宮城を中心に異例の売れ行き!? 被災地での生活者のリアルを描く、芥川賞受賞作『荒地の家族』
本書では、自分なりにあがきながらうまくいかない人々が多く登場する。
「それこそ家族でも共有できてない苦しみなんていっぱいある。それをうまく表現できたらと思います」
被災地の変わりゆく様子が活写され、祐治らの心象風景と重なる。
「海の方は人が住めない『災害危険区域』にされたりして、境界が引かれて忘れ去られていくような気がするんです。忘れまいとすることはそのささやかな抵抗のつもり。自分ではどうしようもない災厄は誰にでも起こりうるし、そんな思いが広く届いてほしいと願っています」
ちなみに、祐治の仕事ぶりの描写があまりに見事なので、どのような取材をしたのか尋ねてみると、
「中学の同級生がそれこそひとり親方をやっていて、彼のような職人的な人間を主人公にした作品は書きたいという気持ちがずっとありました。たとえばいちばんつらい作業は何かとか道具の名称とか、居酒屋で聞くべきことだけ聞いた感じですが、非常に助かりました(笑)」
『荒地の家族』舞台になっている宮城県亘理町は、佐藤さんの祖父の家があった場所で幼少期から遊びに行っていた。いまも墓参のためにときどき訪れている。
新潮社1870円
さとう・あつし1982年、宮城県生まれ、仙台市在住。