姿が思い出せなくなるのだ。この取材のバージョンでは、田代のアルヴィンの透明感、平方のトーマスの頑なさは、それぞれにしか出せないものだと感じる。けれど逆バージョンでも同じことを思ったのだ。これは田代と平方の力を思い知らされる瞬間でもあった。
また楽曲…特にふたりで歌う楽曲でも、役同様、歌のパートが入れ替わる。それによって「ハーモニー」という意味でも、「表現」という意味でも、まったく違う響きが生まれ、作品そのものの深みを感じさせてくれた。両バージョンを観ることで、作品の奥行きや世界観を最大限に感じられるだろう。