PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは?原因、症状、治療、PTSDに似た発達障害の症状まで解説
PTSDとは
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PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)は、ショック体験や強いストレスをきっかけに、こころにひどく傷を負うことで発症します。
発症すると、そのできごとに関わる人・場所を過度に避けたり、常に気を張ったり、考え方が否定的になったりと、日常生活を送る上で支障が出てしまいます。時間が経つにつれて症状が軽くなることもありますが、数ヶ月、症状が長引くようであれば、専門家に相談することも必要になります。
また、PTSD患者は、他の精神疾患を合併することが多いとされています。PTSD患者が、精神疾患を合併する割合は80%近くになります。合併することの多い精神疾患としては、うつ病、不安障害、アルコール中毒や薬物中毒といった物質使用障害です。
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出典:日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
PTSDは、誰しもがかかりうる疾患です。
アメリカでの調査によれば、約15人に1人は一生のうちにPTSDを発症します。
また、PTSDを発症しないにしろ、約半数の人は、PTSDにつながる可能性のあるショック体験や強いストレスを経験しています。
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出典:友田 明美、杉山 登志郎、谷池 雅子/編集『子どものPTSD-診断と治療-』(診断と治療社、2014年)
PTSDの原因
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PTSDはショック体験や強いストレスがこころを傷つけ、トラウマになることで引き起こされる疾患です。
人それぞれトラウマになるできごとはバラバラです。しかし、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)によって、PTSDにつながるショック体験や強いストレスが定義されています。PTSDにつながる経験は、以下の条件を満たしています。
A.実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:
(1)心的外傷的出来事を直接体験する。
(2)他人に起こった出来事を直に目撃する。
(3)近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。
家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうになった出来事の場合、それは偶発的なものでなくてはならない。
(4)心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする。(例:遺体を収集する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)
注:基準A4は、仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。
出典:アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)
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例えば、上の条件を満たすような経験には、次のようなものがあります。
・自然災害
・殴られる、蹴られるなどの暴行
・性的な虐待
・手術中に意識を取り戻してしまうなどの医療事故
・いじめられた経験や見て見ぬふりをした経験
・ネグレクトなどの親からの虐待
これらの経験は、本人に失態があり、振りかかるようなものではありません。PTSDの原因になる経験は、日常生活を送る上で頻繁におこるものではなく、非日常的なできごとであることが多いです。
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参考:アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)
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出典:明鏡国語辞典 第二版 (大修館書店)
PTSDの症状
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PTSDは、過去に悲劇的なできごとがあれば必ず発症するものではありません。過去にショック体験や強いストレスがあったことと、以下に挙げる特徴的な4つの症状が1ヶ月以上持続することを共に満たす場合にのみ、PTSDだと診断されます。
・トラウマが突然、思い出される
・トラウマに似た状況を避けようとする
・否定的になる
・いつも緊張状態にある
特徴的な4つの症状について、一つずつ詳しく見ていきます。
つらい記憶が、無意識のうちに突然思い出されることがあります。この記憶が思い出されることは1回だけでなく、繰り返し何度も起こることが特徴的です。
記憶が急に思い出されて、さまざまな反応を引き起こすことをフラッシュバックと言い、場合によっては、短い時間のあいだ意識を失うことさえあります。
子どもの場合、つらい記憶に似た状況に置かれたときに、記憶が急に思い出されるケースがあります。例えば、東日本大震災がトラウマになった子どもは、比較的小さな地震が起きたときに、東日本大震災での記憶が呼び起こされます。
PTSDの人は、トラウマとなったできごとに関係する刺激を、ほとんど常に避けようとします。多くの人は、トラウマを思い出さないように、つらい記憶について考えたり、会話したりすることや、トラウマに関係する場所、人を意図的に避ける努力をします。
PTSDになると、否定的な感情を抱いたり、認知がゆがんだりすることがあります。
例えば、「私がすべて悪い」、「誰も信用できない」と考えてしまうこともあります。また本来、本人には一切の責任がないようなことであっても、原因が自分にあると思いこんでしまったりすることも少なくありません。
PTSDの人は、いつも気を張り詰めていることがあります。日常の中で、ささいなことに苛立ちを覚えたり、電話がなると飛び上がるなど、予期しない刺激に過剰に反応してしまいます。
このような症状が発症したとしても、短期間でおさまればPTSDの可能性は低いと考えられます。しかし、1ヶ月以上にわたり症状が見られる場合には、病院で相談してみるといいかもしれません。
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参考:アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_ptsd.html
参考:PTSD|みんなのメンタルヘルス厚生労働省
ADHDとPTSDの類似性
ADHD(注意欠陥・多動性障害)とPTSDの症状には、実は似ている点が多くあると言われています。
そのため、ADHDだと診断されている子どもの中には、実はADHDではなくPTSDである子がいるかもしれません。
ADHDの子どもは、不注意、多動性、衝動性の特性があります。
ADHDのあるの子どもに見られる行動として、
・大人しく座っていられない
・すぐにかんしゃくを起こす
・診察中に突然、病室から飛び出す
といったことがあります。
ですが、PTSDの症状としても、これらと似たような症状が見られることがあります。そのため、子どもの行動から、その原因がADHDの特性によるものなのかPTSDの症状として出ているものなのかを区別することは、専門家であっても難しい場合があります。
ADHDとPTSDを正しく見分けるためには、子どもの過去にどのようなことがあったのかや生育歴・発達歴の情報が大切になってきます。
子どもと一番長い時間を過ごしてきたのは、医師でも学校の先生でもなく家族です。少しでも気になるできごとがあったり、ある日を境に急にADHDと思われるような症状・傾向が見られるようになったと感じたときは、医師に伝えるといいでしょう。
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参考:友田 明美、杉山 登志郎、谷池 雅子/編集『子どものPTSD-診断と治療-』(診断と治療社、2014年)
自閉症スペクトラムとトラウマ
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自閉症スペクトラム(ASD)の子どもは、PTSDだと診断されなくとも、こころの傷によって苦しんでいることがあります。
過去のできごとを突然思い出す、「タイムスリップ現象」と呼ばれる症状が自閉症スペクトラムの子どもに多くみられます。タイムスリップ現象とは、いじめや暴力を受けた時の記憶を急に思い出して、まるで今その経験をしているかのように振る舞う現象です。自閉症スペクトラムの子どもが、タイムスリップ現象に関して抱えている問題には、
・トラウマになるような経験をしやすい
・自分の身体に起こっていることを説明することが難しい
といったことが要因として挙げられます。
自閉症スペクトラムの子どもは、定型発達の子どもに比べるとストレスを感じやすい環境で生活しています。感覚過敏のある子どもにとっては、普段の教室にいるだけでもストレスがたまっていくことが珍しくありません。
また、興味関心の偏りなどといった特性から、友だちとコミュニケーションをうまくとることができず、結果としていじめにつながってしまうこともあります。
自閉症スペクトラムの子どもにとって、自分の身体で起きていることを正確に周囲に伝えることは困難を伴うことが多いです。
子どもからのSOSがなく、親や学校の先生であっても、子どもがタイムスリップ現象で困っていることに気づけないことがあります。
過去にいじめられたり、人間関係でうまくいかなかったりしたことを克服したように見えても、子どもが未だにその経験によって苦しんでいることもあります。
自閉症スペクトラムの子どもが次のような行動をとったときには、トラウマが関連している可能性があるので、子どもに最近なにかあったか聞いてみるといいでしょう。
・新たに、攻撃的・破壊的な行動をするようになったとき
・夜、寝られなくなるなどの身体に変化が起きたとき
・社会性、コミュニケーションにおいて、症状が悪化したとき
・常同行動が増えたとき
常同行動とは、手をひらひらしたり、体を揺らしたり、奇声を上げるなど、一見無目的に同じ行動を繰り返すことです。
自閉症スペクトラムの子どもは、トラウマになるような経験をすることが多く、場合によってはタイムスリップ現象につながることがあるかもしれません。
しかし、ふだんからソーシャルスキルトレーニングなどを通して子どもが自分の考えや感覚を表現するスキルを向上するための支援を行ったり、ペアレントトレーニングなどを通して保護者が子どもの行動の見極め方や関わり方を学んだり、子どもが親や先生に相談しやすい環境を整えたりすることで、タイムスリップ現象やPTSDを未然に防いだり、発生した際にも早期発見・早期支援に繋げやすくなります。
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参考:友田 明美、杉山 登志郎、谷池 雅子/編集『子どものPTSD-診断と治療-』(診断と治療社、2014年)
PTSDの治療大人編
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PTSD治療において、大切になるのは本人のペースに合わせて回復していくということです。周囲が無理に今すぐ治そうとしても、思い通りにはなかなかいきません。そうではなく、本人が少しでも安心して、安全に生活できるような環境を整備することを意識するとよいかもしれません。
PTSDの治療法について、紹介していきます。大人と子どもでは、PTSDになるできごとが異なったり、大人のほうが精神的に発達していたりと、同じPTSDでも異なる点があります。
この章では、大人に対するPTSDの治療法について紹介します。
PTSDの治療には、その症状や原因をよく理解することが重要です。
PTSDは、トラウマ体験をした人であれば誰でも起こることがあります。しかしPTSDになる人の多くは、PTSDについて正しい知識を持っていません。そのため、PTSDになったことに対して罪悪感を感じてしまうことがあります。
治療の第一段階としては、PTSDについて正しく理解することで、罪悪感を軽減したり、自分の感情をコントロールする術を身につけたりすることが多いです。
PTSDの研究の中で、薬による治療が効果的であることがわかっています。
PTSDの薬物療法は、それぞれの症状が見られたときに対症療法的に行われます。例えば、不眠や抑うつ状態などが見られたら、それを解消できるような薬が処方されます。
PTSDはうつ病や強迫症などさまざまな精神障害と併せて発症することがあります。そのようなときには、合併している疾患への治療も踏まえて、薬を使用していくことになります。
精神疾患の薬は使い方を誤ると、重篤な副作用がでることもあります。そのため、医師の指示のもと、綿密に相談しながら、薬と正しい付き合いをしていくようにしましょう。
集団療法は、PTSDの主な治療法の一つであり、PTSD患者の持つ孤独感を軽減させたり、周囲の人を信頼したりする効果があります。集団療法には、トラウマについて各々が向き合う必要のあるものから、トラウマについて触れないようにするものからさまざまな種類があります。
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参考:エナド・B・フォア、テレンス・M・キーン、マシュー・J・フリードマン、ジュディス・A・コーエン/編集飛鳥井 望/監訳『PTSD治療ガイドライン 第2版』(金剛出版、2013年)
http://www.jstss.org/wp/wp-content/uploads/2013/09/JSTSS-PTSD%E8%96%AC%E7%89%A9%E7%99%82%E6%B3%95%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E7%AC%AC1%E7%89%88.pdf
参考:PTSD の薬物療法ガイドライン:プライマリケア医のために
PTSDの治療子ども編
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PTSDの治療の大枠は、大人と子どもで変わりません。
しかし、子どもだと自分の感じていることを言葉で表現することが難しいため、トラウマやどのような症状があるのかを適切に知るために工夫が必要になることがあります。例えば、子どもたちの遊んでいる様子や描いた絵から心情を推測します。
治療を開始するときには、大人と同様にPTSDがどのような病気であるのかを理解できるようにします。その後、薬を用いたり、認知行動療法をしたりして治療していきます。
ここでは、子どものPTSD治療において有効性が実証されているトラウマフォーカスト認知行動療法について紹介します。
TF-CBTの目的は、トラウマに関連した症状や問題のある子どもと保護者が社会生活をするにあたり、トラウマを適切に処理することを支援することです。
個人療法として行われることが多く、週に1回、60~90分、8~16週かけて行います。
TF-CBTには3つの段階があります。
1.トラウマに向き合う準備をする
TF-CBTでは、トラウマ克服だけでなく、教育的な面も多く含まれています。はじめの段階では、ストレスマネジメントや感情を表に出すこと、ものごとの捉え方などの学習を行います。これらの教育的要素が十分身についたら、次の段階へと移行します。
2.トラウマ記憶に向き合う
少しずつトラウマと向き合えるようにしていきます。そのために、子どもが主体的にトラウマの体験を言葉で表したりできるようなプログラムになっています。
また、いきなりトラウマに向き合うことができなくても、不安の少ないものから徐々に慣れさせていき、最終的にトラウマに向き合えるような工夫がされています。
3.定着と統合
親子で学んだことを復習したり、子どもがトラウマに対して感じたことを親と共有するような時間になります。
この段階では、プログラムの成果の定着を図るとともに、親子の絆が一層強くなることも期待されています。
TF-CBTは、子どものPTSDに対して有効だとされていますが、まだ新しい取り組みであり日本でそれほど普及しているわけではありません。PTSDは患者さん一人ひとりで症状に幅があります。そのため、医師と相談しながら、一人ひとりにあった治療をしていくことになります。
普段からトレーニングや治療をしていても、パニックになることがあります。そのときにどのような声かけや対応をすればいいのか子どもの年齢別に説明します。適切な声かけや対応をすることで、PTSDが悪化することを防ぐことができます。
◇就学前の幼児から小学2年生
これくらいの子どもだと、まだまだ周りで起こったことを正しく理解し、全てを的確に表現できるわけではありません。大人である親によって、何が起きているのかを説明してあげるとよいでしょう。また側にいたり、一緒に遊んだりすることで子どもが安心できるような環境を作ることも大切です。
例えば、地震が起きて揺れがおさまってもずっと怖がっているときには、すでに揺れはおさまりもう安全であることを伝えましょう。怖い夢を見た次の日に恐怖で眠れないときには、絵本の読み聞かせをしたり、抱きしめたりするのも効果的です。
◇小学3年生から小学5年生
周囲で起きていることだけでなく、自分自身の内側で起きていることに対して不安を感じるようになります。親としては、子どもの話をしっかり聞いたうえで、苦しい気持ちに打ち勝てるように、前向きな行動を考えましょう。「大丈夫」や「心配ないよ」とだけ伝えても、この年齢の子どもたちは納得しないこともあります。そのため、「もし、また似たような状況になったらどうするか」など具体的な策を一緒に考えることが必要です。
◇小学6年生、中学生、高校生
中高生になると、衝動的に自分を傷つける行為をしたり、仕返し願望を持ったりすることがあります。中高生はもう自分の頭でそれなりに考えることができるため、答えを与えるよりも一人でじっくり考えるように促すといいでしょう。
ただ、すべて子ども一人で解決させようとするのではなく、一人で解決できそうにない問題に対しては一緒に対応策を考えたり、苦しいときには助けを求めてもいいことを伝えたりすることも忘れてはいけません。
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参考:友田 明美、杉山 登志郎、谷池 雅子/編集『子どものPTSD-診断と治療-』(診断と治療社、2014年)
相談先ーもしPTSDかもと思ったら
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=11017013931
PTSDにならなくとも、トラウマになりそうな犯罪被害にあったり、いじめにあったりしたときには専門家に相談することも視野に入れるといいでしょう。友達や先生、家族には相談しにくいことであっても、カウンセラーや、類似体験をした当事者同士であれば話せることもあります。
大人の場合には、
・病院の精神科
・心理カウンセラー
などに相談できます。
子どもの場合には、これに付け加えて、
・児童相談所
・家庭福祉相談所
・担任の先生やスクールカウンセラー
などに、相談できます。
また、性的暴力や、いきなり暴行に遭ったなど犯罪被害の場合には、
・全国被害者支援ネットワーク
・被害者支援団体
・警察庁犯罪被害者支援室
といったグループを頼ることもできます。
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_ptsd_sub1.html
参考:私がPTSDになったとき|みんなのメンタルヘルス厚生労働省
まとめ
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同じようなできごとに直面しても、PTSDになる人、ならない人がいるため、PTSDにかかる人はメンタルが弱いタイプだと思われたり、自分自身でも罪悪感を持ったりすることがあります。
しかし、PTSDになったからといって、本人が責任を感じる必要は一切ありません。また、周囲の人が「あの時、こうしておけば」などの責任を感じる必要もありません。それよりも、PTSDの人が過去のトラウマを克服できるように、安全な環境を作ったり、話を聞いたりすることが大切です。