#33 「法律上も父になりたい裁判」とスッポンのような女
とつぶやいては、私をドキドキさせました。そんな私たちの元に、ある大きなニュースが飛び込んできたのです。2012~13年の「GID・法律上も父になりたい裁判」です。GID=性同一性障害のお父さん(FTM:Female to male、生まれた時は女性として性別を割り当てられたが、性自認が男性である人)が、奥さんが産んだ子との間に父子関係が認められなかったために起こした裁判でした。
嫡出推定という不思議な法律
ちょっと本筋からは外れるのですが、この裁判の概要をご説明します。ややこしいのですが、ついてきていただけるとうれしいです。
結婚している夫婦が不妊治療でAID(非配偶者間人工授精。つまり夫ではない人に精子提供をしてもらうこと)をした場合、生まれた子どもは夫婦の嫡出子(結婚している夫婦の間に生まれた子)という扱いになります。
これは民法772条の規定(嫡出推定)によるもので、結婚している妻が妊娠した場合、実は夫以外の男性との子どもであっても、結婚している夫婦の間に産まれた子という扱いになるのです。みなさん、知っていました?
現代からすると、ちょっと不思議な感じですよね? 実はこれ、民法772条の元となる規定が作られたのが明治時代で、DNA検査が想定されていなかったため、「実のところ他の男の子どもかもしれないけど、結婚している以上、その夫婦の子どもってことにしよう!その方が子どものために良いよね!」ということでできたものなのだそうです。
そこでこの裁判です。このFTMの方は、戸籍を女性から男性に変更して、女性と結婚していました。しかし精子はないため、AIDで子どもを持ったのですが、戸籍上も結婚が成立している夫婦だったにもかかわらず、その子どもは嫡出子にならなかったのです。というのも、そのFTMのお父さんの戸籍に、女性から男性へ性別を変更したことがわかるような記載があるため、生殖能力はなく子どもを持てないことが明らかである以上、嫡出推定に当たらない、とされたのです。
一審、二審、共にFTMのお父さんの請求は退けられたのですが、最高裁で一転。生まれた赤ん坊は、この夫婦の嫡出子である、という決定が出たのです!つまり、最高裁は“血縁関係のない子どもであっても、夫婦の間に生まれた子は嫡出子になるというのが原則である。
それはFTMであっても例外ではない”という決定を下したのです。