2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『リンツァートルテの想い出』をご紹介します。ツアーコンダクターの職について30年。あっという間に時が流れた。溢れんばかりの想い出が心に刻まれているが、中でも特に忘れられない出来事がある。オーストリアを巡るツアーで私はひとりの女性と出会った。彼女は80歳を過ぎていて、同行者はいなかった。その旅はすこぶる順調に進んでいたが、後半に差し掛かった5日目の午後、高速道路の事故渋滞で大幅に予定が狂ってしまった。オーストリア第3の都市・リンツでの観光は断念せざるを得なくなり、まっすぐホテルに入った。チェックインを済ませたあともロビーに佇んだままの女性の姿に気がついた私は、彼女のもとに近づき「どうかされましたか?」と声をかけた。彼女は固い表情のまま「無理を承知でお願いしたいことがあります…。リンツのお菓子であるリンツァートルテをどうしても買いたいのです…。私の長年の夢でした。どうかお願いします…」と言った。すぐさまフロントに行くと、「近くにパティスリーがあってそこで買えるけど、間もなく閉店時間だから間に合わないかもしれない…」と言われた。外はすでに真っ暗で小雪が舞い始めていた。あと、3分…、彼女の足では到底間に合わない。ヨーロッパではこういう場合、時間オーバーして対応してくれることは、まず無い。残念だけど諦めてもらうしかないか…。振り返った瞬間、まっすぐに向けられた彼女の瞳が私の心を別の方向に突き動かした。「約束は出来ませんが…いってきます」と告げると私は一目散に駆け出した。店に着いたのは、正に店員が鍵をかけようとしていた時だった。「リンツァートルテをください。お願いします」大声で叫ぶ私に、店員は無情にも首を横にふると「また明日」と言った。「明日はないんです。今しか…今しかチャンスはないんです。お願い、リンツァートルテを!お願いです…」すると店の奥から店主らしき年配の女性が顔を覗かせ「こんなことは初めてよ」と肩をすくめて笑いながら私を店に招き入れた。ホテルの外で私の帰りを待っていた彼女は、両手にかかえた大きな箱を見つけると満面の笑みで私を抱き寄せ「ありがとう。本当にありがとう」と何度も繰り返した。言うまでもなくリンツは彼女にとって特別な場所だった。不慮の事故により、30歳という若さでこの世を去った夫とリンツでリンツァートルテを食べる旅を計画していたことを、あとで聞いた。「50年かかったけど漸く叶ったわ」とガラスが割れたままの遺品の腕時計をいとおしそうに見つめていた。バスドライバーに頼み込み、翌朝30分早くホテルを出てリンツの街並みを車窓から眺めた。前日の雪がウソのようにスッキリと晴れた青い空がどこまでも広がっていた。帰国して数日後、私は思いがけず彼女から配達物を受け取った。「旅のお礼に、プロのパティシエとして心を込めて焼きました。プロの添乗員さんへ」というメッセージが添えられたリンツァートルテは、本当に美しく、そして、美味しかった。現在私の仕事は新型コロナの影響で100%止まってしまい、先も読めない状況下にある。世の中のシステムも大きく変化した。アフターコロナでは、ツアーの形態も大きく様変わりするかもしれない。それでも私は旅の仕事を続けていきたい。人が人を思う気持ちの尊さは決して色褪せないと信じている。時間がある今こそ、リンツァートルテを焼いてみようと思う。20年前の記憶を呼び起こしながら…。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『リンツァートルテの想い出』作者名:一期一会受賞作品の発表の場として、初の動画配信を実施!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の受賞作品が決定しました。今年は、授賞式の代わりに初となるYouTubeを利用した、特番『grape Award 2020 受賞作品発表特番~心に響くエッセイコンテスト~』を配信します!特番『grape Award 2020』の配信が決定!福山潤や石川由依らの朗読も心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[文・構成/grape編集部]
2020年12月14日「目で見たものだけがリアル」こんな考え方って、どうでしょう。いろんな解釈があるとは思いますが、少なくとも、大切なものを見落としてしまったとき、それは決して、「なかったこと」にはならないんだと思います。例えばデートでスマホを触っているとき、恋人が見せたある大切な表情を見落としてしまうかもしれませんが、これはもちろん、なかったことにはなりません。相手にとってはたしかに「あった」のに、それに気付かず、「あった」ことすら知らないまま、自分だけが過ごしていくのでしょう。■だいたい、悲しい目で見てる「彼女がスマホをめっちゃ触る人で、ごはん食べてるときとかも家にいるときもだいたいスマホ片手に持ってて、もう癖なんだと思うから、半分諦めてるけど、でも、俺は目の前でスマホの画面に夢中になってる彼女を見ながら、すっげー冷めた目をしてると思うよ。諦めてるけど、受け入れてるわけでもないからね」(フリーランス/23才/男性)それが癖になってる人は、それはそれで慣れてしまって、スマホを見ながら返事したり普通に会話とかできると思うんですけど、ただ、好きな人から自分に対して向けられている視線。これには、気がついていないと思うんです。「目は口ほどに・・・・・・」とか言いますけど、会話はまず、目と目。極端な話、好きな人同士なら、目だけでも十分に心の会話ができるわけですよね。スマホは、その大事な目の会話を奪います。しかもおまけに、彼から降り注がれるのは愛情のこもった目線ではなく、悲しい目線。「どうして俺といるのに、俺を見てくれないのかな・・・・・・」そんなふうに思わせてしまっているのにもかかわらず、そのことに気付くことすらできていない「スマホ眺めタイム」は、まさに失われた時間。デートしてるのに、デートしてない時間なのかもしれません。■「いつでも」と「今しか」「スマホ触りすぎて彼氏に怒られちゃって、なるべく見ないようにした。最初は見たくてうずうずしたけど、ぶっちゃけ、デート終わってからスマホを見ても、緊急の連絡なんて来てないんだよね、当たり前だけど・・・・・・」(受付/24才/女性)そもそもを言えば、デート中にスマホを見る「必要」ってないはずです。スマホを見る必要っていうのは、「今スマホを見なければいけない」ということ。デート中にそんなことって、なかなかありませんよね。スマホの先には、無限のインターネットが広がってますので、LINEに限らず、ネット記事とか、その気になればいつまでもどこまでも、楽しい暇つぶしがいくらでも見つかります。でもそれ、結局「暇つぶし」なんですよね。いつでも、暇なときに見て楽しむことができる遊びがスマホには詰まっているけど、どれをとっても、今この瞬間しか味わえないデート中の会話や彼の観察に勝るものはありません。「いつでもできること」と「今しかできないこと」。このふたつははっきり分かれていて、そのこともわかってるはずなのに、「いつでも」を「今しか」に侵入させてしまうのって、「今しか」をないがしろにしてしまうことにほかなりません。**ただ、スマホを完全に禁止とかする必要まではなくて、「いつでも」を「今しか」の楽しみ方に変換することもできますよね。つまりは、簡単にいえば、スマホを自分ひとりじゃなく、ふたりで一緒に見るに変えるだけでも、それは可能です。いつでもできる暇つぶしも、ふたりで一緒にすれば、今しかできない暇つぶしに変わりますよね。**スマホをいじる人は、いじらない人から見て、はるかに「いじりすぎ」に映ってしまうということだけは、ぜひ覚えておいてください。そして、デート中にひとりでやってしまっている暇つぶしと、それと同時に見逃してしまっている相手の悲しい表情を、少しでも減らせるように。(遣水あかり/ライター)(ハウコレ編集部)
2017年12月31日2017年4月2日まで開催されている、開館記念展「すみだ北斎美術館を支えるコレクターピーター・モースと楢﨑宗重二大コレクション」では、北斎画のコレクターとして知られる二人のコレクションを大公開しています。北斎コレクター珠玉のアート作品を鑑賞できるのは今だけ!繊細なため徹底した管理が必要な浮世絵。その品質を保護する目的から、期間を区切って作品を展示。そのため、現在企画展で展示されている作品を次回いつ一般向けに展示されるかは不明なのだとか。現在開催されている企画展では、世界有数の北斎作品コレクターとして知られるピーター・モース氏と、浮世絵研究の第一人者である楢﨑宗重氏のコレクションの一部を展示。なかでも、モース氏の「富嶽三十六景武州玉川」は、多摩川の川面が波打っている様子を、絵の具を付けずに摺る「空摺り」によって、凹凸感を出す技法が見て取れるレアな作品です。北斎画だけじゃない! 見逃せない名画がズラリもう一人のコレクターは楢﨑宗重氏。長年の研究活動のなかで集められた浮世絵をはじめとする、多くの作品を美術館に一括して寄贈しました。資料は美術史的に大変価値のあるもの。とりわけ肖像画「三宅康直像」は、明治期に日本人として近代の洋画を研究した高橋由一が手掛けた、美術史的にも貴重な作品です。日本が誇るアーティストの名画を間近で鑑賞できる貴重な機会をお見逃しなく!取材・文/末吉陽子スポット情報スポット名:すみだ北斎美術館住所:東京都墨田区亀沢2-7-2電話番号:03-5777-8600
2017年03月26日