一つひとつのアイテムを追求する榊。この姿勢はとても論理的でメンズデザイナーらしい。理想とする完成形は思い描かれているのだろうか。「もの作りにおいて、完成は無いと思います。たとえ完成した!と思って出しても、どこか違う、こうしたいとか出て来るんです。もし次からそのアイテムが出なくなったら、飽きたか(笑)、需要が無いってことでしょう。お洒落とか美的感覚って人それぞれの価値観です。僕が作る服はそれプラス、生活に必要とされるものでありたいんです。ファッションということを本当に考えなくなりましたね。こういうのがお洒落とか打ち出したくないんです。僕が思う、楽して奇麗に見えるとか、どこか抜けのあるカチッとし過ぎない感じの美的感覚は自分だけの価値観でいい。デザイナーはファッションをやらなくてもいいと思っているので。この洋服を使ってくれる人達がやることがファッションです。スタイリストや媒体、着る人とか。そのためにはアイテムがちゃんとなっていないといけません。だからアイテムとして便利なもの、需要があるものを念頭に置いています」確かにプロダクトとしての利便性は当初から考えられている。ショールカラージャケット見返し下部の切り替えに開けられたポケットや、13-14AWのギャザーを寄せてたくし上げられるコート、定番のスタジャンとボタンが対応してドッキングするマウンテンパーカなど、様々なディテールが閃いている。「見た目決まっていて、着ている本人が楽とか良くないですか?でも、先ほど申し上げたストレッチ生地の表情って男の作法として外れていると思うんですよ。しっかりした、仕立て映えのいいウールのスラックスが理想です。それで着ていて楽だったらなお良い」14SSから登場したスウェット・dogi(動=do+着)は着易いのだがなんとニットではない。「上下スウェットは楽です。でも見た目の美しさというのはほぼ無いですよね。しかも長く着て洗濯を繰り返しているとくたくたになり膝が伸びたりします。その消耗品な感じが嫌なんですよ。僕はスウェットを楽だから着るというより、着たいから着ます。これってコスプレと近いのかなと。だから奇麗に見せたい。なので生地はスウェット地ではなくてコットンリネンのドビーパナマを使っています。織物だから伸びません。男として、パッと見負の要素があるけど、中身はしっかりしているというのが格好良いと思う。そう見えるようにしたいんです」5/5「本当の“量産”を作る15SS」に続く。3/5「ファッションではなくガンダムを作る」に戻る。
2015年01月03日ファッションはシーズン毎にコレクションが生み出され、それにより新しいトレンドが生まれる。しかし、榊は異なる観点から見ているようだ。「新型を毎シーズン作るのではなく、あるアイテムが出来上がったらそれをずっと続けていく。これ!というものを作り出し、それの性能を追求していく作り方をしています。洋服って袖通して、足通して、ボタン留めて、と結局仕様って変わりません。決められたカテゴリーの中で皆がちゃがちゃやっているだけの気がします」。これはオーギュストプレゼンテーションでの経験からという。theSakakiは当初からの定番アイテムがある。布帛のカットソー・thebang(ジパングと襦袢を掛けた造語)やスタジャンなどがそうだ。それぞれ毎シーズンマイナーチェンジが行われ、少しずつ進化する。「例えば富野(由悠季)さんが作ったガンダムって、Zであろうと∀であろうとガンダムじゃないですか。それはガンダムが良いからガンダムだと思うんですよ。そういう恒久的な、うちにしか無いもので、自信や責任あるアイテムを作り出したいんですよね。世のため人のためじゃないですけど、便利で、買ってくれた人が幸せになってもらえるものというか。野菜の皮を洗う用にイボイボが付いた手袋ありますよね。ああいうの良い。ちゃんと需要がありますから」定番のワイドパンツ一つとっても、そのアイテムにしっかりとした理由付けがある。「今ってストレッチが入ったタイトパンツが多い。そこにみんな向かっていきます。でも僕は気にしません。ストレッチがない代わりにゆとりがあるものを欲しがる人もいますから。うちの特徴は、ウエストやポケット口など直線部分はテープを使っています。これにより縫製工程を減らし、コストも抑え、かつクオリティーの安定を図っているんです」4/5「デザイナーはファッションをやらなくていい」に続く。2/5「ひょっとこがお道化る」に戻る。
2015年01月03日