#31 にじいろかぞく、のはじまり その4(ゴー・アメリカ)
と、上司や同僚たちは、私を送り出してくれたのです。
それから出発までの半年は、大使館に呼び出されて説明を受けたり、訪問したいNPOや企業について調べたり、読んでみたい本のリストを作ったりとバタバタ。
子どもが生まれてからこのかた、家を2日続けて空けたことがない私が、3週間も家を空ける。そのことに、私はとても緊張したのですが、オトコマエの麻ちゃんは「任せとけ!」と余裕の様子。小学校の高学年になっていた子どもたちも、「わー、アメリカ!お土産買ってきて!」と無邪気なもので、私は胸をなでおろしたのでした。
とうとうアメリカへ旅立つ日がやってきました。旅の仲間は、2人の元国会議員と、日本のLGBT界を牽引するNPOの代表で、一流企業で働くエリートゲイ男性。そんな錚々たる方々に混じって、こんなおばちゃんが参加していることに、我ながら “なんで?” と思いましたが、ココは腹を決めるしかありません。
離婚以来、期限が切れたままだったパスポートを更新し、真新しいスーツケースに荷物を詰めて、生まれて初めての3週間の研修の旅に、さぁ出発です。
I have a dream!
最初に着いたのは、ワシントンD.C.。折しも、キング牧師の「I have a dream」のスピーチが、ここワシントンD.C.で行われてから、ちょうど50年のタイミングで、街のあちこちで祭典の準備が進んでいました。思えば、50年前の黒人の権利が、今のようなものではなかったことと、LGBTのそれが重なります。英語の教科書で読んだスピーチから、まだわずか50年しか経っていないことに驚きつつ、まずは座学をみっちり受け、翌日の朝早くから視察が始まりました。
視察1日目に訪れたのは、さまざまなLGBTキャンペーンを行っている有名なNPO。案内されたオフィスには、若い人が多く、活気に溢れていました。
今でも日本では、LGBTをテーマにした大きなNPOはありません。
私がアメリカに行った2013年当時、日本でLGBTに関わる仕事をしているのは、よほどの覚悟と志がある人のみ。それも、輝かしいキャリアをなげうって挑んでいるケースしか見たことがありませんでした。それがこのNPOでは、多くの当事者が自分のセクシャリティを隠さず、それどころか、それを生かして堂々と働いていました。私はもう、ただただ驚くばかりでした。
「当事者以外のスタッフはいますか?」