東京大学(東大)は3月15日、ピロリ菌タンパク質「CagA」の発がん生物活性を抑制する酵素として「SHP1」を同定し、またエプスタイン・バールウイルス(EBウイルス)を感染させた胃の細胞ではDNAメチル化によりSHP1の発現が抑制され、CagAの発がん活性が増強することを見出したと発表した。同成果は、東京大学大学院 医学系研究科 畠山昌則 教授、紙谷尚子 講師、千葉大学大学院 医学系研究科 金田篤志 教授、東京大学大学院 医学系研究科 深山正久 教授、瀬戸泰之 教授らの研究グループによるもので、3月14日付けの英国科学誌「NatureMicrobiology」オンライン版に掲載された。cagA遺伝子を保有するヘリコバクター・ピロリの胃粘膜慢性感染は、胃がん発症の最大のリスク因子となる。一方、約10%の胃がん症例では、cagA陽性ピロリ菌感染に加え、EBウイルスが胃がん細胞に感染していることが知られている。しかし、ピロリ菌とEBウイルスの共感染が胃がんの発症に及ぼす役割については、これまで研究されていなかった。胃上皮細胞に進入したCagAは、チロシンリン酸化を受けた後、チロシン脱リン酸化酵素(ホスファターゼ)「SHP2」と特異的に結合し、SHP2を異常活性化することで胃がんの発症を促すと考えられている。このSHP2は、脱リン酸化酵素であるにもかかわらず、CagAを脱リン酸化する能力を持っていない。同研究グループは今回、CagAを脱リン酸化する酵素としてSHP2の兄弟分子であるSHP1を同定。CagA-SHP1複合体形成によりSHP1が活性化されることを明らかにした。さらに、CagAとSHP1を共発現させた細胞では、チロシンリン酸化依存的なCagAの発がん生物活性が抑制されることがわかった。これらの結果から、胃上皮細胞内におけるSHP1とSHP2の相対的な発現レベルが、ピロリ菌CagAの発がん活性を規定することが明らかとなった。また、EBウイルス陽性胃がんの特徴として、感染した胃上皮細胞のゲノムDNAに広範なメチル化が誘導されることが知られていたが、今回、CagAの発がん活性に関わる宿主細胞内分子に着目し、EBウイルス感染胃上皮細胞株におけるゲノムのメチル化解析を行ったところ、EBウイルス感染によりSHP1遺伝子のプロモータが高度にメチル化されることが明らかになった。また同メチル化の結果、SHP1mRNAならびにSHP1タンパク質の発現が低下した。そこで、EBウイルス非感染胃上皮細胞ならびにEBウイルス感染胃上皮細胞にcagA陽性ピロリ菌を共感染させたところ、EBウイルス感染細胞においてピロリ菌タンパク質CagAの生物活性が大きく増大することが判明した。つまり、EBウイルスによるSHP1の発現抑制により、CagAの発がん活性が増強されたといえる。同研究グループによると、ヒトのがん発症における発がん細菌と発がんウイルスの連携を明らかにしたのは今回が世界で初めてだという。
2016年03月15日東京大学(東大)とNTTドコモ(ドコモ)は3月14日、2型糖尿病・糖尿病予備群を対象にスマートフォンアプリケーション「GlucoNote」による臨床研究を開始したと発表した。同臨床研究は、東京大学 医学部附属病院 22世紀医療センター 健康空間情報学講座 脇嘉代 特任准教授、同大学大学院 情報理工学系研究科 電子情報学専攻 相澤清晴 教授らの研究グループによって行われる。同臨床研究では、スマホを活用して生活習慣が改善するよう自己管理を支援すると同時に、生活習慣や在宅測定データの関係を明らかにし、さらなる適切な自己管理支援につなげることを目指していく。対象となるのは、研究参加に同意した2型糖尿病あるいは糖尿病予備群と診断された20歳以上の日本在住の方で、参加期間は最長5年間。参加者は、GlucoNoteを用いて、食事、運動、睡眠などの生活習慣や、体重、血圧、血糖値などの在宅測定データを記録し、いくつかの質問に回答。またヘルスケアアプリを経由して計測された歩数を記録する。なおGlucoNoteは、Appleが公開している医学研究用のオープンソース・フレームワーク「ResearchKit」を用いているという。同研究グループは今回の臨床研究について、規模の大きい対象者から長期間にわたって各種データと生活習慣に関連した情報を収集することによって、日常生活と糖尿病の関連性を明らかにすることが可能になるとしている。
2016年03月15日加熱する受験戦争をテーマにしたドラマが放送されるなどして、一躍有名になった「お受験」。何年かに渡って複数の教室に通わせ、家庭では子どもの生活態度に対して母親がこと細かく指摘。母親は子どものマネージャーのように日々付きっきりでサポート。このようなイメージが先行し、「専業主婦じゃないとお受験はムリ」という先入観が広がっているようにも感じます。しかし、実際のところはそんなことはありません。ここでは全10回にわたり、小学校受験について解説していきます。特に、共働き家庭に向けた情報を多く盛り込んでいきますので、小学校受験のメリット・デメリットをよくご理解いただき、子どもの将来を考える際のお役に立てればと願っています。○公立・国立・私立のメリット&デメリット初回は基本的な解説から。小学校には大きくわけて、「公立校」「国立校」「私立校」の3種類がありますので、その特徴やメリット・デメリットをお話していきましょう。公立校は最も一般的で、自宅から徒歩圏にあり、各地方公共団体の教育委員会が運営。受験をせずに入学できる小学校です。公立の良いところは、徒歩圏にあるため通学に負担がない、近所に友達ができるため学校外でも楽しく過ごせる、授業料が安い、制服や指定用品が少なく管理が楽、といったことがあげられます。一方、懸念すべき点としては、地域により学力が大きく異なる、担任等が転勤で変わりやすい、どのような家庭の子が集まるか入ってみるまでわからない、という点があります。国立校は国が運営しており、公立から選抜された先生が教鞭をとっています。文部科学省の教育研究フィールドでもあり、教育方針と選抜方針が年単位で変化することが大きな特徴です。入学するには志願と受験、そして抽選を通過する必要があり、また公立よりは広範囲ですが、学校ごとの指定学区域に居住している必要があります。良いところしては、経済的負担が少ないながらもある程度の環境が保障されている、先生の転勤が少ない、通学負担が軽いといったところです。一方、推薦による内部進学がないため、系列の附属中学に進学するにも受験が必要となります。また、文部科学省の方針や教育に関する研究内容がどう変化するか予測不能、抽選があるため受験準備をしても受けることすらできないことがある、以上が検討すべき点になります。私立校は学校法人が運営する小学校で、独自の教育理念のもと、独自の運営管理を行っています。入学するためには志願し、受験する必要があります。男子校・女子校もあり、宗教を持っている学校も多くあります。私立のメリットは、家庭が納得した方針の教育を選択できる(仮に宗教のある学校に入学しても、入信を強要されることはありません)、一定基準以上の家庭環境の子が集まる、学習準備の整った子のみのため入学直後からしっかり授業が始まる、先生の転勤がほぼない、学校によっては内部進学が可能となり、よほどのことがない限り受験なく進学が可能であることです。デメリットとしては、経済的負担が大きい、交通機関を利用した通学が多いため負担となる、受験準備が必要である、ということでしょう。ではどのような基準で私立小学校が合格を決めているかというと、両親に関しては、その学校の教育方針をよく理解した上で入学を熱望しているか、校風や教職員を重んじる意思があるか、家族の雰囲気は良好かを面接で見られます。面接がない学校に関しては、願書でこれらを確認しています。子どもに関しては、「指示を的確に理解し、忠実に実行する能力」と「机に向かった学習をし、多様な分野の能力を身につけているか」を試されています。一部ペーパー(筆記試験)を行っていない学校がありますが、試験内容を聞いていると、筆記試験という形態を取っていないだけで試験中に口頭試問が繰り返され、ルールを順守しながらも臨機応変に頭を使えていたりするかを見る行動を観察されていますので、いずれも時間をかけた訓練が必要となります。家庭での教育度合いや子どもの性格にもよりますが、理想は2年、どんなに短くても半年は準備に時間をいただきたいのが学習塾としての本音です。準備期間が短ければ短いほど習得を急ぐ必要のある内容が多いということになり、子どもへの負担も急激、かつ多大なものになり、試験本番で付け焼き刃が露呈するといったリスクも避けられません。しかし準備期間を長く取れれば、子どもに負担を少なく自然な形でたくさんのことをじっくり身につけて、応用するコツまで伝授することができます。小学校受験とは、それだけの時間と労力、費用をかけてもすべきことなのか。子どもにとって良いことなのか。お悩み解決の一助になれるよう、次回より私立小学校受験について詳しく解説していきます。※画像は本文と関係ありません。○著者プロフィール小学校受験向け幼児教室「クラリティー・キッズ」主宰五島 真知子自身が小学校受験を経験し、大学までの私立一貫校を卒業。大学時代に縁あって小学校受験塾(クラリティー・キッズ前身)で4年間アルバイトとして従事。大学卒業後は伊藤忠商事に総合職として約12年間勤務するも、結婚・出産・事故による負傷を経て退職。学生時代にアルバイトをした小学校受験塾の前オーナー引退に際して事業を継承し、現職。何事にも果敢に挑戦する意欲を持ち、目標を達成する為の努力を楽しむ心意気を持った輝く子どもを育成するため、教材作成から指導まで広範囲の指導を行う。
2016年03月11日東京大学(東大)は3月9日、ミューイーガンマ(μ→eγ)崩壊を4年間にわたり世界最高の実験感度で探索した結果、多くの理論予想に反して同崩壊は発見されず、ニュートリノ振動の起源となる新物理と大統一理論に厳しい制限を課すことになったと発表した。同成果は、東京大学素粒子物理国際研究センター 森俊則 教授、大谷航 准教授、高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所 三原智 教授らの研究グループによるもので、独科学誌「The European Physical Journal C」に掲載される予定。これまで標準理論を超える新しい素粒子理論として、大統一理論の研究が行われてきた。大統一理論によると、宇宙開闢期には素粒子の相互作用は統一されており、それが破れることによりインフレーションを引き起こして現在の宇宙が誕生したと考えられている。1990年代後半には、標準理論で禁止されているミュー粒子のミューイーガンマ崩壊は、大統一理論によって引き起こされることが指摘されている。一方、1998年のスーパーカミオカンデ実験によって発見されたニュートリノ振動現象は、ニュートリノが質量を持つことを明らかにした。ニュートリノの質量はほかの素粒子に比べて極めて小さなものであり、これはニュートリノがほかの素粒子とは異なるメカニズムによって質量を得たことを示唆している。このメカニズムは「シーソー機構」と呼ばれており、同機構によると、宇宙誕生直後には極めて重いニュートリノの仲間が存在。その崩壊によってその後宇宙は反粒子が消えて粒子だけになった可能性があり、ミュー粒子のミューイーガンマ崩壊は、重いニュートリノの仲間の存在が引き起こしているものと指摘されている。このように大統一理論やシーソー機構はミューイーガンマ崩壊を予言しているが、その確率はおおよそ1兆に1回程度であり、そのように小さな確率で起こる素粒子の崩壊を測った実験はこれまでになく、既存の素粒子検出器を使った方法では不可能だとされていた。同研究グループは今回、ガンマ線をこれまでにない精度で測定できる2.7トン液体キセノン測定器と、素早く大量の崩壊粒子を処理するための特殊な超伝導スペクトロメータを考案・開発することで、ミューイーガンマ崩壊を発見し、大統一理論とシーソー機構の証拠をつかむことを試みた。また、今回の研究のために必要な毎秒1億個近いミュー粒子を生成できる加速器はスイスのポールシェラー研究所(PSI)にしかないが、東京大学を中心とする日本の研究グループの実験提案がPSIに認められ、その後スイス・イタリア・ロシア・米国の研究グループが加わり国際共同実験「MEG」として研究を進め、2008年のパイロット実験の後、2009年終わりから2013年半ばまで約4年間にわたり断続的にデータを取得した。同データを用いて、およそ2兆に1回のミューイーガンマ崩壊を発見できる世界最高感度で探索したが、今回、理論による予想にもかかわらず、この探索感度をもってしてもミューイーガンマ崩壊の発見には至らなかった。この結果は、これまで考えられていたシンプルな大統一理論とシーソー機構のシナリオとは矛盾するもので、宇宙の始まりを記述する標準理論を超える新理論の可能性に関して、これまでにない厳しい制限を加えることになった。同研究グループは、今回のMEG実験の経験を活かしてアップグレード実験MEG IIの準備を進めている。MEG II実験では、MEG実験設計当時にはなかった新しく開発した測定器技術をいくつか採用して、MEGの約10倍の実験感度を達成できる見込みで、およそ25兆に1つのミューイーガンマ崩壊まで捉えることを目指している。新しい測定器は現在建設中。順調に行けば2017年に実験を開始でき、最終感度に到達するのに最低3年間のデータ取得を行っていくという。
2016年03月09日スーパーウェブが運営する中学受験の情報ポータルサイト「かしこい塾の使い方」は3月3日、中学受験を終えた家庭を対象とした調査結果を発表した。○最終的な受験校数は3~4校中学受験に向けての勉強方法を聞くと、「集団指導塾を利用」が8割超、「個別指導塾を利用」が3割、「少人数制塾を利用」「家庭教師を利用」が各1割程度と、計99%が進学塾や家庭教師を利用していた。中学受験にかかった費用は、「100万~200万円」が58%で最多。「かしこい塾の使い方」主任相談員で塾ソムリエの西村則康氏は「この金額は、大手塾に通った場合にかかる塾費用の相場と言えます」と話している。「200万円以上」は25%で、うち200万円台が2割、300万円が4割、350万円・400万円が各1割強。500万円以上も数件あり、最高額は600万円に上った。最終的な受験校数は、「3校」「4校」が23%で同率首位となり、計46%を占めた。次いで「5校」が18%、「2校」が15%、「6校」が10%となった。受験結果については、「とても満足」が34%、「満足」が42%と、計76%が「満足している」と回答。他方、「やや不満足」は16%、「不満足」は4%にとどまった。結果に満足している人からは「すべての受験校に合格できた」など、希望する結果が得られたからという声が多く寄せられた。調査期間は2016年2月13~21日、有効回答は2016年に中学受験を終えた133家庭。
2016年03月04日東京大学(東大) と言語交流研究所、および米マサチューセッツ工科大学(MIT)は2月18日、多言語の習得に関わる脳のメカニズムを解明することを目的に共同研究を開始すると発表した。同研究は、東京大学大学院総合文化研究科 相関基礎科学系 酒井邦嘉 教授およびMIT 言語哲学科 スザンヌ・フリン 教授らを中心に行われる。プロジェクト期間は5年間を予定。酒井教授は、人の言語処理の法則性を脳科学として実証する研究に取り組んでおり、これまでに、文法処理に特化すると考えられている左脳の前頭葉の一領域「文法中枢」の活動が、英語習得の初期に高まり、中期にはその活動が維持されるが、文法知識が定着する後期には活動を節約するように変化していることを明らかにしている。またフリン教授は、MITの同僚 ノーム・チョムスキー教授の学説に基づき、30年以上にわたって多言語獲得について心理言語学的視点から研究を行っている。今回の共同研究では、まずMRI(核磁気共鳴画像法)の技術を用いて、多言語の理解および習得中の脳の構造と機能について解析を行う。また、多言語教育を行う言語交流研究所が運営する「ヒッポファミリークラブ」の会員をはじめ、通訳者などの多言語習得者を対象に、言語学習者に見られる言語理解と発音把握などについて、多言語に触れた経験が脳に及ぼす効果を調査する予定となっている。100年以上前に中国のドイツ大使館で通訳として活躍した、60カ国語を話せる男性の死後脳において、大脳皮質の前頭葉にある「ブローカ野」の44野が左右で対象、45野が左右で非対称であったという研究結果が2004年に発表されている。酒井教授によると、44野が対象であることよりも45野がアンバランスであることのほうが、文法の成績に強く影響しているという。「しかしこの研究は死後の脳を使っている。今回の研究では、今現在生きている人の脳をMRIによって調べることで、脳の非対称性が言語能力にどのような影響を及ぼしているか調べていきたい」(酒井教授)またフリン教授は今回のプロジェクトについて、「第一言語の習得に関しては比較的多くのことがわかっているが、多言語習得に関する研究結果はほとんどない。今回の共同研究で多言語の環境にいる方のデータを解析することによって、脳がどのように働いているかということを解明していきたい。また、日本での研究を皮切りに、アメリカやメキシコ、韓国のヒッポファミリークラブ会員のデータも利用し、世界へと広げていければ」とコメントしている。
2016年02月19日海洋研究開発機構(JAMSTEC)と東京大学(東大)は2月1日、日本南岸を流れる黒潮やその東に続く黒潮続流といった中緯度域の強い海流の年々変動に「風の変動と無関係に生じる部分」があり、まったく同じ風の変動のもとで異なる海の循環が生じうることを発見した。これは、大気循環と同様、海洋循環にもいくつもの「並行世界(パラレルワールド)」が存在することを意味しているという。同成果は、JAMSTEC アプリケーションラボ 野中正見グループリーダー代理、東京大学 先端科学技術研究センター 中村尚 教授らの研究グループによるもので、2月1日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。今回、同研究グループは、初期値などにわずかなばらつきを与えて複数の数値実験を行う「アンサンブル実験」という手法を用いて、年々変動する「全く同一の」風を与えながら、風以外の条件をわずかに変え、海洋の循環を現実的に再現するため、JAMSTECのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」によるシミュレーションに着手した。アンサンブル実験は大気循環の研究分野ではよく用いられている手法だが、これを海流の年々変動研究に導入したのは同研究が初めてだという。この結果、「風の変動と関係なく海の中で勝手に起きる」変動が存在することが明らかになった。また詳しい解析から、黒潮続流の年々変動では「風の変動と無関係に生じる」変動量と「風の変動によって生じる」変動量がほぼ等しいことがわかった。これは、現実に観測されるのはひとつの状態でも、同じ条件下で異なる状態が起きていても不思議ではない、つまりパラレルワールドが存在しうることを意味する。いくつものパラレルワールドのどれが実現するかを予測することは不可能なため、黒潮続流には本質的に予測不可能な成分が半分程度含まれていることになる。このように予測不可能な成分を考慮し、できるだけ確からしい予測を実現するには、わずかに条件を変えた予測を多数行う手法「アンサンブル予測」が有効とされ、天気予報など大気循環の分野で用いられている。これまで海洋の年々変動は、基本的に風の年々変動によって生じるものと考えられていたが、海洋循環をより確からしく予測するためには「風の変動と無関係に生じる変動」の存在を加味した予測が不可欠であることが明らかになった。同研究グループは、今回の成果により海流予測の分野でもアンサンブル予測手法が導入され、気候予測や漁獲量予測の高度化に繋がることが期待されると説明している。
2016年02月02日東京大学(東大)は1月28日、自閉スペクトラム症の人は自閉スペクトラム症でない人と比較して不快と感じる対人距離が短いことを明らかにしたと発表した。同成果は、同大学 先端科学技術研究センター 浅田晃佑 特任研究員、熊谷晋一郎 准教授、同大学大学院 総合文化研究科 長谷川寿一 教授、および茨城大学、武蔵野東学園らの研究グループによるもので、1月27日付けの米科学誌「PLOS ONE」オンライン版に掲載された。自閉スペクトラム症は発達障害の一種で、コミュニケーションや対人関係において困難が見られることや同じ行動や興味へのこだわりが見られることにより診断される。自閉症、アスペルガー障害、広汎性発達障害、特定不能の広汎性発達障害と呼ばれていたものを含む診断概念となっている。今回の研究では、12歳から19歳の自閉スペクトラム症の人と自閉スペクトラム症でない人それぞれ16名(男性15名、女性1名)に対し、研究者が参加者に近付いた際にこれ以上近付かれると不快と感じる地点を知らせてもらい、次に参加者が研究者に近付いた際に参加者がこれ以上近付くのは不快だと感じる地点で止まってもらうという調査を行った。この結果、自閉スペクトラム症の人は、どちらの場合も自閉スペクトラム症でない人と比べて、不快であると感じる地点が研究者に近く、他者との対人距離を短く取る傾向にあることがわかった。また、自閉スペクトラム症の度合いが高いことと対人距離が短いことが関係していることから、対人距離には人によって差が見られることも明らかになった。さらに、対人距離を取る際のアイコンタクトの影響を調べたところ、研究者が参加者に近付く場合では、自閉スペクトラム症の人も自閉スペクトラム症でない人も、研究者がアイコンタクトを取ると、アイコンタクトを取っていないときに比べ、対人距離を長く取ったという。このことから、自閉スペクトラム症の人も自閉スペクトラム症でない人も、アイコンタクトの情報を対人距離の調整に利用していることがわかった。短い対人距離は他者への好意や親密性を表すため、今回の結果を踏まえると、自閉スペクトラム症の人は自分がほかの人と比べて対人距離が短すぎないか意識することで、コミュニケーションの相手に好意や親密性を示しているという誤解を与えることを避けられる可能性があるといえる。また、不快に感じる対人距離は人によって差があるという今回の結果から、自閉スペクトラム症の人も、自閉スペクトラム症でない人も、対人距離には人によって差があることを踏まえて社会生活を送ることで、よりよいコミュニケーションを行うことができると同研究グループは説明している。
2016年01月28日東京大学(東大)は1月25日、接触面の静止摩擦係数を検出するマイクロ触覚センサの開発に成功したと発表した。同成果は、同大学 IRT研究機構 下山勲 教授、同大学大学院 情報理工学系研究科 修士課程1年 岡谷泰佑 氏らの研究グループによるもので、1月24日~28日にかけて中国・上海で開催される国際学会「MEMS2016(The 29th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)にて発表される。これまでに、床面との接触力や滑りを計測するためのさまざまな触覚センサが研究・発表されているが、これらのセンサでは実際に足裏が滑り出さなければ、摩擦係数を計測することは困難だった。今回の研究では、高いピエゾ抵抗効果を持ち、高感度にひずみを検出することが可能なn+型シリコンをゴム材料中の複数点に配置することにより、センサを物体に押し付けただけでその表面の静止摩擦係数を検出することが可能となった。同センサを物体に押し付けると、センサ全体は滑らないにも関わらず、ゴム材料の端部分だけが滑り出し、左右方向に変形する。この左右方向への変形量は、ゴム材料を物体に押し付けた際の押しつけ力の大きさと物体表面の静止摩擦係数に依存するため、ゴム中に配置したn+型シリコン素子を用いて押し付け力と左右方向への滑り量とを検出・比較することで、物体との接触面の静止摩擦係数を計測できるという仕組みになっている。同技術により、靴裏と床との滑りやすさを検出して警告する靴や路面の滑りやすさを警告するタイヤの実現、ロボットの転倒防止などにつながることが期待されると同研究グループは説明している。
2016年01月26日東京大学(東大)は12月22日、4個の中性子だけでできた原子核の共鳴状態「テトラ中性子共鳴」を発見したと発表した。同成果は、東京大学 原子核科学研究センター 下浦享 教授、理化学研究所仁科加速器研究センター 木佐森慶一 日本学術振興会特別研究員、上坂友洋 主任研究員らの研究グループによるもので、2016年1月29日付けの米科学誌「Physical Review Letters」に掲載される予定。今回同研究グループは、エネルギー1500MeVの8Heのビームを液体ヘリウム4Heに照射し、二重荷電交換反応により生じる8Beから崩壊する2つのα粒子を、SHARAQ磁気分析装置を用いて精密分析。天然に存在する安定核を用いた通常の核反応では、ビームが持つ運動エネルギーを内部エネルギーに転換させる必要があるため、生成核へ大きな衝撃を与えるが、不安定核8Heの大きな内部エネルギーを用いることでほとんど衝撃を加えず、実験室中でほぼ静止した4つの中性子を生成し、共鳴状態「テトラ中性子共鳴」を発見した。発見された共鳴は、3つの中性子に同時に働く「三体力」を無視した従来の手法による理論的解析からは説明が困難なものであり、逆に共鳴のエネルギーはこの三体力の強さに制限を与えるものとなる。さらにこの三体力は中性子物質の状態方程式を決定づけるパラメータであり、今回の発見は、主に中性子から構成される「中性子星」の構造解明への道をひらくものと期待されている。
2015年12月22日東京大学(東大)は12月9日、溶媒として水を用いてあえて“溶けない”状態を作り出すことにより、触媒的不斉合成が円滑かつ高立体選択的に進行することを発見したと発表した。同成果は、同大学大学院 理学系研究科 小林修 教授らの研究グループによるもので、12月8日付けの米科学誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版に掲載された。同研究グループは今回、水に溶けないキラル銅触媒を開発し、同触媒と脂溶性の基質を水中で攪拌することで、高い選択性を得る触媒的不斉合成を成功させた。従来、化学反応は、反応基質や触媒を溶解して行うのが常識とされており、多くの有機化学反応においては、反応基質を溶かすために有機溶媒が用いられてきたが、今回の研究では、溶媒として水ではなく有機溶媒を用いると反応は全く進行せず、アルコール中では反応が若干進行したものの立体選択性は発現しなかった。また溶媒を用いない条件でも反応の進行は見られなかった。また、水-テトラヒドロフラン混合溶媒系を用いて水の量がどのように反応に影響するかを調べたところ、溶けている反応では立体選択性がほとんど発現していないのに対し、触媒や基質の不溶性が高まるにつれて鏡像異性体過剰率の増加傾向が確認された。この触媒系はすでに報告されている触媒と比べて基質の適用範囲が広く、またグラムスケールでも問題なく進行する。反応後は遠心分離操作のみで生成物の単離と触媒の回収を達成することができ、触媒の再使用も可能であるという。同大学によると、なぜこのような現象が起こるかについては不明であり、今後は詳細な反応機構の解明が必要であるとしている。
2015年12月09日東京大学(東大)、国際電気通信基礎技術研究所、および北海道大学は12月9日、人間の脳における短期と長期の運動記憶を画像で捉えることに成功したと発表した。同成果は、Northwestern University Feinberg School of Medicine スムシン・キム 研究員、北海道大学大学院文学研究科 小川健二 准教授、University of Southern California Marshall School of Business ジンチ・レヴ 准教授、University of Southern California Division of Biokinesiology and Physical Therapy ニコラ・シュバイゴファー 准教授、東京大学大学院人文社会系研究科 今水寛 教授らの研究グループによるもので、12月9日付けのオンライン科学誌「PLOS Biology」に掲載された。試験前の一夜漬けのように、早く覚えたことはすぐ忘れてしまうが、自転車の乗り方のように時間をかけて練習したことはずっと覚えているといったように、短期と長期の運動記憶が脳内に存在することは、これまで理論的に示されていた。しかし、脳のどのような場所が短期と長期の運動記憶に関係しているのかはこれまで明らかになっていなかった。今回の研究では、21名の実験参加者がfMRI装置の中でジョイスティックを操作するという課題を実施。この行動データを、段階的にさまざまな時間スケールの記憶を備えた数理モデルを利用して解析した。また、モデルから得られたさまざまな記憶の時間変化と同じような変化をしていた脳の場所はどこにあるかを、回帰分析という統計手法を用いて調べた。この結果、数秒で学習して数秒で忘れる非常に短期的な記憶には、前頭前野や頭頂葉の広い場所が関係していること、数分から数十分で学習して忘れる中期的な記憶は、頭頂葉の中でも限られた部分が関係していること、1時間以上かけて学習し、ゆっくり忘れる長期的な記憶は小脳が関係することなどが明らかになった。今回開発された方法は、脳の内部状態を推定してどれくらい長期に残る記憶なのかを予測することができるため、脳の状態をモニターしながら、練習効果が長く残る効率的なトレーニングやリハビリを行うことが期待されるという。
2015年12月09日東京大学(東大)は11月9日、グラファイトを添加したアクリル系ポリマーを用いることで、高い感度と速い応答速度を両立したプリント可能なフレキシブル温度センサーの開発に成功したと発表した。同成果は、東大大学院工学系研究科電気系工学専攻 横田知之 特任助教、染谷隆夫 教授らの研究グループによるもので、11月9日付の米科学誌「アメリカ科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS)」オンライン版に掲載された。グラファイトなどの導電性物質を添加したポリマー中で、温度の上昇に伴って電気抵抗が増加する材料は「ポリマーPTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)」と呼ばれ、温度センサーや加熱防止のための保護素子への応用が期待されている。しかしこれまで、ポリマーPTCを使って人の体温付近における感度0.1℃以下の優れた温度応答性や、繰り返し温度を上げ下げすることに対する高い再現性を実現することは困難だったという。また、くにゃくにゃと曲げられる機械的な耐久性、印刷のような簡単なプロセスによる加工のしやすさを同時に実現する材料も報告がなかった。今回の研究では、温度センサーのインクとなるPTCポリマーを合成する際に「オクタデシルアクリレート」と「ブチルアクリレート」という2種類のモノマーの重合割合を変化させる手法を用いることによって、温度センサーの応答温度を25℃~50℃といった人の体温付近に調整することが可能となった。また、従来のポリマーの分子量を変化させることによって応答温度を調整する手法では応答温度の制御性が良くなかったが、今回の手法により0.02℃という精度が達成できたとしている。またこのPTCポリマーを利用して開発された温度センサーは、1000回以上繰り返し温度を上げ下げしても高い再現性を示すうえ、曲率半径700マイクロメートルに曲げても壊れることなく、生理的環境でも動作するという。同センサーは抵抗値の変化が非常に大きいため、複雑な読み出し回路を用いずに精度の高い計測ができる。これを示す例として同研究グループは、ダイナミックに呼吸運動している状態のラットの肺表面に同センサーを貼り付けて計測を行い、外気温25℃と体温37℃の状況下において、呼吸の呼気と吸気における肺の温度差が約0.1℃と非常に小さいことを世界で初めて実測した。このように、今回の研究では皮膚を含む生体組織にセンサーを直接貼り付けて表面温度の分布を大面積で簡単に精度よく計測する技術が実現されたといえる。応用例として、今回開発された温度計を絆創膏にプリントすることによって、皮膚に直接貼り付けて体温を計測したり、赤ちゃんや病院の患者の体温、手術後の患部の発熱の有無をモニタリングするといった利用法も考えられるとしている。またヘルスケア・医療応用以外にも、服の内側の体温計測や体表面の温度分布を計測することにより、機能的なスポーツウェアの開発などへの利用も期待される。
2015年11月10日今一番取りたい資格『日本化粧品検定』の受験者数が、2万人を突破した。「業界初のコスメ検定」として注目を集める『日本化粧品検定』は、「今一番取りたい、美資格」ともいわれている。化粧品の成分や、安全性・使用期限・薬事法など、美容のトータル知識を学ぶことができる。受験者数2万人突破のニュースは、「週刊粧業(2015年8月3日号)」にも掲載、今後も多くの受験者数が見込まれている。また、2級・1級の併願受験も第5回の試験から可能となる。お笑い芸人も受験モデルやお笑い芸人などにも受験者が広がり、モデルのアンミカ、クワバタオハラの小原正子、お笑い芸人の槙尾ユウスケ(かもめんたる)などが受験。メディアやSNS上でも話題となっている。化粧品・美容業界のスタンダードへ『日本化粧品検定』に合格することにより、「化粧品についてどの程度しっているのか」がわかるため、「化粧品知識レベル」の指標となるべく期待されている。受験者数が2万人を突破したことにより、さらに知名度は高まり、化粧品・美容業界で働く人にとってのスタンダートな資格となりつつある。(画像はプレスリリースより)【参考】・日本化粧品検定の受験者がついに2万人突破!第五回から併願可能となり、モデルの真山景子、東野佑美、お笑い芸人の槙尾ユウスケ等続々受験!
2015年09月10日マナボは9月9日、「ミス東大」「ミスター東大」のファイナリスト10名を、自社が運営する教育サービス「スマホ家庭教師mana.bo」のチューターとして迎え入れた。全国の受験生や学生たちにスマートフォンによる個別学習指導を提供していくという。「スマホ家庭教師mana.bo」は、スマートフォンアプリでどこからでも気軽に講師に質問ができる新感覚の教育サービス。東大・早慶・医学部など難関大学の現役大学生による講師陣から、チャットや通話、ホワイトボードを使用して1対1で個別指導を受けることができるとのこと。
2015年09月09日年長児を持つママで、子どものお受験を考えている人もいるでしょう。試験内容を見てみると、学力テストだけでなく、運動能力テストもありますよね。その中に「くま歩き」が試験内容になっている学校も珍しくありません。「くま歩きって何?」「なぜ、くま歩きが試験に出るの?」と疑問を抱いているママもいるのではないでしょうか? 今回は小学校のお受験でよく見られる「くま歩き」について紹介していきましょう。くま歩きとは?くま歩きとは、両手両足を床につけ、その体勢で前に進んでいく、くまのような歩き方をすること。雑巾がけのスタイルのまま、手と足を使って前進していく、というとわかりやすいでしょうか。今では小学校受験の定番試験となっていて、お受験を控えるママたちは子どもにくま歩きを指導するために必死になっているんだとか! スポーツトレーナーにくま歩きの仕方を教えてもらっているという人もいるようです。なぜ、くま歩きが小学受験で採用されているの?くま歩きが多くの小学校受験で行われているのは、くま歩きを見るだけで専門家はその子の運動能力や体全体のバランス、筋力などを理解できるからです。くま歩きは簡単そうに見えて実は難しい動き。体全体の筋肉を使わないとうまく進めませんし、体力がないと途中で離脱してしまうでしょう。普段の生活の中であまり使わない筋肉も使うことになるので、子どもの能力を測ることができるというわけです。くま歩きができる子は、その他の運動にも期待できるということ。くま歩きだけを練習しても、専門家はそれをすぐに見抜いてしまいます。基礎体力をつけること、体の柔軟性を養っておくことも、くま歩きで良い判定を受ける秘訣なのです。くま歩きを上達させる方法くま歩きは速さを競うものではありませんが、とはいえ、速いほうが「運動能力がある」と判断されやすいことは事実。可能ならなるべく早く進めるようにしておきたいところですね。コツとしては、地面を力強く踏み込むことを意識することが大切です。「強く踏み込む」のイメージがなかなか掴めないのなら、家の廊下の雑巾がけをさせてみるといいですよ!雑巾がけは足の力と手の力どちらも必要になる動き。自然と筋力アップにも期待できますし、くま歩きのコツもマスターできるでしょう。小学受験を控えているママは、その小学校の試験内容の中にくま歩きが含まれているのかをチェックしてみましょう。くま歩きが試験内容として採用されているのなら、今回挙げたポイントを押さえて、子どもと練習をスタートしてみてはいかがでしょうか?(ライター:RUREI)
2015年08月20日日本IBMは7月30日、東京大学医科学研究所(東大医科研)と日本IBMが「Watson Genomic Analytics」(ワトソン・ジェノミック・アナリティクス)を活用して先進医療を促進するための、新たながん研究を開始すると発表した。「Watson Genomic Analytics」の利用は、北米以外の医療研究機関では初だという。がん細胞のゲノムには数千から数十万の遺伝子変異が蓄積しており、それぞれのがん細胞の性質は変異の組み合わせによって異なっているという。そこで、がん細胞のゲノムに存在する遺伝子変異を網羅的に調べることで、その腫瘍特有の遺伝子変異に適した治療方法を見つけ、効果的な治療法を患者に提供することが可能となるという。インターネット上には、がん細胞のゲノムに存在する遺伝子変異と関連する研究論文や、臨床試験の情報など膨大な情報があり、東大医科研では、「Watson Genomic Analytics」の活用により、特定された遺伝子変異情報を医学論文や遺伝子関連のデータベース等の、構造化・非構造化データとして存在する膨大ながん治療法の知識体系と照らし合わせる。そして「Watson Genomic Analytics」は科学的に裏付けられたエビデンスと共に、有効である可能性を持った治療方法を提示するという。今回のがん研究では東大医科研が有するスーパーコンピュータ「Shirokane3」と、クラウド基盤で稼働する「Watson Genomic Analytics」が連携し 、研究を進めていくためのビッグデータ解析基盤とする。また、 将来的には臨床応用への可能性を検証していくという。
2015年07月30日東京大学医科学研究所(東大医科研)と日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は7月30日、「Watson Genomic Analytics」を活用して個別化医療を促進するための新たながん研究を開始すると発表した。北米以外の医療研究機関で「Watson Genomic Analytics」を利用するのは初めて。患者ごとのがんに合った治療を提供する個別化医療を実現するためには、全ゲノム・シークエンシングによって得られる、ゲノム情報を解析する必要がある。また、インターネット上にはがん細胞のゲノムに存在する遺伝子変異と関連する研究論文や、臨床試験の情報など膨大な情報が存在する。こうしたビッグデータを「Watson」によって迅速に収集・分析することで、がんの原因となる遺伝子変異を発見し、有効な治療法の可能性を提示できると考えられており、東大医科研の宮野悟 教授は「私たちの研究チームは、全ゲノム解析に基づいた個別化医療を探求しており、『Watson』は私たちの研究を大幅に進める可能性を提供してくれます。」とコメントしている。
2015年07月30日東京大学(東大)は7月13日、乳腺手術で摘出した検体に対して、試薬をスプレーすることで、数分で乳腺腫瘍を選択的に光らせる技術を確立したと発表した。同成果は東大大学院薬学系研究科・医学系研究科の浦野泰照 教授らの研究グループと、九州大学病院別府病院の三森功士 教授らの共同研究によるもので、詳細は英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。浦野教授らの研究グループは、これまでの研究で、がん細胞で活性が上昇している特定のタンパク質分解酵素によって蛍光性へと変化する試薬を開発し、がんモデル動物でその機能を証明していた。今回、九州大学病院の三森教授らとの共同研究で、乳腺手術において摘出した検体に対して同試薬を散布したところ、1mm以下の微小がんであっても、散布から5分程度で選択的かつ強い蛍光強度で試薬が光ることを確認した。また、同技術は、幅広い種類の乳腺腫瘍に対して有効であることもわかった。同技術を活用することで、乳がん部分切除手術中に切断断端に微小がんが残っているかを正確に知ることができるようになるため、局所再発の劇的な頻度低減につながることが期待される。現在、同スプレー蛍光試薬の臨床医薬品としての市販に向け、より多くの症例での実証試験ならびに、体内使用を目指した安全性試験が進められている。
2015年07月14日東京大学(東大)は7月10日、食物アレルギーを発症させたマウスを用いて、アレルギー反応の原因となる「マスト細胞」が細胞膜の脂質から産生する「プロスタグランジンD2(PGD2)」と呼ばれる生理活性物質に、マスト細胞自身の数の増加を抑える働きがあることを発見したと発表した。同成果は、同大 大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻の中村達朗 特任助教、同 大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻の前田真吾 特任助教(研究当時:応用動物科学専攻)、同 大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程2年の前原都有子氏、同大 大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻の村田幸久 准教授らによるもの。詳細は「NatureCommunications」に掲載された。食物アレルギーの患者数は全国で約120万人と言われているが、年々増加傾向にある。これまでの研究から、腸におけるマスト細胞の増加が、食物アレルギーの発症や進行に関与することが示唆されていたが、どのようにしてマスト細胞が増加するのか、そのメカニズムはよくわかっていなかった。そこで研究グループは、マウスに食物アレルギーを発症させ、その際の症状の悪化推移とマスト細胞の数の変化を調査。その結果、マスト細胞が造血器型のPGD2合成酵素(H-PGDS)を発現すること、H-PGDSを欠損させたマウスでは、マスト細胞の数が増加していることを確認。これにより、PGD2が、マスト細胞の増加を抑え、症状の悪化を防ぐ役割であることが示されたという。また、PGD2が産生できないマスト細胞などでは、血球細胞を強力に遊走させる生理活性物質「Stromal Derived Factor-1α(SDF-1α)」ならびに、細胞と細胞の隙間を埋めるコラーゲンなどを分解する酵素の1つで、炎症性生理活性物質を活性化する役割も持っている「Matrix metaroprotease-9(MMP-9)」の発現や活性が上昇していることが判明したほか、SDF-1αの受容体阻害剤や遺伝子欠損、MMP-9の活性阻害剤は、食物抗原に応答した消化管のマスト細胞増加と食物アレルギー症状を改善することが判明したとする。なお、今回の成果について研究グループは、SDF-1αやMMP-9といったマスト細胞の浸潤を促進する分子の発現を抑えることから、PGD2を標的とした食物アレルギーの根本治療への応用が期待されると説明しており、今後は、PGD2がどのようにマスト細胞の細胞内へ情報を伝達し、その浸潤を抑制するのか、その機序のさらなる解析を進めていく予定としている。
2015年07月13日東京大学(東大)は7月10日、超伝導回路を用いた量子ビット素子と強磁性体中の集団的スピン揺らぎの量子(マグノン)をコヒーレントに相互作用させることに成功し、ミリメートルサイズの磁石の揺らぎが量子力学的に振る舞うことを発見したほか、その揺らぎの自由度を制御する方法を開発したと発表した。同成果は、東大 先端科学技術研究センター 量子情報物理工学分野の中村泰信 教授(理化学研究所創発物性科学研究センター チームリーダー)、田渕豊 特任研究員(現 日本学術振興会 特別研究員)および同大 工学系研究科 物理工学専攻 修士学生の石野誠一郎氏らによるもの。詳細は米国科学振興協会(AAAS)発行の学術雑誌「Science」に掲載された。量子コンピュータや量子暗号通信といった量子力学の応用分野の1つに、情報処理と通信を統合した量子情報ネットワーク技術があるが、これを実現するためには、互いの間で量子情報を授受するためのインタフェースが必要となり、マイクロ波と光の活用が期待されている。しかし、量子状態をコヒーレントに転写する方法があり、その手法として、ナノ機械振動子や単独の電子スピン、常磁性電子スピン集団などを用いた研究が進められてきたが、強磁性体中のスピン集団に着目し、スピン波のエネルギー励起運動の量子であるマグノンを用いた研究はこれまでなかったという。研究では、強磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)単結晶球の中のマグノンと共振器の中のマイクロ波光子の結合について調査を実施。その結果、絶対零度に近い状態において、共鳴スペクトルに反交差が見られ、両者のコヒーレントな結合が示されたという。また、1つのマイクロ波空洞共振器の中にYIG球とミリメートルスケールの超伝導回路上で動作する量子ビットを配置した実験では、超伝導量子ビットとYIG球上のマグノンの間のエネルギー量子のコヒーレントな相互作用の証拠を、真空ラビ分裂と呼ぶエネルギー準位の分裂として観測することに成功したとのことで、これにより量子力学的な基底状態ある強磁性体中のスピン集団と、超伝導量子ビットの間でエネルギー量子をコヒーレントにやりとりできることが示されたとする。今回の成果について研究グループでは、今後、超伝導量子ビットとマグノンの結合を用いて、強磁性体中の集団スピン励起の自由度であるマグノンの量子状態を自在に制御し、観測することができるようになることが期待されるとするほか、並行してマグノンと光通信波長帯光子との相互作用の研究も進めているとのことで、マグノンを介したマイクロ波と光の間の量子インタフェースの実現やそれを用いた量子中継器への応用を目指すとコメントしている。
2015年07月10日東京大学(東大)は、ナノワイヤ量子ドットレーザの室温(300K)での動作に成功したと発表した。同成果は、同大ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構の荒川泰彦 教授、舘林潤 特任助教らによるもの。詳細は「Nature Photonics」に掲載された。ナノワイヤレーザは、従来の半導体レーザと同様の動作原理ながら、1万~10万分の1の体積でレーザ発振が可能なほか、出力先の方向・形状を制御しやすいため、次世代半導体技術として期待される光電子融合集積回路へオンチップで実装することが可能だ。これまで、さまざまな材料系でのレーザ発振が報告されてきたが、それらのほとんどがバルク材料の光利得を用いてきたが、今回、研究グループでは、量子ドットを活性層に持つナノワイヤレーザ(ナノ量子ドットレーザ)を作製し、共振器構造の最適化を行うことで室温でのレーザ発振を実現したとする。実際にデバイスの評価を実施した結果、光励起による室温発振を確認。性能の指標となる特性温度は133Kと、従来のナノワイヤレーザに比べても高く、これについて研究グループでは、量子ドット導入によるキャリアの効率的な閉じ込めが起きていることが示唆されると説明する。なお研究グループでは今後、ナノレーザ光源の高性能化や多機能化が見込めることから、成長・プロセス・評価技術のさらなる開発による低しきい値動作化や長波長化、実用化に向けた電流駆動によるレーザ発振動作を目指すとしいている。
2015年06月30日東京大学(東大)と東京工業大学(東工大)は6月26日、大腸菌が餌に反応する際に生体内で情報が果たす役割を定量的に解明することに成功したと発表した。同成果は、東大 工学系研究科の沙川貴大 准教授と東工大 大学院理工学研究科の伊藤創祐 日本学術振興会特別研究員らによるもの。詳細は、英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。物理学者マクスウェルが示唆した「マクスウェルの悪魔」は、熱力学第2法則を破ることができることを示したものだが、長い間パラドックスであると考えられていた。しかし、近年、実際に実験により、この悪魔を実現できるようになったほか、「情報量」の概念を熱力学に取り入れることで、悪魔が熱力学第2法則と矛盾しないことも明らかになり、そこが情報処理過程にも適用できるように拡張された熱力学「情報熱力学」の発展につながっている。この情報熱力学を用いることで、分子レベルでの情報処理をする際のエネルギーコストを明らかにすることが可能となる。一方、大腸菌は細胞内で情報を上手く処理することで、環境の変化に適応しながらエサを探す「走化性」というメカニズムの存在が知られている。こうした生命の情報伝達メカニズムは、正確な誤り訂正が常に行われているわけではないが、大腸菌の走化性におけるシグナル伝達にはフィードバック制御が組み込まれており、これが悪魔と類似の働きをしているとみなすことができると考えられてきた。今回、研究グループはこうした類似性に着目し、情報熱力学によって生体内の情報伝達のメカニズムを解明することに成功したとのことで、これにより大腸菌の細胞内を流れる情報量が、大腸菌の適応行動が外界からのノイズに対してどの程度安定であるのかを決める、という関係を明らかにし、その差異、情報量を定量化するために「移動エントロピー」を用いることが重要であることも分かったとする。また、大腸菌の適応のメカニズムは、通常の熱機関としては非効率(散逸的)だが、情報熱機関としては効率的であることを突き止めたとする。なお、これらの成果について研究グループは、生体内でも定量化可能な物理量を用いて生体内の情報処理メカニズムを解明するための、新たなアプローチの第一歩になると説明しているほか、近年、マクスウェルの悪魔が実験的に実現されていることから、生体内の悪魔のメカニズムを人工的な情報処理に応用できる可能性があるとしている。
2015年06月26日東京大学(東大)は、カーボンナノチューブ(CNT)を用いて、レアメタルであるインジウム(In)を含まないフレキシブルな有機薄膜太陽電池を開発したと発表した。同成果は、同大大学院理学系研究科の松尾豊 特任教授、同大大学院工学系研究科の丸山茂夫 教授らによるもの。詳細は「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。従来、有機薄膜太陽電池には透明電極として酸化インジウムスズ(ITO)が用いられてきたが、レアメタルであるInは需要に対して供給量がひっ迫するリスクなどがあった。一方、CNTは元素として豊富な炭素を原料とし、かつ優れた特性を持つ材料として期待されてきたが、太陽電池分野においては、CNT薄膜による透明電極を用いた有機薄膜太陽電池の変換効率は2%程度と低かった。研究グル―プは今回、CNTを有機薄膜太陽電池の透明電極として用いるための方法論を確立した。具体的には、単層CNT(SWCNT)による薄膜に有機発電層からプラスの電荷のみを選択的に捕集して輸送する機能を付与することで、6%以上の変換効率を達成できることを確認したという。また、PETフィルムの上にCNT薄膜を転写して用いることでフレキシブルなCNT有機薄膜太陽電池を作製することにも成功したとする。なお研究グループでは今後、有機材料やデバイス構造の最適化を行うことで、さらなる高効率化研究に取り組む予定だとしている。
2015年06月18日東京大学(東大)は6月16日、これまで存在が不確かであった、電池の充電を早くする「中間状態」を人工的に作り出すことに成功したと発表した。同成果は東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻の山田淳夫 教授、西村真一 特任研究員らの研究グループによるもので、6月12日に独化学誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。電池には充電状態でも放電状態でもない「中間状態」があり、これが反応中に現れることで充電を早く行うことができるとする学説については、そもそもそのような状態が存在するのか、存在したとしてどのような場合に現れるのかという漠然な議論に留まっていた。今回の研究では、電気を蓄える物質の元素の構成比や熱処理の条件を最適化することで、室温で長時間安定に存在する「中間状態」が人工的に得られることを発見し、その存在を証明した。また、「中間状態」を分析した結果、電子の並びが縞状に規則正しく模様を描き、これを邪魔しないようにイオンが自発的にその位置を柔軟に変えていることがわかった。このような状況下では、通常観測される充電状態や放電状態よりも電子やイオンがはるかに高速に移動できることも判明。これにより、「中間状態」を発現させることが、充電速度を早くする上で重要な方向性となることが明らかとなった。同研究グループは「電池の充電速度を速くするための一般的な指標が得られ、これをもとに材料の開発を行い、充電条件を最適化することで、充電時間の短縮が効率的に行われる。電池の充電時間が短縮されることで、生活の様々な局面での利便性が向上することが期待される」とコメントしている。
2015年06月17日東京大学(東大)は6月16日、遺伝子の改編操作(ゲノム編集)を光を用いて自在に制御することを可能とする技術を開発したと発表した。同成果は、同大 大学院総合文化研究科広域科学専攻の二本垣裕太 大学院生、同 佐藤守俊 准教授らによるもの。詳細は米国科学誌「NatureBiotechnology」オンライン版に「Photoactivatable CRISPR-Cas9 for optogenetic genome editing」というタイトルで掲載された。ゲノム編集を行うためには、ゲノム上の狙った塩基配列をDNA切断酵素(Cas9タンパク質)で切断する必要があるが、従来の技術ではこのDNA切断酵素の活性を制御できないという課題があり、その結果、特定の効果を狙ったゲノム編集を行うことができなかった。今回、研究グループでは、独自に開発した青色の光に応答して互いに結合する光スイッチタンパク質を、分割して活性を失ったCas9の断片に連結。青色の光を照射することで、分割したCas9が、分割前のようにDNA切断活性を回復し、標的の塩基配列を切断できるようになることを確認した。また、光の照射を止めると、結合力が亡くなり、DNA切断活性が消失することも確認したという。さらに、これらの技術をツール化(光活性化型Cas9:paCas9)することで、狙ったゲノム遺伝子の塩基配列を改変、その機能を破壊したり、別の塩基配列に置き換えたりできること、光照射のパターンを制御することでゲノム編集を空間的に制御できることなども確認したとするほか、paCas9に変異を加えてDNA切断活性を欠失させることで、ゲノム上の狙った遺伝子に結合して当該遺伝子の発現を光で可逆的に抑制できることにも成功したとする。なお、今回の成果を受けて研究グループでは、例えば脳における神経細胞のように、組織の中で狙った細胞単位でのゲノム編集が実現できるようになるとコメントしており、この技術が、ゲノム編集の応用可能性を広げることにつながることが期待されるとしている。
2015年06月16日東京工業大学(東工大)や東京大学(東大)、放射線医学総合研究所(放医研)などで構成される研究グループは6月10日、日帰りがん治療の実現に向けたナノマシン技術を開発したと発表した。同成果は、東大大学院工学系研究科/医学系研究科・教授の片岡一則氏(ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)・センター長兼任)、東工大 資源化学研究所・教授、ナノ医療イノベーションセンター・主幹研究員の西山伸宏氏、ナノ医療イノベーションセンター主任研究員のMI PENG氏、放医研 分子イメージング研究センター・チームリーダーの青木伊知男氏らによるもの。詳細は米国化学会発行のナノテクノロジー専門誌「ACS Nano」に掲載された。今回開発された技術は、骨の成分であるリン酸カルシウムの内部に、造影剤として用いられるガドリニウム(Gd)-DTPAをナノ化し、取り込み、ドラッグデリバリシステム(DDS)としてがん組織に送り込むというもの。Gdは中性子線が当たると核反応によりガンマ線やオージェ電子を放出、これでがん細胞などを破壊することでがんの治療を実現する。具体的には、がん細胞に確実に届けるために、リン酸カルシウムの表面にポリエチレングリコールやアスパラギン酸を組み合わせた直径55nmのナノ結晶集合体(ナノマシン)を構築。この大きさは、正常な血管の場合、血管周辺の組織につながる孔では狭く通らないが、がん細胞が周辺にある血管の場合、100nmまでその孔が拡大するため通り、がん細胞の近辺に到達するサイズだという。また、リン酸カルシウムは正常の細胞ではほぼ中性のpH7.4程度では比較的安定しているが、pHが酸性になると溶ける性質があり、がん細胞は部位によって異なるがpHが6.5~5程度であり、さらに細胞内に取り込まれた場合は酸性度が向上するため、内部のGd-DTPAががん細胞およびその周辺組織にダイレクトに届けられることとなる。Gd-DTPAはこれまでの研究から、がん組織に選択的に集積されることが確認されており、実際に研究グループの研究でもMRIを用いて、固形がんを選択的に造影できていることが確認されているほか、ナノマシン化により、Gd-DTPA錯体のMRI造影剤としての性能を表すT1緩和能をGd-DTPA錯体と比べて、5~6倍に増大させる効果を有することも確認したという。研究では、大腸がん細胞を皮下に移植したマウスを複数例作成し、ナノマシンを投与した結果、ナノマシンが血中に長期滞留し、がん組織に選択的に集積することを確認。これらの結果を受けて研究グループでは、この技術を応用していくことで、MRIによるがんのイメージングの容易化、熱中性子線の照射によるがん組織のみのピンポイント治療の実現の可能性が示されたとしており、将来的な切らない手術の実現と、入院不要の日帰り治療も可能になると期待されるとコメントしている。なお研究グループでは、今後は関係機関などとの調整、ならびに中性子線を発生させるための加速器の設置、病院で実施する場合の設備の検討などを行う必要があるとするが、数年以内にそういった次の段階に進みたいとしている。
2015年06月10日東京大学(東大)と国立天文台は6月9日、アルマ望遠鏡と重量レンズのかけ合わせで、117億光年の距離にある銀河の内部構造を解明したと発表した。同成果は東京大学理学系研究科の田村陽一 助教と大栗真宗 助教および国立天文台の研究グループによるもので、6月9日付けの「日本天文学会欧文研究報告」に掲載された。重力レンズとは、質量が時空の歪みを介して光を曲げる減少で、非常に重い天体の周囲で生じ、その向こう側の天体の見かけの姿を拡大・増光する性質がある。今回の研究では、今年2月にアルマ望遠鏡がとらえた117億光年の距離にあり、爆発的に星を生み出しているモンスター銀河「SDP.81」の画像を、同研究グループが提案した重量レンズ効果モデルを用いて解析した。その結果、「SDP.81」では差し渡し200~500光年の塵の雲が、およそ長さ5000光年の楕円状の領域に複数分布していることがわかった。この塵の雲は、巨大分子雲と呼ばれる、恒星や惑星が生まれる母体だと考えられるという。また、重力レンズ効果を引き起こしている手前の銀河に質量が太陽の3億倍以上におよぶ超巨大ブラックホールが存在することも判明した。今後、アルマ望遠鏡と重力レンズの組み合わせで、なぜモンスター銀河が形成されるのか、どのように超巨大ブラックホールが成長するかの解明につながることが期待される。
2015年06月09日東京大学(東大)や理化学研究所(理研)などで構成される研究グループは、スピントロニクス材料として期待される巨大磁気抵抗を示すコバルト酸化物「SrCo6O11」に、スピン配列の周期として理論的に考えられるすべての状態が存在し、それらが磁場の変化とともに磁化が階段状に増加していく様子「悪魔の階段」を確認することに成功したと発表した。同成果は、東大 物性研究所の和達大樹 准教授、同大学院工学系研究科の石渡晋太郎 准教授、同大学院工学系研究科の十倉好紀 教授(理化学研究所創発物性科学研究センター センター長)、京都大学化学研究所の齊藤高志 助教、独Leibniz Institute for Solid State and Materials Research Dresde とHelmholtz-Zentrum Berlin らによるもの。詳細は米国科学誌「Physical Review Letters」の6月8日オンライン版に掲載される予定。実際の観測は、ドイツの放射光施設「BESSY II」において共鳴軟X線回折実験として行われ、その結果、ほとんどすべてのスピン配列の周期性に対応する分数値の回折ピークが観測され、各々の温度でさまざまな周期の磁気秩序が共存している様子が確認されたとのことで、これについて研究グループは、磁気的な相互作用の正負が距離によって変化するモデルを理論的に解くことで得られる「悪魔の階段」の状態が、実際の物質で実現している事が示されたとしている。また、さらなる解析により、磁化の測定で見られたステップを生み出す磁気構造の様子の解明にも成功したとのことで、これにより、「悪魔の階段」を生み出す磁気構造の詳細が判明したとしている。なお研究グループでは今後、こうした「悪魔の階段」型の磁気構造をさらなる系統的な研究により他の物質にも見つけることを目指し、単純に磁場により電気抵抗を増減させるだけでなく、電気抵抗や磁化が階段状にとびとびの値をとることを活かした、新しいタイプのスピントロニクス材料の開発などにつなげたいとしている。
2015年06月05日東京大学(東大)とベネッセホールディングスは6月4日、2014年1月に立ち上げた「子供の生活と学び」の実態の解明に向けた共同研究プロジェクトの第1回調査を2015年7月に実施すると発表した。同調査は、小学1年生から高校3年生までの親子約2万1000組に対し、10年程度の長期にわたり、追跡調査を行い、その結果から、子供の生活や学習の状況、保護者の子育ての様子などにより、子供の成長がどのように変わるのかを明らかにしようというもの(毎年、小学1年生が補充されていく予定)。調査の内容については、子供(小学4年生~高校3年生)に向けては、日頃の生活(生活時間、生活習慣、遊び、ICTの利用状況、学校生活)、人間関係(親子関係、友だち関係)、学習(学習実態、学習習慣、受験、勉強についての意識)、意識・価値観(悩み、社会観、職業観)、身につけている力などとなっており、保護者に向けては、子供への働きかけ(子育て・しつけの実態、家庭のルール、親子の会話)、子育て・教育に関する意識(教育方針、教育観、子供に対する希望、将来像、受験)、教育費(習い事、学習塾)、保護者自身の生活(仕事や生活の状況)などとなっている。プロジェクトの代表者は、東京大学社会科学研究所の石田浩 教授ならびにベネッセ教育総合研究所の谷山和成 所長となっており、研究結果については東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所にて広く公表する予定としているほか、元データについては東京大学社会科学研究のデータアーカイブ(SSJDA)に寄託し、研究・教育目的で公開を行う予定だとしている。なお、第1回目の調査結果については2016年2月に公表される予定だという。
2015年06月05日