読者の声を受け…蝉谷めぐ実、新作『化け者手本』執筆秘話
「前作の最後で二人はうまくいったように見えますが、読み返して、“そううまくいくかな”とちゃぶ台をひっくり返したくなりました(笑)。謎解きに集中してしまうと人の感情をないがしろにするような、探偵の人間性の問題も書きたかった。それは芸道にも通じるなと思って。役者も、芸に秀でていれば倫理観がちょっと外れていても許されるところがある。それともうひとつ、恋というものも、思いをとげるために倫理観を置き去りにするところがあるなと思い、それらが全部絡んでくる話になりました」
さらには歌舞伎の演目を通し、実在した人物を物語化する際の倫理問題も突きつける話になっている。
「魚之助にはモデルとなった実在の役者がいますし、私自身、現実にいた人を面白おかしく書いている部分は否めません。本人はどう思うのだろうと考えたこともありました。なので今回は執筆する際、静岡県に行って、作中に登場する人物のお墓参りをして“すみません”と拝んできました」
本作を読めば、誰のお墓を訪ねたのかわかります。
蝉谷めぐ実『化け者手本』文政の江戸。鳥屋の藤九郎と元女形の魚之助は、芝居小屋の客席で奇妙な死体が見つかった事件の調査を始める。