【シネマモード】映画に「騙される」秋 「騙し」を通して相手を知る『夢売るふたり』
詐欺はとことん計画的だったはずなのに、計算しきれなかったのは、自分たちの心の動きや心情の変化。それに戸惑い、それを受け入れられなくなっていく2人。本作は、「騙す」ということが、騙される側だけでなく、いかに騙す側にもリスキーであることかを、見事な語り口で描いていくのです。他人を思い通りに動かせたとしても、自分の心が思い通りに動かせない。人間はますます不思議な生き物です。
ここまで描ききれるところが、西川美和監督の凄いところ。さらには、女が持つ意地悪な視点を包み隠さず描けるところもさすがです。個人的には、これが最高レベルでできるのは映画監督ならフランソワ・オゾン、作家なら桐野夏生くらいだと思っていたのですが、この方もなかなか。
あの上品な松たか子から、何とも意地悪な女性の性を引き出すあたりにも、恐れを知らぬ作家性が見えてきます。そしてもちろん、それに応えた松たか子の女優魂もあっぱれ。実は、裸になったり、派手な濡れ場を演じたりするよりも、よほどこういう演技の方が、女優にとって勇気がいるのではないかと同性ながらに思うのですが、いかがでしょう。
とんでもないどんでん返しが待っているわけではありません。