小さな子どもが喜ぶ「デジタル絵本」に、実は“学びの効果”は期待できない
2020年からはじまる新たな大学入学共通テストは、より「思考力」が問われる内容に変わります。そのことにも表れているように、多くの教育関係者が口をそろえるのが「これからの時代を生きる子どもたちには『思考力』が必要だ」ということ。認知科学の専門家で、人の学習について研究をしている慶應義塾大学環境情報学部教授の今井むつみ先生によれば、思考力を育むために有効なものが「絵本」なのだそう。新たな子ども向け教材がどんどん生まれているいま、絵本というむかしながらのメディアにどんな力があるのでしょうか。
構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
親子の対話が子どもの思考力を伸ばす
先行きの見えにくいいまの時代、子どもを「成功」に導くには、「言葉の学習を通じて思考力を高める」ことが大切です(インタビュー第1回参照)。では、子どもの思考力を高めるために家庭でなにができるでしょうか?
まず、なによりも「子どもと話す」こと。すごく基本的ですが、これはとても大切なことです。いまはたくさんのアプリが存在するなど、子ども向けの教材が豊富な時代です。
ただ、それを子どもになんでも手渡せばいいと思っている親御さんが多いことが残念ですね。もちろん、親は良かれと思ってやっていることですが、そういったものをただ手渡されても、子どもはあまり学べないのです。
大人の場合はテキストなど教材からも十分に学べます。でも、子どもの場合は「一方通行」の情報では学ぶことはできない。子どもは、親御さんなど周囲の大人が見ているものに注意を向けます。大人と注意を共有しながら、さまざまなことを学んでいくのです。
そういう意味では、絵本の読み聞かせは子どもの思考力を高めるためにとても有効だと考えることができます。その学びとは、ただ文字を覚えるといったものではありません。
お父さんやお母さんと絵本を読むという場を共有し、絵本を読んでいる親の視線をたどっていく。そのような、絵本に書いてあること以外にもその場にあるたくさんの状況の手がかりがあると、「この言葉はこういう意味なのか」と子どもは理解します。テキスト情報だけではなく、親の視線や表情といった情報を受け取り、推論して理解していくのです。
デジタル絵本では子どもは学べない?
先に、いまはアプリなどの子ども向け教材が豊富だと述べました。絵本にだってたくさんの種類があります。