【独女のたわごとvol.6】忘れられない香りと味…土曜日のコーヒー
私は彼が淹れてくれたコーヒーを飲みながら彼の隣に座り、彼のお気に入りのドラマを一緒に見る。笑うところが一緒だと嬉しい。ときどきぴたりと呼吸があう瞬間が心地いい。そんな時、もう少し早く、彼女と出会うよりももう少し早く出会っていたら…なんて妄想が頭をよぎる。
「おかわりは?」。半分よりも少なくなったマグカップを見て、彼がコーヒーを注いでくれる。彼がしてくれるのは、ただそれだけ。きっとそれ以外はふつうの男よりも冷たい。
でも、なぜかコーヒーを淹れてくれるときの彼はとても温かみがある。理由なんて分からない。分かりたくもない。だって、これ以上彼がどういう人間なのか、何を考えて私との時間を過ごしているのかを知ってしまったら、きっと苦しくなるだろうから。だから踏み込まない。この関係はこれでいい。
美味しいコーヒーを淹れるには、コーヒーが落ちきる少し前にフィルターを外すことだと、雑誌か何かで読んだ。彼の関係もそれと似ているんじゃないかって思う。
すべての想いを相手に伝えてしまうと、愛は深まるだろうけれど、同時に悲しみも深まる。だから、一番美味しい関係を保つために、その一歩手前で踏みとどまっている。でも、知っている。