遅発性ジスキネジアとは?どんな症状があるの?抗精神病薬の副作用・遅発性ジスキネジアを徹底解説!
遅発性ジスキネジアとは
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=28144082129
遅発性ジスキネジアは、統合失調症などの精神病やパーキンソン病の治療に使われる薬などの服用によって起こる場合がある症状です。
ジスキネジアとは「自分では止められない」、「止めようとして止めたとしてもすぐにあらわれる」異常な動き(不随意運動)のことを指す言葉です。服用してから3ヶ月以上後になって副作用があらわれるため、「ジスキネジア」の前に「遅発性」という言葉がついています。
具体的には、以下のような異常な動きがみられます。
「繰り返し唇をすぼめる」「舌を左右に動かす」「口をもぐもぐさせる」「口を突き出す」「歯を食いしばる」「目を閉じるとなかなか開かずしわを寄せている」「勝手に手が動いてしまう」「足が動いてしまって歩きにくい」「手に力が入って抜けない」「足が突っ張って歩きにくい」
引用リンク:重篤副作用疾患別対応マニュアル「ジスキネジア」|厚生労働省平成21年5月
http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1c21.pdf
これらの動きの他にも「足を組んだり外したりする」「ドアノブを回すような動きを繰り返す」「椅子から立ったり座ったりする」など、同じ動きを異常なほどくりかえしてしまうこともあります。
症状が軽い場合には日常生活に支障が出ないことも多く、副作用に気づかず見過ごされてしまうことあるようです。
そこで抗精神病薬を服用していて、このような症状がみられた場合には、精神科・神経科の専門医をすぐに受診するようにしてください。
遅発性ジスキネジアを発症する原因
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10387003135
遅発性ジスキネジアを発症する原因は、現段階では残念ながら明らかになっていません。
しかしこれまでの研究から、特に「ドーパミン」が関係しているのではないかと推測されています。ドーパミンとは脳の中枢神経系にある神経伝達物質のことです。抗精神病薬のなかには、ドーパミンを受け取る場所である「ドーパミン受容体」に作用して、ドーパミンの受け取りを阻害する薬があります。
この働きをもつ薬を長期間使うとドーパミン受容体が過敏になりすぎてしまい、遅発性ジスキネジアを発症するのではないかと考えられているのです。
統合失調症の治療薬は、遅発性ジスキネジアをもっとも発症しやすいといわれています。
抗精神病薬を服用している統合失調症の患者さんでは20~50%、平均すると約20%の割合で副作用として発症しているのではないかと考えられています。
比較的高い発症割合のため、心配になってしまう方もいるかもしれません。しかし開発が新しい薬剤は、遅発性ジスキネジアを発症しづらいことが分かっています。
第一世代と呼ばれる古い薬剤では32.4%の発症率であるのに対し、第二世代の新しい薬では13.1%と、発症率が2/3と低くなっています。
なお、子どもに処方されることがあるリスペリドン(リスパダール)やアリピプラゾール(エビリファイ)はどちらも第二世代の薬です。
遅発性ジスキネジアを発症する可能性のある薬剤は、以下の通りです。
〇定型抗精神病薬(第一世代)
フェノチアジン系(クロルプロマジン,レボメオフロマジンなど),ブチロフェノン系(ハロペリドールなど)
〇非定型抗精神病薬(第二世代)
①セロトニン・ドパミン遮断薬(リスペリドン,ブロナンセリンなど)
②多元受容体作用抗精神病薬(オランザピン,クエチアピンなど)
③ドパミン部分作動薬(アリピプラゾールなど)
〇抗うつ剤(三環・四環系,SSRI、SNRIなど)
〇気分安定薬(リチウム製剤)
〇制吐薬(メトクロプラミドなど)
〇抗てんかん薬(カルバマゼピン,フェニトイン,フェノバルビタールなど)
〇Ca拮抗薬(ジルチアゼムなど)
(Khouzam HR:Postgrad Med 127(7):726-737,20155)より引用)
引用文献:中村雄作「特集ジストニアとジスキネジア10遅発性症候群とは何か」Modern Physician Vol.37 No.6, P569-572, 2017
http://shinkoh-igaku.jp/mokuroku/data/M3706.html
遅発性ジスキネジアについて、これまでに分かっていることをいくつかご紹介ます。
まず高齢者や糖尿病を合併している人、脳になんらかの器質的な病気のある人では、遅発性ジスキネジアを発症しやすいことが明らかになっています。
また若年層の発症は少なく、加齢とともに発症する人が多くなることでも知られています。遅発性ジスキネジアの発症平均年齢は65歳くらいであるとの報告が多いようです。
発症する人の平均年齢が高い理由には、服用歴が長ければ長いほど遅発性ジスキネジアの発症が増加することも関係しているかもしれません。
口をもぐもぐさせるような運動は、高齢になると薬を飲んでいなくとも起きてくることもあるようです。そのため高齢者での見極めには注意が必要です。心配なときは、かかりつけの医師に相談しましょう。
http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1c21.pdf
参考リンク:重篤副作用疾患別対応マニュアル「ジスキネジア」|厚生労働省平成21年5月
http://shinkoh-igaku.jp/mokuroku/data/M3706.html
参考文献:中村雄作「特集ジストニアとジスキネジア10遅発性症候群とは何か」Modern Physician Vol.37 No.6, P569-572, 2017
遅発性ジスキネジアの診断・検査
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=28182000387
遅発性ジスキネジアの診断には、血液検査、CT・MRI、脳波検査、眼科的検査のほか、必要であれば遺伝子検査も行われます。先ほど紹介した不随意運動は、遅発性ジスキネジアにだけみられる症状ではないからです。
ハンチントン舞踏病・ウィルソン病・プリオン病、脳梗塞、脳腫瘍などでも似たような不随意運動があらわれます。また遅発性ジスキネジアと同じように、薬で誘発されるパーキンソン症候群とも区別されなくてはなりません。そこで様々な検査を行って、遅発性ジスキネジアかどうかを診断します。
血液検査では、甲状腺機能、セルロプラスミン、血清銅、梅毒検査、抗核抗体、血清Caなどが調べられます。なお遅発性ジスキネジアではCTやMRIで脳画像は正常を示すことから、脳の検査も詳しく行われます。
http://shinkoh-igaku.jp/mokuroku/data/M3706.html
参考文献:中村雄作「特集ジストニアとジスキネジア10遅発性症候群とは何か」Modern Physician Vol.37 No.6, P569-572, 2017
遅発性ジスキネジアの治療方法
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10186003436
現時点では、原因薬剤の中止・他の薬剤への変更・重症な時の不随意運動そのものへの治療の3段階があります。ですが、一度症状が出てしまうと治療が難しいと考えられているため、症状を出さないよう予防することが一番の治療とも言えます。
アメリカのガイドラインには遅発性ジスキネジアの治療薬として、いくつかの薬が推奨されているのですが、残念ながら日本では適応がありません。
そこで、副作用として遅発性ジスキネジアを起こしづらい第二世代の薬剤で、自分の症状に合っているものはないか医師と十分に話し合うことが重要です。
また早期発見がとても重要なので、抗精神病薬を服用していて少しでも変化があるようであれば、かかりつけの医師に相談するようにしましょう。
http://amzn.asia/276NAM3
参考文献:渡辺昌祐編著、『遅発性ジスキネジアの臨床 』新興医学出版社 , 1991
http://shinkoh-igaku.jp/mokuroku/data/M3706.html
参考文献:中村雄作「特集ジストニアとジスキネジア10遅発性症候群とは何か」Modern Physician Vol.37 No.6, P569-572, 2017
遅発性ジスキネジア治療薬の研究
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=11017003117
現在、治療が難しいと考えられているものの、抑肝散という漢方薬が遅発性ジスキネジアの治療に効果があるとの報告がいくつかあります。
また、2017年4月には、世界で初めて遅発性ジスキネジアの治療薬がアメリカで承認されました。続いて同じ薬が日本人にも効果があるかどうか、また安全性に問題はないかを確かめる試験が始まっています。
http://www.mt-pharma.co.jp/shared/show.php?url=../release/nr/2017/MTPC170727.html
小胞モノアミントランスポーター2阻害剤MT-5199の遅発性ジスキネジア患者を対象とした 国内第2/3相臨床試験開始のお知らせ(2017年7月27日発表)|田辺三菱製薬
https://www.iyaku.info/magazine/?id=1468206394-415517&sf=1&ca3=65
堀口淳著、『遅発性ジスキネジアの薬物治療~抑肝散の投与工夫を中心に~』新薬と臨牀、Vo.65(7)、958-965ページ、2016年
まとめ
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10161013013
抗精神病薬を長期服用することで生じる副作用「遅発性ジスキネジア」を解説しました。自分の判断で急に服用をやめると、かえって症状が悪化することがあります。そこで、もしかしたら遅発性ジスキネジアではないかと、心配に思う人は必ず医師に相談しましょう。
ほとんどの場合、あごや顔の筋肉の不随意運動から症状がはじまるようです。抗精神病薬を服用している人や家族は、顔の動かし方などに少し注意をしてみると良いかもしれません。
これまでの研究から、若い人には発症が少ないことが明らかになっていますので、服用しているからといって過度に心配しすぎないことも大切です。
また副作用を予防するために、副作用を発症する割合が比較的低いとされている第2世代の薬を選ぶことができないか、主治医に相談することも考えてみましょう。