親子でアートを感じよう! 多様性の時代に必要な “生きる力” を育む「対話型鑑賞法」
前回の『美術鑑賞は“ぶらぶら歩きでいい加減に”。子どもがアートに目覚める瞬間』では、アート鑑賞で得られる能力と鑑賞の極意についてご紹介しました。「美術館はぶらぶら歩きで、いい加減に見るのがコツ」と言われたら、子どもと一緒でも気が楽になり、とてもリラックスして美術館を巡れそうですよね。
そして「自分のアンテナに引っかかった作品を見つけたらそれをじっくり鑑賞する」とお伝えしましたが、その際に役立つのがMoMA(ニューヨーク近代美術館)推奨のVTSという鑑賞法です。
今回は、子どもの “生きる力” をぐんと伸ばしてくれるアートの見方をご紹介します!
MoMAが確立したVTS(Visual Thinking Strategy)とは
VTSとは、MoMAの教育部部長だったフィリップ・ヤノウィン氏と認知心理学者のアビゲイル・ハウゼン氏が1980年代に生み出したアート作品鑑賞教育です。美術を鑑賞することにより、「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」を高めることを目的としています。
つまり、人間教育の一環としてアートを活用しようというもの。具体的には、グループで1つの作品をじっくり鑑賞し、その後、その作品について感じたこと、考えたことなどを話し合います。
教育効果が認められ、VTSは欧米諸国で広がりました。
ディスカッションはファシリテーター(調整役)がリードして行なわれますが、その際問われる質問はたったの3つだけです。
(1)絵の中では何が起きていますか?
(2)作品のどこをみてそう思いましたか?
(3)もっと発見はありますか?
VTSでは鑑賞者の自主性を何より大事に考えるため、ファシリテーターの発言はできるだけ抑えられます。そして一番大切にされているのは、最初に「作者や作品の情報なしに、1つの作品を10分以上じっくり純粋に見ること」。その後ディスカッションをすることで、総合的な創造的思考能力が磨かれていくのです。
日本で開発されたACOP(Art Communication Project)
次にご紹介するACOPはVTSを基に京都造形芸術大学で開発された対話型鑑賞法。1つの作品をじっくり鑑賞し、グループでディスカッションするスタイルは同じですが、こちらがより重視するのは「対話」です。
同じものを見て、感じたり思ったりしたことを共有、共感することで多面的発見があり、一人だけでは到達できない解釈を得ることができるのです。