【インタビュー】<前篇>野田洋次郎は 「演じる」のではなく「生きる」ことを選んだ
ピエタとは、聖母マリアが磔にされ命を落としたキリストの体を抱きかかえる絵画や彫刻のモチーフ。画家を志すも挫折し、無気力に日々を費やしていたが、ある日突然、病で余命わずかと宣告された宏の最後の夏を描く。
「そもそも、俳優という仕事がどういう仕事なのか分かってなかったんです。ものを作る人間として、映画を作る映画監督という存在には興味があって、友人もいたんですが、役者さんに関しては正直、何をどこまでしている人なのか分からないところがあって、だから、最初にお話をいただいた時もピンと来なかったんです。でも脚本を読んで、自分が理解できない“何者”かになるのは無理だけど、理解し共感できる主人公がいて、素晴らしい物語があるから『この人を生きることならできるかもしれない』と思ってやらせていただくことにしました」。
美大時代は才能を周りからもてはやされていたが、やがて壁にぶつかり挫折し、絵から離れた生活を送る宏。個展を開くまでになったかつての恋人を前にしても揶揄や自らを卑下するような言葉しか出てこない。そんな宏が野田さんは「かわいく思えた」という。
「このかわいらしさって何なのか?あまのじゃくで、物事をエラそうに斜めから見て、自分は何ひとつ成し遂げてないのに世界を見下して、自分もその世界の一員なのに、どこか違うと思ってて――でも、そのひとつひとつを大真面目にやってるんですよね。