戦争への怒り、家族への思いがシンプルに湧き上がる上質の会話劇
ジャックやエルシーとなにげない会話を交わすシーンは微笑ましさと物悲しさが交錯し、不器用な愛情があたたかくも切ない。倉科カナは、持ち前の瑞々しいイメージから“息子を戦地に送る母親”役は課題が大きいかと思いきや、ドレス姿のたおやかさ、艶のある低音の声が非常に魅力的で、仕草の端々から母の無償の愛と嘆きが立ちのぼる。二幕、夫へ向けて抑え続けた感情がほとばしるシーンでの、キャリーの悲壮な叫びに心震わされた。前田旺志郎は、家族思いの心優しい息子と、過酷な戦場で必死に指揮をとる上官、それぞれのジャックをひたむきに体現。少年のあどけなさが印象に残るがゆえに、キプリング家の人々に共鳴し、彼の消息を胸を締め付けられる思いで追ってしまう。エルシー役の夏子は、その立ち姿の美しさと明瞭かつ涼やかな声が、深い悲しみの展開において救いの光になっていた。父親を問い詰める真っ直ぐな正義感、家族を勇気づける朗らかな振る舞いが健気で愛おしい。家族4人の見事なコンビネーションのみならず、佐川和正、土屋佑壱、小林大介の巧者三人の表現にも感嘆。
それぞれが兵士ほか二役を担い、卓越した技量でドラマを盛り立てる。特に二幕、兵士役の佐川がジャックの消息を語るシーンでは、その圧巻の演技を客席中が息を詰めて見守っていた。