嫉妬、所有欲、女性の感じている身体性…生々しく濃密な描写に引き込まれる『煩悩』
涼子の中には、安奈だけは聖域に置いておきたい気持ちがあったのかもしれませんね」
生々しく濃密に描写される、嫉妬や所有欲といった感情のうねり。脱毛、月経、経血、性行為といった、女性ならではの身体性を抱えながら生きるリアリティ。
「この作品では、これまで以上に、実感のある言葉しか使ってないというか。私が過去のどこかで味わったり思ったりしたものだけを言葉に置き換えていきました。自分でも思いがけずあふれてきてしまって、文字を打ち込む速度が追いつかないみたいな…。特に回想の部分では、そのまま句点でどんどん書き継いでいく文章になりましたね」
そんなリズムに乗せられ、息を詰めるように読んでしまう。
「大切すぎるから、何か外の力で壊されるのは我慢できない気持ちはあったのかな、と。時間が経てば痛みは和らぐとしても、自分が何をしたかは忘れられないと思うから、涼子はその破壊衝動がもたらした後悔を抱えて生きていくんでしょうね」
〈煩悩〉というタイトルが、いつまでも胸の中でこだまする。
山下紘加『煩悩』女性読者なら一層ビビッドに感じ取れる描写の巧みさにも注目。3Dイラストで描かれた落下していく蝶が美しく、カバーも目を引く。