しかし私は香りを説明するための言語を持ち合わせていないので、「最新式の人型ロボットがヴィクトリア時代の古着を着て抱きしめてくれる」感覚に襲われる。
■ティエリー・ミュグレー「エンジェル」
私がヴィクトリアン・ドレスに身を包んだフューチャリスティックな天使と始めて踊ったのは、数年前の冬だ。
当時大阪のブラック企業で働いていた私は、12月のある夜、土佐堀川のほとりで水際に面したビルの断面を眺めていた。九州へ日帰り出張した帰り道、新大阪からオフィスへ戻るべく荷物を引きずり、空腹で力尽きて川べりのベンチに座っていた。白々と光るオフィスビルはみな一様に、川に向かってぱっくりと腹を晒し、その窓枠の中でまだ帰れない人たちが忙しなく動き回っている。
ふと自分の足元に投げ出した、山ほど紙の束を詰めた鞄の隅に、青い箱が突っ込まれていることに気づいた。
何だ、これ。
まだ開けられてもいない箱は、買った事実すら忘れていたが、紛れもなく私がインターネットで注文したものだった。
先日やむなく会社に泊まった夜、ひとときのインターネットショッピングで眠気を紛らわし、間違って送付先を会社に設定して、届いた荷物を慌てて鞄に突っ込んだまま九州まで出かけていたらしい。