シェアしたくなる法律相談所がお届けする新着記事一覧 (25/28)
12月11日の深夜、東京都世田谷区にて、お笑いコンビ「NON STYLE」の井上祐介さんが運転する乗用車がタクシーに接触し、タクシー運転手にけがを負わせていたことが明らかになりました。報道では“当て逃げ”と報じられているようですが、一部では、“ひき逃げ”ではないのか、という声も上がっているようです。本事故についてどういった罪に当たるのか、どのような処分が下されるのか、解説していきたいと思います。*画像はイメージです:■ひき逃げと当て逃げに違いはあるのか?ひき逃げは、実際に人を轢いてしまったもののそのまま逃げる場合、当て逃げは車などの物体に自車をぶつけ、そのまま逃げる場合を指しますが、ひき逃げの場合には、人の生命身体に直接関わることですので、過失運転傷害等にとどまらず、保護責任者遺棄罪、さらには、殺人罪に問われることがあるほど、重大な犯罪行為と言えます。本事故は実際に人を轢いているわけではないので、ひき逃げには該当しないでしょう。 ■どのような処分が下される?道交法上に、事故を起こした場合の報告義務と救護義務が課されています。これに違反すると、行政処分の対象にもなりますし、刑事処分の対象にもなります。行政処分では、大幅な減点対象になります。また、道交法上の過失運転傷害の罪にも問われると思います。(ちなみにですが、ひき逃げに該当した場合は、違反点数が35点付き、免許取消3年の行政処分が科されます) ただ、幸い、運転手の怪我も軽微だということ、そして、このことについて示談成立に向けて努力していくということであれば、おそらく示談成立を条件に起訴猶予といった形になるのではないかと思います。 *著者:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所。浜松市出身。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。)【画像】イメージです*a3701027 / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月14日12月に入り、北海道・東北・北陸などの豪雪地帯では雪の日が増えてきました。ドライバーにとっては、気を遣うことが多い時期に入っています。「スリップしないように走る」、「しっかり車間距離をとる」など、事故を起こさないように心がけることはたくさんあります。意外と盲点になりやすいのが歩行者への気配り。動きに注意するのは当然ですが、雪でぬかるんだ道から放たれる泥や水をかけないようにしなければなりません。90年代のトレンディ・ドラマでは、失恋した主人公が雨の日に歩道を歩いていると、タイミングよく車が通りがかり水をぶっかけられ「バカヤロー」と怒鳴ることがありますが、じつはその行為は道路交通法違反になるようなのです。このような経験をしたことがある人少なくないと思われるだけに、違反というなら運転手を捕まえて罰を受けさせたいところ。しかし、実際のところそのような判例は聞いたことがありません。本当に泥をかけた車の運転手を罰することはできるのでしょうか? Q.歩行者に泥や水をかけたドライバーを捕まえて罰を受けさせることはできる?*画像はイメージです:現行犯で捕まえたうえ、罪を立証できれば可能道路交通法第71条1号に「ぬかるみ又は水たまりを通行するときは、泥よけ器を付け、又は徐行する等して、泥土、汚水等を飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないようにすること」と定められています。また、道交法120条9号では、同71条1号の違反について5万円以下の罰金に処する旨定められており、罰金を伴う交通違反であることは間違いありません。しかし、実際に捕まえて罰を受けるさせるのは容易ではありません。その理由は、立証が難しいから。一般的に水や泥を引っ掛けた車は、そのまま去ってしまうのが通例です。よって、確実にその車の運転手が泥をかけたという立証は難しいのですが、逆にいえば、動画や第三者の証言などで確実に立証できれば可能といえます。また、汚れた服のクリーニング代を求めるということになると民事の問題となりますが、こちら運転者が走り去ってしまった場合、その運転者を探し出し、確実にその運転者が汚したという立証が必要となります。現実的には、不可能といっても過言ではないかもしれません。やはり罪を認めさせるのは、なかなか難しいようですね。 *記事監修弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)*取材・文:佐藤俊治(複数メディアで執筆中のフリーライター。真面目な話題からくだけた話題まで手広く記事を執筆中。趣味は将棋、好物はカツカレーとパインアメ。)【画像】イメージです*セーラム / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月14日2016年11月30日から「Amazonプライムビデオ」で配信が始まったお笑い芸人・松本人志が手がける『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』の番組内容について、一部では違法ギャンブルではないのか?という声が上がっているようです。同番組の企画説明文では、「参加費1人100万円。笑ってしまった者は退場し、残った1人が1,000万円を総取りする」と、参加費×人数の金額がそのまま優勝者に与えられるかのような表現(筆者注:2016年12月11日現在、Amazonプライム作品ページ中に「」内の表現は確認できない。)となっていたことから、刑法の賭博罪に当たるのではないかという点が問題になっていました。Amazon側は賭博罪には当たらない旨の公式見解を出しているようですし、「バラエティだから違法行為に見えても演出であり、つべこべ言うな」等のインターネット上のコメントもあるようですが、今回は、どのようなスキームであれば賭博に当たらないか、合法なギャンブルと違法な賭博の線引きはあるのか等について解説したいと思います。*画像はイメージです:■「参加費×人数の金額を優勝者が総取り」するのであれば賭博罪となるこの点については既に専門研究者の方が解説されているように、「参加費1人100万円。笑ってしまった者は退場し、残った1人が1,000万円を総取りする」ルールであれば、参加者には単純賭博罪(刑法185条)が成立します。なぜなら、単純賭博罪における「賭博」とは、偶然の勝敗によって、財物や財産上の利益の得喪を争う行為と定義されているところ、本番組の参加者は、偶然の勝敗(本番組でいう「他の参加者の行為等により笑ってしまった場合」)によって参加費100万円を失い、勝ち残った1人が退場した9人分の参加費という財物を得ることになってしまうからです。 ■本番組が「賭博罪に当たらない」といえるためには単純賭博罪は国外犯を処罰しない(刑法1条1項、2条、3条)ので、撮影がすべて海外で行われているのであれば、上記のルールであったとしても参加者が罰せられることはありません。もっとも、参加者やスタッフが全員海外に行って撮影することは現実的ではありませんので、このような方法で適法性を確保したとは考えづらいです。したがって、現実的なスキームとしては、下記の3つのようなものが考えられます。①参加費100万円は本番組の出演権及び出演報酬権の対価である②本番組の出演報酬は100万円程度である③賞金1000万円の原資は参加費以外であるこうした方法により、本番組は適法性を確保しているのではないかと推測されます。なお、可能性としては、参加費100万円そのものを参加者が用意したわけではなく、そのように演出しているだけということも考えられますが、番組中に「(用意した100万円は)本当にみなさんがかき集めたものですね。」旨の問いに対して参加者から「はい。」とえるシーンがありますので、その可能性はないでしょう(そうだとすれば行き過ぎた過剰演出という別の問題が出てきます)。 ■合法なギャンブルと違法な賭博の違いとは日本には公営(合法)ギャンブル(賭博)として、競馬・競艇・競輪・オートレース、宝くじ・スポーツ振興くじ(toto)があることはご存知かと思います。これは特別法がありますので、もちろん合法です。また、多くの議論はありますが、パチンコ・パチスロ店も違法ではありません。それ以外の「偶然の勝敗によって、財物や財産上の利益の得喪を争う」賭け事で、その場で費消する飲食物などを賭けるにとどまらないものはすべて賭博罪に当たってしまいます(刑法185条)。合法賭博と違法賭博の両者の線引きはこのようになっていますので、雀荘での賭け麻雀(場代程度を除く)をはじめ、トランプ、じゃんけん等、内容を問わず、種々のゲームが賭博罪に当たり得ます。 いわゆるカジノ法案(IR推進法案)が衆院本会議で可決し、日本でもカジノが解禁されることに対して様々な議論がなされています。今回のテーマとの関係上、詳細は省略しますが、刑法制定時と現在とで、賭博罪の保護法益である健全な経済的風俗が変化しているか否かや、刑法のあり方についても再考すべき時期が来ているといえるかもしれませんね。 *著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)【参考】BLOGOS:【悲報】松本人志さん、違法ギャンブル大会を主催か?【画像】*Tsuguliev / Shutterstock
2016年12月13日DeNAが運営する医療・健康情報サイト「 ウェルク(Welq)」への、不確かな情報を元にした記事を大量公開していたことに対する批判が発端となり、一般ユーザーが投稿した記事を掲載するいわゆる「まとめサイト」や「キュレーションサイト」と呼ばれるWEBメディアへの法的責任に注目が集まっています。またこの批判を受けて、12月に入ってからは、DeNAをはじめ「まとめサイト」や「キュレーションサイト」を運営する企業では、記事を非公開化する流れを拡大させつつあります。これらのもっとも重大な問題点として、「他者コンテンツを盗用した」ということが挙げられます。自分が作ったコンテンツが、無断で使われている…しかも、それでお金を儲けている…コンテンツホルダーとしては、許せないですよね。そこで、自分の著作権が侵害された場合に、どういう対処法があるのか、解説していきます。*画像はイメージです:■盗用された著作物の「削除と損害賠償」を請求する方法自分のコンテンツをパクった者に対して、盗用コンテンツの削除や損害賠償を請求することが考えられます。とはいえ、削除は分かるけど、損害賠償と言われても、いくら請求していいのか分からないと思われるかもしれません。しかし、著作権法では、著作権を侵害した側が、それによって利益を得ていた場合には、相手方の利益額を損害賠償できるという規定があります。また、相手方の利益額が分からなくても、いわゆる著作権のロイヤリティ金額を損害賠償できるという規定もあります。なので、そのような法律に基づいて、自分に有利な金額の損害賠償請求をしましょう。具体的な請求方法は、下記のような流れが想定できます。①侵害している者に対して、内容証明を送付し、金額などの交渉をする②相手方が交渉に応じない、又は返答がない場合には、訴訟する ■盗用コンテンツが別のウェブサービスに拡散されたときに「削除要求」する方法盗用されたコンテンツが、ブログサービス(アメブロ、ライブドアブログなど)やECサイトに掲載されるといった例は多いです。このような場合には、サービス運営事業者に対して、自己の著作物が侵害されている旨を通報し、盗用コンテンツの削除を要求することが考えられます。このようなサービスには、権利侵害を通報するフォームがあることが通常なので、 そこから入力して通報することが出来ます。また、事業者に対して、内容証明などの方法で、削除要求するなどの方法もあります。 ■「警察へ刑事告訴」するための準備方法著作権侵害があまりにひどい(コンテンツを丸々パクられた)ようだと、著作権法違反で警察に刑事告訴という手段もあります。刑事告訴する場合には、必ずを次の3つを準備して、警察にいきましょう!①これまでの経過②自社が著作権者であることの証拠③著作権侵害の証拠(ネットの画面をプリントアウトするなど)警察も数多くの事件を抱えているため、手ぶらでいってもほぼ相手にされません。きっちり証拠を見せて、事件化してほしい旨を警察官に伝えることが大事なのです! ■コンテンツがパクられたら「Google」へ削除の申し立てまた、自分のコンテンツが盗用された場合には、上記のように法的に様々な方法がとれますが、Googleに申請して、検索結果から削除してもらう方法もあります。これは、削除や損害賠償などのように、直接的なものではないですが、検索結果から削除されるため、自分のコンテンツ盗用の影響を最小限にとどめるという意味が有用です。「削除申し立てフォーム」は以下になります。著作権侵害の報告: ウェブ検索 *著者:弁護士 中野 秀俊(グローウィル国際法律事務所。弁護士になる前、システム開発・インターネット輸入事業を起業・経営。IT・経営・法律に熟知していることから、IT・インターネット企業の法律問題に特化した弁護士として活動している。ブログ「IT・インターネット法律ブログ」)【画像】イメージです*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月13日未婚だと思っていた恋人が実は既婚者だったという経験をされた方が、この記事を読まれているみなさんの中にもいらっしゃるかもしれません。特に12月は、既婚者側からすると「今夜は忘年会で遅くなる」といったウソが成立しやすく、浮気相手との時間が作りやすい時期となり、探偵事務所や興信所でも「浮気調査」が増える傾向にあるそうです。今回は、既婚者と知らずに既婚者と交際していた場合、騙されて交際していた側としては、騙していた既婚者に対して、何か請求することができるのか、逆に、既婚者の配偶者に対して何らかの責任を負うことがあるのかについて解説していきたいと思います。はたして、知らない間に不倫相手になっていても責任を負うなんてことがあるのでしょうか?*画像はイメージです:■ウソをついた既婚者に対する損害賠償請求は可能まず、未婚だと偽られて既婚者と交際していた人には、既婚者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)が認められる可能性があります。既婚者と交際していた人としては、未婚者だからその人と交際していたわけで、交際前に既婚者であると知っていたならば交際はしなかったはずだし、肉体関係を持つこともなかったということなので、貞操権(性的自由)の侵害を理由に、上記請求が認められることになります。もっとも、注意をすれば、交際相手が既婚者であると気付くことができたような場合(左手の薬指に指輪をして出来たような日焼けの跡がくっきりとある、泊まりのデートはしない、携帯電話の待受画面に子どもの写真を設定しているなど)には、既婚者と交際していた人にも「過失」が認められますので、過失の程度に応じて請求額が減額される、あるいは過失が大きい場合には請求が全く認められない可能性があります。 ■既婚者の配偶者からの損害賠償請求が成立する要件とは?既婚者との性交渉(不貞行為)は、既婚者の配偶者に対する不法行為に該当しますので、既婚者の配偶者に対して損害賠償責任を負う可能性があります。しかしながら、既婚者の配偶者に対する不法行為が成立するためには、既婚者の配偶者の夫婦としての権利を侵害しているとの認識を持ちながら、既婚者と性交渉をすることが必要です。そのため、既婚者と性交渉したとしても、その人が既婚者だと知らなかった場合には、既婚者の配偶者の権利を侵害しているとの認識はありませんので、不法行為は成立しません。もっとも、上記のとおり、交際相手が既婚者だと知らなかったとしても、注意をすれば、既婚者であると気付くことができたような場合には、既婚者と交際していた人にも過失が認められますので、既婚者の配偶者に対する不法行為が成立し、損害賠償責任を免れることはできないと考えます。 *この記事は2014年11月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)【画像】イメージです*KAORU / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月12日昨年4月、船橋市に住む18歳の女性を生き埋めにして殺害したとして、強盗殺人などの罪で起訴されていた21歳の男性に対して、11月30日に千葉地裁より無期懲役の判決を言い渡されました。法廷では女性の遺族に対して謝罪の弁を述べていたものの、殺害直後に友人に対して「今の俺さ、最強だよ」といった犯行を誇示するメールを送っていた点が考慮され、反省を疑問視される結果を招いたそうです。もしかすると、メールやSNSで送った内容が本心ではなかった、という容疑者の言い訳もありえそうですが、法的には「メールやSNSの文面内容における証拠能力」はどこまで確実性があるのでしょうか?*画像はイメージです:■誤解が多い区別…「証拠能力」と「証明力」は別の概念証拠能力をめぐる問題は、新聞報道やテレビの解説でも特に誤解や間違った意味での使用が散見される話です。狭義の証拠能力とは、裁判において、その証拠をそもそも証拠として採用してよいかどうかという入り口の問題です。したがって、証拠の中身というよりも、主に証拠の媒体や方法という形式的な部分が問題とされます。証拠能力がない、ということは、裁判官が証拠として採用しないということですから、中身の検討はされません。いわば証拠評価の入り口の第1段階の話です。これに対し、証明力は、証拠能力が肯定された証拠が、証拠を提出した裁判の当事者(検察官や原告被告)が立証を目指す事実について、当該証拠が事実の立証にどの程度役立つか、という問題です。証明力は、当該証拠の媒体や証拠方法だけでなく、裁判官の法的な経験則によって、決められます。 ■「証拠能力が低い」は法律上は不正確しかし、そもそも、証拠能力がないとされた証拠は、証明力が問題になることはありません。証明力は、証拠能力があるとされた証拠について、実質的に事実関係の立証にどの程度役立つかという問題です。証拠の信用性ともいえます。例えば、証拠能力は、法律上は、肯定か否定、有るか無しか、という2択しかありませんので、「証拠能力が低い」とか「証拠能力が高い」という言い方は、日常用語としてならともかく、法的には不正確(実際には証明力の意味で使っているということ)です。これに対し、証明力は、まさに法的な経験則を基にした程度問題ですから、証明力が強い弱い、高い低いという話になります。 ■普通は「証明力」が裁判の争点に証拠能力は、刑事裁判では、メールや供述調書といった書面や、伝聞の供述は証拠能力が原則としてないとされています。これらが取り調べられるのは、当事者の同意がある場合や例外要件を充足するときのみです。また、民事でも刑事でも、違法に収集された証拠は、中身の評価(証明力・信用性)に立ち入るまでもなく、証拠能力がないとされることがあります。もっとも、刑事の大多数の自白事件や民事裁判で証拠能力の有無を争うことはほとんどなく、当該証拠の証明力のみが問題となります。 ■「証明力」の判断は全ての事情を総合考慮証拠がもつ証明力は、裁判所の法的な経験則を基に、他の証拠との整合性や変遷なども含めて、全ての事情を総合考慮して決定されます。今回のように、被告人が公判で述べた反省と謝罪と矛盾する言動をメールなどに残していた場合、(証拠能力が肯定されたと仮定して)メールの証明力が問題となるというより、公判で述べた反省と謝罪の供述の証明力・信用性が問題となります。そして、当然、矛盾するメールの存在は、公判での反省謝罪の供述の信用性を揺るがせ、証明力を減退させるものとして、裁判でも評価されることになります。このようなメールを裁判では、被告人の公判での反省供述を弾劾するための証拠と呼んだりします。刑事裁判では伝聞法則というものがありますので、メールが無条件で証拠能力を有するものとはなりませんが、被告人側(弁護人)の同意があるような場合には、証拠能力が肯定され、実体に応じて、他の証拠(被告人の供述)の弾劾に使用されたり、証拠としての証明力が評価されることになります。最後に、メールは書面と同じく客観証拠の部類に区別できますので、一般的には口頭での供述・証言よりは、証明力・信用性が高いといえるでしょう。 *著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)【画像】イメージです*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月12日通勤や通学など日常で使う機会が多い電車。国土交通省の『交通関係統計資料』によれば、平成27年度では、JR・私鉄各社問わず、延べ242.9億人が利用しているとのこと。これだけ多くの人が利用するとなると、迷惑なお客さんも少なくないようです。利用している方の多くは他人に迷惑をかけないように配慮していると思いますが、公共性が高い場所ということもあり、ちょっとしたマナー違反でも目立ってしまうようです。今回は、「撮り鉄」と呼ばれる、車両や駅などの鉄道施設を写真やビデオに収めるために、駅構内や沿線でカメラを待ち構えている鉄道ファンのマナー違反行為に関して、違法かどうか解説していきます。*画像はイメージです:■(思い通りの写真を撮りたいがために)電車の運転士に向かって「もっと前にすすめ!」と怒鳴る威力業務妨害罪(刑法233条)に当たると考えます。威力業務妨害罪は、人のお仕事を保護するために犯罪とされていますが、威力を用いて人の業務(お仕事)を妨害した場合に成立します。ここで「威力」というのは、人の意思を制圧するに足りる勢力を用いることとされていますが、要はお仕事を躊躇させるような行為をあからさまに行うことをいいます。電車の運転士に向かって「もっと前にすすめ!」と怒鳴ることも「威力」に当たると考えられるわけです。威力業務妨害罪に当たる場合、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」で処罰される可能性があります。 ■(他の乗客に迷惑がかからないよう)撮影行為を制止した駅員に対し、名指しでクレームこうした行為も、クレームの方法や程度によっては「威力」に当たる場合もあると思います。その場合、威力業務妨害罪が成立すると考えます。 ■ロープを切断して線路内に立ち入るロープを切断する行為については、器物損壊罪(刑法261条「3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料」)が成立しますし、線路内に立ち入る行為については鉄道営業法37条違反・建造物侵入(刑法130条前段「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」)・威力業務妨害罪が成立し得ると考えます。 ■踏切に三脚を設置するこうした行為についても、三脚を設置した位置によっては鉄道営業法37条違反・建造物侵入罪が成立するでしょうし、設置の仕方によっては鉄道のお仕事を妨害しかねませんから威力業務妨害罪が成立する場合もあるかと考えます。 鉄道ファンによって地域が取り上げられて活性化する等は望ましいことですが、運転士さんや他の乗客の迷惑にならないように各自あるいはファン同士で心がけていただきたいと思います。 *著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)【画像】イメージです*midori_chan / PIXTA(ピクスタ)【参考】国土交通省:『交通関係統計資料』(平成27年度版)教えて!goo:“罵声大会”に怒り心頭?名指しで苦情も……駅員泣かせの鉄道ファン
2016年12月12日*画像はイメージです:大阪名物「串カツ」を食べた事がある方は多いと思います。もちろん大阪の名物でもありますし、今年の9月14日に東証マザーズに上場した『串カツ田中』も関東エリアでの火付け役に一役買ったのではないでしょうか。そんな串カツと言えば、よく耳にするソースの「二度づけ禁止」。このルールを破ったらどうなるの?と疑問に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、今回は「ソース二度づけ禁止」を明示しているお店で、“二度づけした場合はどうなるのか”“もしお店側が退店を要求したら、応じなければならないのか”について、法的な解釈を基に解説してまいります。 ■店とお客さん……そもそもどんな契約関係が?飲食店とお客さんとの間には、お店がお客さんに対し、飲食物を提供し、飲食する場所を提供する「飲食物提供契約」が成立します。お客さんとお店の間にどのような意思の合致があるか、すなわち、どのような「申込み」と「承諾」があるかどうかが重要になります。具体的には、お客さんの「飲食物を提供して下さい」という「申込み」と、お店側の「提供します」という「承諾」があって、初めて契約が成立することになるのです。 ■そもそも店側が決めたルールの拘束力は?民法の大原則として「契約自由の原則」というものがあります。これは読んで字のごとく、「私人と私人の間の契約は、(公序良俗に反しない限り)自由である」という原則のことです。つまりお店は、“いつ”“誰と”“どのような契約を締結するか”を決める自由があり、お客さんも、“いつ”“どのお店と”“どのような契約を締結するか”を決める自由があります。そのため、お店側が「ソースの二度づけ禁止」というルールを明示し、お客さんが同意した以上、「ソースの二度づけ禁止」には、契約上の拘束力が生じます。また、明示されていなかったとしても、串カツ屋における「ソースの二度づけ禁止」という慣習が認められる場合には、お客さんの黙示の同意が認められることになり、法的拘束力が生じるでしょう。(関西では慣習があると認められそうですが、関東では未だそのような慣習があると認められにくいかもしれません) ■お店のルールを守らないお客さんを追い出すことは可能か?お店とお客さんとの間には「ソースの二度づけ禁止」という合意ができており、かつ二度づけしたお客さんには退店いただきます、ということまで明示された上でお客さんが入店した場合には、お客さんは合意をしたものとみなされます。そして、一方がその契約を守らない場合には、他方は、契約を守らないことを理由に、催告をした上で契約を解除することができます(民法541条)。つまり、「ルールを守らないのであれば出ていってもらいます」という忠告をお店側がしたにもかかわらず、お客さんがルールを守らないのであれば、契約を解除し、それまでの飲食代金は損害賠償(民法415条)として請求することになります。 ■「違反したら退店」という記載がない場合は?また、仮に退店いただく、ということまでの明示がない場合には、お店側がお客さんとの間の飲食物提供契約を解除できるか、という観点から検討することになります。たとえば、「ソースの二度づけ禁止」を守らないことでお店の営業に大きな支障を生じる場合、具体的には、昔からソースを継ぎ足しで使っていることを売りにしているお店において、カウンター席などで他のお客さんとソースを共用するような場合には、二度づけをすることが、お店の貴重な財産であるソースを使えなくしてしまい、かつ「ルールを守らずに二度づけしてしまう客がいて、お店もそれを黙認しているらしい」という風評が、他のお客さんの来店を遠ざけてしまうことになりかねません。その場合、「ソースの二度づけ禁止」迷惑などの理由から、お店側は即刻契約を解除して、退店いただくことが可能になる可能性は高いと思います。一方、ソースが個別のお客さんに提供されているような場合で、ソースを継ぎ足し使用していないお店の場合には、即刻飲食物供給契約を解除できるまでの重大な契約違反があるとは言いにくく、退店いただくことまでの必要性は認められにくいと思います。なお、お客さんがお店から退店を指示されたにもかかわらず退店しない場合には、不退去罪(刑法130条)、態様によっては威力業務妨害罪(刑法234条)が成立する可能性があります。 単純そうですが、法的な解釈を元にすると少々複雑ですね。とはいえ、美味しい串カツを食べているのに、お店のルールを守らずに“カツ!”を入れられてしまっては、せっかくの楽しい時間も台無しです。お店とお客さんのそれぞれがルールを守ることが大事ですね。 *著者 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)【画像】*Key West / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月11日平成22年の厚労省発表では、結婚全体の25%が、結婚する前に妻が妊娠しているいわゆるデキ婚となっています。結婚前の妊娠は今や珍しいことではありません。しかしこれは妊娠がわかり無事に結婚することになったケース。中には妊娠を告げた途端、彼氏が出産に反対したり、逃げてしまったりということも……。彼氏が未婚で出産した場合、養育費は払ってもらえるのでしょうか? Q.妊娠発覚後、彼氏が蒸発……養育費は払ってもらえる?(1)払ってもらえる(2)払ってもらえない*画像はイメージです:(1)払ってもらえる親には子を養育する義務があります。結婚していなくても、父として子を認知すれば養育費支払いの義務を負うのです。養育費を支払ってもらうには、まずは認知してもらうことが必要となります。しかし、このケースの場合は、彼氏と連絡が取れず居場所もわからない状態と考えられます。まずは彼の所在を明らかにしない限り、何もできません。弁護士に依頼すれば、弁護士照会制度等により携帯電話番号などから現在の住所を調べることができる可能性があります。住所がわかれば認知請求ができますし、もし任意での認知が拒否された場合は、家庭裁判所に認知調停や強制認知の訴えを起こすことも可能です。その際はDNA鑑定など、親子関係の証明が必要となります。認知後、彼氏が養育費を支払わないのであれば、さらに養育費請求の調停や審判を申し立てることになるでしょう。養育費の支払いについて調停や裁判が成立し、又は審判が下された場合は、不払いに対して強制執行の手続をとることができます。 *取材協力弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。【画像】イメージです*bee / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月11日*画像はイメージです:先頃、東京・吉祥寺にある「水口病院」にて人工妊娠中絶手術受けた女性が、術後6日に亡くなったというニュースが報道されました。この女性は、2016年7月6日に夫と結婚したが、8日後に23歳という若さで亡くなったとのことです。今回問題となっているのは、手術を行った医師が中絶手術に必要な資格を所持していないと報道されている点で、法律では「母体保護法指定医」という資格を持った医師でないと中絶手術を行えないとされています。手術との因果関係は不明とされていますが、妻を亡くした夫としては真実を明らかにしたいはず。もし、手術と女性の死に因果関係が認められた場合は、どのような罪になるのでしょうか。和田金法律事務所の渡邊寛弁護士に見解を伺いました。*取材協力弁護士:渡邊寛(和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。個人事案は子どもいじめ事件から相続争いまで、企業事案は少額の債権回収から渉外買収案件まで、あらゆる案件に携わる。) ■そもそも「母体保護法指定医」とは?今回、無資格の執刀が問題となっていますが、そもそも中絶手術は資格が必要なのでしょうか。「人工妊娠中絶は、中絶することも中絶させることも刑法上堕胎罪になり得ます。母体保護法は適法に人工妊娠中絶ができる場合を定めていますが、中絶を行なえる医師を都道府県医師会の指定する医師に限定しています。」(渡邊寛弁護士)つまり、適法に人工妊娠中絶を行なえる医師は母体保護法指定医だけということになります。 ■無資格で手術を行うことはどんな罪になる?では、今回のケースのような無資格の医師による執刀が行われた場合、どのような罪となるのでしょうか。「母体保護法指定医でない医師が人工妊娠中絶を行うと、妊婦本人の同意があっても、業務上堕胎罪になります。医師や薬剤師等による「業務上」堕胎は、そうでない者(医師・助産師・薬剤師・医薬品販売業者以外の者)の堕胎(同意堕胎罪)より重く処罰されます。法定刑は3か月以上5年以下の懲役です。」(渡邊寛弁護士) ■もし、因果関係が認められた場合は?もし、手術と女性の死との因果関係が認められる、つまり手術によって女性が死亡したと認められた場合はどうなるのでしょうか。「中絶手術と死亡との因果関係が認められると、“業務上堕胎致死罪”となり、法定刑が6か月以上7年以下の懲役に加重されます。業務上堕胎(致死)罪に問われるのは執刀医個人です。」(渡邊寛弁護士) それでは、病院に責任はないのでしょうか。「病院(医療法人)は刑法上の責任は負いませんが、一般的な監督を超えて、上司が母体保護法指定医でない医師にあえて中絶手術を指示していたような場合は、上司個人が共犯となる可能性はあります。」(渡邊寛弁護士) 行政処分についてはいかがでしょうか。「行政処分も通常は執刀医個人に対してなされます。もし業務上堕胎(致死)罪で有罪となると、執刀医は、戒告、医業停止又は医師免許取消の行政処分の対象となり得ます。執刀医個人や病院には民事上の損害賠償責任も生じ得ますが、母体保護法指定医でなかったことだけではなく、施術自体に過失があったかどうかなどが問題になります。」(渡邊寛弁護士) 語弊が無きよう繰り返しますが、手術と死亡の因果関係は不明とされています。ただ、無資格での執刀自体は許しがたいものであることに変わりはありません。お亡くなりなられた方のご冥福をお祈りいたします。 *取材協力弁護士: 渡邊寛 (和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。東京築地を拠点に、M&A等の企業法務のほか、個人一般民事事件、刑事事件も扱う。)*取材・文:編集部【画像】*freehandz / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月11日11月23日、北海道美瑛町でタクシーに乗っていた日本ハムファイターズの斎藤佑樹投手と有原航平投手が、雪道を走る対向車がスリップして横転する事故に遭遇。事故車両は路肩に転落しており、2人がドアを開けるのを手伝い見事に男性を救出。幸い、運転手に怪我などはなく、命に別状はなかったそうです。この件については「不幸中の幸い」となりましたが、雪国に住む人にとって冬は交通事故が多発する時期。当然、事故を防止するためノーマルタイヤからスタッドレスタイヤに履き替えていることだと思います。ですが、なかには「大丈夫だろう」とそのまま車を走らせている人もいるよう。非常に危険な行為ですが、これは交通違反となるのでしょうか?また、積雪が多いエリアかどうかは地域性によって異なりますが、法律の規定も異なっているのでしょうか? Q.ノーマルタイヤで雪道を走ったら違反になる?地域によって法律が異なるの?*画像はイメージです:違反です!地域によって多少規定が異なり、雪国ほど規定が厳しい違反になります。その内容については道交法71条6号に基づき各公安委員会が義務規定を定めています。そのため、多少地域によって異なっているのが現状です。基本的に北海道や東北地方など雪が多く降る地域ではスノータイヤを取り付けることが義務付けられています。これに違反した場合、5,000円から7,000円の反則金が課せられます。一方雪が降らない地域については、積雪時にチェーンやスノータイヤを取り付けるよう定められており、絶対にスノータイヤを履かなければならないとは定められていません。当然のことですが、やはり雪の多い地域ほど自動車のタイヤに対する規定も厳しくなるようです。命を守るためですから、忘れずにスノータイヤを装着しましょう。 *記事監修弁護士:竹内 省吾(弁護士法人サリュ 銀座事務所。 交通事故分野のパイオニア。民事刑事問わず無料相談 メール受付対応。おもな著作に「交通事故裁判和解例集」(第一法規)などがある。)*取材・文:佐藤俊治(複数メディアで執筆中のフリーライター。真面目な話題からくだけた話題まで手広く記事を執筆中。趣味は将棋、好物はカツカレーとパインアメ。)【画像】イメージです*eugenesergeev / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月11日「スマホ離婚」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?配偶者のスマホ利用を原因とする離婚が、スマホ利用者の増加と共に社会問題化しつつあるそうです。スマホを利用するという行為自体は違法ではありませんが、スマホ利用が離婚事由として法的に認められることはあるのでしょうか? Q.スマホいじりは離婚事由として認められる?(1)認められる(2)認められない*画像はイメージです:(2)認められない民法770条第1項では、裁判によって離婚が認められる法定離婚事由が5つ定められています。 (1)不貞行為(2)悪意の遺棄(3)3年以上の生死不明(4)強度の精神病に罹り、回復の見込みがないこと(5)その他婚姻を継続し難い重大な事由があること スマホ利用自体が(1)~(4)に該当することはありえません。該当するとしたら「(5)その他婚姻を継続し難い重大な事由があること」でしょう。しかし、通常の利用ではこれに当たるとは考えられません。ただし、スマホいじりに夢中になり夫婦のコミュニケーションがまったくなく、相手にそれを改善する意思がない場合は、婚姻を継続し難い状態と判断されるかもしれません。また、生活費や共有財産を脅かすほどソーシャルゲームなどへ課金した場合も、同項目に該当する可能性があります。稼いだお金を全部ゲームにつぎ込んでしまい、生活費を一切入れなくなったなどの事情があれば、(2)悪意の遺棄に当たることも考えられます。 スマホをいじるという行為は、直接は離婚事由として認められませんが、その利用方法によっては婚姻関係を破綻させる原因になります。配偶者がスマホ依存になっていないか気になる方は、家庭での利用方法について夫婦間でよく話し合ってみてはいかがでしょうか? *取材協力弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。【画像】イメージです*Ushico / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月10日年末年始は、高速道路の交通量が大幅に増加します。今年は帰省ラッシュのピークが30日と31日、Uターンラッシュが1月3日の見通しだそうです。2017年は1月4日が平日であることから、3日は公共交通機関など、混雑が予想されています。高速道路の渋滞も、かなりのものになりそうです。なかなか動かない渋滞を抜けると、ついついスピードを出しがちです。つねに追い越し車線を走行し、ほかの車をごぼう抜きにしている人もいるかもしれません。もちろんその行為は、立派な交通違反。スピードの出しすぎは命に関わりますから、警察の取り締まりの対象になります。「そんなことは知っているよ」と言いたくなることでしょうが、追い越し車線を法定速度でずっと走っているだけでも違反になることをご存知でしょうか?「まさかそれだけで違反になるわけないだろう」という声も聞こえてきそうです。 Q.高速道路で追い越し車線を走り続けると違反になるの? *画像はイメージです:違反です!走行してOKな距離の目安は2キロメートル道路交通法第20条の「通行帯違反」に抵触するため、立派な違反になります。明確な規定はありませんが、一般的に目安として2キロメートル以上走行すると、違反とみなされます。ただしその場が車線変更できない状況とみなされた場合は、その限りではありません。2キロという距離は、あくまでも「目安」です。この通行帯違反は仮に法定速度で走っていたとしても適用。普通車の場合、違反点数1点、反則金6.000円が課せられます。6,000円を支払うくらいなら、走行車線でゆっくり走ったほうが良さそうですね。 *記事監修弁護士:竹内 省吾(弁護士法人サリュ 銀座事務所。 交通事故分野のパイオニア。民事刑事問わず無料相談 メール受付対応。おもな著作に「交通事故裁判和解例集」(第一法規)などがある。)*取材・文:佐藤俊治(複数メディアで執筆中のフリーライター。真面目な話題からくだけた話題まで手広く記事を執筆中。趣味は将棋、好物はカツカレーとパインアメ)【画像】イメージです*ABC / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月10日ここ最近、悪質な訪問販売が増えているようです。11月には高齢者に布団の違法な訪問販売をしたとして、業者に行政処分が下る事件が静岡県でありました。また、神奈川県では「悪質な訪問販売をやめさせる」とウソをつき、現金をだまし取るという事件も発生しています。このような悪質な業者から身を守るための法的手段を、4つご紹介いたします。*画像はイメージです:■悪質訪問販売業者の代表的な3つのやり口とは?悪質な訪問販売業者のやり口としては、次のようなものがあります。① 扉を閉めようとするとドアに体を挟んでドアを閉めさせない② 「今日は忙しいです」と伝えると、「それならいつならご予定が空いていますか」と言い、「話を聞かれるつもりがないならなんでドアを開けたんですか?ドアを開けたということは何か話を聞こうと思ったんでしょ」「大きな声を出されるとご近所迷惑ですよ」などと会話をつなぎ、いつまでも立ち去らない③「お住まいについて話をするためです」と訪問目的を明示せず、いつまでもだらだらと話をするこのような悪質な業者に出会うと根負けして、話を聞いてしまうことになるかもしれせんが、それでは彼らの手口に乗ってしまいます。根負けをせずに次のような毅然とした態度をとってください。 ■悪質業者から身を守るための4つの「法的な追い払い方」(1) 不退去罪で警察に電話すると伝えるまず、悪質業者から身を守るために有効な法的な「追い払い方」は、「不退去罪(刑法130条)」で警察に電話すると悪質な業者に対して伝えることです。どのような行為について不退去罪が成立するか簡単に説明すると、住んでいる人から「帰ってください(退去命令)」という要求を受けてそれがわかっているのにその要求を無視してその場所から退去しない行為について成立します。だから、いつまでも軒先や玄関先に居座る業者に対しては、携帯電話等で警察に電話を素振りを見せれば悪質業者も帰ると思われます。(2)特定商取引法3条の違反と、60条を利用する意思があることをはっきり伝えること悪質な訪問販売業者は、訪問目的を明示せず、いつまでもだらだらと話をしてくる場合にはどうしたらいいのでしょうか?販売業者が訪問販売をしようとするときは、その勧誘に先立って、次の3つを明らかにしないといけません(特定商取引法3条)。1)会社名2)売買契約の勧誘目的3)勧誘に係る商品名したがって、訪問目的も明かさない悪質な訪問販売業者に対しては、その行為が特定商取引に関する法律(以下、「特定商取引法」という。)3条の違反であることを伝えることが考えられます。それでも業者名を名乗らない場合は、訪問販売員の名前を聞いた上で、主務大臣申出制度(特定商取引法60条)を利用することが考えられます。主務大臣申出制度というのは、「このような悪質な訪問販売がありましたよ。お役人さん調べてください」ということを申し立てる制度です。役所は、調査をした上で必要があれば、悪質な訪問販売業者に対して、業務改善の指示(特定商取引法7条)業務改善命令(特定商取引法8条)を出すので、主務大臣申出制度には一定の意味があります。したがって、悪質な訪問販売業者に対する対処法としては、その訪問販売員による訪問販売について記載した申出書を都道府県の特定商取引法担当課に対して提出する旨を伝えるという方法が考えられます。(3) 消費者契約法における契約の取消がある旨を伝える消費者契約法4条3項1号には、消費者宅から事業者が退去しない場合、消費者の困惑に基づいてした契約の申し込み・承諾の意思表示の取消しができると規定されています。したがって、このまま居座られて契約を締結することになっても、消費者契約法4条3項1号を利用して契約を取り消しますよと悪質訪問販売業者に伝えることが考えられます。(4) 事後的な手段としてクーリング・オフもある仮に訪問販売業者の圧力に押されて契約を締結してしまった場合でも、申込みまたは契約の後8日間は無条件で解約することができます。 ■弁護士からのアドバイス訪問販売業者の圧力に押されて契約を締結してしまったので、クーリング・オフをしたいと考える場合には、訪問販売業者に対して弁護士から内容証明郵便を送るのが有効です。その際には弁護士鈴木謙太郎にご相談ください。 *著者:弁護士 鈴木謙太郎(1972年の設立以来40年以上の歴史がある、虎ノ門法律経済事務所の池袋支店で支店長を務める。注力分野は遺産相続、不動産取引、交通事故、債権回収、労働問題、債務整理、刑事事件、離婚等。「皆様の人生の一大事を共に解決するパートナーとして、真摯に業務に取り組んでまいります。」)【画像】イメージです*ワンセブン / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月10日年末年始、自動車で帰省するという人は多いのではないでしょうか。クルマ好きにとっては、高速道路を快走することは、実に気分の良いものです。もちろん、法定速度を守っている人がほとんどだと思いますが、なかには追い越し車線を猛スピードで疾走する、けしからん自動車も存在します。そんなときは、かつてF1で繰り広げられたアラン・プロスト対アイルトン・セナのように、追い越す車を妨害して「ブロック」したくなってしまいます。しかし、そのような行為は交通違反になるらしいのです。無法者へのささやかな抵抗なのに…。本当に違反になってしまうのでしょうか? Q.追い越しを妨害してスピードを上げると減点されるって本当?*画像はイメージです:本当です!反則金と減点1点追い越そうとしている車を妨害する行為は、事故を誘発することになりますので違反となります。速度を上げて並走することも同様です。(道路交通法第27条 1項 2項)追い越しを受けた場合はスピードを保ち、静かに抜かれなくてはなりません。違反した場合は減点1点と反則金の対象となります。自分が抜かれることに対して不愉快な感情を持つ人も少なくないと思いますが、事故で命を落としては元も子もありません。先を急ぐ者には道を譲り、安全に目的地にたどり着くことを考えましょう。 *記事監修弁護士:竹内 省吾(弁護士法人サリュ 銀座事務所。 交通事故分野のパイオニア。民事刑事問わず無料相談 メール受付対応。おもな著作に「交通事故裁判和解例集」(第一法規)などがある。)*取材・文:佐藤俊治(複数メディアで執筆中のフリーライター。真面目な話題からくだけた話題まで手広く記事を執筆中。趣味は将棋、好物はカツカレーとパインアメ。)【画像】イメージです*hallucion7 / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月09日*画像はイメージです:今年も師走が訪れ、木枯らしが吹きすさぶ頃になりました。「ボーナスちゃんと出るのかな?」なんて憂いながら、身も心もはたまた懐までも震えている方も少なくないかもしれません。そんなことをも忘れてしまうために、今日も日々居酒屋などで忘年会の賑やかな声が聞こえてくる頃でもありますね。そんな飲み会でお世話になっている方も多いであろう飲み放題。そして、飲み放題において必ずと言ってもいいほど存在する「グラス交換制」ルール。ふと、「飲み放題なのにグラス交換制って?」と疑問を持った方もいらっしゃると思います。そこで今回は「グラス交換制」という“お店のルール”はどこまで拘束力があるのかを、両者に発生する契約関係をもとに解説してみたいと思います。 ■お店とお客さん……そもそもどんな契約関係が?飲食店とお客さんとの間には、お店がお客さんに対し、飲食物を提供し、飲食する場所を提供する「飲食物提供契約」が成立します。お客さんとお店の間にどのような意思の合致があるか、すなわち、どのような「申込み」と「承諾」があるかどうかが重要になります。具体的には、お客さんの「飲食物を提供して下さい」という「申込み」と、お店側の「提供します」という「承諾」があって、初めて契約が成立することになるのです。 ■では、お店側のルールに拘束力は?民法の大原則として「契約自由の原則」というものがあります。これは読んで字のごとく、「私人と私人の間の契約は、(公序良俗や強行法規に反しない限り)自由である」という原則のことです。つまり、お店は、いつ、誰と、どのような契約を締結するか決める自由があり、お客さんもいつ、どの店と、どのような契約を締結するか決める自由があります。そのため、お店側が「グラス交換制の飲み放題を提供します」という申込みの誘引をし、客側が「それで構わないので飲み放題をお願いします」と申込みをし、お店側が「かしこまりました」と承諾をした場合には、お店とお客さんとの間には「グラス交換制という条件での飲み放題を提供する契約」が成立することになります。そして、契約が発生した以上は、契約上の拘束力が生じることになり、お客さん側がグラス交換制を拒絶して、「じゃんじゃん持って来い!」などとおかわりを要求しても、お店側として応じる義務はないことになります。 ■強硬におかわりを要求するようなお客さんを追い出すことはできる?お店とお客さんとの間に「グラス交換制の飲み放題」という内容の契約が成立している場合、お客さんもその契約に拘束されます。そして、民法上、一方がその契約を守らない場合、他方は、契約を守るよう催告をした上で契約を解除することができます(民法541条)。つまり、「ルールを守らないのであれば出ていってもらいます」という忠告をお店側がしたにもかかわらず、お客さんが従わなければ契約を解除するとともに、それまでの飲食代金は損害賠償(民法415条)として請求することが可能です。そして、お店側は飲食物提供契約を履行するため、自身の施設管理権に基づき、客に立入りを許しているわけですから、契約が解除された以上、お客さんに退店いただくことは可能になるわけです。ええっ!?厳しくない?と思う方もいるかもしれませんが、お客さんもその店に行くかどうかはまったくの自由。その店のルールが嫌ならば、その店に行かなければいいだけの話なのですから、必ずしも厳しいとも言い切れません。なお、お客さんがお店から退店を指示されたにもかかわらず退店しない場合には、不退去罪(刑法130条)に該当したり、大声をあげたりすると、場合によっては威力業務妨害罪(刑法234条)が成立する可能性がありますので、ご注意ください。 グラス交換制って、確かに立て続けに飲みたいのに、持ってきてもらうまでのタイムラグが生じてしまったり、逆にそのタイムラグを見越して早めに飲みほして結果的に飲みすぎてしまったりするなどのリスクもありますね。(自分だけ?)居酒屋さんもグラスが足りなくなってしまうことを防ぐ必要もありますので、事前にルールを確認し、楽しい忘年会を過ごしてくださいね。 *著者 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)【画像】イメージです*NOBU / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月09日Googleストリートビューに映ったハトが、未確認飛行物体ではないかと話題になったものがあったようです。Googleストリートビューについては、プライバシー侵害になるのではないかという議論がされることがあり、実際にそれで裁判になったこともあります。実際、Googleストリートビューはプライバシーを侵害するものといえるのでしょうか。解説していきたいと思います。*画像はイメージです:■プライバシー侵害の要件プライバシー侵害が成立するためには、一般的に以下の要件を満たす必要があるとされています。 1. 私生活上の事実または事実らしく受け取られる事柄であること2. 一般人の感受性を基準にして、当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないと認められるものであること3. 一般の人々に、未だ知られていないことがらであること(非公知性) これは「宴のあと」事件(東京地判昭和39・9・28)が示した基準です。もっとも、必ずしもこの要件が厳格に適用されてプライバシー侵害が認定されているわけではないのが実際です。 ■“プライバシーとして保護するか”が争点だと上記3要件が重視されるただし、“そもそもプライバシーとして保護するべきか”という点が争われる場合、この要件の充足の有無がかなり問題になってくることがあります。私見ですが、「宴のあと」事件判決は単なる地裁判決であり、私生活上の事実等に対象を限定すること、また、非公知性を要求する点で、現在では不適切な要件になっているのではないかと考えています。特に、非公知性については、昭和39年当時は、情報の発信者はもっぱらマスコミであり、個人が社会に物事を公表することは著しく困難で、「一般の人々に未だ知られていない」という状況が容易に観念することができました。しかし、現在はインターネットを通じて誰でも気軽に情報発信ができるようになっており、インターネットに投稿されれば、その情報は誰でも閲覧できる以上、「一般の人々に未だ知られていない」ということを観念することができない状況と思います。その結果、「宴のあと」事件の要件を用いれば、インターネット上に掲載された事項については、プライバシーとして保護されない、ということになってしまいます。これは明らかに不当でしょう。つまり、プライバシー侵害成立の要件は、現代の状況とは全く合致しないものになっているのです。 ■Googleストリートビューはプライバシーを侵害するものかでは、Googleストリートビューはプライバシーを侵害するものでしょうか。Googleストリートビューは、プライバシーに一定の配慮をして、顔、表札、車のナンバープレートなどにモザイクをかけています。また、ストリートビューでは公道からの撮影がされているのが通常であり、公道において撮影する際、周囲の様々なものが写ってしまうことはしばしばあることです。そのため、一般的にはプライバシー侵害とは言えないと思われます。裁判でも、同じような判断で、プライバシー侵害が否定されています。もっとも、塀の中が撮影されていたり、モザイクがかかっていない人の顔が掲載されているといったケースもあるようであり、個々の状況によってプライバシー侵害と評価できる場合もあるだろうと思われます。 *著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)【画像】イメージです*Lolostock / Shutterstock
2016年12月09日前回記事「全ての不倫が慰謝料請求の対象? 不法行為成立の要件とは」では、不法行為の成立要件についてお話させていただきました。少々、抽象的なお話しだったと思いますので、もっと具体的なケースについて知りたいと思った方も多いかと思います。ですので今回は、4つの不倫のケースに関して裁判例上ではどのような判断が下されたのかをご紹介していきたいと思います。*画像はイメージです:■どのような行為が侵害行為と判断されるのか以下、不倫(不貞)相手をX、夫婦のうち、不倫をされた側(慰謝料を請求する側)をA不倫をした側をBとしてお話します。 1.ホテルにおいて裸で抱き合うこと〇これはかなり特殊な事例ではありますが、持病の糖尿病のために性的不能であったXが、Bとホテルにおいて裸で抱き合うなどしたケースです。このケースにおいて、裁判所は、性行為には至らなかったとしても、そのような行為は、原告の婚姻共同生活の平和維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものとしています(東京地判平成25年5月14日)。これは当然といえるでしょう。 2.手を繋いで歩くこと△これについては、肯定している裁判例、否定している裁判例、いずれもあります。まず、肯定例ですが、「狭い一室に男女が数日間にわたり同宿し、戸外に出た際には体を密着させて手をつないで歩いていたこと等からして、XとBとの間には肉体関係があったと認めるのが相当」とされています(東京地判平成17年11月15日)。他方、否定例は「Aは、関係者の目撃情報をいうが、仮に、関係者の目撃したBと一緒にいた女性がすべてXであり、Aの主張するようにBがその女性と手をつないでいたとしても、そのことから当然に不貞関係の存在が推認されるものではない」とされています(東京地判平成20年10月2日)。これらの裁判例を見ると、いずれも結局は肉体関係(後者は「不貞関係」としていますが、これは肉体関係を指しています)の有無を問題としており、それがあったかどうかの推認の要素として「手を繋ぐ」という要素を考慮しているに過ぎないようです。自分の夫や妻が他の異性と外で手をつないでデートをしていたら、かなりショックでしょうし、婚姻共同生活の維持を妨げるような行為、といっても良いと思われますが、裁判例上は、その手を繋ぐ行為やその他の事情から肉体関係があると推認できないと「侵害」とは認められないようです。つまり、単に手をつないでいるだけでは、肉体関係(やそれに類するもの)があるとまでは認められないため、その他の事情を組み合わせて肉体関係がある、と推認できるかがポイントになります。 3.内緒で密会する行為×配偶者に内緒でご飯に行ったり、デートしたりする行為については、不法行為を構成しないとされています(東京地判平成21年7月16日)。上記のように、手を繋いで歩くことが侵害行為といえない以上、これが該当しないのは当然でしょう。 4.「あいしてる」「大好きだよ」などの愛情表現を含むメールの送信△これについても肯定、否定いずれもあります。まず、肯定例は「このようなメールは、性交渉の存在自体を直接推認するものではないものの、XがBに好意を抱いており、Aが知らないままBと会っていることを示唆するばかりか、XとBが身体的な接触を持っているような印象を与えるものであり、これをAが読んだ場合、Aらの婚姻生活の平穏を害するようなものというべきである。」としています(東京地判平成24年11月28日)。他方で、否定例もありますので、「手を繋ぐ」という事情と同様で、メールそれ自体をもって「侵害行為」とすることはできず、メールの内容から、肉体関係(あるいは身体的な接触)があったといえるような場合に不法行為となるものと考えられます。そして、実際、メールの内容から肉体行為があったことが推認されたケースとして、「あの旅は本当に素敵なものでした」とのメール(東京地判平成22年1月28日)等があります。一般的には、宿泊を伴う旅行や性的交渉の存在を前提とした内容のものが記載されていれば肉体関係の存在が推認されるといえるでしょう。 以上からすると、肉体関係(性行為)以外は「侵害行為」と認定されづらい傾向にありますが、それに類似するような行為であっても、「侵害行為」とされていることがあり、また、手を繋ぐ行為や親密なメールの内容等から肉体関係があったものと推認できる場合には「侵害行為」とされていることが分かります。 *著者:弁護士 伊倉吉宣(伊倉綜合法律事務所。離婚・男女問題をはじめ、労働トラブルや交通事故問題など幅広く取り扱う。)【画像】イメージです*MonoLiza / Shutterstock
2016年12月08日今年も12月に入り、2016年も終わりを迎えようとしていますね。平穏無事に年を越すことができれば良いですが、12月は探偵事務所や興信所での調査が増加するという傾向にあるそうです。というのも、12月は「忘年会で遅くなる」といったウソが成立しやすく、浮気・不倫相手との時間が作りやすい時期であるからだそうです。パートナーが不倫した場合、不法行為になり、損害賠償請求(慰謝料請求)ができることが多いですが、全ての不倫が不法行為となるわけではありません。そこで、今回はどういったことが不法行為成立の要件として挙げられているのでしょうか、解説していきたいと思います。*画像はイメージです:■不法行為成立の要件とは不法行為とは、「故意または過失によって他人の権利・利益などを侵害した者は、この侵害行為(不法行為)によって生じた損害を賠償する責任を負う」というものですが、この不法行為が成立するための法律上の要件は次のとおりです。①:権利・利益の侵害②:損害の発生③:①と②の間の因果関係④:故意・過失(⑤:責任能力があること)不法行為が成立するためには、これらを満たす必要があるわけですが、不倫(不貞)の場合には、どのような事実がこれにあたるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。 不倫事案における「権利・利益」については、考え方がいくつかありますが今回は、「婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する権利」という考え方を念頭に置くことにします。次に「侵害(行為)」ですが、前回ご説明したように、法律上、「不貞行為」の典型的な行為は、性行為・肉体関係であり、これが侵害行為になることは明らかです。では、性行為・肉体関係がないと、「侵害行為」とはいえないのでしょうか。何が侵害行為であるかは、“何が侵害されるのか”、すなわち、先ほどお話した「権利・利益」から考えることになります。そうすると、婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する権利が「権利・利益」であるならば、「侵害行為」は婚姻共同生活の維持を妨げるような行為と考えるべきでしょう。少しわかりづらいですが、言い変えると、夫婦として(平穏に)生活を共にしていくことを妨げる行為のことです。実際、裁判例も「第三者が相手配偶者と肉体関係を結んだことが違法性を認めるための絶対的要件とはいえない」と述べておりますし、一方で、肉体関係がなくても「侵害行為がある」と判断している裁判例もあります。 *著者:弁護士 伊倉吉宣(伊倉綜合法律事務所。離婚・男女問題をはじめ、労働トラブルや交通事故問題など幅広く取り扱う。)【画像】イメージです*bedya / Shutterstock
2016年12月08日年末年始の休みは普段運転をしない人がハンドルを握ることが多く、危険を感じることが少なくありません。特に事故につながりやすいのが、マナーを知らないドライバーが増えること。交通社会に生きるものとして当然守るべきことを無視するため、職業ドライバーを中心に「イラ」っとしてしまうことが多くなります。そんな事例の代表格が、左折後2車線の道路の右側に入る車。近くを走る車としては非常に腹の立つ行為ですが、交通違反ではないのでしょうか。また、右側に入った車が接触事故を起こした場合過失割合も気になります。 Q.左折後2車線の道路の右側に入る車は交通違反になる?事故を起こした場合、過失割合はどうなる?*画像はイメージです:マナー違反だが、交通違反にはならない。ただし過失割合は加算されることがある。道路交通法第34条1項に「車両は、左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、できる限り道路の左側端に沿つて徐行しなければならない。」とあります。「できる限り」であるため、この場合交通違反にはあたりませんが、マナー的にはありえないということになります。危険であることは変わりがありませんので、避けるのが無難です。また事故を起こした場合についてはケースバイケースですが、割合が加算されることもあります。これは、留意していたほうが良いと思われます。交通違反ではなくても、マナー的にはアウト。ドライバーの倫理が問われる法律と言えるかもしれませんね。 *記事監修弁護士:竹内 省吾(弁護士法人サリュ 銀座事務所。 交通事故分野のパイオニア。民事刑事問わず無料相談 メール受付対応。)*取材・文:佐藤俊治(複数メディアで執筆中のフリーライター。真面目な話題からくだけた話題まで手広く記事を執筆中。趣味は将棋、好物はカツカレーとパインアメ。)【画像】イメージです*yerbluesky / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月08日今期放送中のドラマの中でも、もっとも話題となっているラブコメディ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)がいよいよ最終回(12月20日)を間近に控えています。このドラマで「恋ダンス」とともに注目されているのは、その設定です。主人公のふたりが「夫(津崎平匡)=雇用主、妻(森山みくり)=従業員」の雇用関係で「契約結婚」するというものですが、法的には本当に成立する内容なのでしょうか?*画像はイメージです:■契約当初のみくりさんたちの「契約結婚」は、事実婚にあたるのか?事実婚というのは、「社会観念上夫婦となる意思をもって夫婦共同生活を送っているが、婚姻の届出を欠くために、法律婚とは認められない男女の関係」のことをいいます。要は、世間的に見て夫婦になるつもりで一緒に暮らしているけど、婚姻届を出していない関係のことを事実婚といいます。契約当初のみくりさんたちの「契約結婚」についてこれをみると、みくりさんたちは家事代行サービスのために同居しているだけであって男女の関係も全くないわけですから、世間的にみて夫婦となるつもりで一緒に暮らしているとはいえません。よって、契約当初のみくりさんたちの「契約結婚」は事実婚といえません。それでは、みくりさんたちの「契約結婚」はどのような契約なのでしょうか?みくりさんたちの契約は、「契約結婚」といいつつ、家事代行サービス+みくりさんが世間的に妻として振る舞うことを目的とした民法に載っていない契約といえそうです。 ■「ハグ」を強制できるのか?みくりさんたちの契約は、契約当初、かなりドライな契約でした。しかし、みくりさんも平匡さんは一緒に暮らしていくうちに週一回の「ハグの日」を決めたりしているように、その契約内容はウエットなものに変化していきます。それではドラマとは違って、仮にみくりさんや平匡さんの関係が悪化し、みくりさんが「ハグの日」にハグを拒絶した場合、平匡さんは、みくりさんとの「ハグ」の履行を確保するために、裁判所の力を借りて、「ハグ」の強制をできるのでしょうか?結論からいうと、強制できません。また、お金の支払いを命じることで心理的に圧力を加えてやらせるやり方(間接強制)で「ハグ」を強制するのはどうでしょうか?これも人格を不当に圧迫し、人格尊重の理念に反する場合、間接強制は認められません。そして、「ハグ」を強制することは人格尊重の理念に反しません。よって、間接強制で「ハグ」を強制することもできません。 ■幸せな結婚生活を送るための「婚前契約」?ドラマの最終回に向けて、これからのみくりさんと平匡さんの関係がどうなっていくのでしょうか?二人は結婚するのか、それとも…?仮に二人が結婚するとして、幸せな結婚生活を送るための「婚前契約」はあるのでしょうか?一つの手段として、夫婦財産契約をすることが考えられます。夫婦財産契約というのは、結婚中に得た財産が誰のもので、誰が管理し、どのように処分するか、結婚中の債務は誰が負担するか、離婚する場合の財産の清算をどうするかといったことを決めるものです。ただ、夫婦財産契約の内容は、婚姻の届出をする前に契約をして登記所に届け出ないといけなかったり、婚姻中は原則変えられなかったりするという非常に使いにくい制度となっています(1年に2件程度)。 ■夫婦財産契約が締結されなかった場合はどうなるの?みくりさん達が婚姻の届け出をする前に今お話した夫婦財産契約を締結しなかったときには、自動的に法定財産制度(民法760条以下)が適用されます。それでは、みくりさんと平匡さんの夫婦仲が悪くなり別居した後、平匡さんが生活費を支払ってくれなくなった場合、どうなるでしょうか。別居していても結婚し続けているのですから、みくりさんは平匡さんに対して婚姻費用の分担を請求することができます(民法760条)。婚姻費用の額、支払方法は、まず夫婦の話合いで決めます。婚姻費用の分担について平匡さんと協議ができないとき、又は協議が整わないときは、平匡さんの住所を管轄する家庭裁判所に婚姻費用分担の調停を申し立てることができます。調停における合意が難しいときは、さらに審判に移行することになります。 ■弁護士から一言仮にみくりさんたちとの「契約結婚」が、事実婚だった場合、婚姻費用分担義務のような法律婚の効果が準用されます。事実婚で別居後、パートナーが生活費を支払ってくれなくなりお困りの方や、法律婚をされている方で別居後、夫が生活費を支払ってくれなくなってお困りの方は、弁護士鈴木謙太郎にご相談ください。 *著者:弁護士 鈴木謙太郎(1972年の設立以来40年以上の歴史がある、虎ノ門法律経済事務所の池袋支店で支店長を務める。注力分野は遺産相続、不動産取引、交通事故、債権回収、労働問題、債務整理、刑事事件、離婚等。「皆様の人生の一大事を共に解決するパートナーとして、真摯に業務に取り組んでまいります。」)【画像】イメージです*wavebreakmedia / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月07日日本では約3組に1組の夫婦が離婚をすると言われています。離婚の際、子どもの親権や養育費、慰謝料など多くのことで揉めているケースが多いです。離婚するだけでも苦労するものですが、離婚後、実際に子どもと面会できるのか、養育費が払われるのか、といった離婚後の問題も多くあるのが現状です。離婚後の問題は多くあると思いますが、今回は「慰謝料が払われなかった場合」どういった対処すればいいのか、解説していきたいと思います。慰謝料について当事者同士で合意したに過ぎない場合には、まずは、調停や裁判を経て「債務名義」を取得したうえで、相手の財産(不動産、預貯金等)に対して強制執行する必要があります。すでに調停や裁判を経て、調停調書や判決等の「債務名義」を取得している場合には、当該債務名義に基づき、相手の財産に対して強制執行することにより、慰謝料を回収することができます。なお、慰謝料等についての合意について公正証書を作成し、「強制執行認諾文言」(慰謝料を支払わない場合には、直ちに強制執行に服することを承諾するもの)を入れておけば、判決と同様に「債務名義」となりますので、調停や裁判といった手続を経ずに、相手の財産に対して強制執行することができます。以下では、各財産ごとに強制執行の方法を説明します。 ■不動産から回収する方法相手が不動産を所有している場合には、「不動産強制競売」の申立てを検討することになります。もっとも、当該不動産に住宅ローン等の抵当権が設定されている場合、住宅ローンが不動産価格よりも高い場合(いわゆるオーバーローン状態)には、不動産の売却代金は、すべて住宅ローンの弁済に充てられてしまいますので、慰謝料の回収を図ることはできません。そのため、競売を申し立てるにあたっては、当該不動産に抵当権等の担保権がついているのか、ついているとすれば住宅ローンはいくら残っているのかを確認することが重要です。 ■預貯金から回収する方法相手が預貯金口座を保有している場合には、当該預貯金に対する「債権執行」の申立てを検討することになります。金融機関名と支店名さえ特定すれば、預金種目や口座番号等の情報が分からなくても、預貯金口座に対して債権執行をすることができます。もし、相手が有する預貯金口座が分からない場合というには、相手の住所地や勤務地周辺の金融機関の支店に的を絞って、債権執行の申立てをかけるという方法もあります。もっとも、離婚時においては、相手の預貯金の情報も明らかにになっている場合も多いでしょうから、相手がどの金融機関に預貯金口座を持っているのか全く分からないといった事態はあまり生じないでしょう。 ■給与から回収する方法相手が会社に勤めている場合、相手の会社に対する「給与債権の差押え」を検討することになります。ただし、差押えをすることができるのは、給与の4分の1に相当する部分だけです。給与債権の差押えをするためには、相手の勤務先の名称や所在地を把握しておく必要があります。 以上のとおり、相手が慰謝料を任意に支払わない場合、相手の財産から強制的に慰謝料を回収する方法はいくつかあります。しかしながら、相手が、上記のような財産を何も持っていないという場合には、残念ながら、請求する側としては、泣き寝入りするほかはないということになります。そうならないためには、慰謝料の支払いについて資力のある人に保証人になってもらうなどの措置を講じておく必要があります。 *この記事は2014年9月に公開されたものを再編集した記事です*著者:弁護士 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)【画像】イメージです*AH86 / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月07日昨日12月6日、年金制度の新ルール化を盛り込んだ「年金制度改革関連法案」が参議院厚生労働委員会で審議入りしました。11月末、衆議院の本会議で賛成多数によって可決となっており、いよいよ大詰め段階に入っています。この法案は「現役世代の負担減・年金制度そのものの安定化に繋がる」という声もある一方、「現在もしくはこれから年金を受給する高齢者の年金減額に繋がる『年金カット法案』だ」という批判の声もあります。とはいえ、そもそも年金の金額というのはどのような仕組みで決まっているのでしょうか?また、どうしてこの法案は「年金カット法案」だとして批判を浴びているのでしょうか?Q.「年金カット法案」と言われている理由は?*画像はイメージです:.物価が上昇しても、賃金が下落すれば年金額が下がってしまうため現在の制度でも年金額は「賃金・物価」の影響を受けるため、実はこれらの増減によって年金額は毎年微妙に変動しています。ただ、今の制度では「特例措置」として、物価が上昇していても賃金が下がっている場合は、年金額は「減らさない」というものが採用されています。しかし、今回の改革法案ではこの特例措置を無くすようになっているため、物価上昇時に賃金が下がる場合、年金額も下がることになってしまうのです。その場合、当然年金生活者にとっては生活が厳しくなることが想定され、この部分が「年金カット法案だ」と言われる理由なのですね。一方、賃金の情勢はいわば年金制度の「財源(収入)」にあたるため、この部分を優先させることは、年金制度の継続性を重視した改正案だと見ることもできるのです。 *取材・文:ライター松永大輝(個人事務所Ad Libitum代表。早稲田大学教育学部卒。在学中に社労士試験に合格し、大手社労士法人に新卒入社。上場企業からベンチャー企業まで約10社ほどの顧問先を担当。その後、IT系のベンチャー企業にて、採用・労務など人事業務全般を担当。並行して、大手通信教育学校の社労士講座講師として講義サポートやテキスト執筆・校正などにも従事。現在は保有資格(社会保険労務士、AFP、産業カウンセラー)を活かしフリーランスの人事として複数の企業様のサポートをする傍ら、講師、Webライターなど幅広く活動中。【画像】イメージです*和尚 / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月07日*画像はイメージです:月2日に最終回を迎えた、ドラマ『黒い10人の女』(日本テレビ系列)面白かったですね。脚本を芸人のバカリズムが担当したことでも話題となりましたが、船越英一郎さんが演じるTVプロデューサーの主人公・風松吉が、妻がいながらも9人の女性と不倫をしているという愛憎劇な設定が爽快でした。今回は、この主人公、風松吉がドラマ終了後の時間軸で、もし誰かと再婚し、新しくできた愛人に全財産を遺言で贈与(包括遺贈といいます)して亡くなったらどうなるか、というケースを考えてみましょう。 ■よくある誤解~遺言で全財産を包括遺贈されたらすべてお終い~個人は死後の自分の財産の行方についてもその意思で自由に決することができます(遺言自由の原則)。今回の風松吉のケースでも、風松吉は全財産を愛人に「包括遺贈」することは可能です(民法964条)。包括遺贈されてしまったらすべてお終いで、松吉の妻は何の手も出せない、という誤解が世間にはあります。「包括遺贈」…たとえば,遺産の100%を人や法人に対して遺言で贈与することしかし、本当にそうなのでしょうか?松吉が亡くなった後も、松吉の妻は生活していかなければなりません。松吉の遺言を文字通り貫徹した場合、松吉亡き後の妻は路頭に迷ってしまうという不都合が生じてしまいます。このような不都合を許してまで松吉の意思を尊重すべきなのでしょうか? ■民法は相続人を見捨てない~困った時の遺留分減殺請求権~民法は、松吉の妻のような相続人を見捨てません。相続人の生活の安定及び財産の公平な分配を図るために、民法は、亡くなった人(「被相続人」といいます)の贈与や遺贈に対して制限を加えています(遺留分制度)。そして、その制限が加えられた持分割合のことを「遺留分」といい、相続後相続人が遺留分の額をもらえないときに、亡くなった人から財産をもらいすぎた人に対して「もらいすぎた分を返せ」と請求することができます。これを法律用語で遺留分減殺請求権(民法1031条)といいます。話が抽象的でわかりやすくなってしまいましたね。亡くなった人の財産を円形のピザにたとえて説明しましょう。遺留分制度がなければ、松吉は円形のピザを全部愛人に包括遺贈することができます。しかし、遺留分制度があるおかげで、松吉の妻は、遺留分減殺請求権を行使し、ピザを2等分した場合の一切れ分(2分の1)を愛人から取り戻すことができます(松吉と愛人との間には子どもがいないこととします)。 ■弁護士から一言被相続人の妻や子どもで本来財産をもらえるはずなのに、被相続人の遺言で相続財産をゼロにされた方は、ぜひ弁護士鈴木謙太郎までご相談ください。今回は、遺留分制度の基本的なお話をしました。次回は、遺留分減殺請求権を行使された方の立場にたって、遺留分減殺請求権に対して反論する方法をお話したいと思います。 *著者:弁護士 鈴木謙太郎(1972年の設立以来40年以上の歴史がある、虎ノ門法律経済事務所の池袋支店で支店長を務める。注力分野は遺産相続、不動産取引、交通事故、債権回収、労働問題、債務整理、刑事事件、離婚等。「皆様の人生の一大事を共に解決するパートナーとして、真摯に業務に取り組んでまいります。」)【画像】イメージです*Rocketclips, Inc. / Shutterstock
2016年12月06日評論家の池田信夫氏がインターネット上で発信した表現に対し、弁護士の伊藤和子氏が名誉毀損等を理由とする損害賠償を求めた裁判につき、平成28年11月24日、東京地方裁判所で判決が言い渡されました。裁判を担当した手嶋あさみ裁判長は、伊藤弁護士に対する名誉毀損等が成立することを認めて、約57万円を支払うよう池田氏に命じました。*画像はイメージです:■「スラップ訴訟」とは何か?池田氏は、伊藤氏が提起したこの裁判に関し、自身のブログ記事「伊藤和子のスラップ訴訟について」で、「このように他人を脅迫して言論を封殺するための訴訟をスラップ訴訟(Strategic Lawsuit Against Public Participation)と呼ぶ。こういう訴訟を許すと、ネット上の言論に対する萎縮効果が大きい。まして「人権派」を自称する弁護士がこのような人権侵害を行なうことは弁護士の職業倫理に反するので、彼女が訴訟を撤回しなければ、弁護士懲戒請求も検討する。」などと批判していました。「スラップ訴訟」とは、ウィキペディアでは「大企業や政府などの優越者が、公の場での発言や政府・自治体などの対応を求めて行動を起こした権力を持たない比較弱者や個人・市民・被害者に対して、恫喝・発言封じなどの威圧的、恫喝的あるいは報復的な目的で起こす訴訟である。」と説明されているように、本来、「大企業等の経済的・社会的に個人を圧倒する力を持つ存在」が、「個人」に対しておこなうものを指します。伊藤氏が池田氏に対して提起したような、「個人」が「個人」に対しておこなう訴訟は、(訴えを提起した個人が高い社会的地位にあるといった例外を除けば)スラップ訴訟にはあたらないと考えるべきでしょう。訴えられた方が、(本来はそうでないのに)「スラップ訴訟だ」という言葉で非難することは、「正当な被害の救済」を妨げるという(負の)効果を生じさせるものだと思います。なお、伊藤弁護士は、池田氏が「スラップ訴訟だ」と非難したことに対して、自身のブログ記事「【ご報告池田信夫氏を名誉棄損で提訴しました】」で、「この訴訟はスラップ訴訟に該当しないことは明らかです。不当な名誉棄損を受けた個人が裁判手続きを通してこれを是正することは、個人の基本的人権であり、憲法でも“裁判を受ける権利”として保障されています。訴訟による法的解決自体を糾弾する姿勢にははなはだ疑問です。」と述べています。私も同感です。 ■名誉毀損が成立するために必要な要素とは?ところで、池田氏は「スラップ訴訟だ」などと伊藤氏を非難しながら、裁判においては、自分が投稿した記事が「真実であること」について、何ら主張立証をしなかったそうです。名誉毀損とは、不特定多数に向けて、人の社会的評価を低下させるに足る事実を摘示(または、意見ないし論評を表明)することです。しかしながら、摘示された事柄(意見ないし論評の表明の場合は、前提とされた事柄)が、(1)公共の利害に関わる事実であること(2)専ら公益を図る目的であったこと(3)真実であること(または真実であると信じたことに相当の理由があること)という要件を満たす(と表現者が主張立証した)場合には、違法性が阻却され、名誉毀損は成立しません。これは、一定の要件を満たす場合には、名誉毀損にあたる表現であっても法的な責任を負わないとすることで、「表現の自由」の保障と、表現によって人格権(名誉権)を侵害された者の救済とのバランスを図ったもの、と理解されています。しかるに、名誉毀損にあたる表現について池田氏が「真実であること」を主張も立証もしなかったということであれば、違法性が阻却されることはなく、名誉毀損が成立するということになりますね。 *著者:弁護士 櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。ブログ「ネットイージス.com」)【参考】池田信夫氏ブログ:伊藤和子のスラップ訴訟についてWikipedia:スラップについての記述伊藤弁護士ブログ:【ご報告池田信夫氏を名誉棄損で提訴しました】【画像】*Andrey_Popov / Shutterstock
2016年12月06日11月24日に電車内で女性会社員に体液をかけたとして34歳の男性が器物損壊の疑いで逮捕されたという報道があったように、たまに、公共の場所で女性に体液をかけた男性が逮捕されたというニュースを目にします。体液といってもだいたいは精液なのですが、精液をかけた男性の容疑(被疑事実)は多くの場合「器物損壊」であり、「(準)強制わいせつ」ではありません。なぜわいせつの罪ではなくて器物損壊で逮捕・処分されるのかについて疑問を持つ方もいるかもしれませんので、今回はこの点について解説したいと思います。*画像はイメージです:■女性に精液をかける行為は両罪成立し得るまず、女性の衣服や持ち物に精液をかけた場合、器物損壊罪が成立します。器物損壊罪の「損壊」とは物の効用を害する一切の行為をいい、“感情的・心理的”に物の利用を不可能にする行為も含まれますので、器物損壊罪が成立するというわけです。法学部出身の方は、古い判例で食器に放尿した行為が「損壊」に当たるとされたものがあることをご存じかと思います。一方、精液をかける行為が強制わいせつ罪に当たるかという点については、同罪の成立要件である「暴行」と「わいせつ傾向(性的意図)」が問題になります。強制わいせつ罪の「暴行」とは、人の反抗を著しく困難にする程度の物理力の行使をいうとされていますが、裁判例では、「正当の理由なく他人の意思に反してその身体髪膚(はっぷ)に力を加うるの謂(いい)にして、固よりその力の大小を問うことを要するものに非ず」としたものや、「被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに必要な程度に抗拒を抑制するもので足りる」と判示したものがあり、物理力の強度よりも意思に反する程度に着目しているといえましょう。また、強制わいせつ罪の成立には行為者の性欲を満足させるという「わいせつ傾向(性的意図)」が必要とされていますが、精液をかける行為がもっぱら女性に対して報復または侮辱する目的で行われたといえないのであれば、「わいせつ傾向(性的意図)」もあるといえます。したがって、公共の場所で女性に体液をかける行為は、その態様や目的によりますが、器物損壊罪と強制わいせつ罪の両方が成立し得ます。 ■なぜ器物損壊罪のみで逮捕されることが多いのかこれには、「暴行」と「わいせつ傾向(性的意図)」の有無、立証難易、本人の前歴・余罪など様々な要因がありますので一概には言えませんが、まずは固い器物損壊罪の容疑(被疑事実)で逮捕するという理由があるでしょう。捜査の結果、強制わいせつ罪に切り替えることもありますし、強制わいせつ罪は成立するけれど今回は器物損壊罪のみで処分・処罰をするという判断がなされることもあります。 ■その他想定される疑問への回答(1)公然わいせつ罪にはならないの?成立し得ますが、公然わいせつ罪の規定はわいせつなものを見せられる人や健全な性秩序・精神的社会環境を保護していると解釈されているので、被害女性の観点からすると公然わいせつ罪で処罰することはなじまないといえるかもしれませんね。なお、公共の場で性器を露出した上で行う犯行態様であれば当然に公然わいせつ罪が成立します。(2)本人が「わいせつ傾向(性的意図)」を否定していたらわいせつ罪にはならないの?わいせつ傾向などの人の内心は、本人の外部的行動や客観的証拠から推測・認定できますので、本人の自白がなければ各種わいせつ罪で有罪にできないわけではありません。(3)器物損壊罪と強制わいせつ罪が成立した場合、それぞれの刑で処罰されるの?精液をかけるというひとつの行為が両方の罪に当たるときは、法定刑が重いほうの強制わいせつ罪の範囲で刑が言い渡されます(観念的競合といいます)。 *著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)【画像】*梅さん / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月05日photo by 編集部大学在学中の2002年に、友人と共にIT系のベンチャー企業を設立した経験を生かして、現在でもIT企業のサポートを多くこなしている中野弁護士。弁護士になるまでの苦労や失敗が、今の業務にどう結びついているのか伺いました。中野秀俊(なかの ひでとし)弁護士グローウィル国際法律事務所は、元IT企業経営者であり現在も会社の経営者である中野秀俊弁護士が、クライアントにとって理想の法律事務所を実現したいという思いから設立。 ■学生時代に立ち上げたベンチャー企業が倒産…その失敗から学んだものとは?___弁護士を目指したきっかけについて教えてください。私は、2002年に早稲田大学の政治経済学部経済学科に入学したのですが、入学して間もなく友人と二人でIT企業を立ち上げました。事業内容は、システム開発の受託から始まって、Webサービスを自分たちで立ち上げたりしました。友人と二人で共同代表をしながらエンジニアも営業も行うといった感じです。その学生ベンチャーは、一時期上手くいっていたのですが、大学4年のときに、倒産してしまいました。倒産の一番のきっかけになったのが、インターネットを使った輸入事業の失敗です。これは、ネットで海外の商品を仕入れて売ると行ったサービスだったのですが、先に商品を売ってしまってから後から仕入れるというシステムをとっていました。しかし、このシステムが仇となり、結局品物が入ってこないことによって、取引相手との間で、違約金が発生してしまったのです。当時は、きちんと契約書などにも目を通していなくてハンコを押していました。契約書の中には、かなり高額な違約金の条項もあって、それが払えないことでキャッシュフローがおかしくなり、事業が回らなくなったのです。この失敗は、最初の時点で、契約書をしっかりと見ておけば防げたことでした。また、今思えばトラブルになった後も、法律を知っていればいろいろと対策できることもあったと感じます。この倒産は、法律がわからなくてダメになってしまった部分も多々あったので、今度は法律面でベンチャー企業を支える側になろうと思ったのが、弁護士を目指すきっかけです。 ___経済学部から法律の世界への転身で、苦労したことはありますか?ちょうど当時はロースクール制度が始まったばかりで、制度移行の過渡期でした。私は、学習院大学のロースクールに通ったのですが、その後、司法試験の合格までには4年ほどかかりましたね。最初、法律は全くわからない状態だったので、正直なところ、本当にしんどい思いをしました。しかし、そのときの経験から、一般の人には法律用語はさっぱりわからないということが身にしみてわかっているので、専門用語を使わずにクライアントに説明するという今の基本姿勢は、あの時の経験がいきているかなと思います。 ■会社経営の経験から身についたスピード感を弁護士業でも活かす___仕事における信条、ポリシーについて教えてください。よくクライアントに言われるのは「対応が早いですね」ということです。弁護士は、スピード感がない方も多いですからね。私は会社経営をしていたので、スピード感は非常に大事だなと、実感しています。IT企業のクライアントは特にスピードが重視されるので、法律相談だったら24時間以内に回答する、契約書のチェックだったら基本的には1日~2日くらいで回答するといったことは、心がけていますね。今も法律事務所とは別に、会社も経営していますし、ITベンチャー企業の経営者だった経験があるので、単なる法律論で終わらせないようにしています。法律ではダメなのですよというのは、とても簡単なのですが、経営者は、それは求めていないだろうなと考えています。ダメということではなくて、それでは、どうしたらいいかという解決法や、代替案も必ず模索し提案するところまで、サポートするように心がけています。 ___大学で経済学を学んでいたそうですが、今でも役立っていることはありますか?私は、あまり大学に行っていないので(笑)そこは、なんとも言えません。ただ、学生ベンチャーをやっていたという経験によって、経営者の気持ちもすごくよくわかるというのはありますね。綺麗事だけでは、ビジネスは立たないということも、肌で感じています。経営者にアドバイスするときは、自分が経営者だったら、どういうアドバイスを受けたいかなという視点でいつも回答していますね。経営者は「法律はこうなっています」といった通り一辺倒の回答は絶対聞きたくないと思います。また、レスポンスが遅いといったことも、絶対嫌なので、経営者の立場になって対応するように常に考えていますね。 *取材協力弁護士:中野秀俊(なかの ひでとし)弁護士1984年生まれ。埼玉県出身。城北埼玉高校卒業。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。学習院大学法科大学院修了。大学在学中の2002年に、友人と共にベンチャー企業を設立。その事業の失敗を契機に、弁護士を目指す。グローウィル国際法律事務所代表弁護士。みらいチャレンジ株式会社代表取締。SAMURAIINNOVATIONPTE.Ltd(シンガポール法人) CEO。東京弁護士会インターネット法部会会員。著書に「ここをチェック!ここをチェック! ネットビジネスで必ずモメる法律問題」「有利な契約・利用規約を結ぶためのビジネス契約書 つくり方とチェックポイント」(いずれも、日本実業出版社)などがある。「グローウィル国際法律事務所」一門一答Q&A___事務所の理念を教えてください。法人のクライアントに関しては、企業の「攻め」と「守り」を支援しますということを理念としています。「攻め」の部分は、「みらいチャレンジ株式会社」のほうで、資金調達や人災採用とか、M&Aの仲介などを行っています。「守り」の部分は当事務所で、法律の部分を支援しています。事務所名に「国際」という名称を入れているのは、国際的な案件にしても対応できるということを伝えたいからです。私は、シンガポールでも会社を持っているのですが、IT企業だけではなく、日本企業は、近年、東南アジアなどに進出しているケースが多いです。そうすると、契約書のレビューで英文契約書も見るといった対応も必要になってくる。知財の問題なども、海外の法律に関して精通しておく必要があります。海外の弁護士とのネットワークもあるので、例えばタイで新しいサービスを展開したいという案件に対しては、タイの弁護士と一緒に法律の調査をして、マーケットの調査もするといった対応もしていますね。___一番依頼が多い分野は何ですか?IT企業のシステム開発の法律関係、著作権などの知的財産権関係、労務問題が多いですね。もちろん。他にも債権回収や、契約書のチェック対応などもあります。___一番依頼が多い相談内容は何ですか?2つあって、一つは例えば契約書など、ビジネスモデルの法的なチェックをしてくださいという予防面の相談です。もう一つは、紛争になりかけている事案に関する相談です。ビジネスチェックのときに、行政の相談窓口に一緒にいきましょうというケースもありますね。___初回の相談料はいくらですか?基本、法律相談は、1時間1万円をいただいています。相談料は法人も個人も一緒です。具体的に訴訟をしてくださいとか。交渉してくださいということになれば、ちゃんと事前に見積もりをして、よければ契約といった流れですね。値段も顧問契約だったら、例えば5万円だったら、ここまでやりますという感じでホームページに明確に出していますので、あとから追加料金ということはないです。個人の案件も、旧弁護士会の基準が基本に算定しており、費用説明書を作り、なぜこの金額になるのかを分かりやすく説明しています。もちろん、追加料金はありません。___着手金と報酬金の目安は?訴訟になった場合は、いくら請求しているのか、または請求されているのかによって異なります。だいたいですけど、着手金が、請求する・された金額の5〜10%ぐらいのイメージです。もちろん、これは金額によります。報酬金は、訴える側だったら実際に回収した額の10〜15%くらいの、訴えられた側は、減額した額の10~15%くらいのイメージですね。 *取材・文:塚本建未(トレーニング・フットネス関連の専門誌や、様々なジャンルのWebメディアを中心に活動するフリーランスライター。編集やイラストも手がける。塚本建未Website 「Jocks and Nerds」)【画像】*編集部
2016年12月05日道交法72条では、人身事故・物損事故問わず、交通事故全般について、速やかな警察への報告義務が課されています。したがって、軽微な事故や当事者双方にケガがなく、話し合いで解決したり、そもそもお互いに賠償請求するつもりがない場合であっても、道交法上は、必ず警察への報告をしなければなりません。*画像はイメージです:■警察への報告義務を怠ると罰則がこれは、交通事故直後には、お互い怪我がなく、車両損害もたいしたことがないと思って、そのままにしておいても、後日、当事者の一方が予期していなかった後遺症を発症したり、車両の損害が判明した場合に、警察に捜査を求める可能性があり、事後的な現場検証が難しいことと、軽微な事故も含めて警察で把握することで、交通事故の予防政策にも活用する必要があるためです。また、人身事故の場合には、自動車運転過失致傷罪等に問われる可能性がありますが、当事者の判断だけで、報告がなされないと、適切な治安維持、交通取り締まりも実現できません。そのため、道交法では、交通事故全般について、報告義務が課されており、交通事故の報告義務に違反した場合は、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金となります。 ■「ひき逃げ」により刑が加重される道交法72条では、交通事故時の報告義務とともに、救護義務定めています。したがって、交通事故を起こした運転者は、負傷者(被害者)の救護をする義務があります。交通事故を起こしたにもかかわらず、負傷者の救護もせずに、現場から逃亡する(ひき逃げ)行為は、救護義務違反として、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。 ■「殺人罪」が適用されるケースもさらに、交通事故によって被害者に重傷を負わせたにもかかわらず、救護もせずに被害者の身体を匿うなどして救護を困難にし、結果、すぐに救護すれば助かったのに被害者が死亡まで至った場合には、(不作為の)殺人罪が適用されるケースもあるとされています。交通事故の直後は、気が動転し、会社や家族のことが頭をよぎって逃亡する誘惑にかられるかもしれませんが、ひき逃げや報告義務違反は、さらに悪い結果しかもたらしません。不幸にも交通事故を起こした場合は、速やかな警察への報告と救護をしましょう。 *この記事は2015年11月に掲載されたものを再編集しています*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)【画像】イメージです*photoman / PIXTA(ピクスタ)
2016年12月05日*画像はイメージです:無実であるのに罪を犯したとされてしまう冤罪は、その被害により人生を狂わされることもあります。中でも「痴漢冤罪」という被害は、痴漢という犯罪の卑劣さゆえに社会的なダメージも大きいものです。また、実際に起訴されてしまうと無罪を勝ち取れる可能性は限りなく低いため、いかに痴漢冤罪に合わないようにするか、が大事になってきます。そこで今回は、このような痴漢冤罪被害、特に電車内における対策について、和田金法律事務所の渡邉寛弁護士にうかがいました。*取材協力弁護士:渡邊寛(和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。個人事案は子どもいじめ事件から相続争いまで、企業事案は少額の債権回収から渉外買収案件まで、あらゆる案件に携わる。) ■痴漢冤罪を未然に防ぐ方法は?「痴漢冤罪を未然に防ぐには、客観的に痴漢できないような状況をつくるのがよいです。男性の場合、女性の近くには立たない、手はつり革を持つなどして上げておく、満員電車を避ける、などが考えられます。」(渡邉寛弁護士)なるべく物理的に痴漢行為が不可能である状態でいるという対策です。痴漢冤罪を事前に回避するためには、今のところこれが唯一できることかもしれません。しかしながら、人々がひしめき合う満員電車内でのやむを得ない接触が痴漢と誤解されることがあります。 ■「疑われたら逃げる」は正解?痴漢の疑いがかけれた時、ネットでは「疑われたらとにかくその場から立ち去る(逃げる)」という対処法が広まっています。これは正しいのでしょうか?「逃げられればよいでしょうが、混雑した駅構内で逃げられずに捕まると心証が悪いのでリスクは高いです。痴漢冤罪の多くは、虚偽の被害申告ではなく、犯人と誤認されたケースと考えられます。逃げるよりも、痴漢行為を明確に否定し、誤解を解くことに努めた方がよいことが多いように思います。なお、ネット上では痴漢は軽微事件なので身元を明らかにすれば現行犯逮捕されないとの情報も散見されますが、罰則が強化されており、現在は痴漢は軽微事件に当たりません。都道府県によるものの、少なくとも首都圏一都三県の条例ではそうです。」(渡邉寛弁護士) ■では、痴漢に間違われた場合の正しい対処法は?「基本的には、ホーム等その場にとどまって、辛抱強くかつ明確に痴漢行為を否定することです。駅員室には行かずに、その場で誤解の払しょくに努め、周囲の目撃者を探します。駅員室に行った場合、相手の方と隔離されて事情を聴かれることもあり、誤解を解くのが難しくなりますし、そのまま警察署で身柄を拘束されることになりかねません。また、できればこの段階で弁護士に来てもらうことが望ましいです。なお、衣類繊維の付着を避けるためにも、相手の方には触れてはいけません。」(渡邉寛弁護士)逮捕された場合、捜査のために手のひらに付着している繊維の鑑定が行われることがあります。無実を証明する手がかりはひとつでも多く残しておいたほうがよいでしょう。 ■もしも逮捕されてしまったらそれでも逮捕されてしまった場合は、どうすればよいでしょう?「まずは早急に弁護士に接見を依頼することです。知り合いの弁護士を呼ぶか、警察で当番弁護士の接見を依頼することができます。身柄を拘束されての取調べはそれだけで相当な自白圧力になりますから、これに耐えるには、弁護人の支えが重要です。弁護人は、依頼者を精神的に支えつつ、早期身柄開放、不起訴、起訴された場合の無罪判決に向け、有利な証拠を探索・確保し、検察官との交渉もします。早い段階で細かい状況を整理、記録し、ご家族や勤務先への説明や協力のお願いなども行います。」(渡邉寛弁護士)取調室での自白の強要は社会問題にもなっています。知識もサポートもなく冤罪という思いがけない被害に立ち向かうのは大変なことです。疑いをかけられたらまずは弁護士に相談するのが得策といえます。 *取材協力弁護士: 渡邊寛 (和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。東京築地を拠点に、M&A等の企業法務のほか、個人一般民事事件、刑事事件も扱う。)*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。【画像】*Matej Kastelic / Shutterstock
2016年12月05日12月は、探偵事務所や興信所で「浮気調査」が増える傾向にあるそうです。「今夜は忘年会で遅くなる」といったウソが成立しやすく、浮気相手との時間が作りやすい時期というのが理由だそうです。浮気が原因で離婚する方が多くいらっしゃるのですが、よく揉めることとして、養育費や財産分与といった金銭に関連することのほかに、「子どもの親権」が挙げられます。子どもの親権について揉めている相談者からは、離婚の原因(浮気、暴力等)を作った相手には子どもの親権はいきませんよねとの質問を受けることがありますが、今回は具体的な例として、“妻が浮気をしていて、その浮気が原因で離婚することになった場合”、妻は子どもの親権者になることができるのでしょうか、解説していきたいと思います。Q.妻の浮気が原因で離婚した場合、妻は子どもの親権者にはなれる?*画像はイメージです:そもそも、親権とは、未成年の子を養育監護したり、その財産を管理したり、あるいは、その子を代理して法律行為をしたりすることを言うのですが、裁判所は、夫婦のどちらが親権者となるのが「子の利益」のためになるのかという観点から判断します。これまで裁判例に現れた事情の中でも、父母の事情としては、監護に対する意欲(子に対する愛情の度合い)、監護に対する現在及び将来の能力(親の年齢、心身の健康状態、時間的余裕、資産・収入などの経済力、実家の支援)、生活環境(住宅事情、居住地域、学校関係)などがあります。また、子の事情としては、子の年齢、性別、子の意思、子の心身の発育状況、兄弟姉妹の関係などがあります(冨永忠祐・「離婚事件処理マニュアル」より)。以上のとおり、裁判所としては、あくまでも「子の利益」にかなうのはどちらであるかを、父母の事情、子の事情を総合的に考慮して親権者を決めます。そのため、夫婦の問題と子どもの親権者としてどちらがふさわしいかという問題は全く別の問題です。したがって、婚姻中に妻が不貞行為がしたという理由だけで妻が親権者として相応しくないという判断はされません。 *著者:弁護士 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)【画像】イメージです*Pyzhenkova Tanya / Shutterstock
2016年12月04日