TOHOシネマズが邦画、洋画問わず“いま、気になる映画・映画人”をピックアップして観客へ届ける「TOHOシネマズ・ピックアップ・シネマ」が5月18日(木)、東京・TOHOシネマズ日比谷で行われた。同プロジェクトの開催は、約1年ぶりで第5弾。被害者家族と加害者の“赦し(ゆるし)”をテーマにした衝撃作『赦し』が上映され、アンシュル・チョウハン監督と、出演する松浦りょうが舞台挨拶に立った。娘を殺された元夫婦と、犯行時に未成年だった加害者女性・福田夏奈(松浦)の葛藤を通し、魂の救済というテーマに真正面から挑んだ裁判劇。娘を失った深い喪失感を共有しながら、対照的なベクトルで裁判の成り行きを見つめる元夫婦を、尚玄とMEGUMIが演じている。挨拶に立った松浦は、「TOHOシネマズさんで映画を見て育ったと言っても過言ではないほど、大好きな映画館で、こうして上映していただけることが、本当にうれしいです。幸せです」と喜びを語った。松浦りょう加害者として、殺人というあまりにも重い十字架を背負った夏奈の不安定な心模様を、迫真の演技で表現した松浦。役作りについて「アンシュル監督から、『君は今、幸せな環境にいるから、もっと孤独を知らないとこの役を演じてはいけない』と言われた」と振り返り、クランクインを前に、食事や1日のタイムスケジュールを実際の刑務所にいるのと同じものに近づけた他「できるだけ人に会わない生活で、役を作り上げた」と話していた。釜山国際映画祭、イタリアのウディネ・ファーイースト映画祭など、海外でも上映され「すごくいいお芝居したね、海外の作品でも(演技を)見てみたいと言ってくださる人もいて、個人的には海外の作品に出たいなと思うように。今は英語の勉強をしている」と本作をきっかけに海外にも視野を広げている。チョウハン監督は、インド出身で日本在住の気鋭監督。寓話的なファンタジーだった前作『コントラ』から一変し、本格的な裁判劇で、重厚かつリアリスティックな語り口を披露した。法廷シーンでは、リアリティを追求し「最高裁を何度か見学し、裁判の進行や、人物の立ち位置や座るタイミングなどを調査した。小道具の位置は、法廷劇を経験している会社さんにお願いし、レクチャーも受けた」と舞台裏を明かした。アンシュル・チョウハン監督振り向きざまに、松浦演じる夏奈が鋭い視線を送るシーンは、特に鮮烈でポスタービジュアルにも採用された。「こういう表情が撮りたいという具体的なイメージがあったので、肩の位置や顔の角度など、12回ほどリテイクし、理想に近づけた」(チョウハン監督)。難役を演じきった松浦は、「撮影期間がギュッと充実していたので、終わって、純粋にさみしかったですね」と達成感を示していた。プロデューサーの茂木美那氏が、舞台挨拶の進行を務めた。取材・文・撮影:内田涼
2023年05月19日長年にわたってさまざまな問題点が取り上げられている、少年法。加害者の更生を重んじる理念を掲げていることなどから、事件が起こるたびに賛否両論が巻き起こっています。そんななか、注目を集めている最新作は、未成年が引き起こした殺人事件を題材にした『赦し』。そこで、本作に出演しているこちらの方にお話をうかがってきました。松浦りょうさん【映画、ときどき私】 vol. 560『渇き。』で映画デビューを果たしたのち、大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」に出演するなど、唯一無二の存在感で今後が期待されている新進女優の松浦さん。劇中では、ある理由から17歳でクラスメートを殺害してしまう福田夏奈を演じています。今回は、現場での様子やこの役を演じたいと思った理由、そして理想としている方などについて語っていただきました。―出演にあたっては、本作を手掛けたアンシュル・チョウハン監督からオーディションを受けるように声を掛けられたそうですが、どんなお気持ちでしたか?松浦さんもともと監督の作品の大ファンだったので本当にうれしかったですし、「絶対にこの役をやりたい!」と思いました。特に、福田夏奈のバックボーンやどんなキャラクターなのかを聞いたときに、これは私が演じるべきだという気持ちになったのを覚えています。―実際、オーディションに参加されてみていかがでしたか?松浦さんセリフが飛んでしまうくらいものすごく緊張してしまって、本当にボロボロでした。でも、2回目に呼んでいただいたときに、私の過去の話をしてほしいと言われて、普段だったら強がって言わないことも、「この人になら話したい」と思って監督に赤裸々に話をしたんです。彼女のような強い感情ではないですが、私も少なからず、負の感情を持っていたので。後から聞いたら、「その話をしてくれたから君に決めたんだよ」と言っていただきました。最初は、ダメでもしょうがないという気持ちになるほど手ごたえがなかったですが、選んでいただけてありがたかったです。役作りが大変で、プレッシャーを感じる余裕がなかった―とはいえ、作品の出来を左右すると言っても過言ではないくらい重要な役どころで、しかも非常に難しいキャラクターでもあるので、そこに対するプレッシャーもあったのではないかなと。松浦さん実は、こんなにも福田夏奈にフィーチャーしていただけるとは考えてもいなかったんです。もしそれを最初に知っていたら、もっとプレッシャーになっていたかもしれません。でも、そもそも役作りが大変でそれを感じる余裕がなかったので、そういう意味ではほかのことに必死でよかったです。―ご自身の顔が大きく映し出されたビジュアルをご覧になったときは、どうでしたか?松浦さん最初は、「マジですか!?」となりました(笑)。それくらい本当に驚きましたが、すっごくうれしかったです。ただ、実はこのシーンは何度撮ってもオッケーが出なくて、何回もテイクを重ねました。みなさんに迷惑をかけてしまっていることに涙が止まらなくなり、正直に言うと最後のほうは覚えてもいないくらい。でも、泣き後の1発目でオッケーをもらったのが、このビジュアルのときです。―それだけ苦労されたこともあって、非常に素晴らしいシーンでした。そのほかにも、大変なシーンは多かったのではないかと思うのですが。松浦さんあとは、独房のなかで寝ながら泣くところやうずくまっているシーンでは本当に過呼吸になってしまいそうなくらいつらかったです。ただ、完成した映画を観たら、効果的な場面になっていたので、がんばったかいがあったなと思いました(笑)。―そこも監督の厳しい演出のもとで演じられていたのでしょうか。松浦さん監督からは「もっともっと感情を出して!りょういけるよ!」という感じでずっと言われていたので、スポーツのコーチみたいでしたね(笑)。監督の演出方法に運命を感じた―すごいですね。アンシュル・チョウハン監督は10年以上日本にいらっしゃる方ではありますが、インドのご出身なので、普段の日本の現場と違うところもあったのではないかなと。松浦さんそうですね。今回は、「法廷内のシーン以外のセリフは基本、覚えなくていい。台本は捨てろ」くらいの感じで言われましたが、そういう方はあまり日本にはいらっしゃらないと思うので最初はびっくりしました。でも、海外ではよくある方法だと聞いたことがあり、以前からそういう演出をしてほしいとずっと思っていたので、そう言われたとき「これは運命だ」と。なので、今回は監督にすべて身をゆだねようと思いましたた。―実際、ご自身が望む演出法を体験されてみてどうでしたか?松浦さんすごくハマりました。でも、そういう演出をしていただく場合、自分がしっかりと役作りをしていないと成り立たないので、そこは徹底していないとダメだなと。監督からも事前に「役作りだけはとにかくやり込むように」と言われていたので、自分なりにがんばりましたが、自分には合っていると感じました。今後もまたこういう演出のもとでぜひやりたいと思ったほどです。―役作りをするうえでは、どういったことに一番力を入れていたのでしょうか。松浦さんいくら福田夏奈の境遇を理解しようと思っても、もちろん、人を殺したり刑務所に入ったりするという経験はできないので、まずは殺人犯のインタビューを徹底的に読みました。そうすることで、どういう感情から事件を起こしてしまったのかを考えました。あとは、なるべく刑務所の生活に近い状況に身を置いてみたこともあります。刑務所の食べ物を再現してみたり、電子機器に触れないようにしたり、刑務所のタイムスケジュールで動いてみたりということですが、そうやって役を作り上げていきました。いろんなことを抱えている子は世の中にいっぱいいる―そこまでされていたとは驚きですが、この役を通してご自身の考え方や人生観などにも影響を与えた部分はありませんでしたか?松浦さん殺人をしてしまうほどではなくても、世の中にはいろいろなことを抱えている子はいっぱいいるんだろうなと思いました。私自身も社会性を少しずつ学ぶなかで人と同調できるようになりましたが、昔はそれが一切できず、人付き合いがとても苦手だったのでよくわかります。そういったこともあって、これは目を背けてはいけない問題だと改めて感じているところです。―確かにそうですね。そして、この作品では観客も「人は人を赦せるのか」という問いと向き合うことになりますが、松浦さんもご自分なりの答えは出ましたか?松浦さんまだそこにはたどり着けていないように思います。ただ、私は反抗期が激しかったほうで、人を傷つけてしまったこともあったので、まず周りの人たちに対して反省の気持ちが一番強いです。とはいえ、そういう経験があったからこそ、この役を演じられたと思いますし、誰にでも失敗はあると思うので、できるだけ人を赦してあげたいという気持ちにはなっているのかなと。でも、これは本当に難しい問題だと感じています。役作りをしすぎて、日常に支障が出てしまったことも―また、被害者の父親役である主演の尚玄さんと対峙するシーンも思わず息を飲むような緊迫感が素晴らしかったです。現場ではどのようなやりとりをされていたのかを教えてください。松浦さん今回の現場で、尚玄さんは私とまったく口を利いてくれませんでした。なので、最初は「ひどい」と内心思っていたんです(笑)。でも、実はそれもすべて役のためで、2人のシーンが終わった瞬間に「ごめんね!」といってハグをしてくれました。尚玄さんがそうしてくださったからこそ、私も心から反省して申し訳ない思いになりましたし、そのおかげでしっかりと向き合うこともできたかなと。演じやすくしていただいて、感謝の気持ちでいっぱいです。いまではとても優しく、仲良くしていただいています(笑)。―本作の現場では、精神的にきつかった部分も多かったと思いますが、そのときはどのようにして切り替えていましたか?松浦さん今回の撮影期間中は、まったくオンオフがない状態にしていました。というのも、一度オフにしてしまったら、オンにできなくなるのが怖かったからです。ただ、役作りとして刑務所の様子がわかる動画や記事ばかりを見て、同じような生活をしていたので、夢にまで出てきたり、眠れなくなったりしてしまったことも…。そんなふうに、いろんなところに支障が出るようになっていたので、最後のほうは夜だけでも自分の生活を取り戻そうと思い、松浦りょうとして見たいものを見る、食べたいものを食べる、という感じにしました。―そんななか、撮影が終わって最初にしたうれしかったことは?松浦さん撮影の間は好きなお酒を飲まないようにしていました。不健康な感じに痩せる必要もありましたし、刑務所ではもちろんお酒は飲めないので。撮影を終えて、ビールを飲めたときは幸せを感じたというか、いままでにないくらい本当に最高でしたね(笑)。苦しくても、好きなことができて幸せを感じている―劇中では寡黙でミステリアスな印象が強かっただけに、実際にお会いして真逆の印象を受けて驚いていますが、普段の松浦さんはどんな方ですか?松浦さんめちゃくちゃ笑い上戸ですし、すごくおしゃべりです!あとは、性格的にも幼いほうだと思います。なので、いつもの私を知っている友達は、本作のビジュアルを見たときに私じゃないみたいと言っていたほどです。―今後、ご自身が目指してる理想像などがあれば、教えてください。松浦さん先日まで放送されていた『ブラッシュアップライフ』というドラマが大好きなのですが、安藤サクラさんは本当に素敵な俳優さんだなと思います。あとは、共演されている木南晴夏さんのお芝居も大好きです。そして、染谷将太さんのお芝居の振り幅には本当に驚かされました。あのドラマに出演している俳優のみなさん、本当に素晴らしいお芝居をされるので毎週末の楽しみでした。私もいつかああいうドラマに出てみたいなと思います。―海外にもご興味あるのではないかなと思うのですが、いかがですか?松浦さんもちろんそれもあるので、いま英語を勉強しています。ただ、まだ全然上達してはいないのですが(笑)。私はシム・ウンギョンさんのお芝居がとても大好きですが、日本語でも本当に素晴らしいお芝居をされるので、とても憧れます。大変おこがましいですが、私もいつかあんなふうになれたらいいなと思っています。いろんな海外の作品にも出てみたいです。―期待しています!それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。松浦さん苦しい役作りと向き合うこともありますが、私はいま好きなことをさせていただいているので、トータルですごく幸せを感じています。なので、もしみなさんも本当にやりたいことがあるのであれば、後悔をする前にぜひやっていただきたいです。インタビューを終えてみて…。柔らかい癒し系のオーラと優しい笑顔が印象的な松浦さん。作品を観たときのインパクトが強すぎて、実は取材前に少し身構えていたのですが、別人のような明るさとかわいらしさにすっかり魅了されました。これからも松浦さんにしか演じられないような役どころで、幅広く活躍される姿が見れるのを楽しみにしています。全身全霊の演技に、魂まで揺さぶられる!「正義とは何か」「人はどんな人も赦すことができるのか」といったさまざまな問いを突き付けられる本作。正解がないからこそ、問題について考え続けること、そして人の痛みや葛藤を知ることの意味を痛感するはず。多くの議論が渦巻くいまの時代に、観るべき1本です。写真・幸喜ひかり(松浦りょう)取材、文・志村昌美ストーリー7年前に愛する娘をクラスメートに殺害されて以来、酒に依存して現実逃避を重ねていた樋口克。ある日、懲役20年の刑に服している加害者の福田夏奈に再審の機会が与えられたという通知が裁判所から届く。ひとり娘の命を奪った夏奈を憎み続けている克は、元妻の澄子とともに法廷へと向かう。しかし夏奈の釈放を阻止するために証言台に立つ克と、つらい過去に見切りをつけたい澄子の感情は徐々にすれ違っていくのだった。そして、法廷ではついに彼女が殺人に至った動機が明かされていくことに……。胸に突き刺さる予告編はこちら!作品情報『赦し』3月18日(土)よりユーロスペース、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開配給:彩プロ(C)2022 December Production Committee. All rights reserved写真・幸喜ひかり(松浦りょう)
2023年03月17日魂の救済に真っ向から挑んだインド人監督アンシュル・チョウハンの最新作『赦し』。本作で、かつてひとり娘を失った妻(MUGUMI)の現在の夫・岡崎直樹を演じた「オリエンタルラジオ」藤森慎吾のインタビュー動画が到着、役者として新境地を開いた本作の役どころや撮影裏について語っている。娘を殺された元夫婦と、犯行時に未成年だった加害者の女性。癒やしようのない苦しみに囚われた3人の葛藤を見すえていく本作。ひとり娘を失った深い喪失感から必死に立ち直ろうとする澄子(MUGUMI)を優しく見守りながらも、徐々に亀裂が入っていく夫婦の行き場のない葛藤や怒りを熱演した藤森さん。MEGUMIさんとは「台本を一緒に読んで、しっかりと本に書いてある部分以外を、二人でこういった背景があるのかなとか、そういったことをディスカッションしました」と夫婦の関係性の構築にしっかりと時間を割いたという。役作りについては「この役がここに至るまでにどういった人生を歩んできたのかなっていうことを、脚本を飛び越えて想像しながら作っていった」と明かす。「基本的には何も演じるな」インド人監督のアドバイスに驚き優れたコメディアンだからシリアスな演技もできると、アンシュル監督からの信頼を得ている藤森さんだが、「言葉はそこまで重要じゃないなって思うくらいしっかりと的確なアドバイスをいただけました」と撮影現場をふり返る。その演出についても「ここでこういう芝居をしてほしいとか、こういう身振りをしてほしいとかそういうことではなくて、いかに澄子との日常生活の中に僕が旦那として溶け込むかということを重点的に指導いただいたかなと思っています。基本的には何も演じるな、と言われました。セリフも発しようとするとカットが入って、言葉を届けようとしなくていいと言われた記憶があります」とアンシュル監督ならではのアドバイスを語る。そして、映画『赦し』が観客に問いかけるテーマについては「正直重いです」としつつ、それでも「殺人事件が絡んでるとは言え、誰の身にも起こりうるような、そういった内容が含まれていると思います。タイトルにもある“赦し”、この意味を皆さんそれぞれ自分の中で解釈をしていただいて、味わって噛み締めて頂けたら」と本作が観客に問いかける意義深いテーマを語ってくれた。被害者の両親、加害者の少女、癒やしようのない苦しみに囚われた3人の葛藤を通して、我々観客に罪と罰を問う重厚な人間ドラマを描く本作。1人の役者・藤森慎吾として彼の魅力を存分に堪能できる作品ともなっている。『赦し』は3月18日(土)よりユーロスペース、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:赦し 2023年3月18日よりユーロスペースほか全国にて公開©2022 December Production Committee. All rights reserved
2023年03月15日