連載小説「眠らない女神たち」 第三話 『グレープフルーツのユウウツ』(後編)
リビングではクマさん、もとい、パパが夕食を食べていた。見覚えのない発泡酒の缶もある。
「あれ、起きてきた」
パパの不用意な発言に私はいらっとした。起きてきちゃダメなのか。妻がそばにいてはリラックス出来ないというのか。
「よく寝ていたから起こさないようにしたんだけど…」
ご飯を食べながらもごもごと言う。あれ?一応は気を使ってくれた、のかな?
「里依紗が寝たらお弁当の準備するのよ。毎日やってるじゃない」
ああ、いやだな。
こんなトゲトゲした言い方は、自分の声じゃないように聞こえる。自分自身の情けなさに私は大きなため息をついた。
「「ごめん」」
パパと私の言葉が重なった。お互いに目を丸くしている。
「違うの、今のは、ちょっと疲れたなあって思って」
私はため息の弁解をした。
「毎日、帰りが遅くてすまん」
パパは茶碗に盛られたご飯を見つめて言った。私の目は見ない。パパの声とキュウリの漬け物を噛む音だけが響く。
「さっき、里依紗を見て思った」
パリン、パリン。
「あっという間に大きくなるんだな」
ぼりぼりぼり。
「あたりまえでしょ」
私の責めるような口調に、パパはクマのような大きな体をほんの少しだけ小さくしたように見えた。