その活躍はアニメだけに留まらず、TVドラマやバラエティ、舞台など幅広いジャンルで名を馳せる、声優の宮野真守さん。エンタメが大好きと語る宮野さんに、エンターテイナーたるゆえんを聞きました。声優としてはもちろん俳優、アーティストとしても幅広い層から支持されている宮野真守さん。ジャンルを超えた万能エンターテイナーぶりは周知の通りだが、多岐にわたる活躍の陰で悔しい思いをしたこともあったそう。「子どもの頃からエンターテインメントが大好きだったので、やれることはなんでもやりたかったし、できるようになりたいと思ってました。でも7歳からこの世界で仕事を始めて、10代は全然うまくいかなかった。あの時代を下積みと言っていいのかわからないけれど、悔しい思いばかりしていましたね。その頃の劣等感が拭えなくて、とにかく何者かになりたくて、10代の頃はがむしゃらに突っ走ってました」そんな宮野さんに転機が訪れたのは18歳の時。「たまたま声優のお仕事をさせていただいて、そこから世界が広がったんです。自分に声の演技ができるだなんて考えたこともなかったので、拾っていただいたことは本当に幸運でしたし、感謝しかないです。当時は右も左もわからなかったから、現場で失敗しながら一生懸命仕事を覚えました。今では、これだけ長いこと声優として仕事を続けてこられたことが僕の自信の基盤になっています。20年以上やってきて、スキルも自分の引き出しも増えましたし、いろんな恩恵を与えてくれました」宮野さんには新人の頃、大先輩にかけてもらった忘れられない言葉があるという。「現場で僕が硬くなっていた時、林原めぐみさんに『もっとやっちゃいなよ!』と声をかけていただいたことがあるんです。『ポケットモンスター』のアフレコ現場で、周りは大先輩ばかり。自分でも気づかないうちに縮こまっていたんでしょうね。その、なにげない言葉に勇気をもらって、僕は殻を破ることができたんです。先輩の一言が後輩にとってどれだけ刺激になるか身をもって知っているから、僕も後輩に声をかけてあげたいです。そういうふうに思えるようになるくらい、僕も大人になったということですね(笑)。でも、だからこそ言葉には気をつけています。あくまでその子の人生であり、選択ですから」声優だけでなく、すべての仕事において日々のアップデートを大事にしているという宮野さん。その時、自分の前に立ちはだかるのはいつも過去の自分なのだという。「例えば、19歳の時の自分の演技を今聴き直してみると、その頃の演技のピュアさに自分でもハッとすることがあるんですよ。でも、今の自分にはこれまでの年月で培ってきた経験値がある。過去にすがるんじゃなくて戦い方をアップデートすること、お芝居の仕事ってこれの繰り返しなんですよね。常に過去の自分と戦っているんです」25枚目のシングル『The Battle』にはそんな自分自身との戦いという想いを込めた。「TVアニメ『現代誤訳』の主題歌で、偉人の名言を間違った解釈で覚えていたとしても、それが自分にとって大事な指針になっているのであればそれでいいじゃない、間違いを正すことより自分が自分らしく生きることのほうが大事だよ、というメッセージを込めました。過去の自分との向き合い方、自分との戦い方をテーマにした曲ですね」アーティストデビュー15周年を締めくくり、年末からはライブツアーの開催も控えている。「今回、“大人の男”というテーマで撮影していただきましたが、40代になった今だからこそ見せられるもの、というのをきちんと見つけたいなと思っていて。そんな想いを元にライブの構想を練っているので、新たな宮野真守を見せられるツアーになるんじゃないかなと思っています。僕がライブを構成する上で大事にしているのは、とにかく飽きさせないこと。僕は自分で曲を作ってきた人ではないから想いを曲として届けるということが最初はまだできなくて、自分でライブを演出することがクリエイティブな部分での軸になってくれました。それに僕自身がプレイヤーだから、観ている人に楽しんでもらいたいという想いがあるんですよね。ライブももうずいぶん長くやっているからアウトプットばかりだと出がらしになっちゃうので、過去の自分に勝つためには上質なインプットが大事になってきます。僕の場合は直近の自分の経験がいいインプットになってくれています。例えば舞台での経験が作詞する上で役に立ったりするんですよ。自分が演じた役の想いを歌詞にすることもありますし。すべての仕事がつながっていて、インプットとアウトプットが循環しているような感じです。まるで回し車の中をぐるぐる走ってるハムスターみたい(笑)」何もわからなかった20代から、いろんなものを得た30代を経て、これからの40代ではさらにその先を見据えていきたいと語る。「大人の男として憧れるのは、ずっと体型を維持している人ですね。これがどれだけ大変なことかって、意外とみなさん知らなくて。そのために自分を厳しく律して、時間も使っているわけですよ。僕もやる側の人間なのでわかるんですけど、演じる役柄によって体型まで変えてしまう俳優さんは本当にすごいと思います。増量した後の減量ってどうしてるんだろうって、想像しただけで倒れそう…。僕もそういった方々を尊敬していると言っている手前、もしオファーをいただけたらしっかりがんばりますけど。でも大変ですよね。仲良くさせていただいているTHE ALFEEの高見沢俊彦さんも体型を維持していらっしゃいますもんね。たしか(高見沢さんが)筋トレを始めたのって60代になってからなんですよ。以前、『筋肉と愛は育てるものだよ』って言葉をかけてもらいました(笑)。郷ひろみさんともTV番組で一緒に歌わせていただいたことがあるんですけど、本当にかっこいい。周りにこれだけ偉大な先輩アーティストの方がたくさんいらっしゃるので、僕ももっとがんばらないと。これから先はきっと、できることも変わっていくと思うので、そういう変化にもきちんと向き合っていけたらと思います」みやの・まもる声優、俳優、歌手。TVアニメ『忘却バッテリー』(要圭)、ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』(ディオ・ブランドー)など出演作多数。最新シングル『The Battle』が7月24日に発売。※『anan』2024年7月24日号より。写真・内田紘倫(The VOICE)スタイリスト・横田勝広(YKP)ヘア&メイク・Chica(C+)取材、文・尹 秀姫(by anan編集部)
2024年07月24日やわらかな雰囲気の中に宿る、確かな意志。年齢やジェンダーという枠にとらわれず、“千葉雄大”としてその存在感を放つ千葉さんが思う“大人”とは。そしてそのポジティブなオーラの秘訣とは――。大学進学を機に10代で上京した千葉雄大さん。大人になったと感じたのは、二十歳で仕事を始め、数年経ってからのことだそう。「やっとごはん屋さんでオーダーができるようになったんです。それまでは店員さんに『すみません』も言えず、全部弟にやらせていました(笑)。返信が遅いところは、大人になり切れてないですね。友達から空いてる日を聞かれていたことを忘れちゃって、気づいたら当日のことも(笑)」そんなかわいらしいエピソードの持ち主にはどんな大人が魅力的に映るのか伺うと、少し考えてから“無邪気な人”と話してくれた。「年齢を重ねていくと、視野が狭まるんでしょうね。後ろに気づけなくなっちゃう。そういう変化さえも、面白がれる無邪気な大人は素敵ですよね」そうした無邪気さは、自身も持ち合わせているのでは。「どうでしょう。自分ができることを周りの人にも求めてしまったり、嫌な自分が出ちゃう瞬間もあって、大人とはいえない自分と、折り合いをつけながら生きています」そんな千葉さんが大切にしているのが“ギャルマインド”。上手く使いこなせれば、立派な処世術に。「誰にでもイライラすることってありますけど、苛立ちを表に出さずにやりすごすのが大人で、出せちゃうのがギャル。『意味わかんなすぎぃ~!』とかギャルっぽく言うと角が立たない気がします。“まあいっか。次いこう!”っていう気持ちにもなれちゃう。僕にとってギャルマインドは、ポジティブに生きるための術。“うちのツレを泣かすヤツは許さない!”みたいな筋の通った、硬派なギャルのマインドが好きです(笑)」今日の撮影ではスカートルックをチャーミングに着こなしてくれたが、監督した短編が出品された映画祭のセレモニーにもスカート風のパンツで登壇して話題になったばかり。その理由が何とも軽やか。「トム ブラウンが着たいなって。華やかな場で全身を見ていただける機会だったので、せっかくだから何か面白いことをしようという考えもありましたけど、お洋服を着る理由なんて難しく考えなくていいのでは。好きな服を着たらテンションが上がる!そのくらいシンプルでいいんじゃないかな。最近の私服は完全にY2Kです。派手なTシャツにボロボロのデニムみたいな(笑)。そういう格好をしてると『あれ、おいくつでしたっけ?』とか言ってくる人がたまにいるんですよ。『何歳になっても好きな服を着てよくないですか?』とは思っても言わないです。笑顔で『35歳です』と返して終わり。“年齢は記号にすぎない”というフレーズを、周りへの気配りなしに好き勝手するための免罪符にさえしなければ、いくつになっても好きなファッションを楽しんでいい!」年齢を超えたエイジレスな魅力の秘密を伺うと…。「ここ3か月で朝晩パックをするようになりました。ドンキで買ったお徳用のものでもメイクさんから肌の調子がいいってめっちゃ言われるので、やっぱりやると違うんですね」9月から始まる出演舞台『ワタシタチはモノガタリ』ではSNSがキーに。肘森富子は、初恋相手との15年にも及ぶ文通内容を脚色してSNSに投稿。それがバズって映画化に…というストーリーだ。「思い出はたいがい美化されるものですよね。酷い別れ方だったのに、大恋愛したような口ぶりの人もいますし(笑)。でも、ネガティブなまま残り続けるよりよっぽどいいと思います。ただ、美化することに慣れすぎてしまうと、自分が何を考えていたのかわからなくなってしまいそうですよね。これはSNSではないんですけど、僕はぶば~っと書くことでネガティブな気持ちを昇華させることがあるんです。その文章を後から読むと“なんでこんなに怒ってたんだろう”って不思議なんですけど、そのとげとげしさも、推敲して丸みを帯びた文章もいいなって思うんです。要はバランスですよね。僕は、ちゃんと自分を大切にできる大人になりたいと思っているんですけど“大切にする”のもバランス。心がすり減ってしまった時に立ち止まって自分の時間を過ごすことも、お尻を叩いて頑張らせるのもどちらも“大切にする”こと。上手くバランスをとれる大人になれたら」ちば・ゆうだい1989年3月9日生まれ、宮城県出身。2010年、俳優デビュー。今年、アクターズ・ショート・フィルム4『ハルモニア』で監督・脚本を担当。作・横山拓也の舞台『ワタシタチはモノガタリ』はPARCO劇場にて9月8日開幕。ジャケット¥389,400ポロシャツ¥251,900(以上THOM BROWNE/THOM BROWNE AOYAMA TEL:03・5774・4668)※『anan』2024年7月24日号より。写真・恒川脩平(SIGNO)スタイリスト・寒河江 健(Emina)ヘア&メイク・堤 紗也香取材、文・小泉咲子(by anan編集部)
2024年07月23日これまで幅広い役をこなし着実にキャリアを積みながら、大河ドラマ『光る君へ』で一気に注目を浴びた玉置玲央さん。第1話から、主人公の目の前でその母親が殺されるという衝撃的な展開で始まった大河ドラマ『光る君へ』。この凄惨なシーンで、躊躇なく刀を突き刺す冷徹な藤原道兼を演じていたのが玉置玲央さん。「映像作品ではわりと悪い役をいただきますが、面白がってやっているところはあります。わかりやすい悪であればそちらに徹しますけれど、できれば僕は、主人公側から見たら悪だけれど、それぞれに事情と正義があるんだということを大事にしたい。事情があって悪にならざるを得なかったとか、こういう思考だからこんな行動をとったとか、台本上でも懇切丁寧に描いてくださってることもあるし。…シェイクスピアの登場人物は短絡的に悪事に走ったりするんですけど。それでも自分なりの正義をちゃんと持ってやりたいとは思っています」道兼も、回を重ねる中で、父親や家のため、自ら汚れ役を引き受けてきた悲しい人物であることが徐々に明かされていく役だった。「大河ドラマという性質上、劇中で道兼として年齢を重ねていって、取り巻く環境や人間関係が変わっていく様子が描かれるじゃないですか。それを道兼という役で演じられ、いろんな側面を見せられたのはとても面白かったです」演じるうえで、明確な答えを提示しないよう意識したと話す。「明確な怒りとか悲しみを提示するよりも、その場では答えを渡さずに、見ている方にこの人はどんな気持ちでいるんだろうと解釈を委ねる部分を大事にしたつもりです。僕は、怒りとも哀れみとも、悲しみとも驚いて愕然としているとも取れるほうが面白いと思っている節があって、それが多くの人に伝わったんだとしたら嬉しいです」高校入学の際に、たまたま演劇科を選んだことがお芝居を始めたきっかけ。劇団柿喰う客に所属し、ここまで舞台を中心に活動してきた。「24歳くらいまでは、自分が一番芝居がうまいし面白いと思ってました(苦笑)。でも、いろんな先輩がたを見てきて、ひとりでできることには限界があることに気づくわけです。とくに舞台は需要と供給がひとつの場所で循環していて、お客様が入って完成する総合芸術。作・演出家とスタッフ、共演者の方と豊かなやりとりをすることで、作品に厚みが生まれるもので、どんなにすごいワンマンプレイヤーがいてもダメ。でも、だから舞台が好きなんだろうなと思っています」自分ひとりで完結する世界は、あまり得意ではないそう。自ら演劇ユニットを結成し、演出から宣伝美術まで手がけるなど、自分の世界も持っている多才な人だけに意外。「自分だけでやれることってやっぱり限界があるし、ちゃんと甘えられる人や頼れる誰かと一緒に肩を組んでやっていくほうが効率もいいし、楽しいと思っちゃいます。振り返って考えると、今この仕事を続けているのは、自分のことよりも、身近で自分の面倒を見てくれている人たちが豊かになっていくとか喜んでくれるのを見るのが嬉しかったからで。さらに、僕に声をかけてくださったスタッフの方たちが喜んでくれ、その先にお客様とか視聴者の方がたがいてくれるんだと実感できたときに、お芝居を生業としてやっていこうと思えた。自分のためだけに自分の世界を突き詰めていくのはしんどいというか、消耗してしまいそうで…。なるべく自分に期待しすぎず、背負いすぎないのが向いているし、居心地よくいられる秘訣なのかなって」そんな玉置さんに、大人というテーマをぶつけると、「なんなら自分は、そこから逃げてきている気がするんですよね」と苦笑いされた。「大人になるに従って背負う責任も大きくなっていくから、周りのいろんなことに配慮して活動していくことを求められます。それは大事なことだけれど、こと表現に携わるとき、そういうものに縛られないほうが、人が惹きつけられるような逸脱した面白いものが生まれたりする。僕は感情に任せて表現することが多いし、本質的にそういう表現が好きなんですよね。ありがたいことに、ここまでずっとやりたくないと思ったお仕事ってなくて。高校から芝居を始めて、給料がもらえるようになったのは26~27歳くらいですが、生活のために仕方なく仕事した記憶って全然ないんです。だからこのまま子供のまんまでも大丈夫じゃんって思っちゃっています(笑)」とくに自分がまだ子供だなと思うのはどんなとき?「普段、人と食事に行くときはちょっと遠慮するんですが、本当はものすごく食べるんです。たとえばひとりで中華料理屋に行って、1回の食事で定食を2つ食べて、さらにアラカルトで1品とか頼んだり。好きなものを好きなタイミングに、パンパンになるまで食べちゃうんです」その一方で、大人になったと実感するのは親御さんとの関係性とか。「この間、家族でショッピングモールに行ったんです。買い物している間はそれぞれ別行動で、あとで合流して一緒にコーヒーを飲んだとき、オーダーが複雑だからって僕がメニューを決めて注文して、僕が両親のぶんも払ったんですが、なんかすごく不思議な感覚になりました。親と子という関係性は変わらないけれど、自分がいい大人になってきて、体力だったりいろんな面で、逆転してきているわけです。そうなったとき、自分が両親のようにちゃんと社会的に責任を果たせる人になっているのかなとは思いますよね」この先目指したいのは、段田安則さんのような俳優。「特別じゃなく俳優として存在している、というんでしょうか。余裕っていうのとは少し違って、すごくニュートラルにお芝居されている。人間的な部分とか感情とか、とても豊かなんだけれど、そこにはちゃんと余地があっていろんな形にフィットしていける。その柔軟さがカッコいいし素敵だなと思っています」たまおき・れお1985年3月22日生まれ、東京都出身。最近の出演作に、ドラマ『大奥Season2』『光る君へ』、映画『夢の中』などがある。8月11日に開幕する舞台『朝日のような夕日をつれて2024 』への出演を控える。コート¥121,000(blankblank.info193@gmail.com)シャツ¥41,800ベルト¥22,000(共にガラアーベント/サーディヴィジョンピーアール TEL:03・6427・9087)イヤーカフ、上¥25,300下¥29,700リング、右手・人差し指¥117,700小指¥37,400左手・中指¥31,350小指¥30,800ブレスレット¥84,700(以上プリュイ/プリュイ トウキョウ TEL:03・6450・5777)その他はスタイリスト私物※『anan』2024年7月24日号より。写真・樽木優美子(TRON)スタイリスト・藤長祥平ヘア&メイク・KATO(TRON)取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2024年07月22日幼い頃に自分と母を捨てた父・陽二が、久々に会うと認知症で別人のようになっていた。父の再婚相手の直美は行方不明で、息子の卓(たかし)は、残された手紙やメモからふたりの間に何があったのかを辿っていく。ヒューマンドラマにサスペンス的な要素も加えた映画『大いなる不在』。昨年から世界の映画祭で上映され話題を呼んでいるが、本作で父子を演じたのが森山未來さんと藤竜也さん。こぼれ落ちた記憶を辿るサスペンス・ヒューマンドラマ。写真右・藤竜也さん、左・森山未來さん藤竜也(以下、藤):撮影に入る前に森山さんが舞踏をされていらっしゃるのを拝見したんですけれど、大谷翔平さんみたいに何刀流もされているなんて素晴らしいですよね。隔世の感があります。そんな素晴らしい役者さんとお仕事ができて楽しいですね。森山未來(以下、森山):藤さんが今回の映画の現場のことを“居合”という言葉で表現されていたんです。映画は舞台のように一緒に時間を共有するということが撮影の日までほぼないですし、今回は監督にもその場で生まれるものを撮りたいという意図があったようで。藤さんと現場で言葉を多く交わすことはなかったですが、ある種、映画の現場だからこそのヒリヒリ感みたいなものを浴びさせてもらいました。藤:人間の感情ってとても複雑で、端的な言葉で表現できるものではないんですよね。私たちの職業って不思議で、ディスカッションしたりすればするほど言葉に縛られてしまうんです。でも、たとえば森山さんがちょっと視線を下げてぐっと上げる一瞬でも、小説で10ページや20ページ費やすようなものが表現できちゃったりする。それぞれが培ってきた経験を持ち寄って、役として対峙すれば、言葉はいらないんです。そういう意味で森山さんとは楽しく仕事ができましたね。――印象的なシーンについて伺うと、「陽二さんがそこにいるだけで、私はいませんでしたから」と藤さん。藤:陽二さんがたっくん(卓)と話している間、ふたりの成り行きを、上の方から見守っている感覚でした。森山:まさに現場はそんな空気感でした。しかも僕が対峙した陽二さんは記憶がかなり断片的で、次に何を言い出すかもわからないし、それが嘘か本当かもわからなくて。とにかく翻弄されていたというか、この人の話のどこまでが本当なのかずっと見定めようとしていた気がします。――映画は、掘り返されていく過去が断片的に挟み込まれて進んでゆく。森山:最初に脚本を読んだときには、卓という人がこの状況をどう認識して反応しているのかが掴みづらくて、監督の近浦(啓)さんとかなり話させてもらいました。脚本自体、近浦さん自身の経験に紐づいている部分があったので、実際に認知症のお父さんに会ったときのことや、父子の関係値、そういったことを話している監督自身の様子など、それらから少しずつヒントをもらって、役を積み上げていった感じです。藤:私自身も日々老いと向き合っているわけで、シンパシーを感じましたし、人生の末期に迷宮に入り込んでしまった人間というのをわりとすんなり掴むことができた気がします。妄想を話す場面も、陽二の中では実際に起きたことなわけですから、話しているうちに本当にボロボロ涙が出てきちゃったりして。森山:物理学者でロジックの世界の中で生きてきた陽二さんが、言葉や記憶を剥ぎ取られていく中で、コアにある他者への求めが剥き出しになっていく。そういう人間の根源的な部分を感じさせる作品ですよね。藤:怖いし感動もあるし、この映画を観終わった後の不思議な感覚を、ぜひ味わってほしいですね。『大いなる不在』森山未來と藤竜也が初共演を果たした注目作。トロント国際映画祭やサンフランシスコ国際映画祭など国外の映画祭でも高い評価を得ている。監督/近浦啓出演/森山未來、真木よう子、原日出子、藤竜也ほか全国公開中。©2023 クレイテプスふじ・たつや1941年生まれ、神奈川県出身。近年の主演作に、映画『それいけ!ゲートボールさくら組』『高野豆腐店の春』などがある。また、本作で、サン・セバスティアン国際映画祭コンペディション部門最優秀俳優賞を受賞。もりやま・みらい1984年生まれ、兵庫県出身。俳優として活動する傍ら、ダンサーとして国内外で公演をおこなうほか、神戸に設立したアーティスト・イン・レジデンス神戸の運営にも携わるなど多岐に活動。近作に映画『ほかげ』『i ai』など。ジャケット¥66,000ロングシャツ¥55,000(共にBED j.w. FORD/BIRTHLY CO.,LTD. TEL:03・6455・5095)※『anan』2024年7月24日号より。写真・兼下昌典スタイリスト・杉山まゆみヘア&メイク・須賀元子インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2024年07月19日ダジャレ交じりのスピード感のあるセリフ。単なる言葉遊びかと思いきや、いつしか言葉が、物語が、二重にも三重にも意味を持ち始め、観客の想像力を掻き立て、深い思考に誘い込む。今なお日本の演劇界の先頭を走り続ける野田秀樹さんの新作舞台『正三角関係』は、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を入り口にした、とある場所、とある時代の花火師一家の物語。長澤まさみ「宝箱のような脚本で、演じるほど自分の課題が見えてくるのが楽しい」「野田さんワールド全開で、台本を読んでも読んでも追いつかず、何度読んでも気づきをもらえる、たくさんの人物や要素が詰め込まれた宝箱のような台本です。回想や別の物語が突然現れてきたり、計り知れない奥行きがあるんです。キャラクターも、稽古を重ねる中で思いもよらない設定や奥行きが見えてきて、なるほどと思うこともあって。演じれば演じるほど自分の課題が見えてくる感じも楽しいです」そう話す長澤まさみさんの言葉の端々からは、稽古を心から楽しんでいる様子が伝わってくる。「野田さんの舞台は、ただ役を演じるだけじゃないんですよね。仕掛けがたくさんあって、自分が舞台装置のひとつになった気持ちになるから、始まってしまったらもう前に進むしかない感じがして、それがすごく新鮮で。俳優でありながらスタッフでもあるような、みんなでその場で作り上げていく感覚が面白いです」カラマーゾフよろしく本作にも三兄弟が登場。長男に松本潤さん、次男に永山瑛太さん、そして長澤まさみさんはなんとふたりの弟である三男を演じるという。「松本さんはとても真面目な人。ずっと高いモチベーションのまま芸能界にいらっしゃる姿は、とても学ぶことが多いです。わからないことをそのままにせず、ちゃんと野田さんに疑問を投げかける姿を見ながら、本当に信頼できる人だなと思っています。永山さんは、お芝居をする上で、コミュニケーションをとってくださる方。日々稽古場で芝居が変わっていく中、毎日話し合いながら進めさせてもらっています」今回グルーシェニカという女性も演じるが「二役を演じる気持ちで取り組まないようにしている」そう。「素直に、その場の物語に順応していくことが一番大事だと思っています。いつも演じるときに大事にしているのは、物語のためにいる人になるということ。ご覧になる方には、私が一人二役であることよりも、作品自体を楽しんでもらいたいという気持ちが強いので」近年、舞台に出演する機会が増えているが、なんと三谷幸喜さんに勧められたことがきっかけだとか。「以前に共演した舞台をベースにされている俳優さんにも、『身長が高くて舞台映えする』と褒めてもらったこともあるんです。それについては自分でも自覚があったので、自分の長所を活かせたらと思っていたこともあり、でも何よりも、好きな人と一緒に仕事がしたいんですよね。だから今回、野田さんから話をいただいたとき、『やったー!』でしたから(笑)」NODA・MAP第27回公演『正三角関係』7月11日(木)~8月25日(日)池袋・東京芸術劇場 プレイハウス作・演出/野田秀樹出演/松本潤、長澤まさみ、永山瑛太、村岡希美、池谷のぶえ、小松和重、野田秀樹、竹中直人ほかNODA・MAP TEL:03・6802・6681(平日11:00~17:00)全公演当日券あり。詳細は公式HPにて。北九州・大阪・ロンドン公演あり。ながさわ・まさみ1987年6月3日生まれ、静岡県出身。最近の主な出演作に、ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』、映画『四月になれば彼女は』など。9月13日には、三谷幸喜監督の主演映画『スオミの話をしよう』が公開に。ニットドレス¥159,500(GIA STUDIOS/THE WALL SHOWROOM TEL:050・3802・5577)ネックレス¥57,600ブレスレット¥375,200(共にTOM WOOD/TOM WOOD STORE AOYAMA TEL:03・6447・5528)シューズ¥181,500(J.M. WESTON/J.M. WESTON AOYAMA TEL:03・6805・1691)※『anan』2024年7月17日号より。写真・野呂知功(TRIVAL)スタイリスト・仙波レナヘア・ASASHI(ota office)メイク・笹本恭平(ilumini.)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2024年07月16日動画配信サービスFODは、2024年7月からMBSドラマフィル枠で放送するドラマ『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』を放送直後の7月25日(木)より独占見放題配信。以降、毎週木曜日25時59分から最新話を配信します。■イケおじ料理研究家×元球児の雑誌編集者のヒューマングルメラブストーリー『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』は、大人の色気を纏った50代のイケオジ有名料理研究家・三ツ矢歩(演:山崎まさよしさん)と、元球児で、ピュアでまっすぐな雑誌編集者・石田友也(演:酒井大成さん)が“美味しいごはん”と“丁寧な生活”によって心を通わせていくヒューマングルメラブストーリーです。女性誌の環境に馴染めず悩んでいた石田友也は、先輩のピンチヒッターとして、急遽人気料理研究家の三ツ矢歩の担当編集になることになります。初めての訪問に卒倒するほど緊張していた石田でしたが、三ツ矢が振る舞う料理にすっかり胃袋を掴まれ……そして、自分とは違って丁寧な毎日をおくる様子に感銘を受けます。三ツ矢との出会いで、初めて仕事にやりがいを見いだせるようになった石田は、三ツ矢の自分を見つめる優しい視線や朗らかな性格、時折見せるかわいらしさに、単なる“仕事相手”ではなく、どんどん惹かれていき……。石田の三ツ矢を想う繊細な心理描写や、毎話登場する美味しい料理に、心と胃袋を掴まれること間違いなし!原作の温かい世界観にドラマならではのスパイスが加わった、暑い夏の深夜に癒やされるメロウ(優しく/心地よい)でグルメな作品が誕生します。テレビや雑誌に引っ張りだこの有名料理研究家・三ツ矢歩(みつやあゆむ)役には、ドラマ『奇跡の人』以来、26年ぶりの地上波“連続”ドラマ主演となる、シンガーソングライター・山崎まさよしさんが、三ツ矢のコラム連載の担当になる雑誌編集者・石田友也(いしだともや)役は、2023年放送のテレビ朝日系『王様戦隊キングオージャー』で主演を務めた若手俳優・酒井大成さんに決定。監督は、ドラマ『きのう何食べた?』の野尻克己氏、脚本は、Netflix『彼女』、映画『交換ウソ日記』の吉川菜美氏が手掛けます。孤食が社会問題となっている今だからこそ、ほんの少し立ち止まって、満たされる食事の在り方を感じてみませんか?毎週このドラマを見たあとは、きっと誰かを食事に誘いたくなるはず!ぜひ、心温まるグルメドラマを堪能してみてはいかがでしょうか。◇【ストーリー】若手の編集者・石田友也(酒井大成)は、女性誌の環境に馴染めず悩んでいた。そんな中、先輩のピンチヒッターとして、テレビや雑誌に引っ張りだこの人気料理研究家・三ツ矢歩(山崎まさよし)の担当になる。初めての訪問に卒倒するほど緊張していた石田だったが、三ツ矢が振る舞う料理にすっかり胃袋を掴まれる。さらに自分を見つめる三ツ矢の優しい視線、朗らかな人柄、時折見せる可愛らしさにすっかり惹かれていき……。大人の色気溢れる三ツ矢とピュアでまっすぐな石田の二人が紡ぐヒューマングルメラブストーリー。●番組概要●タイトル:『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』●放送:2024年7月25日 放送スタート●配信:2024年7月25日 配信スタート毎週木曜日25時59分最新話配信※放送・配信時間については予告なく変更となる場合があります。●出演:山崎まさよし、酒井大成、川面千晶、三原羽衣、今森茉耶、丸山智己、宇野祥平●原作:「三ツ矢先生の計画的な餌付け。」著者:松本あやか出版社:ぶんか社(既刊:全2巻)●スタッフ:・監督:野尻克己・脚本:吉川菜美・音楽:原田智英・制作:レプロエンタテインメント・製作:「三ツ矢先生の計画的な餌付け。」製作委員会・MBS●URL:・(オフィシャルページ)・(配信ページ)(エボル)
2024年07月16日頭部が肥大して生まれてきた少年フクスケ。盲目の妻サカエと彼女に歪んだ愛情を抱くコオロギの夫婦。ある日行方不明になった妻マスを14年間捜し続ける夫ヒデイチ。歪な登場人物たちの運命が交じり合い、やがて暴走してゆく松尾スズキさんの『ふくすけ』は、世の中のタブーに踏み込み、人間のしたたかさやしぶとさの中に悲哀や切なさも感じる傑作。1991年に初演され、何度も再演されてきた舞台が12年ぶりに上演。そこで岸井ゆきのさんが、タイトルロールを演じる。ダークだけど笑いや爽快感があって、エンタメなのが松尾作品の魅力です。「松尾さんの演出する作品に出演できるのは嬉しいです。ただ、前回と前々回にフクスケを演じられていたのが阿部(サダヲ)さんで、年齢も性別も違う私が、阿部さんのようなエネルギーを出せるのか、プレッシャーを感じています」このキャスティングは松尾さんたっての希望だったそう。「なぜ私だったのかはまだ聞けていません。ただ、セリフの中に“中二病”という言葉が出てきますし、今回は、フクスケが14歳の少年であることをより強調したかったのかな、と。そこを拠りどころに、今は頑張っているところです」薬剤被害で身体障がい児に生まれたフクスケは、製薬会社の御曹司ミスミに長い間監禁されてきた。「人と違う体で生まれて変態の手で育てられて…。当初は世の中への恨みが強いのかと思っていたら、フクスケは自身が周りと違うことに誇りを感じていて、世界に抗って生まれてきた反逆児だと言うんです。演じていて面白いんですけど、松尾さんからいろんなセリフの言い方や動きを提案されるので、とにかく今はやってみているという感じで…」そう話しながらも楽しげな笑顔。「松尾さんって、私に役の感情のことを言ってくださるのは、私とふたりのときなんです。でも、動きだったり振り付けのことだったりは、稽古中のみなさんが一緒のところで面白いことをおっしゃる。瞬発的にやって生まれる化学反応みたいなものを見ていて、感情のことは後でひとりで考えられるようにということなんでしょうね。考える力と瞬発力とが同時に鍛えられている感じがして面白いです。あと、松尾さんの作品って、舞台美術の細やかさも転換の技術もすごいんです。いま稽古場に仮のセットを立てているんですが、そのセットを見て、おお~っとなりました(笑)」フクスケを演じてきた阿部さんは今回コオロギ役で出演。「稽古場で見ていても一番エネルギーを感じる」とは岸井さんの阿部さん評。「私は、今もまだ松尾さんの作品に出られることが嬉しくて興奮しちゃってる状態ですが、阿部さんや皆川(猿時)さんはドラえもんみたいなんです。阿部さんはポケットから次々違う武器を出すし、皆川さんはたくさん鞘を持っていて、いろんな出し方をしてくる。自分の四次元がいかに狭いかを感じます。でも、みなさんすごく楽しんでいますし、私も楽しまなきゃと思っています」世間ではタブー視されるものをあえて取り上げ、人間の歪さを露悪的なほどに容赦なく描き出す。そのシニカルな視点は、安っぽい同情やヒューマニズムなど寄せ付けず圧倒的パワーを持って迫ってくるが、それでいながらどこか切なさや人間賛歌を感じさせるのが本作の魅力だ。「すごくダークな題材にもかかわらず笑いや爽快感があって、エンタメに昇華してくれている感じがするんですよね。あと、登場人物それぞれに境遇や背景が濃く描かれています。フクスケに限らず、いろんな障がいや事情を抱えた人が出てきますが、みんな同じ世界にいるんだって感じていただけたら嬉しいです」COCOON PRODUCTION 2024『ふくすけ2024―歌舞伎町黙示録―』盲目の妻サカエ(黒木)に歪んだ愛情を抱くコオロギ(阿部)。彼が警備員として勤める病院に、薬剤被害で頭部が肥大して生まれ、長く監禁されて育ったフクスケ(岸井)が入院してきて――。7月9日(火)~8月4日(日)新宿・THEATERMILANO‐Za作・演出/松尾スズキ出演/阿部サダヲ、黒木華、荒川良々、岸井ゆきの、皆川猿時、松本穂香、伊勢志摩、猫背椿、宍戸美和公、内田慈、町田水城、河井克夫、菅原永二、オクイシュージ、松尾スズキ、秋山菜津子ほかS席1万2000円A席9500円Bunkamura TEL:03・3477・3244(10:00~18:00)京都、福岡公演あり。きしい・ゆきの1992年2月11日生まれ、神奈川県出身。最近の主な出演作に、ドラマ『大奥 Season2 幕末編』など。10月には出演映画『若き見知らぬ者たち』の公開も控える。ピアス¥66,000(himie TEL:03・5485・1277)※『anan』2024年7月10日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・藤井牧子ヘア&メイク・根本亜沙美インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2024年07月09日鳥飼茜さんによる漫画『先生の白い嘘』は、親友の婚約者に関係を強要されながらも抗えない主人公・美鈴を軸に、男女間にある性の不平等を描いた問題作。本作の映画化で美鈴役のオファーを受けた奈緒さん。割り切って考えられないことが多く、演じるのが苦しかったです。「もともと私は、作品に込めたテーマについては、ご覧になった方がそれぞれに受け取ってくださればいいと思っているんです。でも今作に関しては、原作者の先生が伝えたいメッセージ…その想いを正しく伝える責任があると思いました。これはどの作品にも言えることですが、この映画で誰かが傷ついたり、辛い思いにならないようにと心から願ってはいて…。この作品を観ることを選んでくれた方々がどういった思いでご覧になるのかをちゃんと想像しながら、ちゃんと覚悟をもってやらないといけないなと思いました」地味でおとなしい高校教師の美鈴は、自分とは真逆な親友の美奈子(三吉彩花)の婚約者・早藤(風間俊介)を否定しながらも従属してしまう自分への嫌悪ゆえ、感情を殺して生きる複雑なキャラクター。役の理解を深めるため、性被害に関して書かれた多くの書籍にあたったそう。「世の中には美鈴のような思いをしている人が実際にいる。役を演じるうえで、どうしてもそこと向き合っていかなければいけなかったのですが、割り切った気持ちでは考えられないことが多くて…。知れば知るほど演じるのが苦しかったです」画面に映る美鈴の空虚な表情のリアルさは彼女の抱えた闇の深さを想像させ、こちらも苦しくなるほど。「こう見せたいとか、こういう感情で演じようということは正直考えていなくて。ただ、その場で湧き上がる感情みたいなものは、お芝居をしていたらどうしてもあるので、それを大切にしていました。4人の主要人物がいて、それぞれとの関係性が美鈴という人物を理解するうえですごく大きな部分。だから早藤くんや美奈子、そしてそこに現れた新妻くん(猪狩蒼弥)に対して自分の中で芽生えていく気持ち、初めて出合う感情を一個一個ちゃんと掬い取りたいと思っていました。そのうえで画面の中でどう見えてどう受け取られるかは、編集まで手がける監督さんやお客さんが決めてくださることですので、私は意識してないです」重苦しく辛い場面が多いが、救いもある。ひょんなことから美鈴は、新妻から心を寄せられるようになる。猪狩さん扮する新妻との純粋でまっすぐな恋は、美鈴の、そして観客にとっても癒しのような場面だ。「まさに新妻くんとの場面は、猪狩くんがまっすぐに現場にいてくださってこそ生まれたものでした。私自身は、まさかあんなに穏やかなものになるとは思ってもいなかったのでとても印象に残っています」センセーショナルではあるが、希望を与えてくれる作品でもある。「今は、性別の違いとか個性の違いについて考えたり主張もできる世の中になったと思うんです。この映画が、新しい視点や人との違いを、希望をもって受け入れるヒントになってくれたら嬉しいです」『先生の白い嘘』鳥飼茜の同名漫画を実写映画化。ひとりの女性が、自らの性に対する矛盾した感情や男女間の“性の格差”に向き合う姿を描く、人の根底にある醜さと美しさを映し出したヒューマンドラマ。R15。7月5日(金)公開。©2024「先生の白い嘘」製作委員会©鳥飼茜/講談社配給:松竹ODS事業室/イノベーション推進部なお1995年2月10日生まれ、福岡県出身。近作に主演ドラマ『春になったら』、舞台『Medicine メディスン』など。公開中の『陰陽師0』『告白 コンフェッション』のほか、9月には主演映画『傲慢と善良』が控える。シャツ¥93,500パンツ¥75,900(共にMSGM/アオイ TEL:03・3239・0341)イヤカフ¥374,000(oeau/Harumi Showroom TEL:03・6433・5395)※『anan』2024年7月3日号より。写真・内山めぐみスタイリスト・岡本純子ヘア&メイク・竹下あゆみインタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2024年07月01日『スパイの妻』(’20)がヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞するなど、世界から高い評価を得ている黒沢清監督。1998年に日本で劇場公開された映画『蛇の道』が、自身初の試みとなるセルフリメイクで、日仏共同制作で蘇った。自ら「これまでのキャリアの中で最高傑作かもしれない」と語る今作で、主人公の新島小夜子を演じた柴咲コウさん。オールフランスロケ、全編フランス語の難役に挑んだ。できるかわからないけどやってみるのは、自分らしい。「フランス語を話せないのになぜ?と思いつつ、いつか黒沢監督とご一緒したかったというのと、以前からフランスにどこか惹かれるものがあって。撮影期間中、2か月間フランスに住めるというのも貴重な機会だったから逃したくないと思ったし、私は、自分の人生において興味が赴くままにいろいろ挑戦したいという気持ちが強いんです。できるかわからないけどやってみるのは自分らしいと思ってお引き受けしました」長年フランスで心療内科医をしている小夜子を演じるには、語学力はもちろんのこと、生活感や日本人離れした雰囲気を纏わなければ成立しないはずだが、見事に演じている。もちろん、並々ならぬ努力があった。「ただフランス語でセリフを覚えるのではなく、相手の言葉を理解して会話にしなければいけないのは大変でした。しかも早口とかボソボソとか、いろんな喋り方の役者さんがいましたから。まずはフランス語を読めるようにしたのですが、母音ありきの日本語とは違い“cv”とか“vr”で終わる言葉の発音は本当に難しくて。毎日念仏のように唱えながら体に覚え込ませていきました。監督が重視した小夜子のイメージは、新しい感じではなく使い込んでくたっとしているような、その辺にいそうなフランス在住の女性。私もそれに賛成で、ヘアメイクはもちろん、服や立ち居振る舞いもきらびやかとは無縁な感じにして。ちなみに滞在中は自炊を続けていました。凝った料理ではなく炒め物や和食中心で、白玉でぜんざいを作っておやつにしたりも(笑)。マルシェで新鮮な野菜を買うのも楽しかったです」実際にそこに“住む”ことは役作りにも役立ったよう。昼間は心療内科医でありながら、その裏では娘を殺された父、アルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)の、犯人への復讐に協力する小夜子。「何を考えているのかわからないように見えると面白いのかなって。表情をそぎ落とし、笑顔も険しい顔もせず、それでも彼女のことを窺いたくなってしまうような雰囲気を出すように意識しました」個々のあり方を尊重するフランス人スタッフや現地の文化に触れ「仕事で意見が言いやすいのは、生きやすいし楽だと思った。このまま住みたいと思ったぐらい」と柴咲さん。「わかりやすい復讐劇で、パキッと晴れないような曇天のグレーが混ざった色合いの作品。ヌルヌルと蠢いていく、黒沢作品特有の奇妙さを楽しんでいただきたいです」『蛇の道』娘を殺されたアルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)は、心療内科医の新島小夜子(柴咲コウ)と共に犯人を突き止め復讐を企てる。とある財団の関係者らを拉致し、真相は次第に明らかに…。6月14日より公開。©2024 CINEFRANCE STUDIOS‐KADOKAWA CORPORATION‐TARANTULAしばさき・こう8月5日生まれ、東京都出身。『Dr.コトー診療所』シリーズではヒロインを務め、ドラマ『35歳の少女』、映画『ホリック xxxHOLiC』など数々の主演作を持つ。また、歌手としても活躍。ドレス¥52,800(URUHcontact@uruh.jp)左手のリング¥275,000(oeau/Harumi Showroom TEL:03・6433・5395)右手のリング¥41,800ピアス¥30,800(共にMAYU/MAYU SHOWROOMkohcoon@mayuokamatsu.com)※『anan』2024年6月12号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・柴田 圭(tsujimanagement)ヘア&メイク・渡辺真由美(GON.)インタビュー、文・若山あや(by anan編集部)
2024年06月11日映画『違国日記』で、主人公を演じる新垣結衣さん。人と人との関わりの難しさや尊さを感じさせる本作を経て新垣さんは何を想い、何を考えたのか。そして彼女に訪れていた、ある“変化”とは。突然の交通事故で両親を亡くした15歳の田汲朝(たくみ・あさ)と、彼女を引き取ることになった叔母の高代槙生(こうだい・まきお)。親戚という言葉だけでは到底表すことができない二人のぎこちなくも温かい関係性を描き、多くの人の心を掴んだヤマシタトモコの同名漫画を実写化した映画『違国日記』。人見知りの小説家である槙生を演じるのは、「原作は、もともと友人に薦められて読んでいました」という新垣結衣さんだ。「作品で使われている言葉が、吹き出しの外に手書きされているユーモアのあるものも含めて、すごく好きです。でも、とても好きな作品だからこそ、オファーをいただいた時に私でいいのだろうか、魅力的な槙生ちゃんという役が務まるのだろうかという想いもありました。思い入れが強すぎると、いつまでも納得できないなど、自分で自分に対するハードルを上げたりもしてしまうので。でも、やっぱり嬉しい気持ちの方が強く、ありがたくお受けしました。槙生ちゃんは人見知りかもしれないけれど、人が嫌いではないよな、と思うんです。朝に対してもですが、ファーストコンタクトでは戸惑うものの、相手を拒絶しているわけではなく、適当にせず、ちゃんと向き合う。私も初めての方とお話をする時は緊張したり、失礼なことがないかなどと構えてしまい、話をするのに勇気が必要なこともあるので、槙生ちゃんもそうだったりするのかな?と思いました」また、槙生は自分に対しても人に対しても、嘘がない人だと分析する。「だからこそ、演じるにあたって、いろいろな表情を見せることは意識していました。愛想笑いをしなかったり、鋭い表情も印象的な人ですが、一方で、関わりの深い人の前では普通に笑うし、目を大きく開けてびっくりするようなこともあれば、戸惑いの顔が見えることもある。眉間に皺をよせているようなベースとなるイメージはちゃんと頭に入れつつも、そこに囚われすぎず、笑いたい時には笑ったり、自然にしていました」朝を演じた早瀬憩(いこい)さんとは、「いい関係だったと思います」と微笑む。「第一印象は本当にフレッシュで、ピュアが全身から溢れている…という感じでした。それが、本読みの時に初めてちゃんと話をしたのですが、シャイな感じはありつつも、すごく堂々としていて。監督の指示を聞いている時に積極的に質問をしたり、言われたことを受けてからのアウトプットがすごく早いのを見て、とても心強いなと思いました。現場では、二人とも基本的にいつも近くの椅子に座っていて、何気ない会話をすることもあれば、お互い別のことをしている時も。それがまったく気にならない空気感でしたね。一つの作品を作り上げる仲間として、できることがあればしたいと思ったし、私自身も頼りにしていて、『今のどうだった?』と聞くこともできました。会った時にいつも、すごく喜んでくれるのも、本当に可愛かったです(笑)」こちらの質問に対して深く考えながら言葉を紡ぐ新垣さんの姿は、嘘のない槙生と重なっても見える。自身のコミュニケーションについて尋ねると、以前と少し変化したことを教えてくれた。「昔は、“この人とこんな話をした”ということを、何年経ってもよく覚えていたんです。でも、30歳を過ぎてしばらくした頃からか、覚えていないことが増えてきて…。年齢も関係あるかもしれないけれど、前よりは構えず、力を抜いて、人と接することができるようになったような気がしています。相手に全意識を集中してガチガチになっていたからこそ、その時のエピソードがずっと頭に染み付いたのかなと。今は、その時に自然に出てきた言葉や気持ちをちょっとずつ伝えられるように。人を頼ったり、甘えたり、隙を見せたりできるようになったのかもしれません。もちろん、一人になってから反省することや、ずっと忘れられないこともたくさんありますけどね」今作でも描かれているとおり、人と関係性を築くことは容易ではなく、傷つくことも少なからずある。それでも、誰かと繋がりたいと思ってしまうのはなぜなのだろうか。「私は、人と関わることで本当に救われてきた人生だと思っているんです。自分では見つけられなかった視点や考え方を教えてもらえることもあれば、他者の目を通じて自分を知ることもある。それに、話を聞いてもらえるだけでも、単純に、すごく救われます。槙生ちゃんと同じで、私もわりと一人の時間を大事にしたい人ですが、でも、人とも一緒にいたいんですよね。朝は槙生ちゃんと出会うことで世界が広がり、槙生ちゃんは朝と出会うことで自身のトラウマに触れるなどヒリヒリした気持ちになりつつも、知らなかった自分の感情に気が付いていく。誰かとの出会いによって見える世界が広がることが、原作の魅力の一つだと思うし、人と関わるということの魅力かもしれません。映画にも、そういうところが映っているといいなと思っています」『違国日記』無愛想で人付き合いが苦手な小説家・高代槙生と、天真爛漫な15歳の田汲朝。年齢や性格、過ごしてきた環境も違う二人が同居生活をスタート。葛藤しながらもまっすぐに向き合う日々を描く。監督は瀬田なつき。6月7日より全国の劇場で公開。あらがき・ゆい1988年6月11日生まれ、沖縄県出身。俳優。映画『ミックス。』で第41回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。主な出演作に映画『ゴーストブック おばけずかん』『正欲』、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などがある。シャツ¥53,900エプロンドレス¥42,900(共にTHE RERACS TEL:03・6432・9710)ピアス¥7,700右手のリング¥5,500(共にloniloni_info@auntierosa.com)左手のリング¥198,000(oeau/Harumi Showroom TEL:03・6433・5395)※『anan』2024年6月5日号より。写真・野呂知功(TRIVAL)スタイリスト・小松嘉章(nomadica)ヘア&メイク・藤尾明日香(kichi)取材、文・重信 綾(by anan編集部)
2024年06月04日俳優やアーティストとして活躍中の松下洸平さんが、現在放送中の音楽番組『with MUSIC』でアーティストナビゲーターを務めている。また一つ、新たなフィールドへと足を踏み入れた。自身がアーティストであるからこそできる質問や共感で、いろいろな話を引き出せたら。「日本テレビさんでは(ゴールデン帯で)34年ぶりとなる音楽番組で、しかも土曜の20時という多くの方が見る時間帯の放送ということで、大役をいただき恐縮する思いと、自分に務まるのだろうかという不安もありました。でも、僕が子どもの頃はSNSなどもなく、音楽番組はアーティストや新曲を知れる大切な存在で、放送翌日には学校のみんなでその話をしたりしていて…そんな、みなさんの生活の一部みたいな存在になれたら嬉しいなと思っています」MCを務めるのは有働由美子さん。松下さんは、自身がアーティストであることを活かして、自分にしかできない役割を果たし、他にはない音楽番組を作りたいと意気込む。「たとえば、ライブ前の気持ちの高め方を聞く時に、“自分の場合はこうなのですが、どのようにされていますか?”と、自分なりの質問ができる。僕なりの経験が少しでもゲストの方と共感し合えたり、それが話しやすさとか、普段、音楽番組では聞かれないようなことを話していただけることに繋がったらいいなと考えています。また、みなさんのお話を聞いているとすごく勉強になるし、刺激を受けることも多くてありがたいです。ただ、僕もMCの有働さんも人と話すことが好きで、つい台本にないことまで聞く傾向があって。番組を進行する二人ともがそうだから、気をつけなきゃいけないなと思っています(笑)」また、「テレビで歌唱できることって、すごく特別」とも。「音楽番組は“いい曲ができたら一人でも多くの人に聴いてほしい!”という気持ちをサポートしてくれる、すごく大切な場所だと思っていて。僕も出演させていただく時は、自分の歌を知ってくれる人が一人でも増えていたら嬉しいなという気持ちでやっています」放送が始まってから、いろいろな人に声をかけられたり、嬉しい反響もあったという。「ドラマの現場のスタッフさんや周りの方に『面白いね』と言っていただくことは励みになります。この間、普段、音楽番組は見ないという方が、『たまたまテレビをつけたら松下くんが出ていて見たよ』と教えてくださって。そうした広がりが生まれたことを知った時は、やっていてよかったなと思う瞬間ですね」『with MUSIC』毎週、豪華なアーティストたちが登場して楽曲を披露する音楽番組。MCの有働由美子さんとナビゲーターを務める松下洸平さんによる、アーティストの魅力を深く掘り下げた、ここでしか聞くことができないトークも必見。毎週土曜19:56~、日本テレビ系で放送中。まつした・こうへい1987年3月6日生まれ、東京都出身。ドラマ『9ボーダー』(TBS系)、大河ドラマ『光る君へ』(NHK)に出演。LIVE Blu‐ray/DVD/CD『KOUHEI MATSUSHITA LIVE TOUR 2024~R&ME~』を、6/26に発売。※『anan』2024年6月5日号より。写真・内山めぐみスタイリスト・丸本達彦ヘア&メイク・赤木悠記インタビュー、文・重信 綾(by anan編集部)
2024年06月03日2000年代初頭に声優としてブレイク、最近では数多くのドラマにも出演し俳優業でも注目を集める。さらに映画監督としての顔も持つ、津田健次郎の多才な姿を、俳優、声優、監督の3つの視点から解き明かします!【俳優】心の内に、熱さと深い業を抱えた役者になりたい。「この10年ほど、改めて一から芝居を立ち上げ直したくて、本を読んだり、考えを深めたり、芝居を始めた頃に立ち返って学び直しているんです。まっさらになって芝居を学ぶの、すごくおもしろいですよ。ワークショップなんかにも挑戦しています、実は(笑)。いい役者になりたいんです。僕が憧れるいい役者って、怖いんですよ。僕も、業の深い、燃えたぎる何か…つまり、修羅のようなものを抱えている、そんな役者になりたいと、ずっと思っています」【声優】人生と努力の積み重ねで、声も成長をするんです。「ここ数年、例えば『呪術廻戦』など、特にアニメは自分が出演した作品が海外の方に観てもらえることが増えてきて、それがすごく嬉しいです。個人的には、声も成長というか、変化するものだと思っていて。アフレコでいろんな声を出したり、忙しくて眠れない結果、声がガサガサになったこともあります。よく人生は顔に出るといわれますが、声にも人生は出る。僕は、それはかっこいいことだと思っています。この先もこの声で、いろんなキャラを演じたい」【監督】監督業や作品を通じて自分の気持ちを表現したい。「10代の頃から映画を撮りたかったのですが、特に僕はカンヌでパルムドールを獲っている作品に感銘を受け、そこからさらに撮りたいという気持ちが強くなった。僕は社会に対する思いや考え方を、作品を通して表出させたい。今は長編のプロットを書いていて、その作品でカンヌに行きたい…って、言っちゃった、恥ずかしい(笑)。でも、僕は言わないと火がつかないタイプなので。カンヌに行けることになったら、ぜひananも取材に来てください(笑)」芝居はおもしろくて難しい。だからこそずっと夢中なんだと思う。舞台からキャリアをスタートさせ、アニメーションや洋画の吹替、最近は実写作品での活躍も目覚ましい津田健次郎さん。仕事のフィールドが広がったきっかけを伺うと、2020年のNHKの朝の連続テレビ小説『エール』のナレーションを担当したことが一つ、と答えてくれた。「NHKのあの時間の作品は、全国津々浦々、老若男女問わず見る方が本当にたくさんいらっしゃる。それまでも、声優として僕の声を認知してくださっていた人たちはたくさんいらしたと思うのですが、『エール』以降、それまでとは別の層の方々からも気にしてもらえるようになった、そんな実感がありました」また、もともと活躍していたアニメーションというジャンルの立ち位置の変化も大きかったとか。「僕らが子供の頃はアニメーションというと、子供か、アニメが好きな大人が観るもの、という感じだったと思うんです。でもこの10年ほどでアニメーションが限られた人たちのものではなくなり、さらにコロナ禍でもっと外の世界に広がっていった印象があります。アニメの仕事が多かった僕にとっては、時代の後押しもあったのかもしれません(笑)」キャラクターの絵に合わせて声だけで演技をする声優業、自分の体すべてを使う実写映像作品や舞台。どちらも〈芝居〉ではあるけれど、表現の仕方も、難しさは異なるのでは。そんな素人質問をぶつけてみると、津田さん的には「ジャンルによって何かが変わる、ということはない」とのこと。「確かにスタートは舞台ですが、そもそもは“芝居がしたい”という気持ちから始まっているので、僕にとってはどのジャンルも同じ。ボーダーラインはない。“アニメーションはキャラクターがデフォルメされている”という方もいますが、実写でもそういった芝居を求められることはありますし、逆にアニメーションですごくフラットな芝居をすることもある。僕的には、作品ごとに、あるいはキャラクターごとに芝居を考える、という感じなんです。異なるフィールドに行くことに対する緊張はありますが、〈お芝居〉と名がつくものであれば、変わらない…というか、変わっちゃいけない気がしていて。ジャンルによって道具の使い方は異なりますが、常に芝居というものの本質を目指すことに、違いはないですね」俳優としての津田健次郎を多くの人が知った作品といえば、警視庁の刑事を演じた、2021年放送のドラマ『最愛』。津田さん自身にとっても、印象的な作品だったそう。「この作品で出会ったプロデューサーさんとチーフディレクターさんが、キャラクター、物語、スタッフ、キャストなど、作品を構成するすべてに対して愛情が深かった。現場ですでにそれを強く感じていたんですが、結果的にとてもいい作品になったと思っていて。ものづくりの原点である“作品を良くするのは愛である”ということと、“愛を持つだけでなく、それをきちんと伝えること”の大切さに、改めて気がつけたという意味でも、この作品への出演はとても大きな経験でした。僕は役者として、演じている役やシーンに対してしっかり愛を注いでいかなければ、と思いましたね」おそらく今、ひっきりなしに出演依頼が舞い込んでいるであろう状況の中、津田さんはどんな作品に「出たい!」と心を動かされるのか。「まず基本的に、僕はすごく欲張りなんです。アニメーションもやりたいし、映画もドラマも出たい。そういう意味で言えば、バランスということは全然考えていないですね(笑)。どんな作品に出たいというよりも、いい仕事をしたい、と思っていて…っていうと、抽象的ですよね。そもそも、何をもって“いい仕事”とするかって問題もありますし。強いて言えば、クオリティ、かもしれません。例えば僕はホラー映画が苦手なんです、怖いものが嫌いなので(笑)。でも、例えば『ゲット・アウト』や『NOPE/ノープ』のジョーダン・ピール監督だったり、『ミッドサマー』や『ボーはおそれている』のアリ・アスター監督から声をかけてもらったとしたら、観るのはもちろん出るのも怖えぇけど(笑)、そのクオリティだったらやるべきだと思います。苦手だったり、今まで興味がそれほどなかったジャンルの作品でも、食わず嫌いをしないでやっていきたい。あ、だから逆に、“最近津田さん忙しそうだから、無理だろうと思って声をかけなかった”と、あとから聞くことがまれにあるんですが、それ、めちゃくちゃ嫌なんですよ…。とりあえず気軽に声をかけてください(笑)」20歳で芝居の道を志し、現在52歳。振り返ると、10年ごとにターニングポイントがあった、と津田さん。「30歳でようやく芝居で食べられるようになり、ある程度経験を重ねて40歳を越えた頃、少し力を抜くことができた。そこで改めて、芝居に対して初心に返ろうと思ったんです」その“初心”とは、“演じるけれど、演じない”というもの。「この世界に入ったときから、“芝居をするとはどういうことなのか”についてずっと考えていて。矛盾があるんですけれど、僕にとって理想の芝居とは、“芝居をしない芝居”なんですよね。うまく言えないんですが、スポーツ選手がゾーンに入っている、みたいな状態というか…。それに近い感覚を目指したいんです。でもねぇ、40歳でそこに気がついてから10年、ますます芝居が難しくなってます(笑)。もちろん楽しいんですが、楽しいからこそ難しい」ここからの10年は、これまで培ってきたものを捨てていく作業が必要になる、とも。「必要なものだけを持って、シンプルな芝居をしたいし、シンプルな人間になりたい。でもきっとそれって、積み上げることより、難しいことな気がします。でも、楽しみです」そして津田さんのもう一つの大きな夢が、監督として映画を作ること。もともと芝居に目覚めたきっかけが映画で、10代の頃にミニシアター系の作品にたくさん触れたことで、さらに深く深く夢中になった。そしてこの10年、映画を撮るというフィールドにも少しずつ種を蒔き、思いを育ててきた。「40歳くらいから、雑誌を作ったり舞台を作ったり、MVを撮ったりと、ジャンルを問わずいろんなことに挑戦する中で、最終的にはやっぱり長編映画を撮りたいという思いが明確になりました。いつか自分の作品を、海外の人にも観てもらいたい…それが今の僕の夢です。でもねぇ…、僕は演技に関しては結構大胆なところがあって、不安があっても“やっちゃえ!”ってタイプなんですが、撮るとなると、そんな余裕は全くなくなるし、さらに自分の芝居にOKなんて絶対出せない…。でも、そういうところも克服して、できれば来年、難しくても2026年には、長編を観せられるように頑張ります(笑)」つだ・けんじろう1971年6月11日生まれ、大阪府出身。声優、俳優。声優として『ラーメン赤猫』『呪術廻戦』『極主夫道』『遊戯王デュエルモンスターズ』シリーズほか多数のアニメ作品、『スター・ウォーズ』シリーズなどの洋画吹き替え、多ジャンルのナレーションを担当。第15回声優アワード主演男優賞受賞。またドラマ『グレイトギフト』、『映画 マイホームヒーロー』ほか俳優としても広く活躍している。ジャケット¥66,000パンツ¥33,000シューズ¥72,600(以上ラッド ミュージシャン/ラッド ミュージシャン 原宿 TEL:03・3470・6760)シャツ¥41,800ベルト¥22,000(共にガラアーベント/サーディヴィジョンピーアール TEL:03・6427・9087)サングラス¥48,400(アイヴァン/アイヴァン 東京ギャラリー TEL:03・3409・1972)その他はスタイリスト私物※『anan』2024年6月5日号より。写真・森山将人(TRIVAL)スタイリスト・藤長祥平ヘア&メイク・ハラタタケヒコ(Artsy Life)(by anan編集部)
2024年06月01日倉科カナさん演じる三角鹿乃子(みすみ・かのこ)は、戸馳灯(とばせ・あかり/安達祐実)、波多浦仁(はたうら・じん/渡邊圭祐)と“猫好き”から縁を結ぶ。友達とも家族とも違う関係性のこの3人が、猫と共に一つ屋根の下で暮らすという物語。偶然にも物語の舞台となった熊本出身で、私生活でも猫を飼っている倉科さんは、同名の原作漫画を読んだ時に「すごく親近感を覚えた」そう。鹿乃子のセリフによって自分の迷いを受容できた気がしました。「映画は熊本地震から始まるのですが、私は実際に地震が起こった2016年当時、それを経験したわけではありません。でもその時の状況や熊本の方々の心情はわかっていたつもりです。猫も飼っているので、地震が起きた時の動物の動きや、飼い猫にどう接したらいいかなどの気持ちの準備もできていて。その経験がお芝居に生きたと思っています」ほのぼのと描かれた3人と猫との日常生活が見どころでもある今作。撮影現場の雰囲気についてこう話す。「幼い頃から活躍している安達さんは役者の大先輩。現場では流れるように心地いい空気感を作っていただきました。人見知りの渡邊くんは、そのまま演じているだけでもう仁で。3人の絶妙なバランスは自然に作られていったと思います。監督はお芝居から生まれる空気感を大事に撮ってくださる方で、出会いのシーン以外はほぼリハーサルなしの一発撮りで進みました。私たちは控室が一緒で、たわいもないことをよくしゃべっていたのですが、渡邊くんが猫の待機部屋にしょっちゅう行っていたのが印象的でした」役者を虜にした猫たちもまた、この物語に欠かせないキャストだ。「もちろん思い通りにならないので大変でしたが、それよりも可愛いが先にきていました(笑)。メインのミカヅキはすごく美しい子で、灯の愛猫のまゆげは人見知りもせず、誰よりも人たらし。現場のみんながその可愛さに翻弄されていました」鹿乃子は35歳の精神科医。心理が見えにくくミステリアスな印象も持つが、どのように演じたのだろう。「原作ではもっと鹿乃子の人間性について描かれているのですが、映画ではその部分が割愛されていたりもしたので、原作から彼女のバックグラウンドを自分なりに汲み取りながら演じました。陽の2人に対して、やや陰の雰囲気を纏う鹿乃子を演じるのは少し難しかったかな。もともと私は、活発な性格なんです(笑)。完璧そうに見える鹿乃子ですが、部屋の片付けや料理が苦手な一面もあって、そのギャップが魅力のひとつ。表面上は理論的でも、実は内側に感情が渦巻いていたりもします。仕事柄、他人を客観視できる人でもあり、心に響く名言も多くて。たとえば、私は36歳になりましたが、それまで想像していた36歳とはかけ離れていて。まだまだ大人になりきれていない…なんて思っていたけど、鹿乃子が夜空の三日月を見た時の『欠けているんじゃない。満ちる途中』というセリフのおかげで自分自身の迷いもすべて受容できた気がしたんです。私のように迷える現代人は多いと思いますが、この映画はそれらを優しく包んで癒してくれるはずです」『三日月とネコ』原作は、「第1回anan猫マンガ大賞」で大賞受賞のウオズミアミ氏の『三日月とネコ』(集英社マーガレットコミックス)。出演/安達祐実、倉科カナ、渡邊圭祐、小林聡美、山中崇ほか5月24日より全国公開。©2024映画「三日月とネコ」製作委員会©ウオズミアミ/集英社くらしな・かな1987年12月23日生まれ、熊本県出身。映画『あいあい傘』、ドラマ『隣の男はよく食べる』(菊池風磨とW主演)など主演作多数。テレ朝系列にて放送のドラマ『霊験お初~震える岩~』に出演。カーディガン¥128,700Tシャツ(3枚セット)¥83,600パンツ¥147,400(以上MARNI/マルニ ジャパン クライアントサービス TEL:0120・347・708)ピアス¥28,000ネックレス、ボールチェーン¥35,000ハート¥31,000(以上LORO/ロロinfo@loro.tokyo)※『anan』2024年5月29日号より。写真・木村心保スタイリスト・道端亜未ヘア&メイク・渡嘉敷愛子インタビュー、文・若山あや(by anan編集部)
2024年05月28日人間の欲と罪、愛を暴く映画『湖の女たち』。溢れる知性で多くの人を魅了する福士蒼汰さんは今作の主演でどのような新境地に辿り着いたのか。福士さんの学び続ける人生に迫りました。介護施設での殺人事件を発端にあぶり出される登場人物たちの心の闇と過去。人間の欲や罪深さ、その中にある生の輝きを真っすぐに描いたのが、5月17日公開の映画『湖の女たち』。主演を務めた福士蒼汰さんの役どころは、事件の捜査にあたった若手刑事、圭介。取り調べを行った佳代と歪んだ性愛関係に陥り、モラルを踏み外していく人物を渾身の演技で体現した。「演技に対する気負いはありませんでしたが、難解な作品、役柄だったと思っています。まず初日に、大森(立嗣)監督からのダメ出しを受けまして(笑)。冒頭の圭介が家で着替える場面で、シャツのボタンを留めながら『はぁー』と声を出していたら、『その声いらないからやめて』と。無意識のうちに出ていた声でしたし、なぜNGだったのかも明確には伝えられなかったので悩みましたが、後から考えると、役者が状況をお芝居で説明してしまっているんだなと思って。エンタメ色の強い作品とは違い、今作はリアルな人間の物語なので、演技のボリュームを下げる必要がある。脳みそを使ってお芝居すればするほどエンターテインメント性が高まると思うので、逆に今回は意識的ではなく、自分の心で演じることを大切にしました。圭介の中から溢れ出たものであれば台本から逸れてもOKだと。そんな役への取り組み方を学べた現場でした」さらに、大森監督流の演出に驚いた場面もあった、と明かす。「家のソファに座り、裸にタオル一枚で佳代のプロフィールを見ているシーンの撮影前、『一人にするから感じて』と監督から指示があり、スタッフ全員が部屋から離れて僕一人に(笑)。部屋中を見て回り、圭介の生活を感じながらソファに座っていたら、数分後、監督が戻ってきて『いい顔してるじゃん』と撮影再開。一人にした意図は教えてもらえなかったのですが、俳優自身に考えさせるやり方だったんだと理解しています」撮影前には圭介らしい体を作り、圭介と佳代の危うい関係を表現するため、佳代を演じた松本まりかさんとの会話も控えたそう。「圭介には整った細マッチョよりも、少しずっしりとした体型のほうが合っていると思い、食べて、鍛えて、体を大きくしていました。初共演の松本さんとは現場では台詞以外、ひと言も話さなかったんです。普段は積極的にコミュニケーションをとるタイプですが、今回は距離を縮めないほうがヒリヒリした感じが出ると思って。撮影中は福士蒼汰の瞬間がなく、常に圭介として現場にいました」凄みを感じる演技で新境地を切り開き、「より深くお芝居を学んだ感覚。今後もリアルを求める作品に挑戦していきたい」と意欲的な福士さんは、常に向上心を持って自分をアップデートさせてきた。その最たるものが、独学で習得した英語。ドラマ『THE HEAD』では流暢な英語を披露し、海外作品に出演する夢も叶えた。「英語を勉強し始めたのは20歳の頃。正しい発音で台詞を言えれば、海外の作品に挑戦できる可能性はあると思い、まずは発音から始めて。あとは、トラベル英会話の本を買い、何度も繰り返して読みました」さらに、約3年前から本格的に英語学習をスタートさせたそうで、今回、anan読者のために、福士流勉強法も丁寧に教えてくれた。「発音はYouTubeでまとめられているものを見るのも一つの方法だと思います。文法は中学生用の薄い文法参考書を何回か繰り返して読む。単語&表現の学習は市販の単語帳をまずは1冊読破し、3000単語ぐらい覚えたら、スピーキング、リスニング、ライティング、リーディングの4つの技能に進む。ライティングを磨くために僕が行っているのは、毎日1行、英語で日記を書くこと。日本語で書いたものをチャットGPTで完ぺきな英語に翻訳して書き留めておき、週末に一気に復習するんです。それを続けていくと、言いたいことが言えるようになり、音読するのでスピーキング力も磨かれる。さらに、スピーキングの勉強でオススメなのが独り言。『今、暑くない?』のようなちょっとしたフレーズを、家でブツブツ言う。僕は二人の人物を頭の中に作って、シチュエーションを想定し、二人で会話させて遊んだりしています、入浴中に(笑)。ただ、一方的に話せても、相手の英語を聞き取り、理解できなければ会話にならないので、リスニングとリーディング力も必要。そのために今は『ラダーシリーズ』という洋書を読んで勉強しています」学びに対してとことん貪欲で、極めたい言語は他にも。「今は、言語学習アプリで韓国語を勉強中。時間があったら、スペイン語かフランス語も習得したいなと。外国語が話せたら純粋にカッコいいと思うし、相手の言葉がわかればラクだと思うんです。どうしたらよりラクに生きられるか。人生を充実させるために勉強するのは楽しいです」ふくし・そうた1993年5月30日生まれ、東京都出身。近年の出演作にドラマ『大奥』シーズン1~2、『アイのない恋人たち』、『THE HEAD』Season2など。短編映画『イツキトミワ』では監督・脚本にも初挑戦した。シャツ¥119,900パンツ¥126,500カーディガン¥199,100(以上MARNI/マルニ ジャパン クライアントサービス TEL:0120・374・708)※『anan』2024年5月22日号より。写真・嶌原佑矢(UM)スタイリスト・高橋美咲(Sadalsuud)ヘア&メイク・矢澤睦美取材、文・関川直子(by anan編集部)
2024年05月19日シェイクスピアの『ハムレット』といえば演劇の超スタンダード。この世界に入ってすぐの頃、「何をやっていいかわからず、とりあえず有名な映画や本を手当たり次第に観たり読んだりして。そのときに読みました」という牧島輝さん。そこから時を経て、森新太郎さん演出の舞台『ハムレットQ1』に出演する。わかりやすいので、シェイクスピアを知らない人にこそおすすめしたい。「今回は『ハムレット』といってもQ1(3種存在する原本のうちのひとつ)で、展開もかなり速くてわかりやすい。話の展開は同じですけれど、また違う作品のような印象を受けたので、ご覧になったことがある方も楽しめると思いますし、読んだことのない人や苦手だと思っていた人に特におすすめしたいです」森さんは、これまで数多くのシェイクスピア劇を演出しているが、原典からあたるなど戯曲の丁寧な分析と考察により、作品の魅力を深く鮮明に見せてくれる人。「稽古が始まって、こんなにひとりひとりの俳優に向き合ってくださる方なんだと思いました。ホン読みの段階から言葉をものすごく大事にされている印象があります。たとえば、茜色という言葉があったときに、茜色の“あ”の音から太陽の明るさを感じさせなきゃいけない、想像できているから“あ”の音が出るんだ、などとおっしゃる。自分も、もっともっと台本を読み込んで、想像を膨らませながら役を作っていかなきゃいけないなと思っています」主人公のハムレットには吉田羊さんが扮する。吉田さんは3年前の森さん演出の舞台『ジュリアス・シーザー』でもブルータスを演じている。「稽古が始まったばかりですが、すでに吉田羊さんのハムレットから葛藤が伝わってきます。拝見していて引き込まれるものがあります」自身が演じるホレイショーは、ハムレットの親友で、復讐劇を冷静な目で見つめていく存在。「周りで起こるいろいろなことに自分自身が翻弄されながらも、冷静でいないといけない役」だと分析する。「役柄的にも役者としても、ご覧になっているお客さんに伝えなきゃいけないことが多いんですよね。物語に追われていっぱいいっぱいになっちゃう瞬間もあるんですけど、冷静でいないとと言い聞かせています」昨年には、『セトウツミ』や『季節はずれの雪』と、自身が企画から立ち上げた2本の舞台を上演した。「俳優って自分から動かないとご縁のない作品もありますよね。せっかく役者をやっているのだから、いい作品にたくさん出合いたいし、好きな作品は演じたいなと思うんです」PARCO PRODUCE 2024『ハムレットQ1』デンマーク王の息子・ハムレット(吉田羊)は、ある日、急死した父王の亡霊と遭遇し、その死が父の弟で、王座を継いだ叔父(吉田栄作)の謀略だと知り、復讐を誓うが…。5月11日(土)~6月2日(日)渋谷・PARCO劇場作/ウィリアム・シェイクスピア訳/松岡和子演出/森新太郎出演/吉田羊、飯豊まりえ、牧島輝、大鶴佐助、広岡由里子、佐藤誓、駒木根隆介、永島敬三、吉田栄作ほかマチネ1万1000円ソワレ1万円U‐35チケット5500円(観劇時35歳以下対象)ほかサンライズプロモーション東京 TEL:0570・00・3337(平日12:00~15:00)大阪、愛知、福岡公演あり。まきしま・ひかる1995年8月3日生まれ、埼玉県出身。最近の主な出演作品に、ミュージカル『刀剣乱舞』、舞台『キングダム』、ドラマ『不適切にもほどがある!』などがある。※『anan』2024年5月8日‐15日合併号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・中村 剛(ハレテル)ヘア&メイク・石川ゆうき(Three PEACE)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2024年05月13日「何でも聞いてください。何でもしゃべります」。取材に登場しての第一声。その言葉だけで、いかに城田優さんが今回の公演に情熱を持って取り組んでいるか、その覚悟がよくわかる。『TOKYO~the city of music and love~』は、城田さんがプロデュースする“東京”をテーマに繰り広げられるショー。歌やダンス、映像や舞台装置、衣装など、日本の舞台芸術に携わるアーティストたちの力を集結させた。「以前に、米倉涼子さんと僕がプロデュース・演出をした『SHOWTIME』という公演があったのですが、そういう舞台をまた作りませんかとお話をいただきまして。それならば、東京でやるものだけれど海外でも勝負できるクオリティのショーを作ったら面白いんじゃないかと思いました。今回はスケジュールの都合で東京とシンガポール公演だけですが、いずれは海外のいろんな国に持っていきたいと考えています」ご本人のイメージからミュージカルコンサートを想起するが、歌だけではない、「これまで観たことのないショーになるはず」と力説する。「僕が目指しているのは、歌唱も、ダンスも美術も演出も、すべてにおいてハイクオリティな舞台です」そのためキャスティングにはとことんこだわり、それぞれの分野において世界に通用するレベルの実力者を揃えたそう。「エンターテインメントの世界において、本来ならずば抜けてうまい人って目立つのが当然なんです。僕は、いろんなしがらみに縛られることなく、実力がある人や個性が目立つ人がもっと注目されてほしいし、そんな人がどんどん伸びてしかるべきだと思っています。そういう意味で、僕が、この人たちならと思うアーティスト、クリエイターを揃えました。今回音楽監督もお願いしているSWEEPくんは、音楽的なスキルとか曲を書くセンスとか、とにかく本当にうまくて尊敬できる方。RIOSKEくんは歌っているのをSNSで見つけて以来、ずっといつかご一緒したいと思っていたし、吉田広大くんは、芝居で見せるパッションと歌のバランスがすごくいい。yuzuちゃんとRainy。ちゃんは将来確実に日本でトップになれる才能やセンス、華を持っている。ダンサーに関しては、主役の後ろで踊るバックダンサーみたいな概念をぶっ壊したいと思っていて。原田薫さんは総合的なセンスや情熱、人間性も含めて絶対的な信頼を置いている方ですし、SHUNくんは個性も含めてトップレベルの力を持っていると思っています。碓井菜央ちゃんは出会ってから10数年ですが成長度合いが素晴らしく、今の若手で一番好きなダンサーかもしれないくらい。BOXERさんはインスタグラムで見つけてずっと気になっていたんですが、今や世界中から注目されるようになっているし。高村月くんは、友人の誕生会に参加したときに踊っている姿を見て感動してオファーさせてもらいました」スタッフも演劇というジャンルにこだわらず、「変わったことをしたいというよりは、いいものを作るために妥協したくない、みたいなユニークな人が揃っている」。そしてもちろん城田さん自身も出演者として、そして共同演出として参加する。「芸能界に入って25年間。いろんな現場を見てきましたし、積極的に海外に足を運んで多くのエンターテインメントに触れてきた経験値もあり、10年近く前からミュージカルの演出をさせていただいています。そういう立場として僕は、上質なエンターテインメントがもっときちんと評価される世の中になってほしいし、良質なものにもっと触れてそれを見極められる人が増えてほしいとも思っています。今回の公演が少しでもその役割を果たせたら嬉しいです」『TOKYO~the city of music and love~』5月14日(火)~19日(日)渋谷・東急シアターオーブ演出/城田優、金谷かほり出演/シンガー・城田優、SWEEP、RIOSKE(ペルピンズ)、吉田広大、Rainy。、yuzu(FYURA PROJECT)ダンサー・原田薫、大村俊介[SHUN]、碓井菜央、BOXER、高村月スペシャルゲスト・miwa(5/14・15)、鷲尾伶菜(5/16・17・19)、島津亜矢(5/18 昼・夜)S席1万3500円A席9500円B席6500円キョードー東京 TEL:0570・550・799(平日11:00~18:00、土・日・祝日10:00~18:00)しろた・ゆう1985年12月26日生まれ、東京都出身。2010年ミュージカル『エリザベート』トート役での文化庁芸術祭演劇部門新人賞など数々の賞を受賞。近年はミュージカル『ファントム』など演出家としても活躍する。シャツ¥63,800(キミー)パンツ¥35,200(バラード) 共にサカス ピーアール TEL:03・6447・2762※『anan』2024年5月8日‐15日合併号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・山中有希奈ヘア&メイク・Emiyインタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2024年05月11日山崎育三郎さんの6年ぶりのオリジナルアルバム『The Handsome』は劇作家・演出家の根本宗子さんプロデュース。OKAMOTO’Sやマハラージャン、幾田りらさんといった多彩なアーティストが参加し、口が達者な結婚詐欺師・ハンサムの半生を描くという異例のコンセプチュアルアルバムだ。歌もお芝居もMCも振付もあって、すべてが詰まっているのが音楽活動。「いろいろなエンタメのお仕事をさせていただく中で、物語仕立てのアルバムを作りたいという気持ちがあり、以前からご一緒したいと思っていた根本さんに脚本を含め総合プロデュースをお願いしました。根本さんがある結婚詐欺師のドキュメンタリーを見て『山崎育三郎にこういう役は合うんじゃないか』と思ったそうで、その物語をベースにイメージを膨らませていきました。いろいろな女性をたぶらかすには強い魅力が必要なので、挑みがいがあるなと。新作ミュージカルに参加するような気持ちでしたね」参加ミュージシャンがレコーディングスタジオに来て、山崎さんに直接ディレクションをしながらそれぞれの楽曲を作っていった。濃度の高いコミュニケーションに大きな感銘を受けたそうだ。「ミュージカル俳優としては、あらかじめ出来上がっている作品に対して自分が最高のパフォーマンスをするということを多くやってきましたが、何もないところから作品を生み出すことに対する憧れがあります。アーティストの皆さんはずっとそれをやられていますし、音楽に生き様が出ていて、それは相当の覚悟がないとできない。そういった方たちとの出会いは本当に大きかったです」「どんどん自分のイメージを壊していきたい」と話す。大森靖子さん作詞・作曲の「光のない方へ」ではこれまでに出したことのないような高いキーの歌唱にチャレンジした。「参加してくださった方たちの世界に思いっきり染めてもらうというのも今作のひとつのテーマでした。『光のない方へ』は大森さんのディレクションにより、追い込まれて首を絞めて歌っている女性のようなキー設定の曲になりました。今作でこれまでやらなかったことを多くやったことでいろいろな発見がありましたね」ミュージカル、ドラマ、映画、バラエティなど、多岐にわたる活動をする山崎さんにとって音楽活動はどんな表現方法なのだろうか。「いろいろなお仕事をやらせてもらっている中で、歌もお芝居もMCも振付もあって、すべてが詰まっているのが音楽活動です。今回のアルバムのツアーが5月から始まりますが、ミュージカルとライブの間のような、物語が伝わるものになると思います。ライブで『The Handsome』が完結する気がします。誰も置いていかない総合エンタメの場所にしたいですね。山崎育三郎とは?ということが一番伝えられるのが、音楽活動におけるステージの上。だからこそずっと音楽活動は続けていきたいと思っています」6年ぶりのオリジナルアルバム『The Handsome』。根本宗子が総合プロデュースを手がけ、「LIKE、重ねていく feat.幾田りら」を含む全10 曲収録。【通常盤(CD)】¥3,300(Sony Music Labels)やまざき・いくさぶろう1986年1月18日生まれ、東京都出身。2007年の『レ・ミゼラブル』のマリウス役に抜擢。ミュージカルにとどまらず、映画、ドラマ、声優など多岐にわたり活躍。5月18日から全国ツアー開催。※『anan』2024年5月1日号より。写真・小笠原真紀取材、文・小松香里(by anan編集部)
2024年05月01日子供の頃から愛し、憧れ続けた冴羽獠を演じるという夢。ついにそれを実現させた鈴木亮平さんが『シティーハンター』の魅力を熱く濃く語ってくれた60分。きっとこれでも、鈴木さんのシティーハンター愛の片鱗にしかすぎないけれど、漏らすことなく生の言葉をお届けします。実写でも“地続きの世界観”を一番大事にしました。1985年~1991年に連載された、北条司氏によるコミック『シティーハンター』。新宿を拠点に、ボディガードから殺しまで請け負う始末屋(スイーパー)“シティーハンター”こと冴羽獠の活躍を描いたアクションコメディで、テレビアニメの放送は4シリーズにもなる大ヒット作となった。そんな“伝説のコミック”が、Netflixで日本初の実写化。撮影は新宿・歌舞伎町の地元商店街や警視庁・新宿署などから全面協力を得て、大規模なロケが行われた。ずば抜けた身体能力と戦闘力を持ちながら、美女にはとことんだらしない“クールでもっこり”な冴羽獠を演じるのは、鈴木亮平さんだ。――いつか冴羽獠を演じたい、と思いながら俳優の仕事を続けてきたそうですね。『シティーハンター』を好きになったきっかけから教えてください。小学生の時にアニメの再放送を見たことから。これは面白い!とおこづかいで原作の単行本を買い集め始めました。声優になりたいと思った時期もありましたが、俳優の道に進んでからは冴羽獠を演じることが夢のひとつになりました。――『シティーハンター』の魅力はどんなところに感じていますか?ひとつではないんですけど…まずシリアスとコメディの振り幅がこれだけ広い作品は、今までに見たことがありません。冴羽獠と相棒の槇村香のトーンがシーンによってガラッと変わるのに、ストーリーとして成立してしまうところが刺激的で面白いんです。当時アニメといえばファンタジーな世界観の作品が多かったのに対し、この作品は“新宿に行けば冴羽獠に会えるかもしれない”と思わせるような、現実と地続きの世界観を持っているところも魅力でした。そこは実写化するにあたり一番大事にしたところでもあります。――佐藤祐市監督や脚本家の方、プロデューサー陣と共に鈴木さんもシナリオ会議に参加し、衣装を提案するなどもされたそうですね。はい、そこまでひとつの作品に関わるのは初めてでした。――どんな協議をされたのでしょうか。正直、コミック原作の実写化はいろんな理由から、なぜか原作ファンの見たいものではなくなってしまうということが起こりがちですが、僕がこの作品に参加した当初も脚本にそれが起こってしまっていたんです。全体の流れはいいのに、面白くしたいと思うあまりいつの間にかコアの部分がずれてしまっていたというか。それで「冴羽獠が依頼を受けるのは心が震えた時だけだ、とコミックにありましたよね。一回そこに戻りましょう」などと“ファン代表”としての意見を言わせていただきました。少年時代の僕が、これは『シティーハンター』じゃないと思ってしまったらダメだと思ったから。――原作へのリスペクトですね。そういえば以前、雑誌『BRUTUS』の企画で北条先生とお会いした時に、『シティーハンター』をもし実写化するなら…という話で盛り上がったそうですね。北条先生も「鈴木さんが『シティーハンター』はアクション漫画じゃないと理解してくれたことが嬉しかった」とおっしゃっていたようですが。そうなんです。会いたい人に会いに行くという企画で、ダメ元で北条先生をリクエストさせていただき実現しました。そこで僕は、生みの親に向かってこの作品のテーマや良いところをひたすら解説する、という謎の行動を取ってしまって(笑)。でも実写化が決まり、「冴羽獠は鈴木くんがやるのが一番幸せだ」と言ってくださったことが嬉しかったです。わからないならそれでいいと思うところもあるんです。――先ほどの「少年時代の僕が」という言葉が印象的でしたが、昭和の設定をこの令和に持ち込むとなると、時代の差みたいなものが出てきてしまうと思います。そのあたりの工夫はどうされましたか?そこはすごくいいポイントです。『シティーハンター』のお決まりのアイテムはいろいろあって、例えば原作で香の服のボタンの裏についている“発信機”は、GPSが当たり前の現代では「古い」という意見もありました。でも『シティーハンター』は発信機じゃなきゃダメなんです。――それでいえば、携帯電話のない時代に、誰もが自由にメッセージを書き込めた駅の伝言板もそうですね。“XYZ”という暗号をもって獠に依頼を出すための、重要なアイテムです。その当時を知るファンからすれば、伝言板も地続きのアイテムのひとつ。伝言板を知らない世代は理解できないかもしれないけど、欠かせないものなんです。忘れ去られたようにひっそりと生き残っていた伝言板があってもいいかなと。それら発信機や伝言板などのお決まりのアイテムは、わからないならそれでいいと思うところもあるんですよね。――何もかも説明してわからないものはなくす、みたいな現代の風潮の中、それでいいってカッコいいです。賭けですけどね(笑)。でもよく考えたら獠が乗っているミニクーパーもヴィンテージだし、香の上下デニムのスタイルも、いまブームになっている’90年代ファッション風なので違和感なく現代に溶け込んでいる感じがして。そういう古いものと、SNSや歌舞伎町の青少年問題など、今を象徴するものが入り交じった“レトロ現代”みたいな感じが、この作品の絶妙な世界観だと思います。――確かに、一周して新鮮なものに映るかもしれません。香役の森田望智さんについて、共演してみてどのような印象を持たれましたか?森田さんは運動神経が良く、一緒にやっていく中でどんどん香になっていきました。もちろん熱心に香のことを研究されていたというのもあるのですが、香を憑依させる力は見ていてすごかったです。最後の戦いのシーンで、あたふたしながらも獠と一緒に戦いに行く感じは、香そのもので感動しました。――おっしゃるように、原作に見る香を彷彿とさせるものがありました。気になるのが、獠の口癖でもある「もっこり」の使い方です。「もっこり」は性的な表現でもあり、さらに世界配信する作品なので、海外では通じないところが議論にもなりました。直接的な表現とは違う、日本語が持つかわいいニュアンスは、翻訳した時に絶対に伝わらないですから。でもこれは日本の作品だし、日本語がわかる人にしかウケないギャグであることに勇気を持つべきだと思いました。これを取ってしまったら、何か大切なものを失うことになりますから。――ちなみに、パンツ一丁の“もっこりダンス”は世界的にOKですか?(笑)大丈夫です。日本の裸芸は世界中の人に通じるクオリティの高さを誇ります。あのシーンは僕が振り付けをしてパンツも自腹で購入して複数枚から選びました。――もはや鈴木さんのお家芸のような…。「変態仮面」をやって良かったとは思います。あんまり恥ずかしくないですから(笑)。でも実は「変態仮面」に変身して戦っていた時にも、もしいつか僕が冴羽獠を演じるなら、これが良い経験になるな、と思っていました。――準備はすでに始まっていたんですね。そして、日本の作品だということに勇気を持つべきだという考えもさすがです。もちろん世界を視野に入れていますが、まずはこの作品が生まれた国・日本のファンに向けて作ることを最優先にして、あくまでも北条先生が描いた世界観は守りたかったです。――それこそ、特集テーマ“ジャパンエンタメ”に繋がるとも思います。『シティーハンター』の実写版は香港やフランスで製作されていて、海外でもヒットしていますが、日本の文化が持つ力、影響力をどのように感じていますか?監督では是枝裕和さんや濱口竜介さん、役者では役所広司さん、真田広之さん、渡辺謙さんなど、世界的に評価される人材も多く、日本映画も評価されています。また漫画や小説、アニメなど洗練された作品がたくさんあって、日本はアイデアの宝庫。世界各国が今そんな日本のIP(知的財産)を映像化するために日本に熱視線を送っています。それも良いですが、同時に日本からも自国の素晴らしい文化や作品を世界に発信していきたいですよね。そのために僕ら役者はもっと演技力を高める必要があり、芝居だけではなくプロデュースなどにも積極的に関わってもいいと思うんです。役者のみならず監督、脚本家、プロデューサーなどの映像作品に関わるクリエイターたちそれぞれが技術力を上げなければ、国際的に競っていけないという危機感はすでにみんな持っています。それを僕は、幕末の状況にも似ていると思っているんです。――なるほど、面白い視点ですね。海外から技術を輸入して知識を共有し合って、薩摩も長州もなく一丸となって、世界との差を取り戻すべきだし、クオリティの高い日本の作品をたくさん作って海外に発信していくべきだな、と。そして日本人は、みんながひとつになれば強い力を発揮できるとも思っています。――この作品が新たなる世界の窓口を開くようなきっかけになると嬉しいです。最後に、冴羽獠を演じるのはご自分しかいないと思っていますか?フィジカル的に演じられるとか、僕よりも似ている人はいっぱいいると思います。でも、冴羽獠は誤解されやすいキャラクターなんです。少年時代の傷やコアにある寂しさまで理解したうえで、とことんふざけられるかどうか。そこまで捉えて表現できるのは、思い切って言いますが、僕よりできる人はそうそういないかなと思います。ある意味、この30年間、冴羽獠は僕の中に棲んでいましたし、僕は人生のほとんどを彼と一緒に生きてきたような気がしています。――誰もが認めると思います。それぐらい鈴木さんは“冴羽獠”でしたから。それでも、絶対に勘違いしてはいけないのは、僕が想う獠とファン一人一人が想う獠は違うということでした。そこはかなり厳しく演じたつもりです。制作中、自分が大好きな作品をダメにしてしまうんじゃないかと、毎日ものすごいプレッシャーを感じていました。でも怖がって前に進まないのは、この作品にとっても不幸なこと。僕だけじゃなく、作品に関わったスタッフたちの『シティーハンター』への愛情やエネルギーはきっと感じていただけるはずです。『シティーハンター』有名コスプレイヤーくるみの捜索を請け負った冴羽獠。しかし相棒の槇村秀幸の突然の死から、彼の妹の香とバディを組むことに…。出演/鈴木亮平、森田望智、安藤政信、華村あすか、木村文乃ほか。Netflixにて4月25日より世界独占配信。すずき・りょうへい1983年3月29日生まれ、兵庫県出身。ドラマ『下剋上球児』や映画『エゴイスト』『劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~』など主演作多数。anan では「シネマで英会話」を連載中。コート¥116,600ジャケット¥121,000パンツ¥59,400(以上オーバーコート/大丸製作所info@overcoatnyc.com)その他はスタイリスト私物※『anan』2024年5月1日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・八木啓紀ヘア&メイク・宮田靖士(THYMON Inc.)取材、文・若山あや©北条司/コアミックス 1985(by anan編集部)
2024年05月01日刑事ドラマの常識を軽やかにスタイリッシュに覆し、日本ドラマ史上のレジェンド的存在となった『あぶない刑事』が8年ぶりに復活。38年間演じ続けてきた舘ひろしさんと柴田恭兵さんのバディのカッコよさは“あぶ刑事”世代じゃない人も惚れるはず!――8年ぶりに新作の映画を撮る、と聞いたときは、率直にどう思われましたか?舘ひろし(以下、舘):僕は正直、前回(2016年公開の映画『さらば あぶない刑事』)で終わったと思ってたんですが、また柴田恭兵という人と『あぶない刑事』ができるということだけで、もう断る理由はありませんでした。とにかく恭サマと、もう一回演やれる。それが本当に嬉しかったんですよ。柴田恭兵(以下、柴田):右に同じです(笑)。僕的には、舘さんが「全員集合」と言ったら、もう何はさておき馳せ参じますよ(笑)。舘:何をおっしゃる(笑)。柴田:いや、実は正直なことを言うと、最初は「映画?もういいでしょ…?」という部分はなきにしもあらずでしたが、「二人のどちらかの娘が登場する話を考えている」と聞いて、これはちょっとおもしろくなりそうだな、と。長い間やってきましたけれど、これまでタカとユージのプライベートが垣間見えるということは、ほぼなかったので。――久しぶりの『あぶ刑事(デカ)』の現場だったと思いますが、すぐに雰囲気は掴めましたか?舘:ええ。会った途端に空白の時間はまったくなかったような感じでした。柴田:そう。ブランクなんてなかったみたいに。舘さんがダンディーにそこに立っているだけで、みんなが「よし、やるぞ」という気になるんです。舘:恭サマと僕、オンコ(浅野温子/あつこ)、(仲村)トオルが揃えば怖いものなし。僕は本当に、この4人は最強だと思ってるから。柴田:安心感も大きいですからね。たぶんそういう雰囲気、映像にも溢れているんじゃないのかな。――おっしゃるとおりで、みなさんが楽しく撮影していらっしゃる感じが溢れていました。舘:そう、めちゃくちゃ楽しかったもん(笑)。――舘さんが演じる鷹山敏樹、柴田さんが演じる大下勇次。それぞれの魅力を教えてください。柴田:タカはとにかくダンディー。世界を代表するダンディー。びっくりするぐらいダンディー。舘:(笑)。あの、鷹山っていうのはこの作品にとってファンダメンタルな存在で、土台みたいなものだと思ってます。物語の基礎に鷹山という男がいて、その上にユージという建物が立つ。タカの上でユージが走ったり、キラキラ輝いている。僕は土台だからそんなに目立つ男じゃないんです。柴田:それで言ったら、ユージはセクシーで軽くてただのお調子者。舘:いやいやいや、そんなことはない(笑)。タカとユージも、舘ひろしと柴田恭兵も同じなんですが、それぞれが長方形の対角線上にいるような、遠い存在なんですよ。でも、そういう二人がバディを組むことでケミストリーが起こり、おもしろいものが出来上がる。それがタカとユージ、そして『あぶない刑事』の魅力なんじゃないのかな。――今回の監督・原廣利さんは現在30代半ばで、ご自身でも「再放送で見ていた世代」とおっしゃっていました。若い監督と一緒の現場はいかがでしたか?柴田:舘さんの初日にハーレーに乗るシーンがあって、それを見た瞬間にみんなが「わぁ、ダンディー鷹山だ!」って大興奮だったんです。そこでまず世界観が出来上がった。芝居に関しては僕たちが、「こんな感じでやりますよ、こんな芝居ですよ」というのをいろいろ提案し、それを監督はじめ若いスタッフがいろいろと拾って、“もっと素敵に、もっとダンディーに、もっとセクシーに!”と頑張って撮ってくれたんです。舘:原監督のお父さんは原隆仁監督といって、かつて『あぶ刑事』のテレビドラマの監督だった方なんです。原隆仁監督は、ハードボイルドな作品を撮るのが本当に上手かった。柴田:ハードボイルドのなんたるかがわかっていて、さらに作品がとてもおしゃれだった。舘:その息子さんである原廣利監督も、そのDNAを受け継いでいるんじゃないのかな。柴田:本当にそのとおり。その上で、このわがままな二人のやりたい放題を受け止めてくれて(笑)。――久しぶりの『あぶ刑事』ということで、現場に入る前に特別な準備などはされましたか?舘:まったくないです(笑)。柴田:女性を抱きしめるシーンの準備とかはしてると思いますよ?まあ準備なんてしなくても、お手の物ですけど。舘:それは確かに練習が必要ね。柴田:僕が現場で台本を読んでいると、舘さんが横に座ってる。「恭サマ、何考えてるの?」って聞くから、「このセリフのことを、ちょっとね」。で、僕が「舘さんは?」と尋ねると、「女のこと」って(笑)。舘:(苦笑)。いや、それは、恭サマがセリフも物語もすべて把握しているから、わからないことがあったら恭サマに聞けばいいわけで。すごいんですよ、恭サマは。僕はね、彼の横でふにゃふにゃしてるだけなんです。――本当に、タカとユージのようにいいコンビネーション…。柴田:僕と浅野さんとトオルで、舘さんのわがままを支えているんです(笑)。――ちなみにお話ししていただける範囲で、舘さんのわがままエピソードを教えてもらえますか?舘:「8時からデートだから、6時に撮影を終わらせてほしい」って言ってた日があったんですよ。でもどんどん押しちゃって、全然終わらない。で、我慢できなくなっちゃって、「デートがあるから帰ります」って、帰っちゃった。――柴田さんはなんと?柴田:「しょうがないなぁ」(笑)舘:優しいでしょ?恭サマ(笑)。――ご自身の俳優ヒストリーの中で、『あぶない刑事』はどんな意味を持つ作品ですか?舘:僕にとってはまず、「代表作が持てた」という意味で、この作品に出合えたことは本当に幸運だったと思います。俳優の名前を見て「この作品!」というものを持てることって、実はなかなかないんですよ。柴田:若いときは、この作品がヒットしたからこそ、「もっと違う自分を見せたい」とか「また別の素敵な作品に出合えるだろう」と思っていたんですが、時間が経ってから、『あぶない刑事』は自分が思っていたよりも大きな意味を持つ作品だったことに気がついたというか…。作品はもちろん、出演者、スタッフ、誰一人欠けても生まれなかった作品だと思うんですよ。いろんな意味で、僕にとって素敵な出合いだったと言える作品です。今作のエンディングでユージが振り返って何かを口走るんですが、実は、もう亡くなってしまったスタッフや共演者の名前と“ありがとう”と言ってまして…。毎回本当にいろんな人に支えてもらって、出来上がった作品なんですよね。――全編にわたってカッコいいタカとユージ、そして『あぶない刑事』の世界観を満喫できる2時間ですが、あえてお二人から、「特にここを観て!」というところを教えていただけますか?柴田:年を取った元刑事の二人の、無理して頑張っているカッコよさを観てほしいです。タカとユージってアニメのキャラクターみたいなものだと思っていて、年を取ってもキャラにブレはないんです。舘:そうそう。頑張ることこそが年を取った男のカッコよさですよ。最近わりとシリアスな映画が多いような気がするんですが、そんな時代に、こういう楽しくてちょっとバカバカしい映画もいいかな、と思います。柴田:そう。映画って楽しいんですよって言いたいよね。『帰ってきた あぶない刑事』定年退職後ニュージーランドで探偵業を営んでいた鷹山と大下が、8年ぶりに横浜に戻り、探偵事務所を開設。最初の依頼人は、タカ&ユージのどちらかの娘?!彼女の依頼は「母親の捜索」。二人は捜索に乗り出すが、殺人事件が多発、さらにはテロの危機が。母親は見つかるのか、そして街は救われるのか?!共演に浅野温子、仲村トオル、土屋太鳳、早乙女太一、ベンガル、吉瀬美智子、岸谷五朗ほか。監督/原廣利脚本/大川俊道、岡芳郎5月24日より全国公開。©2024「帰ってきた あぶない刑事」製作委員会たち・ひろし(写真・左)1950年生まれ、愛知県出身。’76年に映画『暴力教室』で俳優デビュー。映画『終わった人』で第42回モントリオール世界映画祭最優秀男優賞を受賞。しばた・きょうへい(写真・右)1951年生まれ、静岡県出身。’75年に劇団「東京キッドブラザーズ」に入団し、キャリアをスタート。代表作にドラマ『ハゲタカ』、映画『半落ち』など。※『anan』2024年5月1日号より。写真・野呂知功(TRIVAL)スタイリスト・中村抽里(舘さん)古舘謙介(柴田さん)ヘア&メイク・岩淵賀世(舘さん)澤田久美子(柴田さん)(by anan編集部)
2024年04月29日大きな事件は起こらない。しかし、何気ない小さな出来事が積み重ねられるうち、気づけば不思議な場所に迷い込んだ感覚にさせるのが劇作家・倉持裕さんの劇作の魅力。藤間爽子さんが出演する舞台『帰れない男~慰留と斡旋の攻防~』もまた、大きな屋敷に招かれた主人公・野坂が、強く引き留められるわけでもないのになぜか帰る機会を見失ってしまうという不思議な物語だ。「摩訶不思議なテイストですが、人間の本質もしっかり描かれています」「最初にお話を伺ったとき、主人公が屋敷から出られないというだけで、どう話を進めていくんだろうというところに興味が湧きました。私が演じるのはお屋敷の奥様で、今までそういう役をやったことがなかったので、挑戦にもなると思って」お屋敷の主人に扮するのは山崎一さん。歳の離れたこの夫婦が、絶妙な意味深さで主人公を翻弄する。「当初は魔性の女性をイメージしていたんですが、台本を読んでみたら、どこにでもいそうなチャーミングな女性でした。だから今は役を作り込むというよりは、わりと自分に近いところで演じている感じです。摩訶不思議なテイストではありますが、それだけじゃなく、人間の本質みたいなものがしっかり描かれている気がするんです。例えば、帰りたいのになんだか帰れないときとか、本当は好きなのにわざと突き放してしまったり、思っていることと真逆のことを言ってしまったりって、私にもあること。倉持さんが、そういう人間の行動に着眼点を置かれたのがすごく面白いなと思いますし。セリフを読んでいると、時おりグサッと刺してきたり、ハッとさせられたりすることもあって。ただ不思議な話では終わらない面白さや、共感する部分が入っているなと思います」倉持さんからは禁欲がテーマの一つになっている、とも。「登場人物それぞれみんな欲を持っていて、表には出さないけれどどこか滲み出てしまう。そこになにかエロスのようなものがあったりするのでは、とおっしゃっていました。今はなんでも言いたいことが言える世の中だから、リアリティを持たせるために時代を昭和初期の頃に設定したのだそう。今の時代の、誰でもなんでも言える風潮は素晴らしいことではあるけれど、昔の日本人の、言いたいことがあっても抑えているからこそより重くなったり、フツフツと湧き上がるみたいなことってある気がするんです。この作品では、そんな隠しきれない想いが重く息苦しい雰囲気にはなるけれど、そこが面白かったり滑稽に見えたりするんじゃないかと思っています」野坂自身、本当に帰りたいのか、本心では帰りたくないのか、物語が進むほど謎は深まるばかり。その男を演じるのが林遣都さん。「稽古初日の段階ですでに台本を読み込んでセリフを入れてこられていて結構焦ります(笑)。遣都さんは主人公っぽいというか、つい追いたくなってしまう華やかさと陰とをお持ちの方で、まさに“野坂さん”という感じなので楽しみですね」M&Oplaysプロデュース『帰れない男~慰留と斡旋の攻防』危ういところを助けたことから、瑞枝(藤間)から屋敷に誘われた野坂(林)。当初はすぐに帰るつもりだったが、なぜか1日2日と過ぎてゆき、やがて野坂の友人・西城(柄本)が心配して迎えに来るが…。4月13日(土)~5月6日(月)東京・本多劇場作・演出/倉持裕出演/林遣都、藤間爽子、柄本時生、新名基浩、佐藤直子、山崎一全席指定8000円U‐25チケット5500円(観劇時25歳以下対象)M&OplaysTEL:03・6427・9486名古屋、島根、富山、大阪、仙台公演あり。ふじま・さわこ1994年8月3日生まれ、東京都出身。近作に映画『夜明けのすべて』。6月には出演映画『九十歳。何がめでたい』が公開。日本舞踊家・藤間紫としても活動。※『anan』2024年4月17日号より。写真・小笠原真紀ヘア&メイク・坂本志穂(グラスロフト)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2024年04月17日飲むバランス栄養食「カロリーメイト リキッド」の新TVCMに、声優&俳優として大活躍の津田健次郎さんが登場。3月30日(土)より全国で放映がスタートします。手軽に栄養補給できる「カロリーメイトリキッド」は、続けやすい3フレーバー展開。・まろやかなミルクの風味とコーヒーの優しい味わいの「カフェオレ味」・華やかなフルーツの香りとすっきりとした甘さの「フルーツミックス味」・爽やかなヨーグルトテイストでさらっとした飲み心地の「ヨーグルト味」■津田健次郎さんが猫とたわむれる姿は必見!新TVCMで津田さんが演じるのは、仕事も育児も頑張る父親役。慌ただしい日常の中で“からだの栄養”となるカロリーメイト リキッドを飲んだり、“こころの栄養”である愛猫とじゃれあったりしながら、自身の栄養を補給していく様子が描かれています。津田さん演じる父親が元気いっぱいの子どもにちょっかいを出されて慌てるシーンも。実生活でも2児の父という津田さんのリアルパパ姿は見逃せません。ちなみに飼い猫の声を担当しているのは、津田さんの大先輩にあたる声優の井上和彦さん。癒しの低音ボイスにも注目です。また大塚製薬の公式YouTubeでは新TVCMのメイキング映像も公開。愛猫役の“みーこちゃん”や子どもとコミュニケーションを取る津田さんの自然体な姿が楽しめます。また今回のCMに関する津田さんのインタビューも公開されました。▼CMの中で子どもにちょっかいをかけられて慌てるシーンが印象的でしたが、津田さん自身は子育てで苦労されたことなどありますか?子どもに仕事を中断されるみたいな、ああいう突拍子もない思い通りにならない、言うことを聞いてくれない、というところが、ああ大変だなあとは思うんですけど、子どもってそういうものなので、それはそれで一緒に楽しみながら過ごせたらなと思っています。▼CMの中で「怪獣」と呼ばれる子どもの姿が印象的でしたが、津田さん自身は昔、どんな子どもでしたか?ぼーっとした子どもでしたね。本当にマイペースで、ぼけーっとして過ごしていた、そんな覚えがあります。ちょっと周りのペースとあんまり合ってない感じのぼーっとした感じでしたね。▼津田さんのお子さんはどんなお子さんですか?よし、今時間あるから遊ぼうかっ!て時は全然、「ううん、別に」って感じだったり、自分が仕事し始めたら急に「遊ぼう」って来たりとか、自分の時間で生きてるなっていう天真爛漫な感じです。▼声優としても俳優としてもご活躍の津田さんにとって「こころの栄養」ってなんだと思いますか?やっぱり妻や子どもと一緒に過ごす時間が「こころの栄養」になっています。▼今回のCMでは、声優の大先輩である井上和彦さんと飼い主と猫という関係性での共演になりましたが、今後どんな役柄だ共演してみたいですか?和彦さんも低音の方なので、兄弟とか、大先輩に対して兄弟というのもなんですけど(笑)、親子とか、近い関係でぜひご一緒してみたいなと思います。カロリーメイト リキッド新TVCM 「吾輩は栄養である・怪獣との毎日」篇2024年3月30日(土)より全国でオンエア開始15秒 30秒 メイキング映像
2024年03月28日学校イチの人気者オミくんと、彼との妄想を密かにSNSに綴るエリーが織りなす胸キュンラブストーリー、映画『恋わずらいのエリー』。これが3度目の共演の、宮世琉弥さんと原菜乃華さんがW主演を務めます。注目の若手俳優2人が恋のときめきと成長を表現。左・宮世琉弥さん、右・原菜乃華さん。――役について教えてください。宮世琉弥さん(以下、宮世):オミくんは“ウラオモテ”王子で、裏ではかなりのツンデレで。僕にとってはこれが初めての王道のラブストーリーなので、ツンデレの引き出しがなかったんですけど、ツンデレな監督から技を盗みまくりました(笑)。原菜乃華さん(以下、原):エリーはピュアなところが魅力です。人からのアドバイスも素直に受け止めて、彼女なりに実践しながら引きこもりがちな性格を変えていきます。エリーの成長は、完璧に見えて実は努力しているオミくんの姿に、背中を押してもらっていた部分も大きいと思います。宮世:エリーは、徐々に自分の気持ちを伝えられるようになっていくよね。オミくんも成長していくし、そうやって自分の殻を破って変わっていく二人に学ぶところも多かった。そういうところも含めて、年代に関係なく共感していただける部分があるので、学園ラブストーリー作品は観に行きにくいと感じる年代の方も、楽しんでいただけます!原:エリーは勇気を出して「一緒に帰りたいです」とか、想いを一生懸命伝えるんです。年齢を重ねるにつれて気持ちをストレートに伝えられなくなる…という人も、この映画を観たら、キュンキュンする感覚を取り戻していただけると思います。――今作が3度目の共演ですね。宮世:最初の共演から、原さんはすごくお芝居が上手くて!役に入り込んでいる原さんに、何だか吸い込まれるような感覚があるんです。原:嬉しい!私は宮世さんとやっていると、すごく安心できます。お芝居のパターンを変えてもすぐに対応してくださるから、ちゃんと見てくださっているのがわかるんです。宮世:原さんとはもう、いい意味でお仕事という感覚がない!原:私も。初めての方だと「ここまで近づいたほうがお芝居しやすいけど、大丈夫かな…?」って思うけど、宮世さんには気兼ねなくいけました。けど、誰にでもフレンドリーなムードメイカーの宮世さんも、急に静かになっちゃったことがあって。宮世:オミ軍団とのシーンね。さすがの僕も、女の子11人に囲まれたら人見知り発揮します(笑)。原:余裕のある普段の感じとのギャップがかわいらしかったです。宮世:原さんは、話し出すと止まらないところが素敵だなと思った。原:絶対に思ってないですよね!?「わかる~」って言いながら、聞いてなかったの、バレバレですよ(笑)。――エリーは、オミくんが彼氏だったら…とたくさん妄想しますが、お二人は妄想をしますか?宮世:僕は『ジョジョの奇妙な冒険』の主人公だったら、自分のスタンドになんて名前をつけようかなとか考えてるうちに寝落ちしてますね。原:私は、現実より妄想の世界にいるほうが多い日もあるくらい。ほら、甘いものとしょっぱいものって、交互だったら永遠に食べ続けられるじゃないですか。宮世:これは、原さんの話が止まらなくなる流れだな(笑)。原:それぞれでおいしくて、一緒にしてもおいしい組み合わせって何だと思います?ポテトチップとケーキは違うし…。宮世:はい、チャンチャン!…『anan』とかけました。原:現場でもよく韻踏んでて、上手くいくとドヤ顔してたよね(笑)。『恋わずらいのエリー』さわやか王子・オミくんとの妄想をSNS上でつぶやくのが日課の妄想大好き女子・エリー。しかし、彼には裏の顔があった。共演に西村拓哉、白宮みずほ、藤本洸大、綱啓永、小関裕太ほか。3月15日全国公開。2024「恋わずらいのエリー」製作委員会 ©藤もも/講談社みやせ・りゅうび2004年1月22日生まれ、宮城県出身。’19年の俳優デビュー以降、ドラマ『君の花になる』『パリピ孔明』などに出演。4月10日、Ryubi Miyase名義でデビューアルバム『PLAYLIST』をリリース。ジャケット¥63,800パンツ¥36,300(共にサイト/ヨウジヤマモトプレスルーム TEL:03・5463・1500)その他はスタイリスト私物はら・なのか2003年8月26日生まれ、東京都出身。’22年、映画『すずめの戸締まり』で主人公に選ばれる。’23年、映画『ミステリと言う勿れ』や大河ドラマ『どうする家康』などに出演。公開待機作に『【推しの子】』。ワンピース¥31,900(JILL STUART)シューズ¥14,900(CHARLES&KEITH/CHARLES&KEITH JAPAN)リング¥184,800(e.m./e.m.青山店 TEL:03・6712・6797)※『anan』2024年3月20日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・徳永貴士(SOT/宮世さん)山田安莉沙(原さん)ヘア&メイク・礒野亜加梨(宮世さん)馬場麻子(原さん)インタビュー、文・小泉咲子(by anan編集部)
2024年03月19日映画の長い歴史において、“不朽の名作”と呼ばれる作品は数多くありますが、間違いなくその1本に挙げられるのが『ピアノ・レッスン』。いまなお愛され続けている名曲「楽しみを希(こいねが)う心」を生み出したことでも知られる本作が公開から30年のときを経て、4Kによる鮮明な映像で蘇ります。『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』【映画、ときどき私】 vol. 64019世紀半ば、ニュージーランドの孤島。父親の決めた相手と結婚するためにやってきたエイダは、娘のフロラと1台のピアノとともにスコットランドを離れる。「6歳で話すことをやめた」エイダにとって、ピアノをもはや声の代わりとなっていた。ところが、夫となるスチュアートはピアノを重すぎると海辺に置き去りにし、しまいには現地で通訳を務めるベインズの土地と交換してしまう。そんななか、エイダに惹かれたベインズは、ピアノ1回のレッスンにつき鍵盤を1つ返すと提案。はじめは渋々受け入れたエイダだったが、レッスンを重ねるうちに彼女のなかにもある感情が芽生えることに…。1993年に、カンヌ国際映画祭のコンペティションで女性監督初のパルム・ドール受賞という快挙を成し遂げた本作。今回は、映画史にその名を刻み込み、歴史を変えたこちらの方にお話をうかがってきました。ジェーン・カンピオン監督2021年には『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でアカデミー賞の監督賞に輝くなど、『ピアノ・レッスン』から30年以上経ったいまなお第一線で活躍し続けているカンピオン監督。そこで、当時の制作秘話や自身にとって愛とは何か、そして若い世代に伝えたい思いなどについて語っていただきました。―本作のヒロインであるエイダは、30年前のキャラクターとは思えないほど非常に現代的なところがある強い女性像だと感じましたが、人物像を形成するうえでどのようなことを意識されていましたか?監督まず、「話をしない」ということによって、エイダの社会に対する拒絶を表現したいと思いました。あるフェミニストの作家からも「エイダという女性は反抗的な女性である」と言われたこともありますが、それは私を含むすべての女性が抱いている怒りだと考えています。そして、それは誰もが同等の機会を与えられていないことに対する怒りです。とはいえ、私のフェミニズムはあくまでもベーシックなもの。根底にあるのは、「男女が平等に扱われてほしい」というそれだけです。いい仕事をするのに、ジェンダーは関係ない―作品を発表した当時、ご自身の出身地であるニュージーランドでもそういった流れはあったのでしょうか。監督個人的な経験からお話すると、私がフェミニズムのムーブメントを感じたのは、大学生だった70年代の頃。当時は映画学校も男女の比率が半々でしたし、若い女性みんなが関わっているほど女性解放の運動が盛んにされていました。このまま順調に行くかと思っていましたが、90年代後半から「お金がすべてである」という風潮が社会を覆ってしまい、どんどんひどい状況に…。そこから昨今の#MeToo運動へとつながっていくわけですが、ようやく女性たちに追い風が吹き始めたように感じています。そもそもいい仕事をするのにジェンダーは関係なく、重要なのはそれぞれの感覚や才能。最近はそういった理解が進んできているように思います。―また、本作を語るうえで、テーマ曲となるマイケル・ナイマンのピアノ曲「楽しみを希う心」は欠かせませんが、いまだから話せる誕生秘話があれば教えてください。監督実は、私自身はピアノが弾けませんし、あまり音楽的な人間でもないので、彼にアプローチすることを恥ずかしいと感じていたんです。でも、実際にアプローチしてみるとすごく喜んでくださいました。というのも、彼は私が手掛けていたテレビシリーズのファンだったんですよ(笑)。その後、彼がオーストラリアに来てくれたので、ピアノの部屋を用意したのですが、5分くらい滞在したと思ったらショッピングに出かけてしまい、それが終わったら今度はクリケット。そしてまたショッピングに行きたいというので、正直に言うと時間がなくなってきて私自身はすごく慌てていました。本当に美しい曲でワクワクした―それは驚きですが、その状況からどのようにして、あれだけの名曲が生まれたのでしょうか。監督もともと彼は弦楽器を多用することで有名な方だったので、「怒らないで聞いてほしいのですが、できればピアノで表現してもらえませんか?」と聞いてみました。はじめは彼もかなりショックを受けていたようですが、「古いスコットランドの曲をリサーチしてみようと思う」と言って快く了承してくださったのです。エイダはスコットランド出身の設定だったので、曲によって彼女の底辺にあるものが浮かび上がってくるようなすごくいいアイデアだと思いました。―実際、初めて曲を聴いたときはどのような印象を受けましたか?監督その時点でいまの完成形とほぼ同じ曲が出来上がっていましたが、本当に美しくて、ワクワクしたのを覚えています。私は音楽に詳しいほうではありませんが、音楽が私の体や魂にどんな作用を及ぼすのかを感じることはできるので、その思いを彼に伝えました。私の人生において、彼と一緒に仕事ができたことはもっとも偉大な経験のひとつ。彼はとても直感的な方で、本物の天才です。その後、彼の家族とも友情を育むことができたので、そういった意味でも素晴らしい思い出となりました。愛とは人間が持つもっとも洗練された“ギフト”―本作のみならず過去作『ブライト・スター ~いちばん美しい恋の詩~』などでも、監督の描くラブストーリーには繊細な美しさと大胆な力強さがあると感じています。そういった部分が観客の心を捉えている要素でもあると思いますが、ラブストーリーを描くうえで大事にしていることはありますか?監督私にとって、愛というのは人生において一番重要で、一番美しいもの。人間が持つもっとも洗練された“ギフト”ではないかと感じているほどです。愛には人間同士だけでなく、自然への愛などいろいろありますが、相手に深く注意を払い、深く理解し、深く感謝するというのが愛だと考えています。おそらくそれは私が表面的なことに興味がなく、人の心が持っているものを知りたいという気持ちが強いからそう感じるのかもしれません。愛が与えるつながりの経験とは、“本物の心”を持っている人に対してのご褒美だと私は思っています。―素敵なお考えですね。では、まもなく公開を迎える日本についてもおうかがいしますが、どのような印象をお持ちですか?監督私は日本の文化が大好きで、これまで3回訪れたことがあります。いつも短い滞在ではありますが、その繊細さや礼儀正しさは美しいですよね。特に、細部へのこだわりは素晴らしいと思うので、そういう部分を愛しています。そのほかにも黒澤明監督をはじめ、『愛のコリーダ』という非常にエロティックな映画を作られた大島渚監督も大好きですが、日本の文学にも魅力を感じているところです。なかでも「源氏物語」は世界のなかでも非常に古い物語なので、興味を持っています。次に日本を訪れるときは、もう少しゆっくりしたいですね。孤独なときこそ一番深い学びがある―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。監督いまみなさんが過ごしている20代や30代というのは非常に大変な年代であるというのは理解しています。特に、自分探しをしたり、自分らしくいられるパートナーや仕事を見つけたりするうえで、葛藤が多い時期ですからね。ときには孤独を感じることもあると思いますが、私自身の経験を通して言えるのは、孤独なときこそ一番深い学びがあるということです。自分が不幸だと思ってしまうときは、考えすぎていることが多いので、そんなときは心とカラダをつなげてみると幸せを感じられるのではないかなと。私の場合は、心を安定させるために瞑想やヨガ、気功などに取り組んでいます。いずれにしても、自分は自分が考えている以上の存在であるという意識と勇気を持てるようになると、また別の境地にたどり着けるはずなので、みなさんにもぜひそれを伝えたいです。心が震えるほどの美しさを目の当たりにするどれだけ年月が経っても、決して色褪せることのない傑作。美しい映像と音楽、そして自分らしい生き方を貫いたエイダの揺るぎない愛の姿に、誰もが心を突き動かされるはずです。取材、文・志村昌美胸を締めつけられる予告編はこちら!作品情報『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』3月22日(金)TOHOシネマズ シャンテほか、全国ロードショー配給:カルチュア・パブリッシャーズ(c)1992 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS&CIBY 2000Photo by Grant Matthews courtesy of Netflix Inc.
2024年03月19日うつむく、視線を送る、こちらを振り返る。作品の中で見せる些細な動き一つで、私たちの心をかき乱す、俳優の柄本佑さん。いま日本で一番色っぽいと言われている彼に、色気と役者の関係について、聞きました。スタッフと力を結集して初めて、その役の色気が出せる。現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』で、吉高由里子さん演じる主人公のまひろ(紫式部)の心を毎週揺さぶっている、柄本佑さん扮する藤原道長。まだ若く、一見ふわふわしているように見える年頃の道長が、思いがこもった恋文をしたため、熱い眼差しでまひろを見つめ、さらに兄・道兼などに対して感情を爆発させる…。変化し、そのたびに新たな魅力を見せる道長から、まひろだけでなく、私たちも目が離せない。「道長さんを色っぽいと言ってもらえるのは嬉しいです。見ている方に、そんなふうに受け取ってもらえているんだと思うと、いま制作陣が向かっている方向が間違っていないという確信にも繋がる。明日からの撮影に気合が入ります。ありがとうございます(笑)」そう言いながら、にっこりと笑う柄本さん。でも同時に、役柄の色気は自分一人で作り出せるものではない、とも言います。「役を演(や)る上で、“その役柄が放つ色っぽさ”について考えていないわけではないです。でも実は、大石静さんの脚本のト書き部分には、仕草だったりなんだったり、わりと具体的なことが書かれているんですよね。なので、僕がゼロから“道長の色気”について考える必要はそんなにはありません。役者として僕がやるべきことは、脚本という二次元に書かれたものをなるべく邪魔せずに、映像という三次元に上げるか、ということくらいなんです。あとは衣装やメイク、照明、撮影、他にもさまざまな技術を総動員して“役柄の色気”を醸し出していく。役者は、そういうもののほんの一部なんです。だからさっき“色っぽいと言ってもらえるのは嬉しい”と言ったのは、チームとしての仕事を褒めてもらえたわけだから、そこが本当に嬉しい、という気持ちなんです」そんな柄本さんに色っぽいと思う人を挙げてもらうと、まず挙がったのがコメディアンの志村けんさん。そして渥美清さん、小林桂樹さん、三木のり平さん、森繁久彌さん…と、昭和の役者陣がズラリ。また意外なところでは、吉本新喜劇の座長である芸人・すっちーさんの名前も!!「みなさんに共通しているのは、クレバーであり、そして自分自身に対してシニカルな眼差しを持っていること。色気って、僕は“普通であること”と深く関係がある気がしていて。役柄を演じたり、芸人として舞台に立ったりする“自分”と、普通の状態の“自分”の間に距離があればあるほど、その人に奥行きが出ると思うんですよ。普通でいることは、とても大事だと思う。普通の自分がいて、その上でいろんなことに苦悩したりあがくから、色気が出る気がするんですよね…。でもこれ、完全に好みの話ですよね。僕の好きな色気はそういうこと(笑)」笑いながら「色気って難しい…」とつぶやき、ときにじっと黙りつつ思考を巡らせる柄本さん。話をするうち「そういえば…」と、あるエピソードを聞かせてくれた。「僕は高校生のときに映画の世界に足を踏み入れたわけですが、現場が楽しくて、学校がつまんなくなっちゃったんですよ。そのときに母に、“いま楽しいのはいいけれど、そのうちきっと、現場がしんどくなるときがくる。だから学校生活を大事にしなさい”と言われたんです。時は経ち、大人になってひとり暮らしをはじめた頃に学校時代の同級生に会ったら、彼はスーツで会社に行っているのに、自分は撮影がない時期だったこともあり、浮足立ってたんですよね。そのときにふと、日常をきちんと送ることこそが自分と社会を繋ぎ留めてくれ、それがあって初めて役者という仕事ができる、ということが理解できた。母が言っていたのは、こういうことだったんだな、と。以来、ちゃんと着替えるとか、部屋を汚くしないとか、シンクに食器を溜めないとか(笑)、小さなところから地盤を作り、それが今日に繋がっている気がします。芝居の上手い下手よりも、生活者であることのほうが、役者には大事なんだと思います」道長が生きていた平安時代の色っぽい人といえば、字が上手な人一択。簡単に男女が会えるわけではない中、彼らは文(ふみ)を送ることで気持ちを伝え、また綴られた文字や紙にたきしめられた香りから相手を想像し、恋心を膨らませた。「文のやりとりを経て会えたとしても最初は御簾(みす)越し、その向こうで対面できてもほぼ暗闇で、ほとんど見えなかったらしいですから、情報量が圧倒的に少ないんですよね。でもだからこそ、ある意味豊かで広がりがある時代だったような気もしますね。ちなみに道長さんはあまり達筆ではなかったので、そこまでモテたわけではなかったみたい。でも僕は、物語が進むにつれてもっと上手にならなくてはいけないので、頑張って練習しようと思っています(笑)」えもと・たすく東京都出身。2003年、映画『美しい夏キリシマ』でデビュー。映画『きみの鳥はうたえる』『素敵なダイナマイトスキャンダル』などで第73回毎日映画コンクール男優主演賞、第92回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞ほかを受賞。近作にドラマ『空白を満たしなさい』や映画『ハケンアニメ!』『シン・仮面ライダー』など。ブルゾン¥418,000ニット¥129,800パンツ¥264,000(以上ジョルジオ アルマーニ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン TEL:03・6274・7070)※『anan』2024年3月20日号より。写真・内田紘倫(The VOICE)スタイリスト・林 道雄ヘア&メイク・AMANO(by anan編集部)
2024年03月15日登場人物は7歳の自閉症の少女。幼いながらにガンに侵され、死を意識しながらさまざまなことに想いをめぐらせる。舞台『スプーンフェイス・スタインバーグ』は、そんな“スプーンフェイス”と名付けられた少女の独白からなる一人芝居。それを片桐はいりさんが演じると聞けば、反射的に「観てみたい!」となる人は多いはず。しかし当の片桐さんときたら、「セリフを言うってことに興味がないので、本当に私、これやるんですかねって感じです」と、冒頭から思いもよらない発言が。「長ゼリフも死ぬ役も嫌なんですけれど、やってるうちに楽しくなってきました」「デビューしたのが劇団だったんですけれど、当時、あまりにも滑舌が悪いし、声は小さいし…。だから、言葉はしゃべるけれどひと言も理解できないっていう設定の役をやっていたくらい。そんな出自だから、ずっとセリフを言うってことがちゃんとわからないし、ありえないって思っていたタイプなんです」そのせいか、近年はフィジカルを主軸とした舞台に多く出演していた片桐さん。しかしコロナ禍のなか出演した舞台で「ちょっとセリフを言うのが楽しいかもと思えた」のだそう。「その流れがなかったら、台本を読む前に断っていたと思う」とも。「ここまで何十年も俳優をやってきて、今さら何言ってるのって話なんですけれど、今回、台本って目で読んだだけで判断しちゃダメなんだなって思いました。一時期はセリフを言いたくなさすぎて、台本の長ゼリフの塊を見ただけでお断りしたこともあったくらい。でも今回の台本をいただいて、何気なく口に出して読んでみたら面白かったんです。物語自体は、自閉症でガンになって、しかも両親も問題があって…すごく悲惨なわけですよ。でも、声に出してみたら楽しい部分が結構ありました。読んでいるときにはわからなかったけれど、子供ならではのモノを見る目というのか、結構皮肉もあったりして。…もっと早く気づけよ、っていう話なんですけれど」演出をつとめるのは、’17年の舞台『チック』で読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞し、深い洞察力で戯曲から人間味溢れる人物像を描き出すことに定評がある小山ゆうなさん。「稽古が始まった当初は、老人ホームの老婆が7歳の女の子になりきってる設定とか、いろんなことを提案したりしていたんです。でもやっていくうちに、これはシンプルにやるほうが面白いかもしれないと思うようになりました。小山さんはさすが、いろんなアイデアを持っていらして、1時間くらいの上演時間でも観る側が退屈しないようにとすごく考えてくださっている。まだまだどうなるかわからないけれど、いろんな可能性がある作品だなと思います」片桐さんとWキャストで本作を演じるのは安藤玉恵さん。いずれも舞台はもちろん映像でも数々の個性的なキャラクターを演じ、独特の存在感を発揮している俳優同士。「稽古もバラバラでやるのかと思っていたら結構一緒で、小山さんを交えて作品の勉強会をしたり、翻訳の常田(景子)さんと会って、セリフの細かいニュアンスを相談させてもらったりしています。同じシーンでも、私はこう変えたいけれど安藤さんは変えない、みたいなところもあって。演出自体はそんなに変えられないけれど、演じる人によってかなり違う印象の作品になるんじゃないかと思うんですよね」一人芝居だけれど、同じ役に向かう同士がいることで心強さも。「それだけで助かりましたって感じです。じつはこの作品、安藤さんが先に決まっていて。だからやるって選択肢があり得た部分もあるんです。今、ちょっと変で面白い作品に、たいてい安藤さんが出演されている印象があるんです。そういう方が先にキャスティングされているっていうことは、普通のことをやろうと思っていないんだっていうアピールだと思って。そしたら私は違う側からやります、ってことができるのかなと思っています」膨大なセリフ量に加え、「病気で苦しむ役はやりたくない」とも話していたけれど、稽古が進むにつれ「嫌なことをふたつもやっていたら、結構楽しくなってきた」のだとか。「嫌は嫌なんだけれど、苦手なホラー映画をゲームとして最後まで観きった感覚かな。これだけ毎日付き合って、エリザベス・キューブラー・ロス(アメリカの精神科医)の、死について書かれた本まで読んだりして。だんだん慣れ…というか克服できてる気がして」自らの死期を知り、死と向き合っていくスプーンフェイスの独白は、子供らしい無邪気さと自由さに溢れ、どこか希望も感じさせる。「私は、基本的に面白いことをしたいタイプの俳優で、一人芝居で何かを乗り越えようとか素晴らしいことをやりたいとか思ってないんです。単純に、ちょっと異色の面白い作品になったら私は満足です」KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『スプーンフェイス・スタインバーグ』“スプーンフェイス”と呼ばれる7歳の自閉症の少女は、自身がガンに侵され死ぬ運命にあることを知る。徐々に症状が悪化していくなか、大好きなマリア・カラスの歌を聴きながら、自分がこの世に生まれた意味を問い続ける。2月16日(金)~3月3日(日)横浜・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ作/リー・ホール翻訳/常田景子演出/小山ゆうな出演/片桐はいり・安藤玉恵(Wキャスト)一般5500円A&Kセット券(特典付き)9800円ほかチケットかながわ TEL:0570・015・415(10:00~18:00)©Tadayuki Minamoto※『anan』2024年2月21日号より。写真・小笠原真紀インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2024年02月19日日本で昔から愛され続けている時代劇のひとつといえば、47人の赤穂浪士たちが吉良邸に討ち入りする様子を描いた「忠臣蔵」。まもなく公開を迎える最新作『身代わり忠臣蔵』では、吉良上野介の弟・孝証が“身代わりミッション”で幕府をだますという大胆な脚色が話題となっています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。川口春奈さん【映画、ときどき私】 vol. 635思いがけず殿の身代わりとなった孝証が想いを寄せる女中の桔梗を演じている川口さん。昨年には「anan AWARD 2023」の俳優部門にも輝くなど、映画やドラマなどで幅広い活躍を見せています。今回は、主演を務めたムロツヨシさんとのエピソードや身代わりがいたらしてほしいこと、そして30代を目前にしたいまの心境などについて語っていただきました。―本作はこれまでの忠臣蔵とは大きく異なる作品となっていますが、どのようなところが魅力だと感じていますか?川口さん今回はコメディ要素が強いこともあり、時代劇を普段観ないような方でもテンポよく楽しんでいただける痛快なストーリーになっていると思います。あとは、男性社会だけでなく恋愛感情も描かれているので、桔梗との関係性にはほっこりしていただけるかなと。桔梗は強い女性ではありますが、かわいいと思ってもらえるようなマドンナになれたらいいなと考えて演じました。―孝証を演じるムロさんとの現場で印象に残っていることがあれば、教えてください。川口さんムロさんとは10年ぶりくらいにお会いしたということもあって、お互いの近況を話していたらあっという間に終わってしまった気がします。孝証のキャラクターとムロさんの穏やかで優しい人柄によってリラックスできたことで、すごく自然体で撮影に挑めました。観るのは好きだけど、コメディを演じるのは難しい―本作の現場では全体的にアドリブも多かったようですが、ムロさんともそういったやりとりはあったのでしょうか。川口さんボケとツッコミのようなシーンではあえてカットをかけず、長めに撮影をするようなことはありました。ただ、基本的にはムロさんが自由に演じられて、それを私が見ているという感じで(笑)。でも、そういう関係性は、キャラクターにも合っていたと思います。間合いやタイミングというものを狙いすぎるのもダメなので、コメディ作品は本当に難しいですよね。偶然が重なったときに面白くなったりするので、観るのは好きですけど演じるのは大変だなと毎回感じています。―なるほど。今回は京都での撮影となりましたが、どのようにして過ごされていましたか?川口さん待ち時間も着物だったので外に行くわけにもいかず、部屋で台本を読んだりしていました。ただ、撮影が日中に終わることが多かったので、そういうときはタクシーの運転手さんに「オススメのお店ありますか?」と聞いて、教えてもらったラーメン屋さんにそのまま行ったことも。そんなふうに、「今日は何を食べに行こうかな?」と考えていることが多かったです。応援してくださる方や家族からのリアクションが原動力―では、もし誰かに自分の身代わりになってもらえるなら、何をお願いしたいですか?川口さん家のことや雑務をこなすのが苦手なので、そういったことを完璧にやってもらいたいです!お料理とかもしてくれたら本当にありがたいですね。―誰かの身代わりをしてみるのはどうですか?たとえば、ムロさんとか。川口さんできれば誰の身代わりもしたくないですが、特にムロさんはすごい気遣い屋さんなので大変そうだなと(笑)。ただ、ムロさんに関してはいつも心配してしまうくらい気を遣っていらっしゃるので、少しでもお手伝いができるならしたいなという気持ちはあります。いや、でも本当にムロさんは大変そうです。―劇中では孝証が身代わりをしていく過程で、初めて人から必要とされる姿も描かれていますが、共感する部分などもありましたか?川口さん私も「自分が必要とされていると感じたい」という気持ちは前提にあると思います。自分がいることで何かが解決したり、「作品を観て救われた」とか「面白かった」と言ってくださる方がいたりすることで成り立っている仕事だと思うので。それだけに、作品をちゃんと届けたいという心構えはいつも大切に考えています。自分のためだけにはできない仕事なので、応援してくださる方や家族からのリアクションが自分にとっては原動力です。オフはなるべく外でアクティブに過ごして気分転換―毎日お忙しいと思いますが、オンオフの切り替えなどはどうされていますか?川口さんカラダのメンテナンスをしたり、飼っているワンコと出かけたり、人と会ったりして自分なりに気分転換をしています。ワンコに関しては時間もお金も手間もすべて注いでいるので、溺愛しているというより、もはや私の分身に近いですね(笑)。劇中に出てくるお犬さまのような扱い方で、とにかく“犬ファースト”の生活になっています。あとは、おいしいご飯を食べるのが楽しみのひとつ。家にいるとどうしても仕事のことを考えてしまうのでなるべく外に出たいというのもありますが、アクティブなので家にいる時間は少ないほうだと思います。―最近テンションが上がった食べ物やハマっているものがあれば、教えてください。川口さん好きなのは、タイ料理や韓国料理。エスニック系も好みなので、カレー屋さんを巡ったりもしています。気になるお店をリストにしていることもあって、それを巡っていくのも楽しいです。大事なのは、自分がちゃんと楽しめているかどうか―まもなく29歳となりますが、20代最後の年をどのように過ごしていきたいですか?川口さん30代にはなってみないとわからないですが、いま何か掲げている理想とかは特にありません。あまり年齢は気にしていないので、とにかく健康に気を付けてこれからもお仕事を続けていけたらいいなと考えています。それと、旅行が好きなので行ったことのない場所に行って、見たことのない景色を見たり、食べたことのないものを食べたりして、いろんなことをたくさん吸収できたらいいなとは思っています。―川口さんといえばいつも笑顔で明るいイメージがありますが、落ち込んだときはどうやって乗り越えているのでしょうか。川口さん昔から大事にしているのは、ちゃんと息抜きをして1回フラットにすること。さっきもお話したように、バランスを保つためにオフの使い方は意識しているほうだと思います。パフォーマンスの質を落とさないためにも、自分で自分の機嫌を取るようにもしていますが、そういうのは大きいですね。とはいえ、私はあまり落ち込んだりしないほうで寝たら忘れちゃう(笑)。ズルズル引きずらないというか、気が付いたらどうでもよくなっていることが多いです。あとは、自分がちゃんと楽しめているかどうか。それは仕事にも反映されることなので、そういった部分は大切にしています。いいことも悪いことも、成長に繋がっている―それでは最後に、仕事や恋愛に悩む同世代のananweb読者に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします。川口さん私も完璧じゃないですし、みなさんと同じように悩みながら働いていく、というのを繰り返しているところです。その過程では、いいことも悪いこともあると思います。でも、そうやっていくことで絶対に成長もしているし、強くもなっているので、一緒にがんばっていきましょう!インタビューを終えてみて…。劇中で演じられた桔梗のように、芯の強さとかわいさをあわせ持っている川口さん。これから30代に向けて、どのような女性になっていくのかも楽しみなところです。本作では普段とは違う素敵な着物姿もぜひ堪能してください。こんな「忠臣蔵」は観たことない!クセが強すぎるキャラクターたちが次々と登場し、これまでの時代劇とはひと味もふた味も違う面白さが詰まった本作。斬新なストーリー展開に驚かされるだけでなく、笑って泣ける新たな「忠臣蔵」の誕生です。写真・大内カオリ(川口春奈)取材、文・志村昌美ストーリー嫌われ者の旗本として知られていた吉良上野介。ある日、城内で斬りつけられ、逃げた傷で瀕死の状態に陥ってしまう。理由は、吉良から陰湿ないじめを受けていた赤穂藩藩主がブチ切れたことによるものだった。斬った赤穂藩主は当然切腹だが、吉良も逃げた傷を負ったとなれば武士の恥。両家ともお家取り潰しの危機を迎える。ここで吉良家家臣から出てきた奇想天外な打開策は、殿にそっくりな弟の孝証を身代わりにすることだった。そんななか、赤穂藩の部下である大石内蔵助は仇討の機会をうかがっているような動きを見せる。はたして、孝証は世紀の大芝居で身代わりミッションをコンプリートできるのか…。痛快な予告編はこちら!作品情報『身代わり忠臣蔵』2月9日(金)全国公開配給:東映(C)2024「身代わり忠臣蔵」製作委員会写真・大内カオリ(川口春奈)
2024年02月07日普段行くことができない場所に観客を誘うのが映画の魅力でもありますが、最新作『すべて、至るところにある』が連れていってくれるのは、第一次大戦勃発の地でもあるバルカン半島。『どこでもない、ここしかない』と『いつか、どこかで』に続き、バルカン半島3部作の完結編となる本作では、旧ユーゴスラビアの国々に広がる圧巻の景色が映し出されていることでも注目を集めています。そこで、こちらの方々にお話をうかがってきました。リム・カーワイ監督 & 尚玄さん【映画、ときどき私】 vol. 634大阪を拠点に、香港や中国、バルカン半島などで映画を製作し、どこにも属することなく唯一無二の映画作りを続けているリム監督(写真・左)。タッグを組んだのは、リム・カーワイ監督作『COME & GO カム・アンド・ゴー』と『あなたの微笑み』でも存在感を放ち、国内外で活躍している俳優の尚玄さん(右)です。劇中では、突然消息を絶ってしまった映画監督のジェイを演じています。今回は、“前代未聞の制作スタイル”と呼ばれるリム監督の現場の様子や尚玄さんの役作りの苦労、そしておふたりがいま伝えたい思いなどについて語っていただきました。―最初から3部作にしようと考えていたのか、それともコロナ禍を経験したことによって生まれたものですか?監督バルカン半島の景色や歴史に興味を持っていたこともあり、1作目を撮り終えたときから3部作にしようという構想はありました。そこで最後は、総括の意味も込めて前の2作品を撮ったアジア人の映画監督という設定が面白いかなと思いついたのです。そんなときにコロナ禍になり、ウクライナとロシアで戦争が起きたので、世界が“世紀末”のようだと感じたことも。アーティストとしてこういう状況をどうとらえるのかについていろいろと考えたこともあって、主人公にはそのあたりの思いを投影しています。現地の建造物に影響を受けてアイデアが生まれた―本作に脚本はなく、撮影も行き当たりばったりだったとか。尚玄さんリムとはすでに2本一緒に仕事をしていて、撮影方法は理解していたので、今回も“いつものスタイル”なんだろうなと思っていました。以前は、沖縄から北海道まで移動しながら即興劇で撮影していましたからね。そういうプロセスを知っているという意味ではあまり不安はありませんでしたが、自分としては飛び込むような気持ちでセルビアに乗り込みました。最初に言われていたのは、映画監督の役で、イタリアの(ピエル・パオロ・)パゾリーニ監督のイメージということくらいだったと思います。監督尚玄さんは見た目がパゾリーニ監督に似ているので、彼のような気難しい映画監督がこういう時代をどう思うかという話にしたいと考えました。でも、撮っているうちに、どんどん変わってきてしまったんですよね…。―それは現地に着いてから、ストーリーに影響を与えるような出来事があったということでしょうか。監督そうですね。なかでも大きな影響を受けたのは、「スポメニック」と呼ばれる旧ユーゴスラビアの巨大建造物。ここには戦争や虐殺の犠牲者たちのために作られたモニュメントがありますが、いまの時代にも通じるものがあると感じたので、そこでアイデアが生まれました。それは尚玄さんが日本を出発する3日前のことでしたが、その時点では「映画監督が宇宙人の基地を探しに行く物語のなかで、姿を消した彼のあとを女優が追う」という構想しかなかったと思います。さまざまな現場を経験して、適応能力は高くなった―その話を聞いたときの印象は?尚玄さん「何を言ってるんだろう」と思いましたよ(笑)。でも、わからないままでいいやと。行けばわかるんだろうなと感じたので、とりあえずバルカン半島の歴史などについての予備知識だけを頭に入れてから向かいました。―以前『義足のボクサーGENSAN PUNCH』で取材させていただいた際、マインドセットは得意とおっしゃっていましたが、それが即興劇でも生かされている部分はありましたか?尚玄さん俳優が自由に芝居をするためには確固たる“背骨”みたいなものが必要で、それを作るために普段はすごく時間をかけています。ただ、今回は十分な準備期間がなかったので、そういう意味での不安は多少あったかもしれません。でも、リムの現場には慣れてきましたし、ブリランテ・メンドーサ監督の現場も同じようなところがあるので、与えられた要求に対してキャラクターとしての一貫性を保ちながら即座に適応できるようにはなりました。これまでもいろいろな芝居のトレーニングはしていますが、独創的な監督たちとさまざまな現場を経験したことで適応能力はかなり高くなったと思います。最終的には、いいケミストリーの効果を出すことができた―またおふたりで挑戦してみたいことはありますか?監督僕はマレーシア人なのに、実はまだマレーシアで撮影をしたことがありません。ぜひ次はマレーシアで撮りたいですし、尚玄さんにもまたお願いしたいので、いろいろと考えていますよ。いままでやったことないような役をやってほしいですね。尚玄さん最初はAV監督で、2本目が沖縄の成金だったので、そう考えると全部まったく違う役ですよね(笑)。でも、次はある程度の枠組みは作ってきてくださいよ。監督尚玄さんはどんどん良くなっているし、僕にも慣れたと思うので、別にいらないんじゃないですか?尚玄さんいやいや(笑)。―脚本がない場合、監督はどのようにして撮影を進めているのでしょうか。尚玄さん直前にだいたいのセリフを聞くことが多いですが、たとえば「明日は何するの?」とリムに聞くと「ちょっと待って」とか言いながら夕食後に1人で散歩に行くんです。で、ふらっと帰ってきて急にアイデアが思い浮かんだりするみたいですが、遅いときは当日の朝になることも…。なので、基本はリムに降りてくるのを待つしかないという感じですね。監督しかも、時系列で撮っていないので、俳優にとっては状況や気持ちの変化がわかりづらいところがあったかもしれません。そういう意味では彼らにプレッシャーを与えていて申し訳ない気持ちもありますが、俳優との信頼関係があったからできたことだと思っています。尚玄さん確かにそうですね。難しさはありましたが、リムは絶対に無理強いはしないですし、修正してほしいときはちゃんと言ってくれるので、そこに助けられました。監督だから最終的にいいケミストリーの効果が出せたんだと思っています。いいタイミングで撮影することにこだわった―それは作品からも感じられました。また、キャストとスタッフの計5名だけで車1台に乗り込んで撮影したというのも驚きですが、ハプニングはありませんでしたか?尚玄さんハプニングしかなかったんじゃないかな(笑)。監督はい、そうですね。―ちなみに、どんなことがありましたか?尚玄さん僕の口からは言えないことが多いですね…。監督あはは。どんどん言ってもらって大丈夫ですよ!尚玄さんでも、ハプニングをそのまま使っているところもあるので、観てくださる方が「もしかしてこれもハプニングかな?」と想像しながら楽しんでいただけたらと思います。―そのあたりも、面白がって観ていただけるといいですね。どのシーンも景色が素晴らしかったですが、撮影も大変だったのではないかなと。尚玄さん通行人がけっこういたので、誰もいなくなるのをひたすら待つことも多かったです。でも、これはスケジュールを決めていなかったからできたことだと思います。監督確かに、いいタイミングで撮るためにかなり粘りましたよね。それから旧ユーゴスラビアは道路が狭いので、たどり着くまでが大変でいつもドキドキしていました。尚玄さんでも、行く先々でゲストハウスを探して、現地のおいしい料理を食べるのが楽しかったです。僕も若いときはバックパックで世界を回っていましたが、そういう旅の仕方をだんだんしなくなっていたので懐かしい気持ちにもなりました。これまで60カ国以上旅をしてきた僕でもバルカン半島は初めてだったので、面白かったです。頭で決めつけすぎずに、直感で生きるようにしている―印象に残っている場所があれば、教えてください。尚玄さんたどり着くまで長時間を要したからというのもありますが、やっぱりセルビアのKadinjača(カディンジャチャ)のスポメニックですね。霧の中から急に大きな物体が現れたときは圧巻でした。あとは、撮休のときに1人で行ったモンテネグロ。美しい景色が見れる湖畔でのんびりワインを飲んだりできて、すごく楽しかったです。監督この作品に映っている景色は、セルビアやボスニア・ヘルツェゴビナに住んでいる人でさえ行ったことのないような場所ばかり。実際、現地の方々からも見たことないと驚かれたくらいです。―監督は海外の俳優だけでなく、日本の俳優ともたくさん仕事をしてきていますが、どのような印象ですか?監督日本人のみなさんは、本当に真面目ですよね。ただ、それゆえに尚玄さんのように臨機応変に柔軟に対応できる方が少ないようにも感じている部分もあります。もちろんそこが日本人のいいところでもありますが、いろんな監督のスタイルや多様化に対応するためにも、つねにオープンでいることは大事だと感じています。尚玄さん確かにそうですね。俳優は準備しないと怖いものなので、気持ちはわかりますが、僕も仕事をするときは頭で決めつけずに、自分の直感でその場を生きるということを徹底しています。どんどん外に出て、未知のものと出会ってほしい―尚玄さんは最近父親になられましたが、そのことが心境や考え方に変化を及ぼしたこともあったのでは?尚玄さん父親になったことは、僕のなかでもかなりの転換期だと感じています。これまでは自分の人生の尺度で生きていましたが、いまは自分が死んだあとのことまで考えるようになりました。ニュース1つとっても、物事の見方がすごく変わった気がします。―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。尚玄さんバルカン半島には独自の美しい文化を持っている国々がたくさんあるので、ぜひそのあたりを見ていただきたいです。ただ、そのいっぽうで戦争の傷跡が残っている部分があるのも事実。そういった歴史を少しでも知ってほしいですし、リムの作品では一緒に旅をしているような臨場感も受け取っていただきたいです。監督これからの時代はどうなるのかまったく予想できませんし、いい方向には行かないこともあるかもしれません。それでも目の前にあるものを1つずつクリアしながら生きていくしかないので、みなさんもいまの瞬間を生きることを大事にしていただきたいです。最近の若い世代は考え方が内向きになっている印象を受けるので、もっと他の国の歴史や文化に興味を持ち、心を開いてもらえたらいいなと。僕自身は旅先で知らない人と話したりすることでインスピレーションをもらっているので、みなさんもチャンスがあれば、どんどん外に出て未知のものと出会ってほしいです。インタビューを終えてみて…。息のあったやりとりに、お互いへの信頼が伝わってきたリム監督と尚玄さん。撮影の裏側には驚くことも多かったですが、そういった関係性だからこそできた作品だと改めて感じました。今後おふたりがどんな挑戦をされるのか、次回作にも期待が高まるところです。たどり着いた先に待ち受けるのは希望バルカン半島の壮大で美しい景色に圧倒され、ミステリアスなストーリー展開にもどんどん引き込まれていく本作。さまざまな文化に触れられるだけでなく、主人公たちと一緒に旅をしている感覚を味わえる必見作です。写真・園山友基(リム・カーワイ、尚玄)取材、文・志村昌美ストーリー旅先のバルカン半島で、エヴァは映画監督のジェイと出会い、一緒に映画製作を始める。ところがその後、世界はパンデミックと戦争に襲われてしまう。そして、ジェイはエヴァにメッセージを残し、姿を消すのだった。エヴァはジェイを探すため、再びバルカン半島を訪れると、かつて自分が出演した映画が『いつか、どこかに Somewhen, Somewhere』というタイトルで完成していたことを知る。エヴァがセルビアや北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナを巡るなか、ジェイの過去と秘密が明かされることに…。誘い込まれる予告編はこちら!作品情報『すべて、至るところにある』1月27日(土)よりイメージフォーラム他全国順次公開配給:Cinema Drifters(C) cinemadrifters写真・園山友基(リム・カーワイ、尚玄)
2024年01月26日KADOKAWAは3月14日、俳優の中村倫也さんによる書籍『THE やんごとなき雑炊』を発売します。同書は、料理好きとして知られる人気俳優・中村倫也さんの「初の料理本」。中村さんが「雑炊」を作りながら「雑談」をし、その調理過程からイマジネーションしてショートエッセイを執筆する「雑炊×雑談×俳優」を実現させた雑誌の連載企画「中村倫也のやんごとなき雑炊」を書籍化しました。一般的な「雑炊」の想像をはるかに超えるスペシャルな20の雑炊レシピと、調理中にふいに出てきた中村さんの言葉の数々、その折々に綴ってきたエッセイが楽しめる一冊です。「簡単でおいしい!」に加え、「中村倫也の生き方の工夫や考え方」までも知ることができます。収録している雑炊レシピは、「中国の、田舎町の、怖い先輩雑炊」「あの波に消えた、ビーチボールは。」「泳げ!たまごごい雑炊」など。中村さんは書籍化にあたり、下記のようなコメントを寄せています。「ものづくりをする上で、制約を大切にしている。これは私が定められた枠組みの中で求められる発想力にこそ創造性を感じるタイプだからだ。何でもアリと言われると、逆に物足りない。工夫が必要な環境でこそ「人間」が見えてくる。そんな期待を込めての”雑炊”縛り。なんとも絶妙な枠組みだ。囲いの中で、どんな料理が生み出されるのか。どんな言葉が溢れ出るのか。頭と心だけでなく、舌でも楽しめる書籍。ぜひ手に取っていただければ幸いです」■書誌情報書名:THE やんごとなき雑炊著者:中村倫也監修協力:タカハシユキ定価:1,870円※全国の対象書店、Amazon.co.jp、楽天ブックス、セブンネット、HMV&BOOKS onlineでは、それぞれ購入特典付き(フォルサ)
2024年01月23日2021年の『春原さんのうた』でマルセイユ国際映画祭のグランプリを含む3冠を獲得するなど、国内外で高く評価されている杉田協士監督。昨年の東京国際映画祭でも注目を集めた最新作『彼方のうた』が、まもなく公開を迎えます。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。眞島秀和さん【映画、ときどき私】 vol. 630映画やドラマ、舞台などで幅広い活躍を見せ、今年も主演ドラマ「#居酒屋新幹線2」や「おっさんずラブ-リターンズ-」といった話題作への出演が控えている眞島さん。劇中では、主人公の春と過去にある関わりがあった剛を演じています。そこで、現場の様子や年齢を重ねていくなかで感じる心境の変化、癒しの時間に欠かせない存在などについて語っていただきました。―杉田監督とは、以前からお付き合いがあったそうですが、今回ご一緒されてみていかがでしたか?眞島さん杉田さんとはお互いに20代の頃から一緒に映画作りをしてきましたが、杉田さんの現場はほかで味わうことのないような穏やかで優しい時間がつねに流れている印象。いつ始まったかもわからないようなとても不思議な雰囲気なので、撮影に参加した感覚もないくらいです。しばらく会えていなかった時期もあったので初日は驚きもありましたが、久々に再会したときに「こういう作品を作るところに杉田さんはたどり着いたんだな」と感慨深い気持ちにもなりました。昔を思い出してノスタルジックな気持ちになった―ということは、役作りもこれまでとは違う部分もあったのでしょうか。眞島さん僕はもともとたくさん準備していくタイプの役者ではありませんが、今回はいつも以上に「撮影現場に行くんだ」という意識をなるべく持たないほうがいいかなと。特に、普段お芝居をされていない方々にもご協力いただいて撮影した作品だったので、スッとお邪魔するような感じで行くようにしていました。―なるほど。そのなかでも印象に残っていることはありますか?眞島さん実は、撮影場所がたまたま僕が若い頃によく行っていた場所の連続だったので、それはすごい偶然でしたね。役者を目指し始めたばかりで何も進まないもどかしい時間を過ごしていた街の景色のなかにいるのは不思議でしたし、ノスタルジックな気持ちにもなりました。―本作では、悲しみを抱えている人同士が支え合っていく姿が描かれていますが、ご自身にもそういう経験や転機となった出会いなどはありますか?眞島さん人生ってそういう出来事の連続じゃないかなと思います。作品でいうならドラマ「海峡」や「なぜ君は絶望と闘えたのか」のように、自分ができるすべてを出し尽くせるような作品に節目節目で出会えていることも本当にありがたいことです。「人生は夕方が一番いい」という言葉の意味がわかった―今年で俳優デビューから25年を迎えましたが、心境の変化などはありますか?眞島さん「現場であと何回こういう喜びが味わえるのかな」とか、「両親や友達にあと何回会えるんだろう」とか、そういう感覚が強くなってきたような気がしています。これが年を重ねていくうえで起きる変化のひとつなのかなとも思いますが、そのおかげでいまは瞬間瞬間がこれまで以上に愛おしく感じるようになりました。最近は大したことじゃなくても楽しめるようになってきたので、景色も前よりきれいに見えるんですよね。これってすごく素敵なことだなと思っています。―それは47歳になったいまだからこそわかることであって、20代や30代の頃には気付けなかったと。眞島さんそうですね。そういう思いが顕著になってきたこともあって、前に朗読を担当した小説「日の名残り」のなかに出てくる「人生は夕方が一番いい」というセリフの意味もちょっとだけわかってきました。いろんなことを逆算するようになってからのほうが楽しくなってきたので、これからも目の前のことを一つ一つしっかりとやりつつ、より密度の濃いものにしていきたいなと考えています。愛犬との散歩の時間が何よりも癒し―お忙しいなかで、日々の癒しとなっている時間はどんなときですか?眞島さんそれは、仕事が終わって家に帰ってきてから行く愛犬との散歩の時間です。特にハードルの高い作品のときは本当に助けられているので、毎日「長生きしてくれ」と懇願しています(笑)。少し前に、ギネス世界記録で世界最高齢だったワンちゃんが31歳で亡くなったニュースを見て、「そこを目指そうね」って話しているところです。最近はほかにハマっていることもまったくなく、ワンちゃん一筋ですね(笑)。―そんなふうに、仕事を忘れられるような時間は大事ですよね。眞島さんあと、お散歩をしていると季節の移り変わりや近所のいろんな変化にも気付けるのがいいなと。この前も、家の近くに交番ができたので、おまわりさんにうちの子を紹介してきました。―おまわりさんにワンちゃんを紹介されたんですか!?相手は眞島さんだと気が付いていたのでしょうか…。眞島さんいや、それはないですね。ちなみに、なぜ紹介したかというと、うちの子は光る首輪をつけているんですけど、おまわりさんたちが「あの光っているのは何だ!」みたいな感じで警戒して立ち上がっているのが見えたんですよ(笑)。なので、「この色はうちの子ですよ」というのを知ってもらおうと思って、紹介しました。仕事で適当にやってきたことはひとつもない―お仕事とワンちゃん以外に、いま興味を持っていることや挑戦してみたいことはありますか?眞島さんバイトしたいなと思うことはありますね(笑)。―それは意外ですが、どんなバイトをしてみたいですか?眞島さんバーのカウンターに立ってみたりとか、飲食業がいいなと思いますね。活気のあるお店の前を通ると、威勢よく声を出しながら働いてみたいなと考えることがよくあるので。―眞島さんがいたら驚きですが、楽しそうですね。では、ご自身が仕事を続けるなかで貫いてきたことがあれば、教えてください。眞島さん特にそういうものはないですが、何に対しても本当に一生懸命やってきたつもりなので、適当にやってきたことはひとつもないはずです。それくらいじゃないかなと思います。「いまが大変でも年月がたてば大丈夫」と伝えたい―「色気がすごい俳優ランキング」で1位に輝くなど、近年はそういう観点で注目されることも増えているようですが、ご自分ではこの状況をどのように受け止めていますか?眞島さん「そう見える人もいるんだな。ふーん…」くらいの感じですね(笑)。でも、僕らの仕事というのは、作品としてのエンターテインメントを提供するだけでなく、客観的にどう見えるかを楽しんでもらうのもひとつですからね。なので、みなさんにとってそれが楽しいことに繋がっていればいいなと思っています。―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。眞島さん女性だけでなく、男性にも言えることですが、20代から30代にかけては1つのターニングポイントみたいなところがあるかもしれません。でも、いま抱えている悩みや将来に対する不安というのは、ある程度年月がたったら、全然大したことじゃなかったなと思うことがほとんどです。僕にもそういう時期がありましたが、一生懸命やっているだけで何とかなりましたから。もし、プライベートで悩みがあるのなら、仕事をがんばっていればいつの間にか時間が過ぎて気にならなくなるので、「いまが大変でも大丈夫ですよ」というのを伝えたいです。インタビューを終えてみて…。大人の色気を漂わせつつ、落ち着いた雰囲気で一つ一つ丁寧に答えてくださる眞島さん。なかでも、仕事に対する真剣な表情と目尻を下げて愛犬について話されるときのギャップがとても素敵でした。本作では、眞島さんならではの存在感を放つ佇まいが印象的なので、ぜひスクリーンでご覧ください。内に秘めた悲しみにそっと寄り添う多くの言葉で語ることなく、観る者の心に訴えかける本作。杉田監督ならではの余白と余韻が生み出す、温かくて不思議な世界観に包み込まれる1本です。写真・園山友基(眞島秀和)取材、文・志村昌美ストーリー駅前のベンチに座っていた雪子に、書店員の春は道を尋ねるふりをして声をかける。春は雪子の顔に見える悲しみを見過ごせずにいたのだ。またあるときは、剛の後をつけている春。剛の様子を確かめる日々を過ごしていた。実は、春が子どもだった頃、街中で見かけた雪子や剛に声をかけた過去があったのだ。春の行動に気づいていた剛が春の職場を訪れ、春自身がふたたび雪子に声をかけたことで、それぞれの関係が動き出す。そして春は2人と過ごすうちに、自分自身が抱えている母親への思いと悲しみの気持ちに向き合っていくことに…。引き込まれる予告編はこちら!作品情報『彼方のうた』1月5日(金)よりポレポレ東中野、渋谷シネクイント、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開配給:イハフィルムズ(C)2023 Nekojarashi Inc.写真・園山友基(眞島秀和)
2024年01月04日講談社は2024年2月3日、『橋本環奈写真集カレイドスコープ』を発売します。同誌は、橋本環奈さんの25歳の誕生日を記念して企画された5年ぶりとなる3rd写真集。発売日は、橋本さんの誕生日となります。写真集はバカンスシーズンである9月のバルセロナをロケ地に、橋本さんのセルフプロデュースのもと作られました。事前に打合せを重ねて衣装19ポーズを決定し、ロケ場所にこだわって撮影した1枚1枚を厳選したものを、1冊に集約しています。朝焼けのビーチの駆け抜けや、世界遺産の旧市街の散策、バルセロナ名物でもあるホテルのルーフトッププールでのファッションシュートの挑戦など、スペインの夏の日差しとともに撮影を楽しむ姿が収められました。さらに、バルセロナから2時間の場所にある海辺の街“カダケス”の小さな別荘でのリラックス感あふれるシーンも撮影。今の橋本環奈さんの色とりどりの魅力を余すところなく捉えた特別な一冊です。気になる方はぜひお手に取ってみてくださいね!■書誌概要書誌名:橋本環奈写真集 カレイドスコープ価格:2,970円判型:A4ページ数:144ページ※オール撮り下ろし※本編未収録カットのポストカード封入(全6種のうちランダムで1枚封入)発行元:講談社(フォルサ)
2023年12月30日