毒物混入事件を機に平穏な町が一変…「スタンフォード監獄実験」をモチーフにしたミステリー小説
〈辺鄙な片田舎〉の秋祭りでふるまわれたおしるこを食べ、4人が命を落とした。猜疑心と不信感に囚われた〈夜鬼(やぎ)町〉の住人たちは、祭りに参加していた108名の中に毒物を混入させた人間がいると、犯人捜しに躍起になる。『私たちはどこで間違えてしまったんだろう』は、特別な状況下にいると、人はどれほど簡単に同調圧力に流されてしまうかを、まざまざと描き出したミステリーだ。その著者が美輪和音さん。
毒物混入事件で疑心暗鬼になる人々。犯行よりもどす黒い思惑が交錯する。
「コロナ禍でも強く感じたのですが、恐怖と不安に駆られると、声の大きい方に引っ張られてしまう人は多いですよね。その人はどうにもならない事情を抱えているのかもしれないと、出来事の背景を自分の頭で考えて判断すればそこまでひどい事態は起きないはずなのに。
正義や良心が暴走することの危機感を抱きます」
有名な心理実験(看守役はどんどん強権的になり、囚人役はどんどん卑屈になったといわれる「スタンフォード監獄実験」)がモチーフになった本作は、閉鎖的な町の様子を監獄に喩えたプロローグから幕を開ける。良くも悪くも人間関係が濃い田舎町だからこそ、過去のトラブルや事件が掘り返され、ちょっとしたなりゆきで容疑者は変転。