コンテンポラリーダンスと聞くと、高尚で少し難しい印象を受けるかもしれない。しかし、それがサーカスであれば、なんだか楽しくてワクワクするような響きに変わる。フィリップ・ドゥクフレの作る舞台には、そんな、次に何が起こるかわからないサーカスの持つワクワク感と賑やかさが詰まっている。ユーモアと驚きと美しさが詰まった、まるで魔法のような小品集。ドゥクフレは、フランス生まれの振付家で演出家。これまでにもフランスでおこなわれた‘92年のアルベールビルオリンピックの開会式と閉会式をはじめ、シルク・ドゥ・ソレイユの公演やパリの老舗キャバレーのショーなどの演出を幅広く手がけ、世界中にファンを持つ人気クリエイター。その人気の理由はたくさんあるけれど、何よりも飽きっぽい子供でも惹きつけられる楽しさとユーモア、さまざまなエンタメを知り尽くした大人でも驚くようなアイデアあふれる仕掛け、そして洗練されたビジュアルセンスで、観客層を問わず楽しませてくれるのが魅力だ。上の舞台写真をよーく見てほしい。逆光にひとりの女性の影が浮かび上がる。美しく均整のとれた体がしなやかに動き出したかと思うと、次の瞬間、頭の影がふたつになる。思わぬ不意打ちに、一瞬はギョッとするけれど、次第にその不可思議な世界に引き込まれ釘付けになってしまう。照明や映像、セットや小道具など、他にもさまざまな舞台効果を使った作品は多く、どれも次々と見たこともないようなトリッキーなシーンが展開されるけれど、一番の見どころは、ダンサーたちの肉体の美しさと、そのテクニックの高さだ。CGが当たり前の時代、どんな超絶的な場面も映像でならば形にできてしまい、そこに驚きはない。けれど、ハイテクな仕掛けや映像だと思って見ていたものが、じつは人の体だったとわかった瞬間の驚きと感動といったら!そんな楽しさがあらゆるところにちりばめられているのだ。今回は、昨年フランスで初演された新作をいち早く日本で上演するオムニバス公演。前述の幻想的な影絵の場面もあれば、架空の部族のダンスや、ダンサーたちが空中で繰り広げるパ・ド・ドゥ(男女2人のダンス)なども。なんとそのなかには、日本好きとして知られるドゥクフレが日本文化にインスパイアを受けた作品もあり。それぞれ違うアイデア、違うテイストで繰り広げられる全5作の短編集だけに、初のドゥクフレ体験にぴったり。舞台全体を使って目の前で繰り広げられる魔法のような作品をぜひ堪能したい。フィリップ・ドゥクフレ カンパニーDCA『新作短編集[2017]』6月29日(金)~ 7月1日(日)与野本町・彩の国さいたま芸術劇場 大ホールS席6500円A席4000円ほか(すべて前売り、税込み)SAFチケットセンターTEL:0570・064・939北九州、びわ湖公演あり。TOP画像/©Charles Fregerその他3点/©Laurent Philippe※『anan』2018年6月20日号より。文・望月リサ(by anan編集部)
2018年06月16日『わたしは真悟』は楳図かずおの漫画を原作に、フランス人演出家・振付家フィリップ・ドゥクフレが演出を手がける意欲作だ。ドゥクフレはアルベールビルオリンピックの開閉会式を30歳で手がけ、現在、米ブロードウェイで上演中のシルク・ドゥ・ソレイユ『PARAMOUR』の演出も手がけている。12月2日、KAAT神奈川芸術劇場で行われたゲネプロの様子をレポートする。ミュージカル『わたしは真悟』チケット情報ミュージカルと銘打っているが、古典的なミュージカルとはひと味もふた味も違う。独創的なダンスと音楽、芝居が見事なバランスで三位一体となった、今までにない味わいの作品といえるだろう。物語は小学生のふたり、ランドセル姿の真鈴(高畑充希)と悟(門脇麦)が東京タワーのてっぺんに登るところから始まる。結婚して、子供を作ろう。ふたりの無垢な想いは、タワーから飛びおりるという、とんでもない行動へと駆り立てる。街の人々の慌てふためく様子が、ドゥクフレらしい直線的な群舞で表され、緊迫した音楽が冒頭からググッと観客を物語に引きずり込む。町工場では、アーム型産業用ロボット(成河)が命を得る。赤いロボットはダンサーにより動かされるが、まるで生き物のよう。成河はロボットの心を演じ、その身体表現が胸に迫る。ロボットはしずか(大原櫻子)らの助けを得て壊そうとする人たちから逃れ、自分は何者なのかを探り始める。記憶を辿るうちに、真鈴と悟の子・真悟であることを確信する。しかし真鈴はロンドンの病院に入院し、フィアンセを名乗るロビン(小関裕太)と会う。悟も転居し、三者は離れ離れになっていた…。高畑は無邪気な子供から、思春期の繊細な少女へと変化する真鈴を熱演。高畑の可憐な歌声に、想像力が掻き立てられる。門脇は一途な男の子で、ごく自然体に見えるのが素晴らしい。手の振りなど原作漫画を思わせる動きが盛り込まれているのにも注目だ。大原はませた女の子役で魅了、歌手の時とは違う歌声がチャーミング。小関はストーカーのような男の役で、物語をダークに激しく彩った。成河はロボットながら、まっすぐで純粋。その秀でた表現力で抽象世界をリアルに伝えてくれる。踊りのダイナミックさ、ダンサーと一体化する映像はドゥクフレの得意技で、物語が宇宙規模の広がりを持つことを予感させる。音楽はデジタル中心だが、どこかほのぼのした味わい。オープンリール録音機が楽器として使われているのも効果的だ。子供と大人、コンピュータと人間、記憶と意識、テクノロジーと未来…。ドゥクフレは理屈では捉えきれない原作の凄みや煌めき、リスペクトをきちんと埋め込んだ上で、オリジナリティ溢れる舞台へと昇華させた。脱帽だ。公演は浜松、富山、京都を経て、2017年1月8日(日)から26日(木)まで東京・新国立劇場 中劇場にて。取材・文:三浦真紀
2016年12月06日