この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学5年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。妹の住むオランダは、家族と周りの環境をとても大切にする文化だと言います。近所の人たちの交流も多く、道端での立ち話はもちろん、家に招き合うのも習慣なのだそう。なので、お互いどんな生活をしているのかよく知っていて、会うとすぐに立ち話。話題が尽きず、楽しいようです。立ち話というと、玄関先や道端をイメージしますが、フェンス越しでもするというのが実にオランダ的だと妹は言います。農業国ならではなのか、少なくとも地方の町暮らしでは、ご近所さんとは、どこの家にもある庭を隔てたお隣どうし。双方で相談しあって決めた「お気に入り」のフェンスで仕切られているそうです。タイミングよくお互いが庭に出ていれば、そこですぐさま挨拶。フェンス越しにひょいと顔を出して「やあ、どう?」と会話が始まるのだそうです。コロナ禍で自粛生活がスタートしてからは、庭にいることが多くなり、さらにフェンス越しの会話も増えたとか。もちろん社会的距離は保ちつつ。妹が今まで以上に庭にいることが多くなった理由は、家庭菜園です。イチゴ、キュウリ、トマトなど。結構ワイルドに植えています。家庭菜園なんて私にしてみれば、とても無理。息子が学校から持って帰ったトマトの苗でさえ、あっという間に腐らせてしまったぐらいですから。でもオランダは、さすが農業国。野菜作りはごく身近なことで、人々にとってハードルの高い作業では全くないようです。この頃は、実に多くに人が自給自足を意識し始めて、自分でなんでも作るという風潮になったとか。トマト豊作。妹一家もしかりで、この期間中に親子で庭を耕し、トマトやレタスやキュウリなど、以前よりも種類を増やして野菜作りに精を出すようになりました。外に出向いて買うのではなく、作る。自分たちでできることは自分たちでやる。これがコロナ禍から学んだことだとか。瓶詰めトマトソース。保存食も臆せず作ってるようです。つい先日も、妹が庭に出ていると、いつものようにお隣さんがフェンス越しに挨拶してきたそうです。「元気?」「元気よ。なんでも自分たちで作ろうと思って、いろんな野菜を育て始めたの」「そうかい」「おたくのお庭はいつも綺麗ね。うちはワイルドでしょ?でもそこが気に入っているの」「ははは!」そう笑っただけのお隣さんは、どことなく妹の庭の好みに共感できない様子。でも気にせず妹は続けます。「うちのパートナーなんか、庭を全部菜園にするって、お花まで抜こうとしたのよ。ひどいでしょ?お庭には綺麗なお花もあるべきだと思わない?」「おお、そりゃそうだ!お庭は第一に美しくなくっちゃ!」そこで妹は気づいたと言います。どうやらオランダでは、庭と畑は別物なんだと。家の中と周りの生活環境は、美しくしておくのが「常識」。人の目に触れるから、綺麗にしておくのがみんなのため。そして、野菜作りは、庭とは別の地域の貸し農園で本格的に栽培する。割とそうみたいよ、と。そんな話を聞いて、ますますオランダ暮らしに憧れる、息子と私です。こういう所なので、オランダには野菜作りの絵本がたくさんあるんだとか。日本語に訳されているものもあります。『ソフィーのやさいばたけ』(ゲルダ・ミューラー作/BL出版)夏休み、田舎のおじいちゃんの家にソフィーがやってきます。待っていたのはソフィーのために用意された畑でした。「好きなものを植えていいよ」とおじいちゃんに言われ、大喜び。早速野菜作りに取りかかります。その後もおじいちゃんの家を幾度も訪れ、実、茎、花、根、とそれぞれ食べる部分が違う野菜を1年を通して育ててゆきます。美味しいレシピも散りばめられた、楽しい大型科学絵本。周囲の人たちの助けを借りたり、四季の移ろいを大切にしたり、オランダらしさ満載で、読んだ先から野菜作りがしたくなるでしょう。ちなみにこの作品では、ベランダでの栽培も紹介されています。日本の街暮らしでも真似できそう。4、5歳から。ぜひ、小学生にも!大きなトマトが成るころには、日本の作品『トマトさん』(田中清代:さく/福音館書店)も。以前に、保育園の先生が読んでいるのを見かけましたが、丸々と熟した大きなトマトに子供達は釘付け。それがとても印象的だったのでその後何度も借りました。うだるような暑い夏の日。トマトさんは他のミニトマトさんたちのように、小川に飛び込んで体を冷やしたい。でも大きすぎてとても動けません。そこに虫や動物たちがやってきて…。夏の暑さに冷えたトマト。季節感たっぷりのユニークで迫力のある作品です。3歳から。『やさいのおなか』(きうちかつ:さく・え/福音館書店)この作品は私もお話し会の導入によく使いますが、子どもたちはすぐに食らいついてくれるので読みがいがあります。野菜の断面をモノクロで見せて、これなんだ?と当てさせます。ページをめくると…。「ああ、レンコンか!」、「ピーマンか!」と答えが。サツマイモやキュウリは、なかなか難しいかな。お家の台所でも、ぜひ野菜を切って断面を見てみてください。いろんな表情があって、面白いと思います。(2歳から、大きい子にも)夏に向けて、今年こそは息子とベランダ菜園してみようかな。 (Anne)
2020年06月26日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学5年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。家の側の紫陽花が咲きました。梅雨を待ちわびるように、真っ青な大輪をもたげています。3月はこの辺りに沈丁花の香りが漂っていたっけ。そんなことを思い出すと、改めて休校の長さを感じます。息子の学校もようやく本格的な分散登校にシフトしました。お休みが長かったためか、初の登校日は家を出るのが億劫な様子でしたが、いざ学校から戻ってくると元気はつらつ。エネルギーをチャージしてくるのでしょうね。ああ、学校ってありがたい!元の生活リズムにもすぐに慣れるでしょう。息子の地域では、今月の分散登校期間も含めると4ヶ月近く休校だったということになります。その間、私は学校からの大量の手紙と課題にまみれて、解読するのも、整理するのも、子どもにやらせるのも、スムーズにいかず常に手探り。慣れない状況に混乱した時もありました。大変だったことを語れば尽きないのですが、子供が健やかに生活できるよう、日々メリットも見つけて自分を奮い立たせてきた気がします。視点を変えてみると、息子にとってプラスになったと思うことも、案外あるものです。例えば、うちの猫と息子が、今まで以上に仲良くなったこと。触れ合う時間がたっぷりあったので、息子は猫にいろんなことを話して聞かせていました。それで心を開いたのか、猫の方も今まではご飯の時だけ愛想よく寄ってきて、あとは素っ気なかったのが、この頃はだいぶ「人付き合い」が良くなった気がします。今では息子が勉強している時や、ソファーで和んでいる時など、ビッタリ寄り添って丸まるので可愛さ倍増でしょう。息子は猫のお世話も積極的にするようになりました。それから例えば、家族でボードゲームをたくさんできたこと。一番多かったのは『カタン』という、陣取りゲームのようなものです。これが大人にとっても面白い。拡張版購入も検討中です。息子は遊びながら、自分は戦略を考えたり交渉を粘ったりするのが好きなのかも知れないと気付いて、それも良かったと思います。家の前で続けたバトミントンも自然と上達しましたし、洗濯物も文句言わずに畳むようにもなりました。それに大人の新聞にも時々目を通すようにもなったのも成長です。つい先日も、中腰のまま身じろぎせずに新聞を見ている姿がありました。何の記事に関心を持ったのだろうとそっと近づいてみると、例の事件の記事でした。米国ミネソタ州で、一人の黒人男性が白人警官に押さえつけられて死亡したという。読み終えると、ふと私の方を見て「ねえ、なんで白人は黒人に悪さばかりするの?」と聞いてきました。私は考え込んでしまいました。一言で答えられるようなものではありません。それに正しく説明できる自信もありません。でもまず、すべての白人がそうではないと前置きして、それからこの問題は、すごく歴史が長く根が深いと伝えました。植民地時代にアフリカから連れてこられた奴隷のこと、南北戦争、リンカーン、キング牧師…。でも、このごろは学習漫画が充実していますし、その辺の知識は息子と大して変わりなく、質問の答えとして不十分です。やはり知らないことが多すぎるので、図書館に頼ることにしました。緊急事態宣言が解除されて、予約と受け取りが可能になったので早速!そして、ごっそりとアフリカンアメリカンに関する絵本を持ち帰って親子で読みふけりました。息子にも少し問題の背景が見えてきたかな。素晴らしい作品が沢山ありましたが、今回はその一部をご紹介します。絵本というと、小さい子向けというイメージがあるかもしれませんが、決してそんなことはないので、ぜひ大きい子にも。『むこうがわのあのこ』(ジャックリーン・ウッドソン:文、E.B.ルイス:絵/光村教育図書)柵の向こう側からあの子がこっちを見てる。気になるけれど、向こう側へは行くのを禁止されている。そんな女の子の呟きを描いたお話です。柵のこちら側と向こう側の子どもたちがお互いに歩み寄っていく姿がとても眩しく、まるでそこにいるかのように生き生きと描かれています。「こんなふるいさく、そのうちだれかがきてとりこわすよね」という一言が印象的。さらりとしたタッチなのに強く心を揺さぶる作品です。絶版になってしまったようなので、図書館で借りるしかないのですが、是非とも再版して欲しいものです。『ヘンリー・ブラウンの誕生日』(エレン・レヴァイン:作、カディール・ネルソン:絵/すずき出版)奴隷として生きるということは、具体的にどういうことなのかがとてもよく分かる絵本です。本人の願いや思いはないも同然で、主人の思惑のまま売り買いさせられ、生まれた証の「誕生日」もない。この作品は「地下鉄道」と呼ばれる組織の助けを借りて、自由な北部へ逃亡したヘンリー・ブラウンという有名な奴隷の実話に基づいたものです。ヘンリーのひと時の幸せ、耐え難い苦しみなど、迫力のある絵で描かれ、当時が生々しく伝わってきます。でも重たすぎない。どこか希望のある雰囲気が漂い、救われます。コールデコット賞オナー賞受賞。『自由への道奴隷解放に命をかけた黒人女性ハリエット・ダブマンの物語』(池田まき子:作/学研プラス)自由を夢見て北部に逃亡したハリエット・ダブマン。その後、自らの経験を生かして他の奴隷たちを解放に導くため、「地下鉄道」の一員となります。危険を顧みずに行動した、勇気ある女性の物語。アフリカンアメリカンの過去を知る、入門書としても手に取りやすい。読んでいると、非情なまでの過酷な奴隷生活を知ることになりますが、一方で、この小柄な女性の強いエネルギーにも圧倒されます。ちなみに、ハリエット・ダブマンは、アメリカで紙幣にとりあげたい女性の偉人1位だそうです。小学4年生ぐらいから。(Anne)
2020年06月15日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学5年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。断捨離をする人も多いと聞くこのステイホーム期間。私も、食器棚の整理をしてみました。するとこんなものが出てきました。復刻版だるま弁当。瀬戸物で、ずっしり!これは高崎の名物、だるま弁当の入れ物です。あれ?ダルマ弁当といえば、赤いプラスチックの容器で、食べ終わるとダルマの口の部分に穴があるため、貯金箱にできるというものですよね。でも実はこれ、その赤いダルマ弁当の原型なんです。もともと1960年の発売当初は瀬戸物の器だったのが、1973年に今の容器に切り替わったそうなのです。それが近年、復刻版としてこの瀬戸物のお弁当が発売されて、駅で見かけるようになったというわけです。この瀬戸物のお弁当は、昨年の春、息子と高崎を訪れた際に駅で見つけてその場で食べたものです。器が立派なのでの捨てるには忍びなく、持って帰ってきました。けれども使い道がない。飴やおせんべいを入れて食卓に置いても良かったのですが、なにせ物が多い家の中。これ以上余計なものは出すまいと、棚の奥にしまいこんでいたのです。それから一年ほど経った今、思いも寄らない生活が始まり、不要不急の外出はできない事態となりました。旅はもちろん、電車にも気軽には乗れない。高崎にだって行きたくてもいけません。家にこもる生活が続くと、当然、映画やテレビ番組を観る機会が多くなります。異国が舞台の作品、秘境を巡る旅番組など、いろんな景色に映像を通して出会ってます。それはそれで息子も楽しんでいますが、この頃は観るたびにだんだんと、電車や飛行機で遠出や旅行をしていた頃を懐かしむようになりました。「あーあ、前みたいにどこか遠くへ行きたいなー」そんなふうに呟いては、地図帳を広げて見入ってます。なんとか線に乗って、あそこへ行って、あれそれを食べて、あれも見物して、と頭の中で欲張って計画してみたりして、なんとか気持ちを満たしているようです。小学校に上がって興味は他へ移ったものの、鉄道ファンの幼少期を経ただけに、やはり時々は乗りたい。特にこんなおこもり状態が続いていると、より一層「移動」への思いが募るのかもしれません。そこで思い出したのが、この瀬戸物のお弁当箱。今日のお昼ご飯は、これに詰めてあげよう。もちろん相変わらず、超手抜きですよ。でも、少しだけ旅気分を味わえたようで、息子はとても喜んでくれました。入れたのは、朝の残りの五目いなりと鯖。それにいつもの助っ人「冷凍ささみカツ」をチンして、あとは冷蔵庫の野菜を詰めただけ。ごま塩にぎりだけは努力して、お弁当用ににぎりました。考えてみれば、鉄道ファンの子どもたちにとっては、寂しい時期ですよね。もしこれがウチの息子の幼少期だったらと思うと、心が痛みます。本人たちにとっては、乗車は「要」の外出だと主張したいところかもしれませんね。というわけで、今回は、鉄道ファンのちびっ子たちに向けて、少しでも気持ちが紛れることを願って絵本2冊と大きい子向けの読み物を選んでみました。『でんしゃはうたう』(三宮麻由子:ぶん、みねおみつ:え/福音館書店)この作品は、ホームに到着した電車に乗り、次の駅で下車するまでの時間を、景色と電車の音だけで綴ったものです。「たたっつつっつつたたっつつっつ」。確かに、よーく耳を澄ませると、電車はまるで歌ってるかのようです。まずは声に出して読んでみてください。読み慣れてくると、すごく楽しい。リアルさが増して、親子で電車に乗ってる感に包まれます。3~5才向き、とありますが、私でも面白いと思ったぐらいなので、大きい子に読んであげても喜ぶかもしれません。読み聞かせ活動も目下休止中ですが、再開したら高学年に読んでみようと温めています。『でんしゃでいこうでんしゃでかえろう』(間瀬なおたか:さく/ひさかたチャイルド)大人気の仕掛け電車絵本です。山の駅から海の駅まで、野を超え山を越え旅する電車の様子を描いた作品です。穴のあいたトンネルのページをめくると景色が一変する驚きが味わえたり、車内の家族の行動もじっくり観察できたり、さらには後ろからも読み返せて「折り返し運転」も体感できます。電車や旅の楽しさが凝縮した作品。鉄道ファンでない子にも、大きい子にもオススメです。5年生の息子も、こういうの「マイクラ」で作りたいと見入っていました。2~3歳から。『いえででんしゃ』(あさのあつこ:作、佐藤真紀子:絵/新日本出版社)大人気の作家さんコンビによる物語。ママから「ムジツノツミ」で叱られたさくら子は、思い切って家出をすることにします。そこにやってきたのは、古びた電車。家出をした子なら誰でもただで乗車できるというので飛び乗ってみると…。さくら子は色々な人や生き物に出会い、みんなの言い分に耳を傾けてゆきます。読んでる側も、きっと共感できるところ満載でしょう。ウチの子は、なんども読み返していたました。理不尽なことで叱られて悔しい思いをした時など、心の支えになっていたようです。『いえででんしゃはこしょうちゅう?』『いえででんしゃはがんばります』と続き、3月に12年ぶりの続編『いえででんしゃしゅっぱつしんこう』が発売されました。文章も易しいし、内容も親しみやすいので、中・高学年向きとありますが、低学年でも問題なく読めると思います。絵本や本で旅の夢を膨らませながら、いつかまた電車に乗れる日を待ちたいですね。 (Anne)
2020年05月25日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学5年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。休校が、5月6日から31日にまた延長しました。そうなるだろうと心構えはしていましたが、やはり不安や息苦しさは募ってきますね。それでもヨーロッパやアジア諸国で、少しずつ経済活動が再開され、緩和が始まったというニュースを聞くと、収束にはまだ日本は遠くても希望を感じます。そして、もうひと頑張りしよう思うわけです。近所の花壇のチューリップ。最近では、行動範囲が狭まったからか、以前は気にも留めなかったささやかな事柄に心が和んだり、楽しみを感じるようになりました。コンビニまでの近距離が、特別な外出のように思えたり、近所の花壇のチューリップにうっとりしたり。門前のてんとう虫がテケテケ這っている様子まで見入ってしまったり。学校からの分散登校のお知らせが来たのも嬉しいことでしたし、友人たちからの何気ない連絡も、いつも以上にありがたく感じます。友人たちは、子どもと一緒にお料理したり、ベランダでランチをしてみたり、工作やマラソン、あれやこれや。いつもの生活だったらできなかったことをやってるという話は、良い気分転換になりました。また、普段の学校生活に窮屈さやストレスを感じていた子たちは、この休校が息抜きになっているという話も中にはあり、マイナスなことばかりではなさそうで良かったです。ちなみに我が家は、今までだったら絶対にしなかった「親子かくれんぼ」をすることになりました。これが想像以上に面白かった! 高学年相手だと、なかなか手強いものですね。どう隠れるか、どうカモフラージュするかのアイディアがどんどん出てきて、大人も負けてはいられません。スリルも満点でしたよ。甥っ子のペンキ塗り。オランダで暮らす妹も、イタリアやフランスほどではないにせよ外出制限はあるそうで、在宅勤務生活にシフトしました。3才の甥っ子の保育園も休園。でも家族でなんだか楽しそうです。今日はシュークリームを作っただの、庭先でバーベキューをしただの、ペンキ塗りをしただの。在宅とはいえ異国の雰囲気が漂う写真が毎日のように送られてくるので、実際には行けないけれど、おかげさまで私は旅気分を味わえてます。オランダから、子供部屋がこんな風に変わりました、と。休園中の甥っ子はというと、家で過ごすようになってからというもの「急に成長した」そうなのです。お絵かきや積み木が驚くほど上手くなってアルファベットもひとりでに書けるようになったとか。スカイプで話す日本語も流暢になってます。妹は、社会性は別として、園に行かない方が子どもの能力は伸びるかもと、冗談交じりに言っていました。確かにこういう時期、伸びる子もいると思います。でも、それはその子自身と家庭環境にもよるでしょう。小学生にもなれば、そうそう簡単に一人で学んではくれないものです。甥っ子は、もうすぐ4歳。オランダでは4歳になったら小学校に入学です。そして日本は「9月入学」? いいかもしれませんが、後で考えたい。親にも子どもにも負担がかかっている今、さらに心配の種が増えるとの声が耳に入ります。それよりも、オンライン授業に向けて、公立の学習環境の充実を最優先して欲しいところです。今後、感染の「第2波」や「第3波」が来るかもしれません。そうなれば断続的な休校も考えられます。それでも、スムーズに学びが継続できるようであって欲しい。それに、そのほかの感染症による学級閉鎖時にも有効でしょうし、不登校や入院中の子どもたちも、授業に参加しやすくなるでしょう。メリットがたくさんな気がしますが。いずれにしても未曾有のこと。これからの生活は今までと同じではなさそうです。色々なことを考えて工夫していかないと。そのための新しいアイディアは、もしかしたら、ステイホームで見える、身近なささやかな事柄から得られるかもしれませんね。というわけで、今回は「考えよう」のテーマで3冊!『ぼくはあるいた、まっすぐまっすぐ』(マーガレット・ワイズ・ブラウン、坪井郁美:ぶん/ペンギン社)は、小さな男の子が、たった一人でおばあちゃんに会いに行く冒険物語です。おばあちゃんの家へ「まっすぐ、まっすぐ」と唱えながら、恐る恐る進む道には初めての出会いがいっぱい。これはなんだろう?こういうときはどうしよう?小さいながらも考えたり、工夫したりして、小さな困難を乗り越えて行きます。まさに小さい子向けの「哲学への道」とも言えそうです。林明子さんの絵も素敵です。『人生って、なに?』(朝日出版)。これは全部で10冊ある子ども哲学シリーズの一冊で、たくさんの「なぜ?」が詰まった作品です。私たち大人でさえ、日々、なぜだろうと思うことがたくさんあります。でも、多くは、言葉にならないまま、もやもやと心に残っている。子どもならなおさらだと思います。この作品は、そうした疑問をやさしい言葉に置き換えて、自分で考えられるように導いてくれています。一つの「なぜ?」が新たな「なぜ?」を生む。そうすると考えはどんどん広がり深まってゆきます。目的は正しい答えを出すことではない。だからこそものすごく楽しめる本です。私は、親子で一緒に語り合いながら読もうとこの本を置いておいたら、「何これ!面白い!」と言って、息子はあれよと言う間に読み終えてしまいました。シリーズの中には、他にも『きもちってなに?』『しあわせってなに?』など。(4歳から、小・中学生以上にも)『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(くさばよしみ:編、中川学:絵/汐文社)。「貧乏とは、無限に欲があること」というホセ・ムヒカ前ウルグアイ大統領のスピーチは、2012年リオディジャネイロで開かれた環境問題を議論する国際会議で、拍手喝采を浴びました。その内容を簡約した絵本です。社会の発展とは?幸福とは?ムヒカ前大統領の思いをなぞりながら、今こそ子どもたちと一緒に、どう私たちの生活を見直すべきか考えたい。きっと、希望へのヒントを得られると思います。(小学校中学年から)
2020年05月15日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学5年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。休校が始まって1ヶ月半以上が経ちました。こうも長くなってくると、子どもの生活もマンネリ化してきませんか?だんだん怠け癖が出てきたり、ストレスだって溜まってもくるでしょう。本来学校に行ってお友達と勉強したり遊んだりしたいところを、グッと我慢して過ごしているのですもの。仕方がないことです。ウチの息子ももれなく。なんだかモヤモヤしてるなぁと思う時があります。そういう時は「今の辛い時期に経験したことや感じたことは、後になってきっと役立つからね」と励ましてみています。生活においては、工夫を凝らした「ステキ自粛ライフ」をしようと力まずに、子どもにも無理をさせず、まずはリラックスできるよう、生活リズムのキープと、笑顔になることをする。そこだけに気を配ろうと思うこの頃です。そんな中、保護者に向けて学校から連絡がありました。新年度の教科書を配布するので取りに来るようにとのことです。私は早速大きな袋を持って学校へ向かい、マスクの装着と手洗い、それに「ソーシャルディスタンス」を徹底した中で受け取ってきました。結構な量と重みです。義母が工夫して縫ってくれた洗えるマスク。ガーゼ素材で、鼻から顎までぴったりすっぽり覆えます!家に戻って教科書の山を出すと、息子が飛んできました。ページを開いて食い入るように中身を確認し、いつもはノロノロと作業に取りかかるのに、どうしたことかものすごく積極的に一冊一冊名前を記入し始めるではありませんか。名前を書くごとに嬉しさがこみ上げてくるでしょう。みるみる顔が輝いてくるのが見て取れます。先生の顔を思い浮かべたり、授業をイメージしてみたり、新しいクラス編成に喜んでみたり、文句を言ってみたり。だいぶ盛り上がっていましたよ。教科書が休校中のささやかなイベントとなるなんて。今まで当たり前のように受け取っていた教科書に、こんなふうに子どもが元気づけられるなんて。教科書のありがたみを改めて感じたところでした。せっかく教科書が手元に来たというのに、公立の小学校はまだオンライン授業の兆しもありません。授業の遅れはどうなってしまうのでしょう。先生方も間違いなく大変です。休校が長期化するかもしれない不安の中、子どもの教育環境に大きなしわ寄せが来ないように願うばかりです。子どもだけではなく、こういう事態になると社会的弱者にしわ寄せが来やすい。医療現場ではそんな状況に迫られつつあると聞きます。人工呼吸器が足りず、医療崩壊寸前にある中で、あってはならない「命の選別」に直面しなければならない恐れもあるでしょう。若い人命を救うために高齢者が犠牲にならないといけないなんて、そんなことは想像すらしたくありません。命に軽重はない。社会的な弱者は人々の心に、優しさや、生きる知恵と希望を与えてくれる大切な存在。そんな風に私は思っています。そういうわけで今回は高齢者からの学びを描いた作品をピックアップしてみました。『だいじょうぶ、だいじょうぶ』(いとうひろし:作・絵/講談社)は、気の小さい「ぼく」とおおらかな「おじいちゃん」が一緒に歩く、素朴なお散歩のお話です。道端の小さな花や虫、近所のお友達やすれ違った車などを通して「ぼく」は色々な発見をしてゆきます。怖いと思うことや不安に思うことがあると「おじいちゃん」はいつも支えてくれます。おまじないのように「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言って。子どもに安心と勇気を与え、背中を押してくれるような作品です。私も、何があっても大丈夫と、デンと構えてニコニコしているお母さんになりたいとつくづく思いました。ちなみに、お話会には大型版をお勧めします。『おじいちゃんのところ』(H.V.グリフィス:文、J・スティーブンソン/童話館出版)もしかり。おじいちゃんのところに、孫のジャネッタがお母さんに連れられてきます。楽しいところかと思いきや、見渡す限り古ぼけた家、荒れた庭、わけのわからない生き物たち。とても好きにはなれません。ところが、星を眺め、川へ行き、魚を釣ったりしながら、おじいちゃんの不思議な話を聞くうちに、ジャネットの心に変化が出てきます。素敵なおじいちゃんとの交流が羨ましくなる一冊です。(7歳ぐらいから)中学年以上には、『ペニーの日記、読んじゃダメ』(ロビン・クライン:著、アン・ジェイムズ:イラスト/偕成社)。私も惚れ込んでしまった作品です。年寄りなんて大嫌いと言っていた、口の悪いお転婆娘のペニー。ひょんなことから老人ホームで暮す個性的なベタニーさんと知り合います。最初はこのおばあさんに悪態をついていたペニーですが、ベタニーさんとの交流が深まるにつれて、色々なことに気付き仲良くなってゆきます。そのやりとりは、ややブラックなユーモアに溢れていながら心温まるもので、読んでいて本当に楽しいものです。中のイラストやレイアウトも素敵。自分だけでなく、他の人も辛くならないように、今できることはステイホーム。薬味のネギがなければなしでよし。お味噌を切らしていたらお澄ましでよし。もうちょこちょこと買い物にも出かけません。(Anne)
2020年04月25日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学4年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。日本でも首都圏を中心に緊急事態宣言が発令されましたね。ご存知の通り、ヨーロッパでは爆発的に感染者が増え、母の住むパリでも制約の厳しい生活が続いています。パリ市内は閑散としている様子がニュースで報道されましたが、実際、市民の毎日はどの程度缶詰状態なのだろうかと心配になります。こもっているとコロナの感染や暴露は避けられても、運動不足やビタミンD欠乏の心配もあります。いろいろ気がかりでメールで尋ねてみると、近所の通りや広場の写真が送られてきました。パリでも生活必需品の買い出しはOK。さらに運動や散歩も1日に1時間以内なら許されていているとのこと。外出許可書は記入して所持しないと出れませんが、全く外の空気が吸えず、日の目も見ないというわけではない、というコメントでした。(おことわり:世界の状況が悪化する中、パリの外出許可の条件も変わってきているので、オンタイムの情報ではありません)外出許可書は、自分の氏名、生年月日、住所を記入して、5項目のいずれか当てはまる外出理由にチェックし、サインをするというものです。5項目とは、1:在宅勤務が不可能。または時期をずらせない仕事2:生活必需品の買い出し3:通院など健康上の理由4:保育や介護目的5:単独行動に限り、近所での運動やペットの散歩。母の場合は、5番目の項目にチェックをしているということでしょう。大きな公園は閉鎖されていますが、住宅街のちょっとした遊具がある広場はそのままで、まばらに子連れがいるようです。制限のある中でも子ども達は外遊びができ、大人たちは日光浴ができているようですね。その間隔は大きく開いていて、2メートルは優にある。人と人の距離を十分確保する意識がありありと伝わってきました。もちろん日本の緊急事態宣言はヨーローパのようなロックダウンとは違い、罰則がないとはいえ、今までのように心置きなく出掛けるわけにはいきません。不要不急の外出と3密は避けて休業要請。でも、百貨店と理髪店は休業対象外?こうなるとステイホームといえども曖昧で、まるで雲を摑むような感じがします。どこまでが許容範囲なのか判断が難しい。仕方がないので、ひとまず私は、上記の外出許可書の項目を参考に行動したいと思いました。それにしても大変です。休校が延長され、お稽古もなし。子どももかわいそうです。一方親も、いつもは留守の家族が24時間家にいるわけですから、生活リズムの見直しが必要になります。我が家の場合は、一人っ子なので、兄弟同士で勝手に遊んでくれるというわけにも行きません。学校生活で日課だった男の子同士のわけのわからないじゃれ合いとか、ちょっとした諍いとか、女親には意味不明なギャグのやりとりとかも、休校のためできないので、母親の私が付き合うことになります。真面目に相手をしていると、知らず知らずのうちにドタバタ劇に展開し、そこへパパが顔を出して「またトムとジェリーやってるの?」と呆れるという結末です。そういうわけで、夕食後は流石に疲れて大人の時間が欲しくなります。通常は9時半過ぎてようやくベットに向かう息子でしたが、今は「目標」8時半、「現実」9時には自分の部屋に引っ込むようお願いしてます。そして、ゲーム機もパソコンもない部屋で10時まで自由に好きなことをして過ごしてもらってます。たっぷり1時間。本来なら忙しい高学年。なかなか作れなかった貴重な時間です。長い長いシリーズものの物語にも思う存分浸れます。『ドリトル先生物語全集』(岩波書店)は全部で13冊もありますが、息子は面白い、面白いと、読み耽っています。その姿を見ると、羨ましくて仕方がありません。子どもの頃のこうした読書体験は、どんなに心躍るものでしょう。翻訳は井伏鱒二氏です。その日本語が驚くほど美しい!優しく、ユーモア溢れる文章で、心が澄んでゆくようです。息子の心にもこの文章の美しさが浸透していって欲しい。とはいえ読み始めは、この文章に馴染めなかったのか、なかなか読み進みませんでした。そこで私が最初の部分を読み聞かせみて、やっと入り込めたようです。まだまだ親の読み聞かせが必要な時もあります。幾つになったっていい。私はそう思ってます。もちろん、子どもは膝の上から隣に、隣から向かいに、向かいから斜めに、向かいからソファーの端に。きっと距離は離れてゆくでしょうけれど。さて。ドリトル先生のように動物たち囲まれたい、と思っても今は動物園には行けません。せめて本の中で出会いましょう。童話や昔話が詰まった『おはなしのろうそく』(東京子ども図書館)シリーズというものがあります。この中に収められた『世界でいちばんきれいな 声』(マージョリー・ラ・フルール:作)ですが、あまりの愛らしさに、私は丸暗記してしまいました。ある時一羽の子ガモが、外の世界を知りたくなって家を出ます。すると、次々と動物に出会います。その度に、初めて聞く鳴き声に憧れて、真似をしてみますが、どんなに頑張ってもうまくいきません。さて、子ガモはうまく鳴けるようになるのでしょうか。ユーモアある小さな冒険物語。子どもが笑顔になること間違いなしです!ポケットに入るサイズでメモ帳のように軽いのも魅力。いつでもどこでも取り出して、そっと読んで聞かせたいものです。3歳ぐらいから低学年向け。『MAPS(マップス)/新・世界地図絵』(アレクサンドラ・ミジェリンスカ&ダニエル・ミジェリンスキ:作/徳間書店)ポーランド発の大型世界地図絵本です。地図にはギッシリと各国の基本データや地理情報、それに特産物や生息物のイラストが埋め尽くされていて、何時間でも眺めていられる大人気の絵本です。国の数を増やした「愛蔵版」もあります。世界への夢がどんどん膨らむことでしょう。『みんなみーつけた』(きしだえりこ:作、山脇百合子:絵/福音館書店)。お馴染み『ぐりとぐら』の作者による、かくれんぼのお話です。男の子がオニになって、草むらに隠れた動物たちを探します。でもみんな、ちょっと体のどこかが出てしまってます。どこにいるのでしょうか?それを子どもと一緒に探して、「みーつけた!」と言う喜び。何度も繰り返し読んで、楽しめます。2歳ぐらいから。子ども向けの本の中では、動物も人間も、当たり前のように心を交わすことが多いことに改めて気づかされました。それをすんなり子どもは受け入れるんですね。そんなボーダーのなさが素晴らしい。外と内のボーダーを意識する今日、世界のみんなと手を組みたい。そう思います。(Anne)
2020年04月15日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学4年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。息子の学校が休校になり2週間以上経ちました。休校当初は、周囲も私も混乱状態。子どもの勉強は?遊びは?親の仕事は?子どもだけで留守番ができるような年齢だとしても、何日も続けば様々なことが気がかりです。怠慢な生活になりはしないかとか、地震が来た場合はどうしようとか、犯罪に巻き込まれはしないだろうかとか、そもそも宿題を一人でコツコツこなす子は一体どれほどいるのだろうかとか。じゃあ、在宅勤務が可能ならそうしようということになりますが、子どもが近くでワサワサ動く中、仕事に集中できる器用な親はどれほどいるのかも疑問です。長期戦になれば学習サイトを活用して勉強することも視野に、というような話も耳にしますが、その件だってそもそも、全ての子どもがパソコンにアクセスできる環境にいるとは言えないでしょう。一体どうなってしまうの?そんな話で持ちきりです。でも心配ばかりしてられません。そんな矢先、休校をきっかけに、砂場遊びに没頭したという4年生の記事を小学生新聞に見つけました。お友達と竪穴式住居を造り、さらには畑や橋なども周りに加えたそうです。ちょっとしたジオラマですね。記事には、高学年になってからの本気の砂遊びは大人の想像を超える豊かなものになっていましたというお母様のコメントも。こんな時だからこそできること。素敵だなと思いました。さあ、こうなったらウチの子も普段できない、何か独創的なことをしてもらいたい。でも何ができるだろう。半ば焦燥感にかられるようにして、辺りを見回したり、家の中を歩き回ったりしてあれこれ考えてみました。でも簡単には閃きません!ところが息子の方は、私が頭をひねっていようとお構いなしで、なにやら楽しそうに取り組んでいます。そうね、なにもわざわざ特別なことをさせようとしなくても良いのかも。いつもの趣味の時間に没頭するだけで十分だと、ひとまず様子を見ることにしました。ダンボール工作、読書、邦楽鑑賞(ついでに歌う)、料理、映画鑑賞。それに、もちろん今時の小学生です。ゲームやユーチューブや『コロコロコミック』に手が伸びるのも仕方がありません。ウチでは宿題と階段のお掃除を済ませたら、少し長めにやっていても目くじらを立てないことにしました。運動不足もやや気になりますが、お友達とバトミントンやランニングなどで、なんだかんだ少しは解消できてるようです。そこで私は、やっぱりこんな時だからこその本選びをします。子どもたちは否が応でも、連日コロナの話題を耳にするわけです。どうせならウィルスのことでもより良く知ってもらいましょう。「正しく恐れる」ための知識は必要ですもの。というわけでひとまず、お馴染み人気科学漫画シリーズの『ウィルスのサバイバル』(1、2/朝日新聞出版)を購入してみました。最近はすっかり本棚の奥に追いやられていた我が家のサバイバルシリーズ。もはや卒業したかと思っていたら、まだまだ、まだまだ!ものすごく喜んで、即座に読みきってくれました。久しぶりに新作を読んでみると、やっぱり話が面白いとのこと。どうやら登場人物が優等生すぎないところも、他の学習漫画と比べて好きな点だそうです。ついでに『ビジュアルパンデミック・マップ/伝染病の起源、拡大、根絶の歴史』(日経ナショナルジェオグラフック社)も買ってみました。これもなかなか面白い。『マップ』というだけあって地図が豊富なので、細かい文章はさておき、高学年なら眺めるだけでも楽しめそうです。それに衝撃的な写真は一切ないので子どもが目にしても安心です。親子でぜひ。さて。ウィルスに勝つための絵本です。『じゃぶじゃぶじゃぐちくん』(新井洋行:さく/講談社)『れいぞうこ』などでおなじみの作者による、幼児向けの作品です。主人公が蛇口だなんて、とてもユニークだなと思いました。汚れたものや口にするものを、ちゃんときれいにじゃぶじゃぶ洗っていきます。小さいお子さんも手洗いが楽しくなるでしょう。次はうがいです。でも、子どもが上手にうがいができるようになるまでは、ちょっと慣れが必要ですよね。そんな時のために繰り返しうがいがしたくなる『うかいのうがい』(さくらせかい/ブロンズ新社)。「ウ」という鳥5羽と飼い主のハンさんのお話です。小舟に乗ってがらがらがらがらとみんなでうがいをしていると、魚たちが集まってきて…。ちなみに「うがい」という言葉は「鵜飼い」からきているそうですよ。『感染症キャラクター図鑑』(岡田晴恵:監修/日本図書センター)。感染症を起こす目に見えないウィルスや細菌を、親しみやすいゆるキャラで描いていて、思わず飛びつきたくなる図鑑です。総ルビの解説はとても丁寧で読みやすく、低~中学年向き。何に対してどう気をつければ良いのか、という基礎的なことを知るだけでも有効でしょうし、子どもたちの漠然とした不安の解消になるのではないでしょうか。(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。
2020年03月25日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学4年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐため、息子の小学校も休校になりました。あまりに急なことで、我が家でも困惑しています。長引けば子どもたちにも相当な負担がかかるに違いありません。早く終息してほしい!ほんとうに!! この話題はまた別でするとして、3月8日は国際女性デーでしたね。それにちなんで、ジェンダーの話をしようかな。先日、オランダに住む妹から、こんな写真が届きました。赤い水玉のワンピースを着てとても嬉しそうな甥っ子。でも多分、自分のジェンダーに違和感は感じていない。妹の3歳の息子が、スペイン旅行でフラメンコを観てからというものやたらワンピースを着たがるのだそうです。保育園にはプリンセスやカウボーイなどの衣装が常に置いてあり、子どもたちはいつでも着て良いことになっているそうです。その中から毎日甥っ子は、このこの水玉の服を選んでいると。「垂れる垂れるワンピース」と名付けて着て、とても嬉しそうです。親も周りも、なにを言うでもなく自由にさせているのだとか。妹曰く、スウェーデンはもっと進んでいて、女の子の格好をして幼稚園に通う男の子は普通にいるのだとか。親も社会も特にどうということでなく、5~6歳ぐらいになれば、そういう傾向が自然と消えるのだと言います。必要であれば、そのまま着続けるというだけのことだと。ジェンダーに対する固定概念から解放されるようなエピソードでした。一方我が家では、こんなことがありました。年明け早々のことです。私の大学時代の友人がパリから来るというので、美味しい和食でも食べに行こうと約束をしました。息子とパパの夕食にはカレーを用意してお留守番をお願いし、私の方は出かける身支度でバタバタしていると、息子が誰に会うのかと聞いてきました。大学時代の友人だと伝えると、どんな人なのかと興味津々です。「そうねえ、面白くて頭が良くて、楽しい人よ」友人なので良いことしか思いつきません。「女の人?」と息子。「いや、男の人よ」と私。それから少しの間、息子は黙っていましたが、また質問してきました。「ふーん、でもなんでママはその人と結婚しなかったの?」「ええーー!!」あまりに想定外の質問だったので、私は思わず吹き出してしまいました。「いやー、だって、お友だちだもん!そんな感じじゃないよー!」と、大した説明にもなっていないなと思いながら返事をして、「それに、その人、男の人が好きなのよ」と付け加えました。この最後の一言が息子には説得力があったのか「あ、なるほどね」と納得してくれたようです。最近の子どもたちは、同性が好きな人の話や、スカートを履きたい男の人の話が話題になっても、割とさらりと受けとめますね。驚くことはなく、変わっているとも思わず、そういう人いるよね、ぐらいの感覚で。ホッとします。でも、その脚本家でもある私の友人は、男性が男性に恋をするシナリオを書いたら、片方を女性にしてくれとお願いされたと言います。21世紀だというのに、とため息をついていました。さて、以前にこんな絵本を見つけました。とても気に入っていて、読み聞かせ用に何度も借りています。『ピンクがすきってきめないで』(ナタリー・オンス:文、イリヤ・グリーン:絵/講談社)。ふつうはピンクが好きというけれど、「わたしは、黒がすき」という女の子のお話です。蜘蛛や恐竜も好きだと語って、周りには人形遊びが好きな男の子や、ミニカーを花柄にペイントする男の子もいるんだと紹介してくれます。「そんなことどうだっていいじゃない」。ちょっとばかり挑発的な口調も、フランス的なおしゃれな絵もとても魅力的です。男の子らしくとか、女の子らしくとか、もううんざりな時代ではないでしょうか。『ふたりママの家で』(パトリシア・ポラッコ:絵・文/サウザンブックス)。題名の通り、パパはいないけれど、ママ2人と、肌がブラウンの子、目の細い子、赤毛の子の3きょうだいで暮らす家族のお話です。周りには素敵な仲間もいて、楽しく毎日を過ごしていますが、変わった家族だといって毛嫌いする人も登場します。それでも明るいママ達に支えられて成長してゆく3きょうだい。子どもたちには、こういうお話にも小さいうちから触れて、いろんな家族の形があることを知りながら、あらゆる無駄な「壁」を作らずにいて欲しいなと思います。最後に高学年~中学生向けの読み物。『ぼくがスカートをはく日』(エイミ・ポロンスキー著/学研プラス)。心のうちにモヤモヤとした思いを抱えながら、日々を過ごすグレイソン。誰にも知られなようにお姫様の絵を描き、金色のドレスを着てるシンデレラのような自分を密かに想像してみます。でも思春期が近づくにつれて、今までのように想像力だけでは補えない本当の思いに悩みます。葛藤を繰り返しながら、やがて劇のオーディションをきっかけに、徐々に自分を解放してゆく物語。女の子になりたい!そんな思いを抱える子どもの気持ちがとてもよく分かる、繊細描写が印象的な感動作です。(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。
2020年03月15日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学4年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。これは私が用意した息子のある日のお弁当です。かぼちゃ天丼、鳥カツの甘辛、オクラの肉巻き、枝豆、プチトマト、ほうれん草の胡麻和え。一見すると真面目に作ったお弁当のように見えるかもしれませんが、この日は完全に手抜きでした。かぼちゃの天ぷらと鳥カツの甘辛は冷凍食品。枝豆だって解凍しただけ。オクラお肉巻きは、オクラにお肉を巻いてチン。プチトマトは洗っただけ。手作りなのはほうれん草の胡麻和えですが、これも前日の残り物です!これを詰めただけ。伝統工芸品の力でしょうか。秋田大館曲げわっぱのお弁当箱に入れると、「それなり」に見える気がします。こんなに手を抜いたのに!私は、お弁当は何も全て手作りでないといけないとは思っていません。猫の手も借りたいぐらいの時は、堂々と出来合いの物に頼っています。見た目もおしゃれでなくても構いませんし、キャラ弁に関しては一度も作ったことはありません。気にするのは食材の化学調味料や添加物。極力抑えたものを選んでいるくらいです。そういう私だって、年に数回のお弁当とあれば、オール手作りで頑張ります。でも、これが毎日となるとそうもいきませんもの。実はこんなことがありました。息子は保育園を経て公立の小学校に通っているので、完全給食です。給食、ありがたいったらありゃしない!そんな風にあぐらをかいていたところに、突然の知らせが舞い込んできました。学校の給食室を工事するというのです。まるまる1学期。それはつまり、お弁当の用意が必要だということです。しかも当然毎日!ここで青ざめたのは、私だけでなく、この小学校のほとんどの父兄、正確にはお弁当を用意する立場のお母さん、お父さんでした。さらには先生方も頭を抱えていました。もうそうなると学校の話題は、もっぱらお弁当です。保護者会でも、学校のホームページでも、近所の井戸端会議でも、どんなものを入れるか、どうやって持たせるか、どうにか手を抜けないか。長期なので無理はしないようにというにというアドバイスと栄養士さんからの手抜きレシピなどが保護者に配られたりもしました。まるで戦の準備です。そしていよいよお弁当期間がスタートすると、今度は一同長距離ランナーになったかのように、「あと2ヶ月」「あと30日」「1週間」と給食再開までのカウントダウンをしながら、皆が皆お互いに励まし合ったものでした。一方、この期間をものすごく楽しんだのは子どもたちです。なにせお弁当には自分の好きなものしか入っていませんから。嫌いな牛乳をひと瓶飲み干さないといけない苦痛に苛まれることもなければ、完食やお代わりを強いられることもありません。みんなそれぞれに違う形で違うものを持ってくるので、見比べたりするのもひとしおでしょう。お家でも子どもとの会話はお弁当の話が自然と多くなり、食べ物の話は人をニコニコとさせるものだなぁとつくづく思いました。そんな中、ある日息子が、毎日ものすごく綺麗なお弁当を持ってくるお友達がいると言います。色とりどりの具材がお行儀よく斜めに入れらえていて、上にはお花が乗っているのだと。お弁当箱は木製で楕円形をしている、とも。私は、曲げわっぱに詰まった宝石箱のようなお弁当が頭に浮かびました。きっと上に乗っているのは紫蘇の花か花形に切った梅酢レンコンなのでしょう。毎日のことなのに、その手の込めように感服してしまいました。ふと見れば、息子は羨ましそうな表情で「僕も…」と何か言いたげです。「ママはそんな手の込んだお弁当は作れませんよ!」言われる前に釘を差しておくつもりでした。「いや、綺麗な具を色々入れて欲しいんじゃないよ。ただ、ぼくもあの綺麗なお弁当箱が欲しいなぁ、って思って」。おしゃれ弁当もキャラ弁も要求してこなかった息子です。奮発しようかな。というわけで、秋田大館曲げわっぱを購入。おかげさまで、手抜きの具材も「それなりに」納めてくれて、助かってます。では、今回は美味しそうなお弁当がテーマの作品をご紹介します。『おべんとう』(小西英子:さく/福音館書店)。これは2~4歳向けの用事絵本ですが、ママたちもお弁当のアイディアに困った時に、初心に戻れる作品だと思っています。ふっくらご飯、あつあつミートボール、ふんわり卵焼き、プリプリウィンナー…。ああ、そうそう、こういう風に作ればいいのよね、と思いながら。子どもとは、一緒に、1ページめくるごとに、美味しそうだねと言い合ったり、ムシャムシャと食べる真似をしたり。内容はシンプルなのにたくさんのやりとりができ、心がほかほかする作品です。『まんてんべんとう』(くすのきしげのり:作、伊藤秀男:絵/フレーベル館)。主人公なおくんのお母さんは、豪華なキャラ弁を毎日作ってくれていて、お友達たちにも大人気です。ところが、明日は遠足という時に、お母さんの具合が良くありません。お母さんは大丈夫だろうか。お弁当作ってもらえるのだろうか。心配になったなおくんがとった行動は…?伊藤秀男さんのパワーみなぎる絵に元気をもらいますし、くすのきしげのりさんならではの、子どもの気持ちに寄り添ったお話は感動的です。私も遅ればせながらキャラ弁、作ってみようかしら。最後に、こんな本が発売されました。鉄道ファンにはお馴染みの櫻井寛さんの『にっぽん全国100駅弁』(双葉社)という駅弁写真集です。これをお弁当のヒントに、今日は長崎本線長崎駅の『坂本屋角煮めし』風だとか、また別の日は小海線小淵沢駅の『高原野菜とカツの弁当』風だとかいって、作ってあげたら喜ぶかもしれませんね。例えば、思春期に入って会話がめっきり少なくなった鉄ちゃんに!(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。
2020年02月25日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学4年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。やっぱり10歳になると違うと思うんです。自分を取り巻く世界が開けてくるような、そういった大きな変化があるように思えてなりません。国際的な事柄に関心を強く持つようになったのも、10歳を迎える頃からでした。小さい頃から度々海外に連れていくことがありましたが、息子はどちらかと言うと後ろ向き。家族訪問が多かったので、行き先がハワイやグアムのように子どもが思う存分はしゃげる場所でなかった、ということも関係してるかもしれません。でも、この頃はやたらと、外国へ行きたいと呟いています。暇さえあれば地球儀をくるくる回し、地図帳をペラペラめくり、そして、どんなところだろうと想像を膨らますのが楽しいようです。人口がどのくらいなのか、どんな言語を話すのか、大統領は誰なのか。知りたいことが次々と出てきて、やたら私に質問してきますが、家事片手の私の返事は、「さあ」「そうねぇ」「どうなのかしらね」と頼りないものです。地図帳の方がずっと良い相手。そしてわかったことがあると、「ママ知ってた?」と教えてくれるので、私も、役に立つ立たないはさておき、豆知識が増えて、それはそれで面白いものです。いずれにしても子どもの成長過程には、必ずどこかで何かに夢中になるタイミングがあると思います。私はいつも、夢中になったときがチャンスと思ってきました。興味を持った時こそ、吸収力が半端ない。電車好きだった小さい頃は、駅名に興味を持ったタイミングにひらがなを教えて、自分で読めるようにするとか。電車のダイヤが気になり始めたら、アナログ腕時計を持たせて自分で時間を読めるようにするとか。そもそも私は大したことを教えられないので、基本的なことだけは伝えるけれど、あとは自分で学んでもらおうという魂胆です。そういうわけで、世界に関する事柄も、このタイミングがチャンス。もっと息子の知りたいに答えてくれるものはないものかと、探してみました。すると、子供用の月刊時事雑誌というものがあると知りました。早速、2誌を取り寄せて比べてみました。読み比べてみた子ども用月刊時事誌、2冊。毎日新聞出版の『Newsがわかる』と朝日新聞出版の『ジュニアエラ』の11月号です。どちらも総ルビで、とても読みやすいというのが第一印象です。さらに、スポーツ、科学、歴史、ロボット、など、それぞれ分野別のトピックスも豊富ですし、爆笑学習漫画も然りで子どもが楽しめそうです。はっきりとした違いは、『Newsがわかる』の方は横書きで左開き、『ジュニアエラ』は縦書きで右開きということぐらいでしょうか。あとは、前者の方がページ数が多めで、より多くの話題を取り上げている一方で、後者は、いくつかにニュースを絞り、詳しく掘り下げている傾向があるように感じました。そして全体的なトーンですが、大差はないものの、後者の方がよりカジュアルかなといった感想です。私としては、一つに絞らず色々な媒体を読み比べてみたいところですが、そうもいきません。欲張らずに息子が要求した方を、まずは定期購読することにしました。決め手は、たまたまこの11月号に息子が好きなタレントさんが載っていたこと。そしてもう一つ。世界の子ども紹介ページがあったことのようです。やっぱり世界のことが知りたくてたまらないんですね。さて。地図帳や地球儀を眺めている息子の姿をみていると、私がとても好きな絵本作家の一冊を思い出しました。ユリ・シュルヴィッツ作の『おとうさんのちず』(あすなろ書房)です。自らの経験に基づいたお話です。ポーランドから旧ソ連に逃れて、食べるものにも困っていた時のことです。お父さんが何かお腹を満たすものを探しに市場へ出かけます。待ちくたびれた頃にお父さんが戻ってきますが、手にしていたのはパンではなく、一枚の地図でした。ひもじい思いをしながらも、「ぼく」は壁に貼られた大きな地図を眺め、時を過ごします。パンではなく一枚の地図を持って帰ったおとうさんの思いが素晴らしい。(小学生向けですが、5歳ぐらいからでも)『かきねのむこうはアフリカ』(バルト・ムイヤールト:文、アンナ・ヘグルンド:絵/ほるぷ出版)。物置のある庭付き集団住宅に住むぼくは、お隣のフランス語を話すおじさんの奥さんが気になっています。アフリカから来たらしいその奥さんは、みんなと同じように菜園を作ったりはしていません。そうかと思ったら、突然、物置を壊し、忙しそうに何かを始めました。お隣を気にしていくうちに「ぼく」と奥さんの交流が始まる、なかなかユニークなお話です。(小学生向け)最後に高学年から大人に読み物を一冊。『故郷の味は海をこえて』(著・写真:安田菜津紀/ポプラ社)。「難民」として日本で生活をしなければならない人々の、生活や苦悩を追ったノンフィクション。どういう経緯で故郷で暮らせなくなってしまったのか。どうやって日本にたどり着いたのか。彼らには私たちと同じように家族と共に食卓を囲み、心のこもったお料理を口にしていました。そんなかけがえのない時間があったことを知るうちに、「難民」とは遠い国の話ではなく、人ごとでもなく、すぐ近くに住む人たちの話かもしれないことが、リアリティーを持って伝わってきます。彼らが紹介する故郷のお料理の美味しそうなこと!深刻な内容ですが、同時に優しさや軽やかさ、楽しさも詰まった作品です。なにも子どもが世界に興味を持つタイミングを待つ必要はないですね。いつだって、こうした読み物に触れて心が豊かになって欲しいと思います。(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。
2020年02月15日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学4年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。もうすぐ2月です。節分の時期なので、お話会用に鬼がテーマの本の選書を考えていた先日のことです。私は車を運転しながら、ふと後部座席の息子に聞いてみました。「2月3日は何の日でしょう!?」豆まきする日を「節分」ということは知っていて欲しいなぁと願いながら。折り紙で折った『さんぽう』に豆を入れて。実は我が家では何年もの間、この「つのこうばこ」が「さんぽう」だと思い込んで折っていました。子どもと一緒の豆まきは楽しいものです。でも、豆の後片付けは大変ではないですか?「鬼は外!」も、あとで路面を掃除しやすいように、遠くに投げないようにと注意します。「福は内!」は玄関部分だけに控えめに投げてもらうことにしています。でないと全部回収しきれず、夏ごろになって、何か踏んづけたと思ったら粉々になった節分の豆ではないか!ということになります。でもこんな勢いのない豆まきで、いったい魔除けの効果のほどは?他にも息子は恵方巻きにかぶりつくのも楽しみのようです。でも子どもですから、定番は大きすぎて齧れないので、細巻きでごまかしていました。私はといえば、楽しみは「やいかがし」です。あのトゲトゲとした柊に鰯の頭をぶっ刺して作る薄気味悪いヤツを飾ると、これぞ魔除け!という感じがして不思議と気が奮い立ちます。パパはこうしたことには無関心ですが、縁起担ぎでお豆は食べてもらいます。年の数の下一桁だけ、息子が折る「さんぽう」に入れて。というわけなので、2月3日が何の日かと聞けば、息子はこの行事を思い出すでしょう。できれば「節分」とぐらい答えて欲しいと思ったわけです。ところが私の質問に、後部座席から聞こえた答えは「受験シーズン!」。鬼の絵本と節分のことばかり考えていた私ですから、意表を突かれてちょっとびっくりしました。でもそういえば、世の中は中学・高校・大学の受験の話題が、テレビや新聞のニュースで飛び交っているこのごろです。「まあそうだけど、3日と言ったらさ、鬼は外、福は内、って大きな声を出して豆まきするんじゃなかった?それに恵方巻きを食べるでしょ?」そう言って息子を「節分」に引き戻そうとしながらも、確かに中学受験でいうと、首都圏では3日は本番3日目だと納得。そしてふと頭をよぎったのが、受験只中の、とある母と子の話です。お子さんが、1日、2日と、試験を受けてきたものの、結果の方は芳しくないままだったそうです。すっかり自信をなくしたお子さんは、焦りや苛立ちが募って自暴自棄になり、とうとう大泣きしてしまいます。お母さんはそんな姿を見て、同情したり受験をさせたことを後悔したりもしますが、それでもそうもしてられないことに気付きます。翌日の3日に向けて気持ちを立て直さなければなりません。そこでお母さんが取り出したのが、節分の豆。お母さんが鬼をやるから、こちらに向かって豆を投げなさい、とお子さんを誘います。豆まきでストレスを発散させようとしたんですね。お子さんはすぐに笑顔になったそうです。節分をこういう風に過ごした親子の姿に、私は心打たれたのを思い出していました。ふと我に返ると、「恵方巻き買って!恵方巻き買って!」と後部座席から聞こえてきます。僕はもう10歳になったんだから、その記念に、玉子や干瓢や椎茸の入ったあの太い定番を食べ切るんだと息子が意気込んでいます。そこで、もう一度聞きました。「2月3日は何の日か?」「知ってるよ!節分でしょ!」バックミラーで息子の顔を確認すると、あっかんべーでもされそうな表情でした。というわけで、今回は節分にまつわる絵本の紹介です。『あかたろうの123の345』(きたやまようこ:作/偕成社)。昔からある絵本です。おにの子あかたろうが、おうちに戻ってくるとお母さんがいません。不安になっておばあちゃんに居所を教えてもらおうと電話をかけます。番号は123の345。お買い物をして帰るそうなので、八百屋さんや魚屋さんにも電話をしてみます。だんだんとどこのお店で何を何個お母さんが買って帰ってくるのか見えてきます。さてさて夕食のメニューは?指を使って数を数え始めるお子さんにもぴったりの、とても楽しいお話です。3・4才から。『まめのかぞえうた』(西内ミナミ・さく、和歌山静子・え/すずき出版)。「まめ一つ、まめひとつあったとさ。畑にうめてつちのなか」とリズムよく数え歌が始まります。豆が成長して、実がなり、節分の豆になるまでの過程をテンポよく、わかりやすく描いています。こちらも、ひとつ、ふたつ、と丁寧に数を数えるのが楽しくてたまらない、そんな年ごろのお子さんに是非。(2~3才から)写真は英語のバイリンガル版。最後に昔話。『しょうとのおにたいじ』(稲田和子:再話、川端健生:画/福音館書店)です。「しょうと」(ホオジロ)という名の小鳥が仲良しのお地蔵様の耳に巣を作り、たまごを3つ産むという、可愛らしい場面から始まります。たまごはお地蔵様に守ってもらい大事に育てるつもりでした。ところが次々に赤・青・黒鬼がやってきて、お地蔵様をうまいこと騙し、3つとも飲み込んでしまいます。たいそう悲しんだ「しょうと」は、他の生き物たちの力を借りて鬼の仇討に出かけることにします。まるで『かにむかし』のような展開は何と言っても親しみやすいですし、中国地方の生き生きとした語り口と味わい深い絵が魅力の一冊です。3才から。ではでは、皆さまのおうちにも、福が来ますように!Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。
2020年01月25日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学4年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。明けましておめでとうございます。今年もたくさんの、愉快な、味わい深い、心に残る、絵本を紹介したいと思います。どうぞよろしくお願いします。お年賀に頂いた菊廼舎の『冨貴寄』。蓋を開けると中は華やか。運が開けそうな気分になります。新年のご挨拶は、やはり年賀状でしょうか。最近ではメールやラインを使って効率よくという方や、時にはスタンプだけという方もいらっしゃるでしょう。私が子供の頃は、ゴム版を彫った版画で、毎年オリジナルの年賀状をこしらえていました。そこに宛名を丁寧に書くのも楽しみのひとつでした。そして元旦に郵便受けを開くと、家族宛の大量の年賀状に混じって、私宛のものを見つける喜びはお年玉をもらうより嬉しかった記憶があります。そんな経験をしておきながら、最近では年を重ねるごとに年賀状制作の手間を省き、版画はもちろん、印刷屋さんにお願いするのも怠るようになってしまいました。クリスマスからお正月までの忙しさを言い訳に、寒中見舞いにシフトしたり、メールやラインで済ませています。そんな親の姿を見せるのは、果たして子どもにとって良のだろうかと悩みます。やはり息子にもちゃんと年賀状の習慣を。でも残念ながら現実はだいぶ遠いところまで来てしまっているわけです。そんな中、致命的なことが発覚しました。現代っ子ならではだと弁解しますが、息子が宛名の書き方を知らなかったのです。コミュニケーションツールが電話と手紙だった私の幼少時代の記憶と重ねると、驚くべきことです。ネットを使ったやり取りがメインの昨今ですから、子どもは親が手紙を書く姿もなかなか見れないでしょう。手紙や宛名の書き方は、放って置いてももはや覚えられるものでもなさそうです。宛名書きの件に気づいたのは、お正月、担任の先生からの年賀状にお返事を書こうとしたときでした。先生の年賀状は、イラストやシールなどで華やかに飾られ、手書きのメッセージが丁寧に添えられたとても手の込んだものでした。これをクラス全員分に準備するのは大変だったことと思います。すぐに返事を出すのが礼儀だと伝え葉書を渡し、息子にはペンとシールを用意させました。10分もあれば出来上がる。そのつもりで待っていましたが、時計の針は回るばかりで、息子は動きません。だいぶ時間がたってから、「ママ~」という声が。宛名の書き方がわからないと言うのです。先生が書いてくれた住所を、今度は大きく真ん中に書けば良いと伝えても、あまりピンときていない様子です。私は拍子抜けしました。気を取り直して、これではいかんと、結局、郵便番号や住所、宛名を書く位置や大きさまで、まさに手取り足取り教えるということに。もっと早くにこうした常識的なことは教えておくべきでした。でも、先生がこうして年賀状を下さらなければ、もっとずっと後になって宛名書きを書く場面に遭遇したかもしれません。だとするとものすごく恥ずかしい思いをしたことでしょう。10歳の今、宛名書きを覚えることができて本当によかったです。さて。4年生ぐらいから読めそうな短編ですが、ちょうど年賀状にまつわるお話がありました。重松清さんの『はじめての文学』(文藝春秋)に収載されている、その名も『あいつの年賀状』。5年生の男の子が、「親友」と喧嘩したまま冬休みを迎えます。年賀状を出そうかどうしようか。仲直りのタイミングを失ってしまった主人公の心うちに、小さな迷い、意地や照れが渦をまきます。年賀状という習慣があるからこそ、繋がりが保てるということもありますね。普段交流のない友人、遠方の知人、全く会わない親戚。それでも、細い繋がりは、ある時、太くなったり、短くなったりするかもしれません。やはり私も来年こそはちゃんと用意しようと思いました。新年を迎えるにふさわしい新刊絵本、『せかいのくにでおめでとう』(講談社)です。幼児向けのお話会でも6年生のクラスでも聞いてもらいましたが、絵本とはいえ大きい子でも十分興味を示してくれました。日本では、初詣に行き、「明けましておめでとう」と言って新年を迎えます。では、他の国ではどうでしょう。0時を知らせる鐘の音に合わせて葡萄を食べるスペインのマドリード。ブラジルのリオデジャネイロでは、白い服を着て願い事をしながら波を浴びます。ルーマニアやイタリアの、ちょっとびっくりな習わし。そして、それぞれの言語で「おめでとう」とは。発見がいっぱいの作品です。最後に、新年には、もちろん干支の物語は欠かしたくないですね。この「ねーうしとらうたつみーうまひつじさるとりいぬいー」のいわれはさまざまな絵本で伝えられていますが、息子が気に入ったのはこれでした。『じゅうにしのおはなし』(文:ゆきのゆみこ/ひさかたチャイルド)。なんでも、くすはら順子さんの絵が可愛いと。水墨画タッチの中にも、動物たちの愉快の表情が愛らしく、とても親しみやすい作品です。私もこれを読んではじめて十二支のいわれをきちんと知りましたし、なんで猫が入っていないのかというオチも面白いものです。来年は年男になる息子。時が経つのはなんてゆっくりなようで早いのでしょう!皆様に素敵な一年が訪れることをお祈りしています。Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。
2020年01月15日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学4年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。2019年もあとわずか。年が明ければ息子の3学期は駆け足で過ぎ、あっという間に5年生になるでしょう。ぼちぼち進学について考えたくなるこの頃、そもそも中学校とはどういうところなのだろうという疑問が頭をよぎります。私のころと同じように、制服を着るんだよね?髪型に規制があるんだよね?算数が数学に変わるんだよね?そんな中、知人の誘いで、こんなトークイベントに行ってきました。トークイベントのチラシ。「変化を恐れているのは、もしかしたらオトナの方かもしれません」とあって、ドキッとさせられます。パネリストは、世田谷区立桜丘中学校西郷校長、教育評論家の尾木ママこと尾木直樹先生、名門・麻布学園理事長の吉原毅氏。そして司会進行役には、教育ジャーナリストでもある保坂展人世田谷区長でした。左から、教育ジャーナリストの保坂展人世田谷区役長、教育評論家の尾木ママ、桜丘中学校の西郷考高校長先生。内容は、NHK番組『ウワサの保護者会』でも紹介された、区立桜丘中学校の取り組みについて語るものでした。この学校は大変自由な校風で知られています。校則もなければ、絶対に着ないといけない制服もなく、定期テストもなければ、チャイムもならない。子どもたちが学ぶ場所は教室外でもよく、登校時間も絶対というものはありません。授業中の読書はもちろん、スマホも昼寝もOKという自由さです。そんな無法地帯では、もはや学校とは言えないほど荒れているに違いないと、決めてかかりそうです。ところが、この学校の生徒たちは笑顔が絶えず、学校が楽しくてたまらないと言います。いじめもなく、不登校もない。さらに、親が気になる学力の方ですが、これも3年生になる頃には自然と延びて、区でもトップレベルになるそうです。そんな楽園のような学校、本当に可能なの?そう思うわけです。実際トークイベントの傍聴席で聞いてみると、まず、この中学校がどのようにして「自由」になっていったかを知り、その独創的な改革に打ちのめされます。ルールがあるからいじめや差別がある。ならばルールを取っ払おう。この考えが根底にあるようです。教室が苦手。ならば廊下に居てもいい。授業が退屈。ならば本を読んでも、寝てもいい。髪の毛を染めたって構わない。自分を表現する手段として必要なのかもしれないから。などなど、今までの「中学校」の常識を覆すものばかりでした。お話の中で最も印象的だったのが、「みんな違ってみんないい」ではなく、「みんな違った方がいい」というお考え。ほんの少しの違いですが、後者の言葉にこそ、心置きなく個性を発揮できる安心感を感じました。つまりこの学校では、「キミ変わってるね」は褒め言葉だそうです。こういう校風なので、従来型の学校生活に違和感や息苦しさを感じていた子たちでさえ、自ずと登校しやすくなるそうです。こうして不登校がなくなり、「変わってる」子を疎外するようなイジメもなくなってゆく。この理屈には、大きく頷いてしまいました。合点です。多様性を認めるということは、こういうことなのかも知れません。他のパネリストの方々も、なぜこうした自由さが必要なのかを説得力を持って分かりやすく語ってくださいました。とても参考になったイベントでしたし、自分の子育てを見つめ直す良いきっかけとなりました。というわけで、先日発売したばかりの『校則をなくした中学校たったひとつのルール』(世田谷区立桜丘中学校校長西郷孝彦:著/小学館)は一気読みしました。堅苦しい教育論ではなく、ユニークで生き生きとした現場が手に取るように分かる、大変読みやすいものです。なぜ、このように自由にするべきなのかがとてもよくわかります。学区内外や子どもの年齢を問わず、子供を通わせたいと思うか否かでもなく、共感するか異議を唱えるかでもなく、多くの子育て世代に、きっと何かしらのヒントを与えてくれるのではないでしょうか。絵本では、こんな中~高学年向けの作品があります。『グリンチ』の原作者でも知られるドクター・スースによる、ユニークで自由な学校のお話です。『とてもすてきなわたしの学校』(童話館出版)。この学校は、規律ばかりの「じゅうじゅんスクール」とは大違い。なんでもありで、生物も化学も音楽も美術も、ヘンテコで愉快なことばかり学びます。子どもたちはこの学校が大好きです。先生たちも輝いていて、みんなそれぞれ自分の考えを持っているそうです。ところが突然、生徒たちがきちんと学んでいるか、国が試験をすることになりました。果たしてその成果は?なんとなく、桜丘中学校の校風と重なる部分もあり、心が解放されるようなお話です。もう一作。『びゅんびゅんごまがまわったら』(宮川ひろ:作、林明子:絵/童心社)は、とある小学校の物語。校庭に続く森は、子どもたちのお気に入りの遊び場です。木登り、ジップライン、ブランコ、丸太の一本橋など、思い思いに楽しむ中、ちょっとした事故が起きます。男の子が一本橋で滑って、怪我をしてしまいました。案の定、遊び場は閉鎖されることに。そこで子どもたちは、再び遊び場を解放してもらえるよう、校長先生を説得しようとします。でもそう簡単にOKは出ません。子どもたちと校長先生の真剣勝負が始まります。びゅんびゅんごま対決です。そんな姿は、トークイベントの西郷校長先生を少し彷彿させるとこがあります。息子のことはさておき、ふと私は、12歳の頃の自分を思い出してみました。桜丘中学校のような自由な学校が近くにあったら、間違いなく通いたかったでしょうね。みなさま良いお年を!Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。
2019年12月25日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学2年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。ようやく冬らしい寒さとなりましたね。子どもはみんな暑がりだとよく聞きますが、真冬でもノースリーブ、という子もいますよね。皆さんのお子さんはニットや上着は嫌がらずに着ていますか?私が小学生の頃も、一年中長袖を着ないという男の子がクラスに2人もいました。来る日も来る日も同じ格好をして登校していましたが、とある雪の日、長袖姿で現れたので、むしろそれが衝撃的だったのを思い出します。息子の通う小学校にも、同じような姿の男の子はちらほらいます。Tシャツあるいはノースリーブという薄着なのに、休み時間からクラスに戻ると汗びっしょり、という子も。そんな姿を参観日などに見かけると思わず顔がほころび、保護者同士でアイコンタクトしたこともありました。可愛らしいものです。羽織るものがないという時代ではないので、あの子たちは単に暑いからという理由でしょう。それに男の子は往々にして気温と衣類のバランスを気にしないようですし、そもそも面倒臭がりですものね。女の子だって薄着さんがいます。うちの目の前を毎朝通る3年生は、霜の降りるような朝でも、7分丈のコットンカーデガン1枚で登校してゆきます。見かけるたびに、私は「寒くないの?元気だねぇ!」と声をかけていますが、あのおばさん、同じことしか言わない、としか思ってないかもしれません。女の子はキョトンとして、自分が薄着をしているという意識はまるでない様子で登校して行くんです。私のように、寒い寒いと言って、真冬は上は5枚、靴下は二枚重ね、なんていう子どもは見かけません。やはり子どもは往往にして暑がりなのだろうと思います。実はウチの息子も、その暑がりの一味でした。と言っても、先ほどの男子のように真冬をノースリーブで貫くほどのハードボイルドではありません。さすがに外は寒いと感じるらしく、上着は必要です。でも、暖房のよくきいた室内では真夏も同然のようで、長袖ではすぐに火照ってしまいます。なので真冬でも半袖は手放せませんでした。でも、それに上着を羽織るだけでは、なにせハードボイルドではないので、外気が寒い。かと言って、上着と半袖Tシャツの間にカーデガンでは暑すぎるし、トレーナーでは脱ぎ着が面倒なよう。どうしたものかと悩んだ時がありました。色々試した挙句、半袖Tシャツにネルシャツが丁度良いことが分かりました。カーデガンよりは薄手ですし、前ボタンを開けっ放しにしておけば、室内で暑くなってもすぐ脱げます。ボトムスに関しては通常の長ズボンで、問題なし。冬の室内では半袖Tシャツの上にネルシャツ。暑くなればすぐに脱げます。この組み合わせは息子の冬の定番コーデとなり、もはやネルシャツは欠かせない必須アイティムとなったわけです。そういうわけで、今年も秋冬物が出回ると、ワンサイズ上のネルシャツを売り切れる前に4枚購入!!というところに、義妹がアメリカから戻ってきました。息子へのお土産は、さりげなくCOLORADOと書かれたトレーナー。裏地はあったか素材の起毛です。パパが半年前に持ち帰ったボストン土産のトレーナーと全く同じ形と素材でした。きっとアメリカでは人気の定番品なのでしょう。でも、なにせ起毛です。きっと息子は暑いと言って、脱ぎ捨てるでしょう。綺麗な状態のまま手放すのが目に見えていました。お土産のトレーナー。2枚とも、裏地が起毛です。ところが、11月の末、ぐっと寒さが深まった頃、珍しいことに息子が寒い、寒いと言い始めました。クラスでは水疱瘡、インフルエンザ、ノロなどが蔓延中で、学級閉鎖になったばかりです。息子も感染したに違いないと、まずは体温を測りましたが、平熱です。すぐに脱ぐだろうと思いながらも、とりあえず例のトレーナーを渡しました。30分経っても、1時間経っても、息子はトレーナーを着たままです。結局、その日は寝巻きに着替えるまで、ずっと起毛のトレーナーを来ていました。なぜかそれ以来、毎日ごく一般的な冬のスタイルで過ごせるようになりました。長袖Tシャツの上に、トレーナーかフリース。外へ出るときは上着を羽織るといった具合に。昨年の冬のように、室内でやたらと暑がることもありません。まるで体質が変わったかのよう。「つ」で年を数える時期を終えて10歳になると、心も体も大きく変化して行くような気がしてなりません。4枚のネルシャツは、まだまだ出番待ち。春が来るまで箪笥で冬眠ですね。では、今回は体が温まりそうな作品をご紹介します。『わたしのゆたんぽ』(きたむらさとし:作/偕成社)。女の子は、お布団に入って、あったかい「ゆたんぽ」を足元に置くのが大好きです。でも、「ゆたんぽ」の方は、女の子の冷たい足がちょっと苦手。しびれを切らした「ゆたんぽ」は、お布団から逃げ出すことを決意しました。ところが、まて、まて、というように女の足が不思議なことにぐんぐん伸びて。。。足は壮大な冒険へと繰り出します。この想定外の展開に、子どもはゲラゲラ笑いだしますよ。子どもって、ありえない話がとても好きなんですね。ほっこり昭和テイストの絵も素敵ですし、ラストもとっても可愛いです。『まほうのなべ』(ポール・ガルドン:再話、絵/童話館出版)。『おいしいおかゆ』というタイトルでも知られる、グリム童話の物語です。この作品では、おかゆではなくオートミールとなっていますが、要するにキビを牛乳で煮込んだもので、ヨーロッパの粗食ですね。あるところにひもじい生活をしているお母さんと娘がいます。娘が森に食べ物を探しに行くと、不思議なおばあさんが現れ、まほうのお鍋をくれます。なんとそのお鍋は、呪文を唱えると、ぐつぐつとお粥を煮出すのです。これでもう毎日のご飯に困ることはないと安心していると、とんでもないことに。お鍋であったまりたい冬にオススメの愉快なお話です。さて、大きい子向けに一冊。なにせ息子も私も斎藤洋さんの作品がとても好きで、『ほらふき男爵の冒険』(偕成社)も、もちろん一緒に楽しみました。元々はミュンヒハイゼン男爵という18世紀の人物が友人たちに語った、奇想天外な物語です。色々な人によるバージョンで出版されていますが、こちらは斎藤洋さんらしいキレの良い文で、とても読みやすいのが特徴です。男爵のぶっ飛びすぎな話は、はっきり言って眉唾ですが、話に巻き込まれずにはいられません。アイディア満載の、ロシアの冒険談が聞けますよ。ロシアでは、寒さが尋常ではないので、夫人たちも、熊たちも、ファーコートを何枚も重ね着してるんですって!こんな、まったくもって、馬鹿げている話が愉快でたまりません。でも、重ね着すれば極寒でもあったかなのはきっと確かですね。寒さが増してきますが、暖かくしてお過ごしくださいね。Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。
2019年12月15日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学2年生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。ずっとずっと前から私が息子に読ませたかった本があります。それは『冒険者たち/ガンバと15ひきの仲間』(斎藤惇夫:著/岩波書店)です。ようやく時期到来です。発端は学芸会。秋は学校行事が多く、子どもたちも親も、何かと忙しくないですか?運動会があればお弁当や陣地取り、学芸会があれば衣装の用意。台本を読みあったり、振り付けを見てあげたりというサポートをされる方もいらっしゃるでしょう。息子の学校では、今シーズンの一大イベントは学芸会でした。4年生は劇を披露します。台本が配られ、オーディションのルールが説明されると、子供たちは一気にテンションが上がり、やる気が溢れると共に緊張感も漂いました。オーディションは勝ち取りたい。少なくとも、うちの息子は、真剣に練習に励んでいたのは確かです。オーディションと聞いて驚きませんか?最近はそうやって配役を決めるそうですね。私が小学生の頃は、台本が配られると、希望者を集めて一回だけ読ませたら先生が判断し、年によっては読ませることもなく、いつの間にか役が決められていたという記憶しかありません。およそ、主役を難なくこなせそうな優等生を選んでるんだと勘ぐって、悔しい思いを抱えたこともありました。希望の役を勝ち取るための準備をするという機会がなかったので、今の当落の決め方は子どもにとって納得のいくもののように思え、羨ましいくらいです。息子たちは、オーディション当日までの2週間、休み時間の鬼ごっこもよそに、先生に演技指導をしてもらい、練習を重ねてきました。希望者が多ければ、オーディションですから、残念ですが落選する子もいます。でもそれで終わりではなく、第2希望の役で再チャレンジすることもできたり、役に選ばれなかったとしても舞台の装飾や照明係として活躍する場が与えられるんですね。役の動きや振り付けなども自分たちで考案して演出に関わっているようです。もちろん伴奏も、生徒によるもの。これも、ピアノのオーディションがあったようです。先生任せの私の時代とは違い、自分たちで作り上げる劇という意識が持てて、多くの生徒にとってとてもやりがいがあったのではないでしょうか。息子はというと、真面目に練習した甲斐あって、オーデションを突破。第一希望の悪役をゲットしました。演目は『冒険者たち』。アニメにもなったドブネズミのガンバたちが活躍する物語で、悪役はイタチの「ノロイ」です。そうです。原作は、その、ずっとずっと前から私が息子に読ませたかった『冒険者たち/ガンバと15ひきの仲間』(斎藤惇夫:著/岩波書店)です。長い間タイミングを待ってようやくこの日がきました。藪内正幸さんによる美しいイラストにまず惹かれました。早く読ませたい。でも、内容の方も十分に理解して、複雑な友情関係や淡い恋心に共感させたい。そのためには、息子の精神的な成長を待ちたかったのです。夏休みもありましたが、焦るな、と私は読ませたい気持ちを堪えたわけです。それが、今回、自分たちが披露する劇物語の原作とあれば、各登場人物への思い入れも深くなるでしょう。きっと読みこなせる。ということで、台本が配られた段階で、即、購入しました。もちろん藪内さんの絵も存分に堪能できる、ハードカバーを。案の定、息子はどっぷりハマって、学芸会が終わる頃には、シリーズ3巻を完読していました。『冒険者たち』では、途中のノロイが登場するシーンの迫力に、母親の私を呼ぶほどハラハラさせられたようでしたし、読み終わると「青春って感じだね!」と胸を熱くしたようでした。次に読んだ『ガンバとカワウソの冒険』では、最後に裏表紙を閉じた後、しばらく黙って考え込んでいました。自然破壊問題に関心のある息子の思いとリンクしたのでしょうか。しんみりとした様子でした。3巻は、どういう順番で読んでも良いと思いますが、我が家では最後に『クリッグの冒険』を読みました。シマリスのグリックがガンバと出会い、クマネズミとの戦いに加わりますが、途中からリスののんのんと知り合って、北の森を目指します。戦いの相手は、もはや厳しい自然だというのを、2匹の主人公とともに経験したのではないでしょうか。学芸会の方はというと、無事に終わり、息子はイタチのノロイ役を全うしました。私だって頑張りました。本来、お裁縫が大の苦手で、ボタンひとつ縫い付けるのも、一苦労どころか目も当てられない仕上がりになるほどです。息子の保育園時代から、劇の衣装だけでなく、手提げや上履き入れ、お弁当入れなども、生地を買ってくるだけで、あとは全て義母にお願いして乗り切っていた私です。でも、今回、息子の頑張りに習って、嫌な針に糸を通してみました。イタチの尻尾を自力で作ったのです。まあまあの出来栄えに喜んでいると、生物好きの息子に「イタチの尻尾ってこんなに太くないけどね」とつぶやかれてしまいましたがね。イタチの尻尾。素材はフェイクファーで、初めて義母に頼らず縫った衣装です。もう一冊、ネズミが力を合わせて悪者を退治するお話をご紹介します。息子の好きな『教会ねずみとのんきなねこ』シリーズの『わるものたいじ』(グレアム・オークリー:作・絵徳間書店)。今度は、敵は、我が者顔で教会ねずみを追い出し、住処を横取りするドブネズミです。ちょっと間抜けな仲間の猫のサムソンと協力して、知恵を絞り、うまいこと敵を嵌めるも、そうそう上手くはいきません。アイディア満載のドタバタ劇に思わず顔がほころびます。5歳から。ちなみに、下手にネズミの絵を描くと「薮内さんに失礼だよ」と息子に言われます。もはや気軽には描けません。Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。
2019年11月25日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。息子、初めてのパン作り息子がパン教室で作ったパン4つ。高級食パンブームと言われていますが、私にとってパンは日常品。日常品は、高級である必要がないと思っているので、1000円もする食パンは買ったことがありません。パンの流行りはお構い無しで生活をしていますが、とはいえ、パンに興味がないわけではありません。家のすぐそばにお気に入りのパン屋さんがあるのが当たり前という、フランスでの生活があったからか、むしろ、東京に住んでいても、近所を歩き回って、子供用のパンが美味しいところやバゲットが美味しいところなどを見つけて、行きつけにしています。もちろん買うのは、お札を出して買うようなセレブパンではなく、小銭でジャラジャラと買える普段着のパンです。理想は徒歩3分以内にあるといいのですが、今住んでいるところに越してきた当初は、見渡せる範囲にバゲットを買えるお店がなく、我が家で食事会をするときには、来客の手土産にリクエストしていたほどでした。ところが数年経った、ある時、ワンブロック先の空き店舗が工事中になりました。どんなお店が入るのかと気になってみていると、なんとパン屋さんのようです。美味しいといいな、バゲットがあるといいなと期待して、オープンを待ちました。いざオープンしてバゲットがあると分かると早速食べて見ました。ものすごく好みの味でした。その時は本当に嬉しかった。それからというもの、私は来客にリクエストをしなくても良いようになったというわけです。そのパン屋さんには、子どもが好きそうな、アンパンやカレーパン、メロンパンやチョココロネなども売っています。子どもがまだ小さかった頃は、こうしたおやつパンや食事パンはお出かけの際の必需品でしたが、小学生にもなると小腹が空いたからと言って泣きわめくこともないですし、そもそも3食きちんと食べるので、小腹も空かず、そういうわけで、大人のお腹を満たすパンしか買っていませんでした。ところが、年齢が上がるに連れて、お稽古の時間も遅くなり、流石に帰宅時間が8時を回るようになると、家を出る前のおやつはしっかり目が良さそうだ、ということになり、またパン屋さんへ。今度は、息子のお腹を満たす何かを求めて行くようになりました。最初に買ったおやつパンは、ハムチーズパン。それを一口食べた息子は、その美味しさに感激し、それ以来、このパン屋さんが息子の大のお気に入りとなったのです。そんなある日のこと。いつものようにパン屋さんに入ると、パン教室のチラシが置いてありました。よくみると、小学生向け、とあります。私は早速息子に「こんなのあるよ」と見せてみました。すると、返事は間髪をいれず「やってみたい」。実際にパンの工房に入れもするし、あのお兄さんの作る美味しいパンと同じものを、なんとこの自分が作れちゃうんだ、というところにワクワクしたようです。当日は、張り切って出かけて行きました。迎えに行くと、満面の笑みで『楽しかった』と。4個作って、家に持って帰りましたが、私には何一つくれなかったばかりか、味見さえもさせてもらえませんでした。こんなことは初めてです!赤ちゃんの時からずっと、自分が食べてる美味しいものは、必ず少なくとも一口は分けてくれていたのに…。というわけで、私は、(2月にもご紹介した)お気に入りのパンの絵本を眺めて満足することにしました。『パンどうぞ』(彦坂有紀、もりといずみ:作/講談社)です。1ページずつ、馴染みのあるパンが登場する作品です。あんパン、ロールパン、クリームパン、カレーパン…。「どうぞ」と勧められて、ページをめくり、「ぱくっ!」と食べると、中身が少し顔を出します。ふわふわだったり、サクサクだったり、出てくるパンは様々ですが、その食感や香ばしさまでが、まるで目の前に置いてあるかのように伝わってくる、お腹のすく作品です。実はこの作品、浮世絵の技法を使った木版画なのだそうです。小学校の読み聞かせでも、そういうエピソードを加えると、高学年も関心を持ってみてくれます。2歳から。『おだんごぱん』(ロシアの昔話、わきたかず/福音館書店)。このお話は、ヨーロッパ各地に類話があり、作者さまざまの絵本が出版されているので、幼少期に一度は触れる機会があると思います。焼きたての堅焼きパンがコロコロ転がっていく場面や、動物たちに捕まるまいとかわして逃げていく場面など、あ、知ってる、と子どもは思うかもしれませんね。今回は、この瀬田貞二さんの訳の作品を選びました。理由は、単純に、私も小さい頃何度も読んでもらい、思い入れがあるからです。全体的に地味な感じのする絵ですが、温かみがあり、そこがまた、お話のおかしさや力強さを強調してくれているよう。最後のシーンは、幼少期の私にとってとてもインパクトがありました。読んでもらう度に、他人に騙されまい、と思ったものです。4歳から。最後に。中~高学年向けの児童書に、『世界を救うパンの缶詰』(管聖子:文、やましたこうへい:絵/ほるぷ出版)というものがあります。大人が読んでも発見があって面白く、こうした児童書は、慌ただしい中にあっても短時間で読めるし、息子の後を追うように、または先取りして読むことがよくあります。今ではパンの缶詰といえば非常食として普通に知名度がありますが、もともとはパンを缶詰にするなんて、突飛な発想。それがなぜ生まれたのか、どうして非常食として親しまれるようになったのか、またどのようにして世界に広まったのか、といったプロセスがわかりやすく書かれています。まさに、缶詰によって「パンどうぞ」と世界中に言える、実話に基づいたサクセス物語。元気をもらい、心の栄養にもなります。パン教室の後、息子は「パンどうぞ」とは言ってはくれませんでしたけどね。(Anne)「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年11月15日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。折り紙男子と、切る、貼る、折るの絵本。日本の子どもの遊びで、ちぎり絵や切り絵がありますが、とりわけ外せないのは折り紙。でも、この日本独自の子どもの遊びも、近年は忘れられつつあるのかな、と思います。私が子どもだった頃は暇さえあれば、病院の待合室で、大人のおしゃべりを黙って待つ間、お友達が集まって何して遊ぶか悩んだ時、外遊びができない雨の日などは決まって、色とりどりの折り紙を広げて、何色にしようかと迷うところから始まり、楽しんでいた記憶があります。でも、今では子どものこうした暇な時間は、見渡す限りスマホ一色。でなければDS。さもなくばSwitch。要は、電子ゲームが折り紙。そんなふうに映るほどです。これには環境が左右しているのでしょう。昔は、子どもの周りには常に折り紙があったと思います。手を伸ばせばすぐのところに。古新聞やチラシだって良かったのです。それを三角に折ってから切り、折り紙用の正方形にする作業もまた、楽しいものでした。でも今は全てがデジタル化しつつある中で、子どもたちも生活しています。どんなに手を伸ばしてもチラシにさえありつけないというところでしょう。もしおうちで取り組ませようと思ったら少なからず意識が必要な気がします。子どもの手先が器用になるとか、脳に良いとか、知育に良いとか、そういった動機付けも必要かもしれません。そこで初めて、折り紙のあるリビングを、と親として思うのかもしれません。繰り返しになりますが、もう、お家にいて、どの子も自然にチラシに手が伸びる、という時代ではないですからね。そうはいっても、ありがたいことに大概、保育園や幼稚園では、折り紙をする機会を設けてくれます。折り紙を子どもに絶対にやらせないといけないとも思いませんが、私は、息子が、最初のモンテッソーリ保育園でも、その後に通った認可保育園でも、折り紙を楽しんでいる姿みて、おうちのリビングにも折り紙を、と思った派です。リビングの子供用の小さな机の脇に、折り紙セットをケースに入れて置きました。そうすることによって、園から帰ると、即座にその机に向かい、1人で作業するときもあれば、私に一緒に折ろうと持ってくるときもあり、おうちでも折り紙に没頭する時間が持てました。それでも小学校に上がり、お友達とゲーム遊びやドッチボールなどで遊ぶようになると、次第に折り紙の存在も薄れていったようです。それはそれで成長です。それでも、時々、思い出しては折ったりしています。折り紙が女の子の遊びのイメージを抱いていた私は、息子の学年に折り紙男子なんていないだろうと思っていました。それからしばらくして、友人の息子さんがFBに自作折り紙の作品をアップしているという情報が耳に入りました。そして、その息子さんに折り紙を教えてもらい、また「おりがみミュージアム」というところがあるとも教えてもらいました。行って見ると、経営しているのは男性たち。そして先日、友人に誘われて中高の文化祭に足を運ぶと、折り紙のコーナーがありました。息子は「お!折り紙か!懐かしい!」といって近寄り、素晴らしい技術に感動していましたが、ここでも制作者は男子ばかりです。そばで参観者用の折り紙をせっせと折っているのもまた、男の子たち。しかも小学生です。なんだ、と私は拍子抜けしました。うちの子だけかと思ったら、折り紙男子は意外と多い。女の子だけではないのね。なんだか安心したような、特権を失ったような、でも嬉しいような、そんな色々な気持ちになって、私たちは家に帰りました。帰るなり、息子はまた久しぶりに折り紙に取り組みました。出来上がったものは、ブリ。さて。そういうことがあったので、私は紹介できそうな折り紙の絵本がないものかと探してみました。ところがこれが案外少ない。折り紙の作り方絵本はたくさんありますが、絵本の表現方法として、折り紙で折った動物や植物が登場するような作品を私は見たことがありません。単にリサーチ不足かもしれませんが。そこで思い出したのが、『かみひこうき』(小林実:ぶん、林明子:え/福音館書店)です。かがく絵本で、紙飛行機の作り方や展開図も載っていますが、簡単なストーリーもあります。紙飛行機を折って、上手く飛ばなかった時のハウトゥも描かれています。紙飛行機で遊んだことがないお子さんはトライしたくなるでしょう。すでに遊んだことがあるお子さんなら、紹介されているハウトゥにチャレンジしたくなるでしょう。この絵本の子どもたちのように、あらゆる紙飛行機遊びを経験済みというお子さんなら、共感するでしょう。シンプルですが、本当にいい絵本だと思います。息子が、保育園のお友達たちと紙飛行機遊びに明け暮れた時期に、何度も読んだのを思い出しました。4歳から。折り紙の他に、ちぎり絵も子どもの遊びにありますね。お馴染み、せなせいこさんの作品は、ちぎり絵のコラージュです。特に和紙をちぎった時に淵にでる、あの、パヤパヤした質感が、柔らかくて温かみのある印象を与え、心が和みます。作品は星の数ほどありますが、今回は『ふうせんねこ』(せなせいこ:さく・え/福音館書店)。おこりんぼうさんのこねこがふくれっ面をしています。テンポよく、「おこってぷー、ふくれてぷー、おかしがほしいとぷー」とページが進み、いよいよお顔が風船のようにふくらんで、さあどうなるか。展開は見えますが、そんなこねこさんの様子に子どもは笑顔になります。日々、子どもがふくれっ面をした時、「おこってぷー」と言ってみると、きっと場が和むはず。最後に、切り絵。紙を切って形を作る。そういったことも子どもは楽しみます。圧巻の切り絵絵本『むしのあいうえお』(今森光彦:作/童心社)。「あめよふれ、あめんぼすいすい、あめのこども」、「いしがけちょう、はねをひらくと、ちずもよう」というように、あ、から、ん、までの1文字ずつを頭にした川柳と、繊細な切り絵で、さまざまな虫を紹介してゆきます。虫好きにはたまらない絵本となること間違いなしですが、この切り絵の巧みな技に、大人も唸ってしまいますよ。図書館で借りるだけでは楽しみきれない、購入価値ある一冊だと思います。4歳から。子どもが、ゲーム操作の単純な動きだけでなく、指先を細かく動かせる作業ができるように、環境を整えたいと改めて思いました。(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年10月25日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。ギャラリーTOMとTOM氏の作品『しんせつなともだち』(方いーちゅん:作、村山知義:画/福音館書店)は、今年の3月にもご紹介した冬の定番絵本ですが、お子さんと一緒に楽しんでいただけたでしょうか?食べ物も無くなってしまった寒い冬、手元のカブを友達に分けてあげようとするウサギ、ロバ、ヤギ、シカ。友達を思いやる気持ちがシンプルにまとめられた、心温まるお話で、10歳になった息子は今でもふとした時に手に取っている、我が家の愛着ある絵本です。シカが登場するシーンでは、息子は必ず可愛いと目を細め、その様子がとても可愛らしく、親子の心和むひと時だったのが思い出されます。息子が「可愛い」と言ったこの絵を手がけたのは、村山知義氏です。TOMというサインが、絵の下の方に記されていますね。奥様の村山籌子氏も児童作家で、紙芝居を始め数々の作品を残しています。息子の村山亜土氏もまた、児童劇作家で、松濤には奥様の治江さんと設立した『ギャラリーTOM』という美術館もあります。実はこの美術館、目が不自由だった亜土氏ご夫妻の息子さんが、ある時発した「僕たち盲人にもロダンを見る権利がある」という言葉に突き動かされて設立されたそうなのです。ここでは、作品に触れることができ、ワイワイとお喋りも許されている。いわゆる美術館という概念を覆すような、自由な空間です。『TOM』という名前の由来は、もちろん、亜土氏のお父様。『しんせつなともだち』を描いた方ですね。さて、今回、冬でもないのにこの作品、『しんせつなともだち』をご紹介したのは、こんなご縁ががあったからです。こちらのギャラリーで、この度、私の義父、アラン・ジュフロワの展覧会が開催されることになったのです。義父は、元々シューレアリスムの一員だったフランスの詩人で、美術評論家、作家でもありました。日本の芸術家たちとの交流も深かったのですが、今回はその思い出話や作品紹介などが行われる予定です。絵本ではありませんが、良かったらぜひ覗きにいらしてください。10月(19日~10月27日、ギャラリーTOMにて)。”詩を生きる”オープニング 公式サイトというわけで、このギャラリーにゆかりある方々の作品をもう2作ご紹介します。『かさをかしてあげたあひるさん』(村山籌子おはなし集、山口マオ:え/福音館書店)は、「TOM」氏の奥様の作品で、子どもが寝る前に聞くのにぴったりの短編集です。雨の日、お友達のニワトリさんにかさをかしてあげたいけれど、かさがなくなるとお母さんが困ってしまうから、どうしようかと悩む優しいあひるさんのお話や、おねこさんに悪いことをしたと言って泣いてしまうこぐまさんを、おねこさんが慰めてあげるお話など。登場するのは身近な動物たちや擬人化した野菜たちで、その愉快な喜怒哀楽が散りばめられた、ほっこりするお話ばかりです。村山籌子さんのシュールで思いやりのある世界観とレトロな言葉遣いがとても味わい深く、また『わにわに』のシリーズで有名な山口マオさんの、太いタッチの絵とのバランスが絶妙です。5歳から。『トコとグーグーとキキ』(村山亜土:さく、柚木沙弥郎:え/福音館書店)。こちらは、ギャラリーの設立者である、村山亜土氏の作品です。オニオオハシのトコと、ナマケモノのグーグー。そこに動物サーカス団の一員、カメレオンのキキが上から落ちてきて…。のんびりとしたシュールな世界観に、それぞれの個性が光る物語で、優しい気持ちになります。柚木沙弥郎さんの遠目にも映える絵は、お話会にもぴったりです。4歳から。気持ちが優しくなれるようなお話は、1日の疲れをほぐしてくれるはず。子どもだって、疲れる日もありますからね。(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年10月15日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。お月見か月面着陸か。そして月の絵本。さて、今年もお月見のシーズンとなりましたね。9月は13日が十五夜でした。10月には11日の栗名月が待っています。なにせ息子はお月見がとても好きなので、我が家では、クリスマスやお誕生日のような、一大イベントです。そうなったのも、息子がとても小さかったときですが、「月」をみては、狼男さながら大興奮するという時期があったからです。私たち一家は息子の月ブームに巻き込まれ、月の絵本を読んで聞かせたり、月グッズを買って来たり、やったことのないお月見も、行事として取り入れるようになったわけなのです。今ではもう、月だ月だと騒ぐことはなくなりましたが、お月見だけは楽しみにしているようで、毎年この時期が来るたびに、息子の方から「お月見をしよう」と誘ってきます。その度に私も、昔の月ブーム時代を思い出して、懐かしんでます。「お月見」といっても、我が家では、やることはいたって簡素です。お団子を買ってきて、お茶と一緒にお盆に乗せ、お座布団を敷いて窓から月を見る。それだけです。今年も、ススキもワレモコウも飾りませんでしたし、見た目には優雅からは程遠く、おしゃれでもなんでもありません。でも良いんです。月を愛でて、楽しい、という思いだけ分かち合えれば。息子が小さい頃は、こうも月好きだったら、きっと宇宙に興味を持つに違いないと思ったものです。でも、いくら時間が経過しても、月に行きたい、と息子の口から出てきません。いえ、2、3度はあったかもしれませんが、思いつきで言った、というレベルでしょう。お月見というイベントが好きということだけが残り、月への情熱は、いつの間にか鉄道や生物など、他の関心事にすりかわっていき、図鑑シリーズも「宇宙」の巻だけは手垢がついていません。だから、息子は宇宙に興味がない、そんな風に決めつけていました。ところが、先日、なんと、つくばの「JAXA宇宙センター」に行きたいと息子が言うのです。おお、いよいよ、宇宙に興味を持ってくれたかと、息子の口から宇宙飛行士になりたいという一言が聞けるのも、もう時間の問題かもと、ウキウキしました。だって、宇宙飛行士、ですよ。ちょっと、カッコイイじゃないですか。そう思ってしまう母の私がいるのも隠せません。もちろん息子の人生ですし、どんな職業についても構わないのですがね。さて。つくばエクスプレスに乗り、終点のつくば駅に到着しました。「JAXA宇宙センター」は、つくば市の筑波研究学園都市の中にありますが、到着してみて実感したのが、都市自体がとてつもなく広い。見渡す限り広大な研究施設が立ち並び、都市計画が緻密に施された街並みはクリーンで、私たちが暮らしている街並みとは雰囲気が違いました。そして、とにかく広いので、色々と巡ろうと思ったら、ツアーに参加するか、あらかじめスケジュールを綿密に立てて来ないととても見学しきれない、ということが、無計画で到着したこの終点駅でわかりました。でももちろん、そこで怖気付いていても仕方ありません。ひとまず、目的の宇宙センターに向かうことにしました。宇宙センターに入ると、あれほど行きたいと言っていた息子は、あっという間に見学を終えて、もう十分だと言い、さっさと帰ろうとします。一応興味は持って見学はしていたようでしたし、宇宙服着て写真を撮るのも楽しそうでしたが、「宇宙のロマンに思いを馳せる」と言ったような憧れや情熱は、やっぱりないようです。とはいえ、はるばるつくばまで来たのに、早々に家に帰るのではもったいない。では、隣にあるという地質標本館に行こう、となりました。隣といっても徒歩15分~20分。やっぱり、つくばの土地感覚は広いです。結局、宇宙センターに行きたいと言った息子は、こちらの地質標本館の方に夢中になっていました。さまざまな地層や美しい石が分かりやすく展示されていて、その魅力が素人にもとてもよく伝わってきます。こちらではたっぷりと時間をかけて、見学してきましたよ。息子は、宇宙より地球が好き。月も、月面着陸ではなく、地球から見上げるのが好き。やっぱりそういうことのようです。ということで、今回は、月の絵本をご紹介します。『おやすみなさいおつきさま』(マーガレット・ワイズ・ブラウン:さく、クレメント・ハード:え/評論社)。あの、オバマ元大統領も読んだという、定番絵本です。これから寝ようとする小さな子ウサギが、お部屋のもの一つ一つを確認しながら、おやすみ、おやすみ、と声をかけてゆきます。読みながら、だんだんと、心が休まり、静かになってゆき、ああ、もう寝るんだな、という気持ちにさせられる、おやすみ前の絵本。小さなスタンドランプの光だけにして、息子を膝にのせ、寝る前の儀式のように、私は毎晩、この絵本を読みました。『つきのぼうや』(イブ・スパング・オルセン:さく・え/福音館書店)。我が家の一番縦長の絵本です。おつきさまがふと下を見ると、池に映ったもうひとりのおつきさまがいることに気づきます。それが気になって仕方がないおつきさまは、つきの坊やに連れてくるように頼みます。つきの坊やは雲をくぐり、鳥たちの間を抜け、風に飛ばされそうになりながらも下へ、下へと降りていきます。海底まで辿りつたぼうやは、おつきさまに素敵なお土産を持って帰るというお話です。縦長の形がとても良く生かされていて、楽しいですよ(3才から)。『うそつきのつき』(内田麟太郎:作、荒井良二:絵/文渓堂)息子が折った、ブリと。何があっても絶対に笑わないという、つきのおじさん。鶏が2羽鳥を飼っていても、イタチが年をはたちと言っても、木になるキリンを気になるキリンがいても、絶対に笑いません。だってちっとも面白くないんだもの、なんていう嘘はつけず、読んでる方は思わずブッと吹き出してしまいます。素晴らしいナンセンスだじゃれ絵本。3才ぐらいから、小学生にもウケます。少し涼しくなった秋の夕べに、ちょっと外へ出て色々な月の表情を眺めたいものですね。(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年09月27日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。「次男坊」のしつけと猫の絵本うちの「次男坊」は、猫です。うちの「次男坊」タンタン割と人間嫌い。あまり触って欲しくないようです。本人の気持ちが乗らないタイミングで撫でたり抱っこしたりしようものなら、すぐに猫パンチしてくるは甘噛みしてくるはで、夏休み前は私の手足の傷がやたら増えていました。家猫暮らしでは、面白い虫や、狩りたい鳥や、咥えたい子ネズミにも出会えませんよね。たまに、窓際でスズメの気配を見つけては歯をガチガチと鳴らして、捕らえたくてたまらない様子です。でも、家の中にいては捕まえられない。きっとストレスが溜まって仕方がないのでしょう。だからパンチや甘噛みが増えていったのかもしれません。猫とはいえ、ちゃんとしつけをせねばと思いつつ、家の中という環境が環境だけに不憫に思えてつい甘やかしてしまっていました。そんな中、フランスに行って、久しぶりに実家の猫に会ってきました。道端で拾われた気荒いストリート猫で、去勢前には雄猫を飼ってる来客に飛びついて、血だらけにさせてしまったという「黒歴史」もありますが、なぜかその子がすっかり大人しくなっていて驚きました。猫は年とともに性格が変わると聞いたことがありますが、成長したからしょうか。近づいて恐る恐る触ってもパンチしないし、思い切って抱っこしても噛んでもきません。撫でられるのが好きな方ではない筈ですが、じっと我慢してくれます。大きなあくびをすると、錐のように鋭い牙がひときわ目立ってドキッとしますが、凶器として使うこともなく、ご飯を要求するときだけダミ声で「ミギャーゴ!」と一言鳴くだけです。大人しいものです。そして、ちょうだいちょうだい、のポーズをします。賢いものです。この猫は、ご飯をあげるとき、フランス語で「アッシ!(おすわり)」と言うと、犬のようにしっかりとお座りもします。感心しました。実家の「ストリート」猫と妹の子。触られてもじっと我慢しています。そういえば、実家の猫は三代に渡って、みんなこの「アッシ!」ができていました。1代目のアメショもどきは賢かったので、できて当たり前。2代目のおっとり美人も問題なくできました。3代目のストリート猫だって、こんな感じでお行儀が良いものです。ところが、ウチの「次男坊」ときたら、お座りなんて、まるで無理。最初こそ「アッシ!」「アッシ!」としつけてみましたが、出来たしつけはトイレのみで、結局それでよしとすることにしていました。でもこうして改めて実家のストリート猫のお行儀を見ていると、やはりトイレ以外にもきちんともう一度しつけをしてみよう、そうすれば私のことも少しはリスペクトしてアタックしてこなくなるかもしれない、と思うようになり、帰国早々、再び「アッシ!」を試みました。お尻を床につけさせて頑張りましたが、やはり、難しい。すると、それを見兼ねた「長男」の息子がやってきました。「フランス語じゃ、分かんないよ。日本語で言わないと」と提案してきます。猫に母国語も外国語もあるものか、と思いましたが、否定しきれず、じゃあとばかり、日本語で、「おすわり!」と命じてみました。すると、3回目でしっかりおすわりをするではありませんか!しつけができた喜びで、私の持ちうる限りの高くて甘い声でウチの猫を褒めまくりました。それが伝わったのか、猫の方もとても嬉しそうな穏やかな表情を浮かべてくれました。母国語で言うのが正解だったのかどうかはさておき、今ではすっかりおすわりが得意になりましたよ。それから、しばらくして、うちの猫を連れてお盆のころに山小屋に行きました。そこでは、ネズミや鳥を捕らえるほどの贅沢はできませんでしたが、古い家の隙間からは様々な虫が入ってきてくれて、それをいじったりくわえたりと、「次男坊」にとって至福の時を過ごしていました。これでストレス発散できたのでしょうか。猫パンチも甘噛みも、その間は全くしませんでした。子どもと同じですね。しつけも大事。しつけの仕方を工夫するのも大事。そして、環境も。というわけで、以前にも数冊ご紹介しましたが、再び、猫の絵本をご紹介します。『アンガスとねこ』(マージョリー・フラック:さく・え/福音館書店)スコッチ・テリアの子犬、アンガスが主人公のシリーズ第2作目。好奇心旺盛なアンガスは、今度は猫を追いかけます。構って欲しくてたまらないアンガスを、猫がツンデレのごとく振り回します。その犬と猫のやりとりがとても表情豊かで可愛らしく、また、思わずクスリと笑ってしまうシーンもありで、味わい深い傑作です。アンガスをちょっとなめてる感じの猫の様子がたまりません。瀬田貞二さん訳の日本語が丁寧で綺麗です。4歳から。『ねこってこんなふう?』(ブレンダン・ウェンツェル:さく/講談社)。最近私がたまたま図書館で見つけた作品ですが、大人でも面白いと思える、想像力を掻き立てられる絵本です。様々な生き物の視点に立って猫を見たところ、こんな感じ、というのが描かれています。例えば、子どもから見ると、目が大きくて可愛い表情。犬から見ると、手足長くて身軽そう。ネズミから見ると鬼のようで、ハチから見るとスーラの点画のよう、というように。1ページめくるたびに驚きがあって楽しく、また、みんなそれぞれの視点があって面白い。様々な意見があって、それが良い。そういうようなことが当たり前として、小さいうちから感じることができそうな、素晴らしい科学絵本です。4歳ぐらいからでも。最後に、『ルドルフとイッパイアッテナ』(斎藤洋:作/講談社)シーリーズを小学生のために。これは絵本ではなく読み物ですが、斎藤洋さんの作品はどれもこれも息子にとって面白くて仕方がないようで、この夏一気に読み上げたこのシリーズも、クスクス、ゲラゲラ、と笑い声を出しながら読みふけっていました。東京に出てきた黒猫ルドルフが主人公の物語です。ボス猫のイッパイアッテナと出会い、愉快なノラ猫生活が綴られています。2作目の『ルドルフといくねこくるねこ』、3作目の『ルドルフともだちひとりだち』と続き、『ルドルフとスノーホワイト』の4巻まで今のところ出ています。人生において大切なことが、さらりとしたタッチでそこここに散りばめられているので、小学生だけでなく、大人にもオススメしたくなる傑作です。それでは、また。(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年09月15日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。ヒメマス釣りに成功!そして釣りの絵本お盆の時期になると「ふるさと」に子どもと帰省する方もいらっしゃいますよね。「ふるさと」では、子どもは日の出とともに網を持って虫取りに出かけ、おじいちゃんの畑で採れたスイカにかぶり付き、午後は近くの小川に飛び込む。そんな風にのんびり過ごしている、と聞くと、いわゆる「ふるさと」がない私は、とても憧れてしまいます。息子も、そんな夏を毎年過ごせたらどんなに良かっただろう、と。でも、まあ、我が家は我が家。故郷ではありませんが、今年も、東京の暑さしのぎに野山の家で、それなりにのんびり過ごしてきました。息子はというと、日の出とともに虫探しに出かけはせず、小鳥のさえずりにも蝉時雨にも目を覚まさず、思う存分朝寝坊をしていました。おじいちゃんのスイカの代わりに、朝市で見つけた桃にかぶりつき、小川に飛び込む代わりには釣りもしました。小川と言っても、一応自然に囲まれてはいるものの、「ふるさと」の大自然には及ばない、やや都会の香りがする環境ですが、それでも楽しいものです。魚好きでもある息子は、日々釣りがしたい、釣りがしたい、と呟いています。連れて行ってあげたい気持ちはやまやまですが、都会暮らしで、しかも釣りに詳しくない母親の私は、努力をして学ぶのも、竿を持って出かけるのも億劫で、2~3回行ったきりになっています。私が付き添わなくても済むくらいの歳になったら、黙っていても友達と行くでしょう、と先延ばしにしていたところに、釣りのお誘いが来ました。息子は大喜びです。集まったのは10歳男子4人。もちろん、まだこの歳なので、付き添いは必要ですが、お誘いについていくだけでなので私も楽。とにかく良かった。さて、釣りといっても本格的な川釣りはハードルが高いので、行ったところは人工的な釣り場です。それでもいわゆる釣り堀ほどではなく、自然な環境に近い釣りができるよう整備された小川で、水はとても澄んでいて、川魚も十分、それっぽく狙えるところです。男子4人は、夢中で釣りを始めると、ちょうど、飽きてくるかこないかぐらいのタイミングで、1人2人と、ニジマスを釣り上げていきました。とはいえ、みんなシティーボーイ。毎日魚に触れているわけではありません。中には魚がピチピチ跳ねるのにおののいたり、触れた時のぬるっとした感じが苦手だったりして大人に助けを求める子もいました。都会暮らしなので無理もありません。もちろん中には、そういう時に大人より早く、「僕がやるっ」と飛んで行って、するっと針を取って、バケツに魚を入れてしまう子もいます。釣りに慣れているひとりでした。そのやりとりがまた騒々しく、やたらとオーバーリアクションですが、男の子ならでは。それがまた微笑ましく、見ていてこちらも楽しくなります。ウチの息子はというと、魚好きが高じて、何としても自分で針を外したい、という思いが強く、頑張っていました。こういうことも、きっと回を重ねれば手際よくできるようになるのでしょうね。難関のイワナに挑戦していた息子も、三人が次々とニジマスを釣り上げると、イワナは諦め、ニジマスを狙い始めました。すると、やはり、ニジマスは、鈍感なのか、すぐに食いついてきました。パタパタパタ、っと釣り上げて、自分で針を外して、大満足。ニジマス他の3人がそろそろ切り上げて、釣った魚を食べようとしている中、息子の方は、やはり難関の川魚を釣り上げたいからと、最難関のヒメマスを狙いに川上に行ってしまいました。ヒメマスはとても繊細で、人の気配をすぐに察知し、とても簡単には釣れないそうなのです。きっと、無理。悔しがって戻ってくるでしょう。そう思って、私は息子をひとり置いて、そそくさと魚を焼く網の前に座って待っていました。すると、遠くで私を呼ぶ声がします。何事かと思って駆けつけてみると、竿の先には、なんと透き通るようなヒメマスがぶら下がっています。おお!やったあ!息子も嬉しそう。ずっと行きたがっていた釣りで、待望のヒメマスを釣ったのですから、さぞ満足でしょう。私だったら、ヒメマスなんて、いくら待っても掛からないからつまらないと、すぐに諦めてしまいそうです。よく粘ったと思います。のんびりとした中で、好きなことをする。こういう機会に忍耐とか、根気とか、要するに諦めない心が育っていくものなのかな、と思いました。ヒメマスさて、その美しいヒメマスですが、焼いて食べるにはあまりにもったいなく、お刺身にして頂きましたよ。お刺身にしたヒメマスと、いうわけで、今回は、釣りの絵本を一冊。私が息子に読んでとても好きだったお話で、とても心に残っている『しりたがりやのちいさな魚』(エルサ・ベスコフ:作/徳間書店)です。しりたがりやの小魚スイスイは、うっかり人間の男の子に釣り上げられてしまいます。水のない世界に連れて行かれて、さあ困った、という時、男の子の部屋にスイスイの仲間が助けにきます。そのちょっと変わった姿に、こちらの顔も思わずほこびます。そして、素直な男の子はすぐにスイスイを水の中に帰してあげることにしますが、これがまた思いがけないことに…。生き物や子供の姿が自然で、それなのに奇想天外な展開という、なかなかない内容で、長い文でも飽きずにぐんぐん引き込まれてゆきます。素直で、優しくて、愉快な作品。古典ですが、最近はあまり読まれていないような印象があって、もっと知って欲しいという思いで、今回はこの作品だけに絞りました。(5歳ぐらいから)夏休みはまだあと少し。もうそろそろ学校が恋しくなる頃かな。息子は少しまた根気強くなって、新学期を迎えるのかな。(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年08月27日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。ノルマンディーでのんびり、そしてヴァカンスの絵本息子の夏休みが始まりました。小学4年生にもなると夏休みといえども、お稽古やら何やらで忙しく、どこかに長期滞在というわけにはいかなくなってきました。それでもどこかに行きたいという私の願望と、今年も息子に祖母に会いにいかせたいという思いとで、無理やりフランス行きをねじ込みました。ほんの1週間の滞在です。1週間という期間が、私にとって「ほんの」になってしまうのは、フランス生活が長かったせいもあると思います。夏休みはたっぷり1ヶ月、都会を離れて過ごすのが当たり前という感覚が残っているからでしょう。日本の感覚からいくと十分な日数なのに、なんとなく私にとってはショートステイ。贅沢かもしれませんが、これは昔から染み付いてしまった感覚で、どうしようもないところです。もちろん息子にも、夏が来れば海や山にロングステイして、ゆったり過ごすという我が家の習慣を擦り込んできました。でももう4年生。長期休暇も、もはや限界か。今年からはそうもいかなくなって、サクッとフランスにひとっ飛びだけしてきた、というわけです。フランスはというと、ニュースでお聞きになってる方、多くいらっしゃると思いますが、晴天に恵まれてというより、恵まれすぎて、猛暑続きでした。パリ市内はもとより他の地方も燃えるような高温で、残った避暑地は、本来悪天候で有名なノルマンディーのみという状態でした。なので、私たちも色々と予定を詰め込まず、おとなしくノルマンディーの家でじっと過ごすことにしたわけです。前回お話しした、ユーロディズニーに行く件も、もちろんお預けです。以前は、ノルマンディーという地方は、夏が来ても、霧雨ばかりで寂しい感じだったわけです。ごくたまに日が差して、今だ、とばかりに浜辺に行っても、せいぜい砂遊びぐらい。海水は凍るように冷たいといえば大げさですが、意を決して入ってみても、すぐさま足先からジンジンと痺れてくるほどで、とても海水浴を楽しむようなヴァカンスが似合う所ではありませんでした。ところが近年、温暖化の影響で心地よく海水浴もできるようになり、南仏ほどは混んでいないし、浜辺は遠浅で美しいと評判で、人気のスポットになりつつあるようです。今回も、パリが40度の茹だるような暑さの時、私たち家族は友人たちと連れだって、ノルマンディーの海に行きましたが、息子も、浜辺に着くなり、「これぞヴァカンスって感じだね!」と言っていました。イメージだけでなく、海水の方も、凍るような水温は何処へやら。まるで極楽です。プカプカとクラゲのように何時間でも浮いていたくなるほどです。「これぞヴァカンスって感じだね」と息子が言ったノルマンディーの海。寒々しい感じは全くありません。子供たちは砂遊びや波乗り。大人たちは砂を撫でながらお喋り。時を忘れるほど楽しんだ後、ふと気付いた頃には、もう18時を回っていました。波乗りに夢中の息子ノルマンディーは遠浅なので、引き潮時は海が遠い!潮溜まりでのプール遊びやサッカーもできます。夕食に帰らなきゃという時間ですが、なにせフランスの夏は日が長い。日本ならまだ15時というぐらいの日の高さなので、子どもに帰る気を起こさせるのも一苦労でした。でも海が楽しければ帰ろうとしないのも当たり前。何度も「もう帰るわよ」と声をかけながら、これでよし、これでよし、と心内思うわけです。傾きかけた日の光と潮風に押されながら、レモンシャーベットをペロペロ舐めて帰る道もまた、子どもにとっては楽しいものです。塩キャラメルアイスを選んだ私にとってもですが。19時ごろ夕食。明るいので外で。こんな風に素朴な感じです。まだ明るい夕食後の時間。ハンモックで長々とのんびり過ごす息子。そしてこの日の長さは、子どもの就寝時間の妨げにもなりました。21時になって、「もう寝なさい」と言っても、子どもの目に入るのは美しい夕焼け雲です。日本から来た息子にとっては、当然、まだいいでしょ、となります。浜辺から帰って、夕食を済まし、それから長い長い食後の、ゆったりとしたくつろぎの時間を過ごしたのち、ようやく薄暗くなる22時ごろになって、やっと寝る気になり、ベットに入るという日々でした。就寝時間が遅くなるのは親としてはやや心配ですが、同時に、この日の長さが与えてくれるゆったりとしたくつろぎの時間は、息子にとって他の何ににも変えられない大切な時のように思えました。学校、お稽古、宿題、お手伝いと、いくら無理はさせないようにと気を配っていてもあれやれ、これやれの慌ただしい都会暮らしの子どもです。たまには、ぼーっとする時間も、心の成長に必要ではないでしょうか。息子は、夕食を挟んだ、まだ日の高い夜の時間、どうくつろいでいたかというと、みんなと一緒にトランプのようなカードゲームで遊びもしましたが、一番はリンゴの木の間にぶら下がったハンモックに寝そべり、ゆらゆらとそよ風の音を聞いて、うたた寝をし、鼻歌を歌って、ぶらぶら揺れて、ただひたすらぼーっと日が暮れるのを待っていましたよ。のんびりと過ごす夏。ヨーロッパや欧米では、だいたいこんな感じではないでしょうか。そんなゆったりとした夏のひと時を味わう絵本を選んでみました。『なみ』(スージー・リー:さく/講談社)小さな女の子が、波と戯れる様子を描いた、字のない絵本。何度も打ち寄せる波。その様々な表情と対話するような女の子の姿が描かれていますが、見れば見るほど、楽しくなる不思議な素晴らしい絵本です。子どもが楽しむのに、たくさんのものはいらない。自然があれば、それでいい。そう思わせてくれるような絵本です。親子で波打ち際に行ってみたくなること間違いなし!(5歳ぐらいから)『ふたりだけのとっておきのいちにち』(ヘレン・ダンモア:さく、レベッカ・コップ:絵/文渓堂)。毎年夏になると、リンの住む海辺のまちにロビーが遊びきます。2人がのびのびと過ごす、想像力豊かな1週間。真っ白い砂浜の岩の陰に作る、小さな秘密の島。貝殻で飾られた小屋、昆布で作ったジャングル。カニを捕まえ、アザラシやカモメのお客に挨拶し、石や貝で人魚を描く日々。二人の楽しい時もあと1日というとき、2人はさらなる冒険に出ます。繊細なタッチで描かれた絵も可愛いですし、子どもに夢と憧れを持たせてくれるような作品です。文章量多めですが、5歳ぐらいからでも。『すばらしいとき』(ロバート・マックロスキー:さく/福音館書店)。古くから読み継がれれいる作品です。早春から始まり、夏の終わりまで、自然とともにゆったりと過ごす一家の豊かな時。これほどの「素晴らしい時」があるだろうかと、思わせてくれる絵も文も美しい作品です。砂浜や岩場で遊ぶ子どもたちの楽しそうなこと。嵐の夜の、恐ろしいけれど家族の温かみを感じること。心に残るシーンがたくさんあります。5・6歳から。まだまだ夏休みは続きます。ゆったりと過ごせる時間を大切に。(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年08月15日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。初のディズニーランドとねずみの絵本きっとみなさんは、少なくとも1回はディズニーランドにお子さんを連れて行ったことがありますよね。でも我が家は、一度もありませんでした。今となっては、「人でなし」ならぬ「親でなし」だったな、なんて思います。本当に、もっと早くに連れて行ってあげれば良かった。先日、初めて息子と行ってきたわけですが、息子の反応はというと、こんなに、というくらい喜んでくれたのです。何度も「ここは老若男女楽しめて、本当に良いところだね、こんなに楽しいところがあるなんて!ディズニーは天才だね」と。私だって、昔に一度だけ親に連れて行ってもらったことがあります。でも、その当時は反抗期だっかからなのか、正直あまり楽しめず、退屈してしまい、それでもせっかく連れてきてくれた親のために楽しんでいる素ぶりだけはして、結局疲れたという記憶しか残っていません。なので、積極的にディズニーランドに息子を連れて行こうという気になれなかったのです。それに、パパはパパで、そもそも興味がないようでしたし、息子の方も自分からそのようなお願いをすることもなかったのです。そういうわけで、今まで、「乗り鉄」で京葉線に乗車しても、舞浜駅は素通りする駅でしかありませんでした。それなのにどうしてディズニーランドに行くことになったかというと、こういうわけです。翌日が学校の開校記念日だというある午後。息子が学校から帰ってランドセルを放るなり、「ママ!明日はディズニーランドに行く絶好のチャンスだよ!」と声を弾ませるのです。週末でも祝日でもない、平日。きっと空いているはずだと。クラスの仲間の男子たちがみんな行くらしい、自分も行きたい、と言うのです。もうこのくらいの歳になると、友達の影響は大きいようです。我が家でとうとうディズニーランドの話が出たという、まさかの記念日となりました。私は、気が動転していたのでしょう、即、ネットで入場券を購入したのは良いのですが、日付を間違えて購入していたので、入り口ですんなりバーコードスルーができず、出だしはイマイチでした。でも、ディズニーランドの従業員さんは優しいですね。すぐに日付の変更をしてくれて、問題なく入場でき、ホッとしました。中に入ると、私たちは、お決まりの「スペースマウンテン」や「ビックサンダーマウンテン」、「ホーンテッドマンション」や「スターツアーズ」もおおいに楽しみましたが、意外と気に入ったのが、「ピーターパン空の旅」。でも最終的には、息子のベストは「カリブの海賊」だったようで、3回も乗って帰りました。『ヒックとドラゴン』シリーズや、『小さなバイキングビッケ』シリーズなど、海賊ものの物語を読みこんでいたからかもしれません。というわけで、ミッキーマウスの国へ遊びに行ったのですが、「ミッキーの家」にも「フィルハーマジック」にも立ち寄らず、肝心のミッキーとの絡みをすっかり忘れていました。なので、今回は、罪滅ぼしで、ネズミさんの絵本をご紹介します。ミッキーとネズミ、一緒にしたくない気持ちもありますが、こじつけてみました。『ぐりとぐらのかいすいよく』(中川李枝子:さく、山脇百合子:え/福音館書店)。ミッキーもネズミだということを忘れてしまいますが、ぐりとぐらも考えてみたらネズミですね。浜辺で遊んでいると、ぶどう酒の瓶が流れてきて、中にメッセージが。読んでみると、うみぼうずからの招待状が入っています。「しんじゅとうへきてください」。真珠でできた灯台のランプの魅力的なこと!海坊主に教わる泳ぎが楽しいこと!4才から。『ウィリーをすくえ!チム川へいく』(ジュディ・ブルック:作・絵/童話館出版)かえるのウィリーがドブネズミの悪党どもにさらわれてしまったので、友だちと助けに行く勇敢なネズミのチムの物語です。イカダに乗って忍び込むドブネズミの船は、まさにおっかない海賊船ごとき。スリリングな展開ですが、小さい子も楽しめる優しい語り口です。『番ネズミのヤカちゃん』(リチャード・ウィルバー:さく/福音館書店)。これは絵本というより読み物ですが、長めのお話が聞けるなら4歳ぐらいからでも十分楽しめると思います。我が家では、暗唱できるくらい繰り返し読んだ、思い出の本です。お母さんネズミと4匹の子ネズミ兄弟が、家主の人間に気づかれないようにひっそりと暮らそうと頑張りますが、なにせ4匹目のヤカちゃんの声が大きい。どうしたってドタバタ劇は免れず、ハプニングは次から次へと起こります。でもそんなある日、その声のお陰で思いがけない展開へ…。夏休みはフランスに行くので、次はユーロディズニーでミッキーに会ってこようかという話をしましたが、どうやら猛暑でそれどころではなくなりそうです。では、ボンヌ・ヴァカンス!(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年07月26日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。ラビューと秩父長瀞と、川の絵本「久しぶりに電車に乗りたい。」と、ある金曜日。しばらく鉄道熱が下火になっていた息子が、週末の計画を考えながら私にこう言いました。毎週のように乗り鉄をしていたら出費がかさんで大変ですが、久し振りなので、即了解し、早速「西武ラビュー」のダイヤを検索してみます。今年の3月にデビューした、秩父方面行きの新しい特急車両。前々から乗ってみたいとお願いされていたのを思い出したからです。この車両は、秩父方面行きでは、ニューレッドアロー以来、25年ぶりの新型特急車両です。「今までにみたことのない新しい車両」というコンセプトをもとに世界で活躍する建築家・妹島和世氏が監修して開発されたとのことです。丸い先頭ガラス、大きな客室窓、黄色いソファー。鉄道ファンでなくても乗ってみたくなるほどのデザインではないでしょうか。「べつに、ラビューじゃなくても、常磐線でもなんでもいいよ」と振り幅を広げる息子の意見に、私は「や、ラビューでしょ」と融通のきかない子供のように答えて、はっとしました。息子に感化されて、やはり私も鉄道の虜になっている?というわけで、秩父を目指して特急ラビューに乗り込みました。息子は、外からも中からもじっくり新型車両をチェックしてから席に着きました。発車まではまだ少し時間がありました。お昼まではまだ30分ほどあります。子どもは早弁したがるものだと思って、お弁当を息子に渡しましたが、発車してからにすると手をつけません。やたら冷静です。私の方はコクーンのようなソファーシートの座り心地の良さに、ピョンピョンとお尻を上下させたいところでしたが、さすがに大人ですから我慢しました。サイドテーブルや可動枕とか、色々といじりたくもなりました。でもそれも大人なので我慢。私の分のお弁当も開かず、我慢。出発のベルが鳴って、やっと食べれるとお弁当にかぶりついたのは、息子ではなく私でした。息子に食べるよう促しても、「せっかくだから、まず景色を楽しむ」とのこと。大人は一体どっちなんだろうか。それにしても確かに息子の言う通りです。大きな窓のデザインにしただけあって、秩父の山奥に入っていくと、景色の素晴らしさがどんどん強調されます。あいにくお天気には恵まれませんでしたが、それでも乗る甲斐があるほどです。山深くなってきたなと思った矢先、急に視界が開けて、西武秩父駅に到着しました。さて、着いたはいいのですが、何をしよう。ラビューに乗ることだけを考えていたので、秩父の観光プランは全く立てて来ず、私は改札でやや途方に暮れました。息子を見ると、観光案内の地図とにらめっこしています。そしてしばらくして、鍾乳洞に行くなら、芝桜見るなら、長瀞行くなら、などと行き方を教えてくれたので、私はもう、頭を悩まさず、息子についていけば良いや、という気になりました。今回は時間の関係で、あれこれ観光はせずに、長瀞というところに行くことにしました。予備知識ないまま、茶店が並ぶ小道を進むと、これまたいきなり視界が開けて、目の前に、川が!岩畳と呼ばれる大理石のような色合いの岩が重なり合って、川べりを囲い、澄んだ川には水面をスイスイと進む小舟が下っています。これには息子も感激。雨などなんのその、夢中で岩を観察したり、川を見下ろしたりしていました。また来ようね、今度はあの船に乗ろうねと約束をして、家路についたという、ことりっぷになりました。さて、絵本です。長瀞の川に感激している息子を見て、思い出しました。本当に小さかったとき、2歳前ぐらいでしょうか、川ブームだった時期がありました。大きな河から小さな川、近所の用水路から境内の流水まで。とにかく水の流れを見るのが好きでした。今回は、その頃に何度も読んだ作品を引っ張り出してみました。『かわ』(かこさとし:さく/福音館書店)です。1962年に発行されて以来、ずっと読み継がれてきた作品です。雪解け水が川になり、その川が大きな河へと広がり、やがて海にたどり着くという、言わば水の物語です。山あいで材木がいかだに組まれている様子、水が田んぼをうるわす様子、鳥たちが憩い、子供達は川面で遊び、浄水場も設置されているといった、川を取り巻く環境も細かく描写されていて、よく見るとたくさんの発見があります。4歳から。少し大きくなり、息子が5、6歳の頃に読んだ『日本の川たまがわ』(村松昭:さく/偕成社)もまた、何度もリクエストされた作品です。これは東京都を流れる多摩川の地理絵本なので、東京に住んでいる息子にとってはより親近感がわく内容でした。奥多摩の源流から始まり、たくさんの小川の水が集まり、流れになる。やがて、ダムを超えて、大きな河となって、東京湾に出るという展開ですが、かこさとしさんの作品同様、多摩川を取り巻くたくさんの生物や乗り物、施設や歴史の説明なども載っていて盛りだくさん。楽しみながら「社会科」に親しめるような作りになっていると思います。小学初級とありますが、年長ぐらいでも。『あまつぶぽとりすぷらっしゅ』(アルビン・トゥレッセルト:さく/童話館出版)。ひとしずくの雨が、小川になり、大きな川になり、海へと繋がっていく様子は、おそらくこの作品が一番小さいお子さんでも無理なく理解できるように描かれているような気がします。絵も美しいし、詩のような韻を踏む文章は、楽しい歌のように子供の心に残るのではないでしょうか。「あまつぶぽとりすぷらっしゅ、あまつぶぽとりすぷらっしゅ」と繰り返したくなる響きです。6歳からとありますが、3~4歳でも。と、いうわけで、綺麗な川を見に、ぜひ、秩父へ!(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年07月15日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。消えたキックボードと、ゴミのはなし先日、翌日の準備をするため、ランドセル片手に翌日の時間割を見ていた息子が、「わーい、明日は、先生の社会だ!」と言いました。どういうことだろうかと思い、「(担任の)先生の社会の授業は面白いの?」と聞いてみると、「うん、めっちゃ面白い!国語も算数の理科も全部面白い!」と言うのです。私が小4だったころは、授業を面白いだとかつまらないだとか感じることもなく、ただ受け身で聞いていただけだったように思いますが、息子の時代の授業はもっと活気がある雰囲気なのだろうか。少なくとも、4教科全て子どもが面白いと思える授業を展開してくれる、そんな器用な先生がいるなんてと驚きますし、とにかくありがたいです。さらにありがたいことに、息子は、明日も先生の面白い授業があると思うと、翌日の準備も捗るようで、私の方もあれこれ口を挟まずに済んでいます。さて、その社会の授業。このごろはゴミについて勉強しているようです。先日も清掃工場に社会科見学に行ってきました。私も引率でついて行きましたが、実際にこういうところに足を運んで、ゴミの分別や燃焼はどのように行われているのか、どのような手間や問題があるのか、などを見聞きしてみると、日々、どれだけ私たちがゴミに対して無神経だったか思い知らされました。エコバックをぶら下げて買い物しているだけでは、十分ではないのですね。もっとゴミを出さない努力を、もっと再利用を、もっとリサイクルしやすいようにしっかり分別を。これをリデュース・リユース・リサイクルの、3R活動というそうです。我が家のエコバックたち。フランスのもの、オランダものも、アメリカのものなどもあります。いろいろなバックに入れっぱなしにしておくと忘れません。そろそろ日本でもポリ袋有料化が始まりそうですね。息子も、意識が高まり、よく考えるようになりました。我が家の問題は、ミネラルウォーターのペットボトルが多すぎると指摘します。ウォーターサーバーにするべきだと提案するので、パパと目下検討中ということにもなりました。もともと海洋生物好きです。ゴミのせいで海が汚染され生態系へ被害を及ぼしていると思うとたまらないと言います。確かに、ごもっとも。そんなある日曜日、朝寝坊を楽しんでいた息子が急にスックと起きてきて、自分のキックボードがないと騒ぎ出しました。記憶を辿ってみると、木曜日にキックボードで買い物に行き、そのまま忘れて徒歩で帰ったことを思い出したようです。即サンダルを引っ掛け、朝食も食べずにお店まで確認しに出て行きましたが、見つからず、がっかりして戻ってきました。通常なら、忘れて帰ったことや持ち物を大切にしなかったことを注意するべきだと思いますが、その時の私はそういう気持ちになれませんでした。息子の表情から、そういった後悔と反省は十分伝わってきたからです。新しいのを買ってとも、もちろん言いません。「誰かが持っていたのかもしれないね。」「うん」「3日間も無くなったことに気づかなかった、ということは、もう卒業っていうことかもしれないね。」「うん」良いのか悪いのか分かりませんが、なんとなく、サラリと話は終わりました。何れにしてもキックボードがなくなってしまった今、騒いでも仕方ありません。それはある意味、リユースだと思うことにしました。物を勝手に持ち去るのは当然いけないことですが、もし誰かが、どうしてもキックボードが欲かったとして、その誰かが、今、とても楽しそうにそれで遊んでいるのだとしたら、少なくとも不燃ゴミになっていないわけですもの。宿題で持って帰った息子の社会科見学のまとめ新聞制作でも、3R活動が大切だと言うようなことを、張り切って書いていました。「先生の面白い社会の授業」なだけに、面倒臭がらず。さて、今回は、もちろんゴミがテーマの絵本です。『いろのかけらのしま』(作と絵:イ・イミョンエ/ポプラ社)。「いろのかけら」とはなんでしょう?そんな謎が、ページをめくるごとに、少しずつ解き明かされていきます。鳥の視線で語られるシンプルな言葉は、プラスチックごみがもたらす環境汚染と生態系への危機に警告を鳴らします。世界でも高く評価された小学生向けの作品です。先日、近隣の小学校でも4年生は清掃工場へ見学に行くということでしたので、これを読んでみました。真面目なテーマの絵本でしたが、意外と反応が良く、子どもたちから様々な素敵な感想をいただき嬉しかったです。ありがとう!『やまからにげてきた・ゴミをぽいぽい』(田島征三:さく/童心社)は、ユニークな作品です。横書きのタイトル『やまからにげてきた』の表紙を左側にめくると、動物たちがどんどんどんどんやまからにげてきます。どんどんにげてきた訳は、山の工事が始まって、ゴミ捨て場ができたからです。ゴミ捨て場ができたのは、ゴミをポイポイする人がいるから、と読み進み、裏表紙に『ゴミをぽいぽい』というタイトルが出てきます。これがまた表紙になって、裏から表へと読み返すことができます。ゴミをぽいぽいすると…、動物たちが、やまからにげてきた、という具合に。ゴミの問題と命の問題がつながる、リバーシブル絵本です。3歳から。『ポリぶくろ、1まい、すてた』(ミランダ・ポール:文、エリザベス・ズーノン:絵/さ・え・ら書房)。舞台は西アフリカのガンビアです。プラスチックゴミが美しい村を汚してゆく様を見かねたアイサトさん。なんとかしようと、ポリ袋を細く割いて糸を作り、その糸でお財布作りを始めます。ゴミのリサイクルを考える、小学生向けの本ですが、ポリ袋でお財布づくりは家庭でもできそうで、5~6歳の子どもでも面白そうだと思うでしょう。息子は、即、夏休みの自由研究にしたいだとかいって、影響を受けたようです。ゴミの問題はもう、待った無し。子どもたちとアイサトさんのように解決策を考えてゆきたいと思います。(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年07月02日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。観客席からの運動会と、走る絵本今では運動会といえば、春。少なくとも近隣の小学校では、どこもこの時期に運動会が行われるようになりました。昔のように、秋に運動会を開催する小学校は、10月になっても暑さが厳しい温暖化現象とともに、年々少なくなっているようですし、お弁当準備の負担を軽減するためなどの理由から、午前中のみというように時間短縮で開催という学校も増えているそうですね。これには様々な意見がありますが、運動会というものが全くないフランスでの学校生活を振り返って比べてみると、どういう形であれ、特別なイベントが年に一度あるというのはやはり嬉しいものです。息子の学校でも、今年は6月の初めに開催を予定して、子どもたちは着々と準備を進めてきました。しかも午後までみっちりのフルコース運動会。お弁当も家族揃っていただく昔ながらのスタイルです。違うのは、春という季節に加えて、校内にシートを敷いて食べるということぐらいでしょうか。子どもたちもしかりですが、先生方も準備に忙しく、遅くまで学校に残られていたようで、頭が上がりません。さて、運動会も間近となると、今年はリレーの選手に選ばれるかしら、などと親は期待してみます。でもそれもつかの間。早々に補欠にもならなかったと息子からの報告が。結局毎年、本人曰く「まあまあ早い方」、補欠の補欠ぐらいの順位にとどまり、サッカーや野球少年のようなスーパーヒーローには、なかなか追いつけないそうです。となると、徒競走の方で活躍するかもしれない。そう思って、私はエールを送ります。頑張れ!ところがそんな矢先、息子が足首を骨折をしました。運動会までにはなんとか治るよう願いましたが、なんだかんだで本番に間に合わず、ギブスは外れてもサポーターは巻いたまま。走るのは禁止、踏ん張るのもダメで、足に負担をかけないように、とお医者さまから念をおされてしまいました。なんとか終始見学ということだけは免れて、足の動きが少ない午後の種目、大玉送りとダンスには、幸い参加できることになりました。ダンスは、一番楽しみにしていたようなので、それだけでも息子はホッとしたと思います。そんなわけで、午前中の徒競走や集団競技は、観客席から私と2人で観戦することになりました。これも滅多にない経験だから、こういう状況も息子に楽しんでもらおうと寄り添いましたが、これが、わざわざ私が力まなくても、自然と盛り上がっていました。お友達の走りっぷりを応援したり評価したり、仲の良いお友達が1等になると大喜び。息子の代役が頼もしいプレーを見せてくれると拍手。確かに、観戦というものも楽しいものです。オリンピックや世界大会も賑わうわけですからね。そして無事、運動会も終わり、息子はすっきりした様子で、またいつもの学校生活に戻ってゆきました。足の完治も、もうすぐです。さて、今回は、「走る」絵本です。『いちばんのーり』(おかいみほ:さく/BL出版)。「ごはんむら」の元気な運動会です。徒競走の位置についたのは、卵焼き、納豆、豆腐、醤油、海苔など、食卓の定番食材です。「よーい、どん」でスタート、と思いきや、「よーい、どんぶり」!「めだってはしるたまごやき」、「たまたまはやいたまごやき」、と、食べ物が走り出すとともに、ダジャレがどんどん追いかけます。一頭は海苔!そして次々にゴールに着くと、美味しい朝ごはんがセッティングされるという展開です。古典的な日本の朝ごはんは、とても美味しそうです。でも確かに、朝は徒競走のようにバタバタ慌しいものですよね。楽しい作品です。4歳くらいから。『うさぎとかめ』(イソップ寓話、ポール・ガルドン:え、さがの弥生:ぶん/童話館出版)。かけっこ物語といえば、イソップのこれです。かけっこをしようと決めたウサギとカメ。足の早いウサギが油断していると、地道にまっすぐ進んできた亀に追い越されてしまうという有名な物語です。こんな展開は、日常でもよくあり、教訓にもなるので、子どもには是非とも触れてもらいたいお話ですよね。様々なバージョンがあり、選ぶときにはどれにしようか悩むと思いますが、今回は、子供っぽすぎない作品を選びました。このポール・ガルドン版は、抑揚感のある動物画が甘すぎず、語り口も軽すぎず、かといって重すぎず、詩的で文学的です。幼児向けの『うさぎとかめ』が物足りなくなったころにちょうど良いのではないでしょうか。息子にも、また読んで聞かせようかな。お勉強もコツコツやるのが大事だよって。5~6歳から。最後に、『よういどん』(わたなべしげお:ぶん、おおともやすお:え/福音館書店)。はじめての「よういどん」にぴったりの可愛い絵本です。表紙では、動物たちが障害物競走のスタート地点に並んでいます。表紙をめくると、そこからはクマさんだけの世界です。クマさんの気持ちにぴったりと寄り添って、よいしょ、よいしょ、と平均台を渡ったり、鉄棒で回ったり、跳び箱を超えてみたり。でもなんだか上手くいきません。それでも大丈夫。がんばって、がんばって、やっとゴールに着けました。一等賞だよ、がんばったね、とクマさんにも、いつもがんばってる子どもにも、拍手を送りたくなるような作品です。最後の裏表紙も見逃さないように。クマさんは、本当は何位だったのでしょうね。1歳半ぐらいから。さて、我が子。来年は、どんな活躍を見せてくれるか期待して。(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年06月18日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。山椒の木とはらぺこいもむし、蝶の絵本春休みが終わる頃、私の母がいよいよ明日、パリに帰るというときのことです。夕方、母が大きな山椒の苗をぶら下げて買い物から戻ってきました。実際、シルバー世代の母がぶら下げてきたわけですから、大きいというほど大きいわけではありませんが、小さい苗というには存在感のある苗です。中くらいのサイズ、で伝わるなら、それでもいいですが、問題はサイズのことではありません。山椒の木が好きすぎて、毎回日本に来るたびに、買ってはフランスに持って帰れないからといって、我が家のベランダに置いていくことです。木の芽を摘んでご飯やお豆腐の上に乗せて食べるのは好きなようですが、毎食欠かせないというわけでもないようですし、実だって佃煮にしたものはパリの冷蔵庫に入っているにはいますが、減りが早いわけではないのは確かです。第一、苗を買っても実がなるとは限らないし、そもそもパリに持って帰れないわけですから、なぜ買うのか。とても理解し難いですが、普段パリでは有り付けない納豆や蒟蒻に帰国したら即がっつきたい、という欲に似て、ミントにもラベンダーにも似つかない、あの山椒の独特の香りは日本に来ないと嗅ぐことができず、日本に来たら絶対嗅ぎたい、という思いが、山椒の苗を買わずにはいられない行為になっているのではないでしょうか、という考えに至りました。私だって山椒は好きです。よくよく考えてみれば山椒の苗がベランダにあって、困ることはありません。でも、無精な私には数日で枯らしてしまうのがオチです。だから問題なのです。でも、それをよそに「ちゃんと水やってね」と言い放って、母は苗の代わりに大きなスーツケースをぶら下げて、パリへと帰って行きました。そうとなれば、今年こそはまともに水やりをやってのけたい。そう思って、4月からせっせと水をやり、育てていました。そんなある朝のことです。お隣の5歳の坊やにバッタリ会うと、「いもむしさんがきちゃったの」と話しかけてきました。唐突に何だろう、と思いながら、「そうなの~」と笑顔で答えてみせて、その後に「あら、良かったね」というべきか、「あら、困ったね」というべきか悩んでいるところに、ママがパタパタときて説明してくれました。どうやら山椒好きは、私の母に限ったことではないらしい。このお母さんも、毎年山椒の苗を買ってくるそうです。ところがいつも蝶が卵を産んで、孵化したいもむしに食べられ、「ハゲちょろびん」にさせられてしまうんだとか。山椒が枯れてしまう原因は、水やりの他に、はらぺこのあおむしならぬ、いもむし、にもあったようですね。なので、坊やには「あら、困ったね」と返事すれば正解だったようです。隣でその話を聞いていたうちの息子は、「ああ、アゲハね」と一言。私に、植物園に行った時に観察した、山椒の葉を食べる黒い幼虫を思い出させてくれました。そうなんですね。アゲハは山椒の木に卵を産み、幼虫はその葉を食べて大きくなる、というわけです。早速、息子と我が家の山椒の木の葉に目を近づけてみました。すると、やはり、ありました。小さな薄黄色の卵が。少し経つと、色が黒くなっていました。その翌日には、小さなゴミのような幼虫が卵から孵っていました。いもむしです。幼虫は日に日に大きくなり、日に日に、鳥の糞そっくりになり、黒と白の混ざった模様を背中に、必死に山椒の葉にかじりつき、「ハゲちょろびん」にしようとしています。とても小さかったアゲハの幼虫。だいぶ立派になってきました。この後、立派な「あおむし」になるはずです。そんなわけで、最近の息子と私は、毎朝蝶の幼虫チェックをしています。「これって、アゲハの幼虫を飼ってるってことになるのかなぁ?」と呟いて、今朝も学校へ向かいました。これも私の母の、山椒熱がなければ体験できなかったことですね。ありがたいこってす。アゲハに羽化する日まで、ウチの飼い虫でいてくれるかどうかは分かりませんが。というわけで、こんな時こそ、『はらぺこあおむし』(エリック・カール/偕成社)ですが、昨年の3月のブログですでに紹介していますので、今回は別の作品を選んでみました。『きいろいのはちょうちょ』(五味太郎・さく/偕成社)。これはモンキチョウのような小さな可愛い蝶が登場する、穴あきしかけ絵本です。お庭、公園、街中で見かけた小さな黄色いもの。それは、ちょうちょ、と思って男の子が捕まえようとします。次ページをめくると、あれれ?ちょうちょじゃない、別のきいろい何かでした、という繰り返し。思い込みに対して、ちょっとイタヅラしてみよう、というような作者の遊び心が伝わってくる愉快な絵本です。ラストもさすがです。私は、息子が2歳ぐらいのときから何度も読んで聞かせました。『旅する蝶』(新宮晋・さく/文化出版局)。これはオオカバマタラという渡り蝶の一生を描いた、バイリンガル科学絵本ですが、とても詩的に仕上がっている作品です。絵も美しく、遠目にもとても映えます。メキシコからアメリカ、カナダまで延々と飛び続ける蝶。繊細な姿からは想像できないくらいの強い生命力に、きっと魅了されるでしょう。我が家でも、数年前のある夏の終わり、息子とアサギマダラという渡り蝶を見つけたことがありました。登山中の思いがけない出会いです。その蝶は、渡り鳥のように旅をし、もうじき沖縄や台湾の方に向かうんだと知った時の、私たち親子の小さなドキドキは忘れもしません。この作品は、確か、その直後に購入したんだと思います。5歳ぐらいから、でしょうか。旅、いいですね。ニルスより小さくなって、蝶の背中に乗ってみたいものです。(Anne)登山中に出会った、美しいアサギマダラ。Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年05月25日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。遅い春、GWも雪遊びと季節外れの絵本。ゴールデンウィークでしたね。春休みが終わって、新年度が始まり、ちょっと慣れたかなというころに、また長いお休み。今年は10連休ということで、子どもも2度も春休みをもらったような気分だったと思います。親としてもたっぷり一緒に過ごせて嬉しいです。でも一方で、自分の仕事や用事はまた後回しとなってしまい、ため息も出ますが、それは仕方のないことですね。さて、その間、「令和」にもなりました。どんな時代になるのだろう。いや、なるのだろう、ではなくて、どんな時代にしようか、ですよね。私たちひとりひとりが時代に流されるのではなく、意識と意志を持って時代を作り上げていくべきですもの。時代を積極的に作り上げていく姿勢を、息子にも持って欲しいと思います。年号が代わったとはいえ、GW。たっぷりのお休み中に、悶々と新年号について語りあっていたわけではありません。我が家ではほんの少し話題にしたぐらいで、あとは山籠り。ゆったりと自然を堪能した休暇を過ごしました。今年は春の訪れが遅かったのか、山の新緑も未だで、若葉の輝きには包まれはしませんでしたが、野山の桜が花盛りで、春霞と馴染んで優しい美しさが広がっていました。私たちは少し足を伸ばして信州の奥の方へもドライブしました。そこは、今度は果樹園の花盛り。りんごはまだ開花していませんでしたが、桃やプラムの花は満開。所々で、菜の花畑の黄色の絨毯が景色に映え、水仙やチューリップもボンボンと傍に咲いて、アクセントになっています。絵を描くなら、ピンクと白と黄色の絵の具が真っ先になくなりそうな勢いでした。時々車の窓を開けると、ほのかに甘い香りが漂っています。地図上だったら果樹園記号だらけだね、と息子は習いたての地図記号を頭に浮かべています。果樹園記号ってどんなだったっけと、人差し指を顎に当て黙り込む母の私。そして野山と雲と果樹園をひたすら写真に収めるパパ。チューリップと水仙、奥にはプラムの果樹園さて、その果樹園の山道をグルグルと登っていき、ロープウェイ乗り場に到着しました。ソラテラスというところで、雲海を見下ろすつもりでしたが、絶景スポットのテラスまで上ってみると、景色は霧の中。残念ながら雲海を見下ろすのにはベストと言えるようなお天気ではなく、長い間待って、やっと少しだけ見れた、というレベルでした。束の間見れた雲海それはそれで、なかなかの景色でしたが、ほんの束の間です。そうなると通常なら、高いロープウェイ代を払ったのに、とがっかりしますよね。でも、そんなことはありませんでした。なぜなら、テラスの真裏には、なんとスキー場が広がっていたのですから。五月だというのに雪遊びが出来るという、思いがけないプレゼントでした。雪遊びに夢中のウチの子もちろんスキーが出来るとは思ってもいなかったので、板も持ってきていませんし、スキーウェアだって着ていません。それでもお構いなしです。ソリ滑りができる傾斜で、スニーカーとデニムをビショビショにしながら、息子は遊んでいました。ついでに私も。季節外れの雪景色が突如目の前に広がるなんて、本当に想定外でしたよ。まるでドラえもんの「どこでもドア」が開いたようでした!さて、今回は、そんな季節外れがテーマで選書してみました。『なつのゆきだるま』(G.ジオン:文、M.B.グレアム:絵/岩波書店)。冬、せっかく作った雪だるまが溶けてしまって、残念な気持ちになったこと、誰しもあると思います。主人公のヘンリーは、お兄さんと作った可愛い雪だるまをなんとか溶かさない方法はないだろうかと考え、思いついたのが、冷凍庫で保存するというアイディアです。そして夏になって、冷凍庫から取り出し、友達たちへの季節外れのプレゼントとしてお披露目会を計画するという愛らしいお話です。雪の降る日に読んであげてもいいし、夏に読んで涼しい気持ちになってもいいでしょうね。4歳から。『サンタのなつやすみ』(レイモンド・ブリッグズ:さく/あすなろ書房)。あの有名な『さむがりやのサンタ』の続編です。サンタだというのに寒いのが大嫌い。そこで、憧れの夏のヴァカンスに出かけます。美味しいものを食べたり、気持ちよくプールで泳いだり。でも、体調が悪くなったり、悪天候に見舞われたり、挙げ句の果てにサンタの正体がバレそうになったりといったコミカルな展開が炸裂します。クリスマスシーズン以外のサンタさんに出会える、楽しいコマ割り絵本です。幼児から。「どこでもドア」の話をしたので、最後に。おまけで息子の愛読書をご紹介します。わざわざ紹介するまでもないんですが、でもやっぱり『ドラえもん』はいいですね。アイディアの宝庫ですもの。(Anne)息子の『ドラえもん』コレクションAnne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年05月15日この連載は……モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。哺乳類展と動物絵本新年度が始まり、息子もいよいよ4年生。小学生活を2分割すれば高学年の仲間入りです。担任の先生が代わったり、友達の顔ぶれも違ったり、よその学校から来たお友達ができたりと、子どもたちにとっては何かと変化があるこの時期です。子どもによっては、すぐに新しい環境に馴染めず不安を抱えながら過ごすこともあるかもしれません。親としては子どもの気持ちを汲み取りながら年度のスタートを切りたいと思うところですが、そんな心配をよそに、息子の方は、毎年この時期、1年の中で1番はつらつとしているかもしれません。なにせ世界が広がるとワクワクするタイプ。クラス替えはなかったものの、担任の先生が新しくなり、教室の場所も代わり、責任のある係も受け持てて、やる気に満ちている様子が見て取れます。もう私があれこれ気にかける余地も与えてもらえないくらい。なんとなく、置いてきぼりを食らっているような気分です。こうして少しづつ親の手から離れ、自立してゆくのだろうなと思うと、もちろん嬉しいですし誇らしいですが、やはり少し寂しい。お家でも、自主的に宿題も取り組むようになり、ピアノも適当ではありますが、思い出したら積極的に練習します。片付けも入浴も着替えも就寝も、放っておけば自分で手際よくやってしまいます。というわけで、私は、先日、カレーだけ作ると、あとはパパに任せて、久しぶりに飲みに出かけました。今までなら、夜、友人との食事会に出かけても、ちゃんと寝間着を取り出せただろうかとか、ちゃんと寝ただろうかとか気になって早々に帰宅していました。でも、もう、それも気にならなくなりました。きっと上手くやってる。そう思って安心していたら、その晩、私が帰宅したのはなんと深夜。お陰さまで友人と久々に長々と話ができました。さて。少し前の春休み中のことです。「大哺乳類展2ーみんなの生き残り作戦」(国立科学博物館、6/16まで)を見てきました。こうした展覧会へはいつも親子だけで行っていましたが、今回はクラスの仲良しも誘ってみました。これまでは、展示物を指して、これは何か、だとか、どうしてこうなのか、などと息子の質問責めにあったり、私の方が問いかけたりして、親子でとやりとりをしながら観賞するのが当たり前でしたが、お友達と一緒だと全然違いました。2人で観察し、会話し、盛り上がってます。私には目もくれません。なんて楽なんでしょう!私は羽を伸ばしながら観ていましたが、だんだんと寂しくなって、構って欲しい妹のように、2人の間に割り込みました。「なになに?」と私。目の前には動物の剥製がずらりと整列しています。これは一体どういう基準で並んでいるんだろうかと2人は話し込んでいたそうです。「きっと、右のほうに行けば行くほど哺乳類なんじゃない?」と意見を言ってみました。すると、お友達の方はびっくりした様子で私を見上げます。息子は、呆れた顔をしています。「ママ!なに言ってるの?これ、全部哺乳類だよ。そういう展覧会なんだから!」ああ、恥ずかしい。なんてトンチンカンなコメントをしてしまったのだろう。もう、息子たちの間に入っていこうと野暮なことはせず、出口まで大人しく後ろからついていくだけにしました。というわけで、哺乳類の絵本を三冊ご紹介します。哺乳類というと堅苦しいですね。動物絵本です。まず、『しましまかしてください』(林なつこ:作/教育画劇)。ゾウさんが、シマウマとお友達になりたいがために、ハチやトラに縞模様を借りに行きます。可愛らしい展開で、お話会でも人気です。4月は、小学1年生のスタートプログラムで読んで聞かせました。『どうやってねるのかな』(やぶうちまさゆき:福音館書店)。絵本の動物画といえば、この方。リアルなタッチで描かれた動物たちは、小さい子にとってもとても親しみやすく、且つ、何度見ても見飽きない面白さがあります。動物たちがどうやって寝るのか、大人だって意外と知らないものですね!(2歳から)松岡達英さんの動物画も外せません!今回は数ある作品の中から、『いのちのひろがり』(中村桂子・文/たくさんのふしぎ傑作集/福音館書店)を選びました。私たちすべての生き物は、元はと言えば、38億年前に生まれた一つの細胞だということから、今に至るまでの、いのちの繋がりを描いている作品です。小学生向けですが、生物好きにとっては大変魅力的な絵だからでしょうか、6歳の時に息子に見せて以来、繰り返し読まされたものです。生き物の進化に興味を持ったのも、尊敬する人はダーウィンだというのも、発端はこの絵本からです。知られざる生き物の世界はまだまだあります。そんな世界を、絵本を通じてイメージを膨らませたいですね。(Anne)Anne (アンヌ)モデル・絵本ソムリエ。1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。「絵本とボクと、ときどきパパ」連載一覧
2019年04月25日ISHII Internationalは、パリで生まれたポップでありながらエレガントなバッグ小物ブランドであるAnne-Charlotte Goutal Paris(以下、アン=シャーロット・グタル・パリ)の公式インターネット販売を開始します。■アン=シャーロット・グタル・パリアン=シャーロット・グタル・パリは、10年前にフランス、パリで誕生した、ビニール素材のバッグ、小物のブランドです。24色のカラー、60を超えるピクトの組み合わせによって多彩なデザインの中から自分好みを選べるスタイルは、色や柄を合わせ、拘りを持って楽しむフランスのライフスタイルそのもの。磨いては光る作品に、使えば使うほど愛着を感じます。フランス・パリ16区に本店を構える「Anne-Charlotte Goutal Paris」。その作品たちは、上品なおしゃれを楽しむ感覚とユニークなデザイン性が不思議な相乗効果でうまく融合した、まさに「作品」と呼ぶにふさわしい実用性のあるエレガンスです。その数々の作品は、メゾンが長い時間をかけて研究開発したコットン製の裏地でしっかりと支えられた良質で丈夫なビニール素材によりつくられています。水や太陽光による経年変化にも強く、普段使いの中でついてしまう汚れも簡単に落とせる独自の贅沢な素材です。■デザイナー/創業者ブランド名となっているアン=シャーロット・グタル(Anne-Charlotte Goutal)は、デザイナーであり、創業者です。彼女はフランスの名門、ファッションに精通した由緒ある家庭で、古典的な芸術に囲まれて育ちました。創作が小さな時から大好きな「個性的な子ども」で、いつも夢中になって描いていた絵は、周りの大人たちの心を動かすものばかりでした。流行に敏感なパリで、かわいいキャラクターを愛しながら生きる彼女のスタイルは、実用性とオシャレを兼ね揃えた新世代のデザインを確立しました。「生活の中で毎日使うものを楽しくするのが好きなの」2006年、ビニールを素材とした小物のブランドを創立。現在、ユニークなデザイン性を持つブランドとして、フランス本国で認知されるようになりました。(お問い合わせ先)ISHII InternationalTEL 03-6417-3654
2017年12月07日