女優の相武紗季が米アクション映画『リンカーン/秘密の書』の日本語吹替え版で声優を務めることになり、27日、都内のスタジオでアフレコ収録に臨んだ。相武が声を担当するのは、昼は大統領、夜はヴァンパイアハンターという2つの顔を持つ主人公を支える大統領夫人・メアリー役。相武は、「半生を演じたので、年齢を重ねるごとに声を演じ分けるのが大変でした。でもとても楽しめました」と満足そうに語っていた。その他の写真本作は、『ダーク・シャドウ』の大ヒットも記憶に新しいティム・バートンがプロデュースを手掛け、アンジェリーナ・ジョリー主演の『ウォンテッド』で知られるロシアの鬼才ティムール・ベクマンベトフ氏が監督を務めるアクション大作だ。奴隷解放を訴え、南北戦争を戦ったアメリカ第16代大統領リンカーンに知られざる“別の顔”があったという大胆な設定を用いて、恐るべきヴァンパイアとの戦いを壮大なスケールで描き出す。相武は「迫力ある作品だから、ぜひ劇場で観てほしいですね。演じる私もワクワクでした」と作品に太鼓判を押し、「秘密を抱えながら、信念を貫く姿は格好いい」と映画で描かれるリンカーン像にホレボレした様子。自身が演じたメアリーについても「芯があって、強い女性。きっと女性なら彼女の生き方に共感できるはず」とニッコリ。「ご自分が“夫人”になるのはいつ頃?」という意地悪な質問には、「あこがれはありますが、私自身、メアリーのような精神的に強い女性にはまだまだ及ばないので…」と笑顔で対応していた。『リンカーン/秘密の書』11月1日(木) 全国ロードショー※3D/2D同時公開取材・文・写真:内田 涼
2012年09月27日北野武監督の新作『アウトレイジ ビヨンド』が、現地時間3日に行なわれた第69回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で上映され、来場した北野監督へ、観客が総立ちで拍手喝采した。その他の写真会見で北野監督は「日本のヤクザとの違いは看板がかけられているかどうかで、イタリアも日本もほとんど同じだと思う。警察とヤクザの関係は世界共通ではないか」と切り出し、「暴力描写を褒めてくれるマニアックな人々がいるのはうれしいことだけれども、今回の映画はエンターテインメントだと割りきって自分なりのエンターテインメント性を追求した」とコメント。さらに「『アウトレイジ』『アウトレイジ ビヨンド』」に関しては、自分が撮りたい映画というよりも、観客のことを考えて作った。けれども、お客さんの入らない映画を作る準備もしているよ」と話し、笑いを誘った。また記者から「震災で1年撮影が延期されましたが…」と質問されると、北野監督は「震災で確かに映画の撮影は1年のびた。震災後の1年間は、自分は怒りを感じている部分があった。世の中、絆、愛、支えとか、表面的なものばっかりでイライラした。こういうときこそヤクザ映画を撮ってやろうとやる気が起きた」と語った。同映画祭において、1997年に『HANA-BI』で最高賞の金獅子賞を、2003年に『座頭市』で監督賞にあたる銀獅子賞を受賞している北野監督とあって、レッドカーペットではあちらこちらで「TAKESHI!」と声があがり、北野監督は笑顔でサインや撮影に応えた。『アウトレイジ ビヨンド』は、前作『アウトレイジ』から5年後を舞台に、暴力団組織の抗争に警察が介入し巻き起こる死闘を描いた、究極のバイオレンス・エンターテインメント。ビートたけし、三浦友和、加瀬亮、中野英雄、小日向文世に加え、本作には西田敏行、塩見三省、高橋克典のほか、桐谷健太、新井浩文ら豪華キャストが集結する。『アウトレイジ ビヨンド』10月6日(土)より全国ロードショー
2012年09月04日シリーズ最終章『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』の公開を前に、スマホ向け放送局NOTTVで「係長 青島俊作」の第2弾「係長 青島俊作2 事件はまたまた取調室で起きている!」が独占放送されることになり、8月3日(金)、都内で完成記念試写会が行われ、主演を務める織田裕二を始め、共演する夏帆と長瀬国博監督が出席した。主人公はもちろん湾岸署刑事課強行犯係係長・青島俊作(織田さん)。徹夜続きのある日、湾岸署管内のなぎさ商店街の会長が殴打される傷害事件が発生するが、次々と“被疑者”が自首してくるという前代未聞の事態に…。彼らを取り調べる青島は、事件の背景に商店街全体の地上げ問題があると気づく。ちなみに物語の舞台は、9月1日(土)に放送されるスペシャルドラマ「踊る大捜査線 THE TV SPECIAL」の1か月前、9月7日(金)に全国公開される『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』の2か月前の出来事という設定になっている。織田さんは「普段の『踊る』って人も物もあふれた豪華な作品。でも今回は取調室という原点に立ち返り『怖い、逃げ場がない』と思うと同時に、すごくやりがいがあった。これは挑戦状ですもんね、すぐ火がつきました」と“密室劇”に闘志満々だったのだとか。長瀬監督も「見どころは被疑者と織田さんの絶妙な“間”ですね。青島=サラリーマン刑事という原点に戻ることもできた」とアピールした。一方、夏帆さんは事件の第一発見者である商店街のマドンナ的存在を演じ、『踊る』シリーズに初参加。「小さい頃から見ていたので、まさか自分が参加できるなんて。台本に“青島”って書いてあるだけで感動しましたし、現場で織田さんにお会いして“あっ、本物だ!”って興奮し、それに緊張もしましたね」とふり返る。これに対し織田さんは「それ、初めて参加されるキャストのみなさんからよく言われますね」と照れくさそうな表情。どうやら“青島あるある”のようだ。そんな織田さんにとって、今年は劇場版完結をもって“ラストダンス”を迎える記念すべき年。青島俊作という邦画界きってのアイコンを15年演じ続け「本当に演じることができて良かった役。まるで部活のような感覚だったし、何より演じ続けることで、ファンのみなさんに育てていただいた“一体感”を味わうことができた。もちろん、寂しさはありますが、ぜひ最後まで楽しんでほしい」と感無量の面持ちだった。「係長青島俊作2事件はまたまた取調室で起きている!」は8月末よりNOTTVで放送(全10話)。■関連作品:踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望 2012年9月7日より全国東宝系にて公開© 2012 フジテレビジョンアイ・エヌ・ピー
2012年08月03日人気シリーズ『踊る大捜査線』の完全新作ストーリー『係長 青島俊作2 事件はまたまた取調室で起きている!』が8月末(予定)から、スマートフォン向け放送局NOTTV(ノッティーヴィー)で全10話放送されることが決定した。そのほかの情報本作は、2010年6月にNTTドコモが無料配信したドコモ動画『係長 青島俊作 THE MOBILE 事件は取調室で起きている!』の第2弾。湾岸署に務める刑事・青島(織田裕二)が、署内にあるなぎさ商店街の会長が殴打される傷害事件を解決するまでを描く。織田をはじめ、“踊る”シリーズおなじみのメンバーである伊藤淳史、北村総一朗、斉藤暁、佐戸井けん太、甲本雅裕に加えて、夏帆、螢雪次朗、杉本彩、阿南健治らが出演する。主人公・青島が“取調室”で様々な事件関係者への取調べをする前作のテイストを踏襲した本作。織田は、「前作に引き続き、『係長 青島俊作2』は取調室が舞台で、“人”のお芝居によって、観る人に全てを想像させながら話が進んでいきます」と説明しており、「今回の設定では、青島が徹夜明けで頭がぼーっとしている上、被疑者が複数自首してきて、訳がわからずにどんどん混乱していきます。観ている皆さんも混乱するかもしれませんが、被疑者と青島との駆け引きを一緒に楽しんでもらえたらと思います」とPRしている。また、本作の1か月後の出来事をストーリーにしたスペシャルドラマ『踊る大捜査線 THE TV SPECIAL』も9月にTVで放送される。9月7日(金)に公開される映画『踊る大捜査線 THE FINAL新たなる希望』もあわせた3つの作品の時間軸が繋がる設定に仕上がっているという。映画の公開を前に、様々な角度で描かれる“踊る”シリーズの作品を楽しんでみてはいかがだろうか。『係長 青島俊作2 事件はまたまた取調室で起きている!』(全10話)NOTTVで8月末から放送予定『踊る大捜査線 THE FINAL新たなる希望』9月7日(金)より全国公開
2012年06月15日金城武が10月9日(日)、釜山国際映画祭(BIFF)に初めて出席し、大きな喝采を浴びた。『ラスト、コーション』のタン・ウェイと共演したピーター・チャン監督作『武侠』(原題)の公式会見では、「いろんな方から釜山映画祭の素晴らしさを聞くたびに『何でいままで出席しなかったのか』と後悔していたので、今回招待され、このチャンスを逃す手はないと思ってやってきました。着いたばかりでまだ何もしていないのですが、ワクワクしています」と挨拶。記者からの「なぜそんなに美男子なのか?」という剛速球の質問には、さすがに苦笑い。「父がハンサムで、母もとてもきれいです。両親に感謝しなくてはいけないですね。どちらかというと僕は母親似です」と答えつつ、かなり照れていた。アジア全域で長い人気を維持し続ける秘訣を聞かれると、「僕は俳優として演技だけでなく、ロケ先の場所やいろんな人に会うことなど、何でも楽しんでいます。俳優業を楽しんでいたら、20年経ってしまったという感じです」と答えた。釜山のみならず韓国を訪問するのも公式には初めての金城さんに対し、タン・ウェイは昨年に続いての出席。実は、この日が誕生日だったタン・ウェイ。「去年に続いて今年も釜山で誕生日を迎えられて嬉しいです。こちらのケーキは美味しいですから(笑)。釜山では毎回来るたびに歓迎されて、本当に感謝しています」と満面の笑みを見せた。会見の後は、海雲台ビーチのBIFFステージにも登場。2,000人以上集まった観衆から、黄色い歓声が飛んでいた。今年から釜山の英語表記を、「PUSAN」から「BUSAN」に変更したため、略称もPIFFから、BIFFに変更となった釜山国際映画祭。総工費80億円とも言われる映画祭専用劇場、釜山シネマセンター「映画の殿堂」もオープンした。しかし名前やメイン会場は変われど、観客の熱狂ぶりだけは変わることはなさそうだ。第16回釜山国際映画祭は14日(金)まで開催中。(photo/text:Ayako Ishizu)■関連作品:第16回釜山国際映画祭 [映画祭]■関連記事:チャン・グンソク、釜山映画祭に登場ギター弾き語りで思わぬ収入も?オダギリジョー、チャン・ドンゴンとの格闘ふり返り「韓国に入国できなくなるかも」釜山映画祭開幕!オダギリジョーにチャン・ドンゴン、ファン・ビンビンは衣装替えも
2011年10月11日今年80歳を迎えた高倉健の6年ぶりの新作映画で、夫婦の絆を描いた『あなたへ』が降旗康男監督とのコンビで製作されることが決定!撮影を前に意気込みを語った健さんのコメントも到着した。『駅 STATION』、『鉄道員』など数々の名作を世に送り出してきた降旗康男監督と健さんのゴールデンコンビによる19作目の作品となる本作。健さんにとっては2005年の『単騎、千里を走る』以来、通算205作目の映画出演となる。健さんが演じるのは、北陸の刑務所の指導技官の男・英二。50を過ぎて刑務所に慰問に来ていた歌手の洋子と結婚し、平穏で幸せな日々を送っていたが洋子は53歳の若さで亡くなってしまう。その後、英二は洋子からの絵はがきを受け取る。そこには「故郷の海に散骨してほしい」という彼女の望みが。なぜ生きているうちに言わなかったのか?15年連れ添った彼女の真意を知るべく、故郷の九州へと旅立つ英二。1,200キロの旅の中で人々に出会い心を通わせ、彼女の故郷の海で散骨した英二は妻の本当の想いに気づくことに…。本作の製作の始まりとなったのは、健さんと降旗監督のコンビによる『夜叉』、『あ・うん』のプロデューサーを務め、2008年に亡くなった市古聖智が遺した原案。降旗監督は脚本の青島武と共にこの原案を再構築し練り上げ、夫婦の愛を描く心温まるロードムービーを作り上げた。市川南プロデューサーによると健さんへのオファーは昨年の秋。年末に前向きな返答をもらい、今年の春から具体的な打ち合わせを進めてきたという。市川プロデューサーは「北陸から九州へ向けての旅で出会う、国語教師やイカ飯売りの凸凹コンビなどとのシーンでは、高倉さんのコミカルな演技も見られるかと思います。久しぶりの映画出演を決めた理由の一つには、降旗監督があるように思います。高倉さんは、降旗監督との仕事をいまの俳優さんたちに1本でも多く、経験させたいと思っていらっしゃるようです。共演者は現在最終調整中ですが、高倉さんと共演したことのない人も含まれています」と明かす。撮影開始を前に健さんは「この物語に出会い心が動きました。人が人を思い遣ること、生きることの切なさを思いました。降旗監督とご一緒できることも、6年ぶりの映画出演となる大きなきっかけです。スクリーンでみなさまにお会いできるのを楽しみにしております」と語る。2006年の天皇、皇后両陛下主催の文化勲章受章者・文化功労者を招いたお茶会に出席して以来、公の場に姿を見せていなかったが、満を持して再びスクリーンに!妻の洋子役をはじめとする共演陣が誰になるかも気になるところだ。先だった妻が夫に伝えたかった本当の想いとは――?『あなたへ』撮影は9月7日(水)に開始で、クランクアップは11月中旬。公開は2012年秋、全国東宝系にて。■関連作品:あなたへ 2012年秋、全国東宝系にて公開
2011年08月24日カンヌ国際映画祭のミッドナイト・スクリーニング部門で、香港のピーター・チャン監督によるアクション映画『武侠』〈原題)が上映され、金城武、ドニー・イェン、タン・ウェイらが公式会見を行った。『グリーン・デスティニー』に代表される、中国伝統の“武侠”ものと呼ばれる時代劇ジャンルそのものを題名にしたこの作品は、アクションに現代的なミステリーテイストを盛り込み高い評価を受けている。映画の中で金城武は丸めがねをかけた20世紀初頭の死体検視官を演じている。「監督がなぜ僕にこの役をやらせたいのか、最初はまったく分からなかった」という金城さんに対し、監督は「今回、タケシには、金城武ではなく、北野武になったつもりで演じてくれ、といったんだ。そのままのタケシだと、格好よすぎるからね」と答え、場内の笑いを誘った。ピーター・チャン監督と金城武のコラボレーションは、『ウィンター・ソング』、『ウォーロード/男たちの誓い』に続いて3度目。チャン監督は金城さんを「タケシとの仕事は僕にとってチャレンジなんです。いつも『どうして?なぜ?』といろいろ質問をされる。だからこそやり甲斐があるんです」と絶賛。金城さんも、「監督は僕との仕事をチャレンジだと言いましたが、僕にとってこそチャレンジなんです。監督はいつも僕に、『なぜこの人を愛しているのか』、『なぜこういうことをするのか』などと考えさせてくれる。おかげで完全に創作のプロセスへと没頭できるし、それが喜びでもあるるんです」と、チャン監督と組むことの面白さを語った。(photo:text/Ayako Ishizu)■関連作品:第64回カンヌ国際映画祭 [映画祭]■関連記事:【カンヌレポート4】オダジョー、芝居を通しチャン・ドンゴンと言葉の壁を乗り越える【カンヌレポート3】アンジー、カンヌで家族への愛を熱弁!「家族こそ愛がある場所」レオナルド・ディカプリオ、映画祭開催中のカンヌにジェイミー・フォックスと傷心旅行【カンヌレポート2】J・デップ、カンヌ来場に熱狂!役作りにあのアニメキャラが影響?【カンヌレポート1】ウディ作品で開幕!ビーチではガガ様からサプライズライヴも
2011年05月17日カンヌ映画祭のコンペティション部門でバイオレンス映画『アウトレイジ』が上映される“快挙”を成した北野武監督が、このほどシネマカフェほかの合同インタビューに応じ、本作に込めた思いから人間行動論までを語った。今回の暴力映画は「たまに食べたくなったカツ丼」新作は、ここ最近の3作『TAKESHIS’』、『監督・ばんざい!』、『アキレスと亀』と打って変わり、バイオレンスへの原点回帰とも言われる9年ぶりの力作。常に意表をついて周囲を驚かせる北野監督らしく、秀でたエンターテイメント作品として仕上がった。「前3作から“ゴダール病”とでも呼べるような自省的な内容の作品にはまっちゃって、先進的なアートとかワケ分かんないこと考えてやったら完全に失敗して、ダメだこりゃ、と。次、何やろう?と思ったら、暴力映画を全然撮っていないなって思って。食べ物と同じで、たまにはカツ丼食いたいな、と。ただ『ソナチネ』とかと比較されて、『何も進歩していない』とか言われるのは嫌だから、もうエンターテイメントだ!観客全員が喜べるようなものを撮ろうってなった。次に思いついた暴力シーンを書き出して、そっからストーリーを逆算したの。コイツはこう来てこう死ぬ、とか、こんな死に方はしないだろって。で、またひっくり返していって、こうなると思ったら大間違いだとか、ここで(観る側を)騙すとか、いろいろ考えて。そしたら完全にエンターテイメントだなって言える作品ができた」。5月のカンヌ国際映画祭ではコンペ上映され、激しい賛否両論で話題を振りまいた。ホラー、ファンタジーを好むティム・バートン監督が審査委員長を務めた賞レースでは賞を逃したものの、芸術性を好む同映画祭のメーン部門でヤクザもののバイオレンス・エンターテイメントが上映されただけで“珍事”だった。「海外のアート的なフェスティバルとかとは関係ねぇなと思ったら、急にカンヌとか呼ばれてしまって、これは結構大騒ぎになるぞ、って思ってたら、案の定、賛否両論になっちゃって。だから『ざまあみやがれ、こんな映画をコンペに選んだのはそっちなんだから、俺は知らないよ』って言ったんだけど。悪口言う人と褒める人と正反対で、まあまあっていう人がいなくて、いいか悪いかはっきりしていたね。でもまあ狙い通りだった。ショックな映画だろうな、とは思っていたから」。“全員悪人”をテーマに暴力団組織内部の抗争を描く同作では、自身、新たな試みとして主演と言えるキャラクターを7〜8人描く群像劇に挑戦。さらに北野組常連の俳優陣をキャスティングせず椎名桔平、三浦友和、國村隼、小日向文世、北村総一朗ら初タッグの俳優を揃えたのも新趣向。中でもインテリヤクザに扮した加瀬亮の怪演が、前評判を呼んでいる。「英語を使うシーンが途中からいっぱいあるインテリヤクザ役があって、英語も話せる役者を探していたら加瀬くんが来た。けど、普段の雰囲気からはどう見てもヤクザに見えないじゃない。どうしよう、と思ってメイクさんと相談して、オールバックにして、眉毛を剃ってみたり、結構苦労した。最終的に四角くて細いサングラスをかけさせたり。それでも『コノ野郎、バカ野郎』って怒鳴り合っている場面で、加瀬くんも入ってきて同じ台詞言っても全然怖くない。だから、この人は無口にしよう、でも、ひとつキレたら殴り出すという風に、徹底的に暴力に寄せた。キレたら怖い奴に設定に変えて台本を書き直して、かなり悪い奴に仕上がった。やっぱりパッと印象に残るようになったと思うし、うまいこといったかなって思うよね」。とはいえ、抗争の中心人物として動くのは、ビートたけし演じる、大友組の組長・大友。『戦場のメリークリスマス』を機に、俳優としても国内外で高い評価を得ているが、自身では顔をクシャクシャにして照れ笑いしながら厳しく自己評価する。「俺は基本的には演技、上手くないからねぇ。へたくそだから、しゃべんない方がいいもん。しゃべるとね、怪しいんだ俺は。『バカ野郎』なんて言ったら、単なる松村(邦洋)のモノマネになっちゃう。『ダンカン、バカ野郎』(松村さんによる、たけしさんのモノマネ)と変わってないって。『てめえ、何言ってんだ、バカ野郎』(本作の台詞)と同じだったっていう。だからできるだけ、怒鳴らないようにしようと思ったけど、みんなが怒鳴っているから、しょうがなくて怒鳴っていると、ふと我に返って、コレ、松村がモノマネするときと俺と、変わってないじゃないか、って(笑)」。大きな見どころのひとつが、バイオレンス描写の過激さ故に北野映画特有のバイオレンスと笑いが繋がって楽しめる感覚だ。「今回、あんまりにも描写が痛くてなぜか笑ってしまう。っていうか、これだけ追い込まれると人間笑うんだなって。編集していても順撮りじゃないから始めは気がつかなくて、ある程度繋がってくるとバカ笑いしちゃうシーンが出てきた。アレ?これ、お笑い映画撮っちゃった、参ったなーと思ったら、編集マンの人が『これだけ痛ければ笑いますよ、喜劇じゃないけど笑わずにはいられない状態になりますもの、これ』って。大丈夫かなって思っていたら、その感覚は世界共通で、カンヌでも観客がバカ笑いしてた。バカ笑いしている割にはみんな暴力映画って言っているわけ」。登場人物たちは、裏切り、騙し合いを続ける。北野監督の考える、人間の悪は?「悪っていうのは人間社会が進化する過程において、人間本来の欲望を規制するために、社会が悪と決め付けたこととも考えられる。例えば、人間が成長してある程度、性的能力とか体に備わって意識するようになったときには、ほかの奴を殴ってでも女を取るのが、生物として本能的だと思うよ。でもそれ、社会として成り立つために、悪=犯罪という括りを付けないと、人間社会自体が成り立たないというだけ。オットセイが周りの奴をかみ殺して十何匹もメスのオットセイをはべらせてハーレム作っているのを『恥ずかしくないのか、お前は。もっと女を分け与えろ、それじゃオットセイの社会は成り立たない』って言ったって、しょうがないじゃない。それは考えてないだけだもん。人間だったら少し頭が発達してきたから、弱者を救うことによって、全体的に盛り上げようとすることで、性とか食べ物の欲望とかそういうものを、独りよがりに行使することを悪としただけ。それがなきゃ、美味いものを食っている奴を後ろからぶん殴って、気絶している間に食って帰っちゃえばいいんだから。それは誰でもしたいと思うよ」。人間は欲望に抑制の効かない未完成な存在そういった悪とキッチリ一線ひけない人間の未熟さも明確に指摘する。「人間ってのは未完成な動物で、こういう暴力映画っていうと暴力は社会に対して悪影響があるんじゃないでしょうか?って言う。だけど拍手して観ている奴がいる。悪いことなら止めるんだけど止めないんだよ。食べ物でも何で腹いっぱい食っているんだ?肝臓壊したり糖尿になったり、体に悪いのになぜ食うかと言うと、頭と体のバランスが人間って全然取れていない。教えてくれないんだよ、体から信号出ていないんだもん。『それ以上食うと体に悪いです』なんて絶対言わないでしょ?だから食っちゃうの。それだけ人間ってね、欲望に対しては規制が効いていない、だからすごい未完成な動物なんだよ」。劇中、数人、生き残るワルがいる。現実社会で生き残るために必要なことは?「多分、グループがあってそこで生き残ろうとする。だから葛藤があるんじゃない?このグループじゃないところにポンと出ちゃえばいい。そうすればこのグループからしたらその人、関係ないだから、客観的に見たらその人、生き残っているってことじゃん、もしかしたらね。漫才ブームのときに一番最初に漫才辞めたの俺なんだもん、もう終わりだと思って。B&Bとかみんなそこにいたけど、俺、ポンと外に出ちゃった。で、結果的にブームはなくなって、たけしと紳助が漫才ブームを生き抜いたって言われるんだけど。俺、TVの次に、今度ラジオに行っちゃった。TV界からラジオに行っただけなんだけど、たけしはお笑いから生き抜いたってことになる。で、次に映画に行っちゃった。TVのタレントから俺だけ映画に行ったら、また生き抜いた、みたいなことを言われる。要するにグループの中に属さないってことじゃないかな。そうすりゃ生き抜いたことになる。怪しいんだけど、俺」。騙す、騙される、どっちが好き?の問いに、「あーあ」と嘆くような口調と優しい笑顔で答えた。「俺ら、騙す商売だからなぁ。騙す商売だけど、騙されることによってプラスマイナスゼロにしているところ、あるよね。よく騙されるの、騙してもらったお金、騙されてぼられているだけだよ」。(photo/text:Yoko Saito)■関連作品:アウトレイジ 2010年6月12日より丸の内ルーブルほか全国にて公開© 2010『アウトレイジ』製作委員会■関連記事:モナもシビれた!北野監督作『アウトレイジ』女性座談会ランキング企画!シネマカフェ読者ゴコロなんでもベスト5社長になってほしい俳優といえば?【カンヌレポート 最終回】バルデム受賞にペネロペ涙!最高賞はタイ作品山本モナと“男たち”を語ろう!『アウトレイジ』女性限定試写会&座談会に10組20名様ご招待【カンヌレポート 04】たけし、批評家の採点は辛口も観客からは5分の拍手の嵐
2010年06月10日