新型コロナで活動停止からチーム練習を再開する時の注意点を教えて
新型コロナウイルスの影響で長期のチーム活動停止を経て、活動を再開するときに注意すべきことは。
それぞれの自主練強度も違えばモチベーションも異なるみたい。再開後の練習強度、子どもたちへの接し方、どうすればいい?とご相談をいただきました。
同じことで悩んでいる指導者の方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが指導者の皆さんに5つのアドバイスを送ります。(取材・文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<<楽しみながら判断力をつけさせるメニューや考えて動けるようにする声かけはある?
<お父さんコーチからの質問>
こんにちは。
街クラブでU-10 、U-12の指導をしています。
この度の新型コロナウイルスの影響でチーム活動を停止しているのですが、再開後の練習についてご相談させていただきたくご連絡いたしました。
チームでの活動ができないので、オンラインツールを使って自宅でできる課題を出してはいるのですが、住環境によって十分にできなかったりします。
また健康で安全な環境でサッカーを再開できることが何より幸せなことだとは思いますが、こんなに長い期間チーム活動ができないのは初めての経験なので、再開後に集まった時に体力の低下や停止中の過ごし方で子どもたちのレベル差が開くのではないかと少し心配でもあります。
中にはサッカーへのモチベーションが下がっている子もいるようです。
長期間チーム練習ができず、再開後にこれまでと同じ練習をしたらケガのリスクが高まるのではという不安もあります。
池上さんにとってもこのような状況は初めての体験かもしれませんが、再開後の練習の強度や子どもたちへの接し方など、指導者としてどんなことをすればいいか参考になるご意見をいただけませんでしょうか。
<池上さんのアドバイス>
ご相談いただき、ありがとうございます。とてもグッドタイミングな質問ですね。
5月14日、政府から39県における緊急事態宣言の解除が発表されました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため重点的に対応している13の特定警戒都道府県でも、茨城や愛知、福岡などの5県は解除になります。あとは、東京や神奈川、千葉、埼玉といった首都圏や、私が住む大阪府が残っています。
解除エリアの小学生は「またサッカーができる!」と笑顔でいっぱいだと思います。そこで、再開において指導者が留意したい5つのポイントをお伝えいたします。
1.「休んだ分は取り戻そう」とやり過ぎないように
子どもにとっては待ちに待ったサッカーとの再会です。張り切っています。指導者の皆さんも同じ気持ちでしょう。
しかし、休んだ分を早く取り戻そうなどと考えないでください。「やり過ぎ」に注意してください。つい長めに練習したり、体力が戻っていないのにハードにやってしまうと、けがや体調を崩す原因になります。特に、子どもたちが練習後に自分たちで「もっとやりたい!自主練だ!」となった場合は、大人がやめさせましょう。
「やりたい気持ちはわかるけど、その情熱は次に残しておいてね」と伝えましょう。これは普段でも同じですが、子どもが「もっとやりたい」と言い出すくらいの練習量、強度のほうが、あとで振り返ると成長しているものです。
2.「次の大会」から逆算して練習しないように
多くのコーチは、練習が再開されるとまず考えるのが「次の大会はいつか」ということでしょう。
「いついつが大会だから、そこから逆算するとあと○日しかない。
そんな発想になってほしくありません。少年サッカーは、育成期の指導です。チームの結果よりも、個人がどう伸びていくか。そこを見る場所です。大会はあくまでもチームとしての結果です。
大会があるのなら「よし、試合でこんなことを試してみよう」「君の課題にして取り組んでみよう」などと、ひとり一人が目標を見つけられるよう導きましょう。
子どもが大会で他のチームと力試しをすることを目標にするのは自然なことです。大会を使いながら個人も考えてあげてください。
3.走り込みはさせない
中学生くらいから心肺能力を育てていく時期ではありますが、小学生から走り込みをやらせるのはやめましょう。私も大学時代に1週間何もしないと、練習に復帰したら息が切れるという経験をしたことがあります。小学生で息が切れることはそんなに経験したことはありません。
全員が同じことできないかもしれませんので、もしできなくても決して悪いことではなく、すぐに追いつくことを伝えてください。そもそも、少年スポーツや育成期にバーンアウトしてしまうのは、日本のスポーツの大きな課題です。決してやりすぎないことを心にとめておいてください。
4.ひとり一人事前にヒアリングをしよう
自粛生活は、長いところだと、3か月近くに及んだところもあるでしょう。長期間、強度の高い運動をしていないと思いますが、その程度は少なからずばらつきがあるはずです。
5.少年サッカーも「新しい生活様式」を
私たちはしばらくの間、コロナウイルスと付き合っていかなくてはなりません。しばらくは「コロナ前」には戻れないと考えたほうが良さそうです。少年サッカーにおいても、まさに「新しい生活様式」を志向しなくてはいけません。
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
指導者の皆さんも、休みの間にいろいろ考えておられることでしょう。
誰が主役なの?
育成とは何か?
スポーツとは?
そういったことを考えながら、小学生年代でやっておくことは何かということを勉強しなおしてもらえたらと思います。
「小学生がサッカーをするのは週に2回でいい」
私が以前から話していることです。90分ずつ週に2回まで。自粛しながら、気を付けながらサッカーに取り組むのなら、この頻度で十分だと思います。
池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
それぞれの自主練強度も違えばモチベーションも異なるみたい。再開後の練習強度、子どもたちへの接し方、どうすればいい?とご相談をいただきました。
同じことで悩んでいる指導者の方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが指導者の皆さんに5つのアドバイスを送ります。(取材・文:島沢優子)
<<楽しみながら判断力をつけさせるメニューや考えて動けるようにする声かけはある?
<お父さんコーチからの質問>
こんにちは。
街クラブでU-10 、U-12の指導をしています。
この度の新型コロナウイルスの影響でチーム活動を停止しているのですが、再開後の練習についてご相談させていただきたくご連絡いたしました。
チームでの活動ができないので、オンラインツールを使って自宅でできる課題を出してはいるのですが、住環境によって十分にできなかったりします。
また健康で安全な環境でサッカーを再開できることが何より幸せなことだとは思いますが、こんなに長い期間チーム活動ができないのは初めての経験なので、再開後に集まった時に体力の低下や停止中の過ごし方で子どもたちのレベル差が開くのではないかと少し心配でもあります。
中にはサッカーへのモチベーションが下がっている子もいるようです。
長期間チーム練習ができず、再開後にこれまでと同じ練習をしたらケガのリスクが高まるのではという不安もあります。
池上さんにとってもこのような状況は初めての体験かもしれませんが、再開後の練習の強度や子どもたちへの接し方など、指導者としてどんなことをすればいいか参考になるご意見をいただけませんでしょうか。
<池上さんのアドバイス>
ご相談いただき、ありがとうございます。とてもグッドタイミングな質問ですね。
5月14日、政府から39県における緊急事態宣言の解除が発表されました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため重点的に対応している13の特定警戒都道府県でも、茨城や愛知、福岡などの5県は解除になります。あとは、東京や神奈川、千葉、埼玉といった首都圏や、私が住む大阪府が残っています。
■「休んだ分を取り戻そう」とやりすぎないように
解除エリアの小学生は「またサッカーができる!」と笑顔でいっぱいだと思います。そこで、再開において指導者が留意したい5つのポイントをお伝えいたします。
1.「休んだ分は取り戻そう」とやり過ぎないように
子どもにとっては待ちに待ったサッカーとの再会です。張り切っています。指導者の皆さんも同じ気持ちでしょう。
しかし、休んだ分を早く取り戻そうなどと考えないでください。「やり過ぎ」に注意してください。つい長めに練習したり、体力が戻っていないのにハードにやってしまうと、けがや体調を崩す原因になります。特に、子どもたちが練習後に自分たちで「もっとやりたい!自主練だ!」となった場合は、大人がやめさせましょう。
「やりたい気持ちはわかるけど、その情熱は次に残しておいてね」と伝えましょう。これは普段でも同じですが、子どもが「もっとやりたい」と言い出すくらいの練習量、強度のほうが、あとで振り返ると成長しているものです。
2.「次の大会」から逆算して練習しないように
多くのコーチは、練習が再開されるとまず考えるのが「次の大会はいつか」ということでしょう。
「いついつが大会だから、そこから逆算するとあと○日しかない。
だとしたら、セットプレーの守備だけでもやっておこう」
そんな発想になってほしくありません。少年サッカーは、育成期の指導です。チームの結果よりも、個人がどう伸びていくか。そこを見る場所です。大会はあくまでもチームとしての結果です。
大会があるのなら「よし、試合でこんなことを試してみよう」「君の課題にして取り組んでみよう」などと、ひとり一人が目標を見つけられるよう導きましょう。
子どもが大会で他のチームと力試しをすることを目標にするのは自然なことです。大会を使いながら個人も考えてあげてください。
3.走り込みはさせない
中学生くらいから心肺能力を育てていく時期ではありますが、小学生から走り込みをやらせるのはやめましょう。私も大学時代に1週間何もしないと、練習に復帰したら息が切れるという経験をしたことがあります。小学生で息が切れることはそんなに経験したことはありません。
全員が同じことできないかもしれませんので、もしできなくても決して悪いことではなく、すぐに追いつくことを伝えてください。そもそも、少年スポーツや育成期にバーンアウトしてしまうのは、日本のスポーツの大きな課題です。決してやりすぎないことを心にとめておいてください。
■練習再開前に事前のヒアリングをして状況を確認しよう
4.ひとり一人事前にヒアリングをしよう
自粛生活は、長いところだと、3か月近くに及んだところもあるでしょう。長期間、強度の高い運動をしていないと思いますが、その程度は少なからずばらつきがあるはずです。
各々に電話やオンラインで「何してたの?体調は?」と状況を聞いてあげるとよいでしょう。復帰直後は、決して無理をさせず個々に応じた指導を心がけてください。
5.少年サッカーも「新しい生活様式」を
私たちはしばらくの間、コロナウイルスと付き合っていかなくてはなりません。しばらくは「コロナ前」には戻れないと考えたほうが良さそうです。少年サッカーにおいても、まさに「新しい生活様式」を志向しなくてはいけません。
■少年サッカーの適度な練習時間と頻度とは
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
指導者の皆さんも、休みの間にいろいろ考えておられることでしょう。
誰が主役なの?
育成とは何か?
スポーツとは?
そういったことを考えながら、小学生年代でやっておくことは何かということを勉強しなおしてもらえたらと思います。
「小学生がサッカーをするのは週に2回でいい」
私が以前から話していることです。90分ずつ週に2回まで。自粛しながら、気を付けながらサッカーに取り組むのなら、この頻度で十分だと思います。
池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。